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第三章:堕落した聖女

その54:新しい仲魔

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 「ふむ……ルーンベルとやらの話では相手は魔族だった、と?」
 「はい。種族はヴァンパイアでした。Bランクが2パーティでもいれば勝てる相手ではありますがゴブリンやオークなどと違い知恵が回りますので、今回は煮え湯を飲まされた形ですな」
 「まさかこんな近くに魔族が村を支配しているとは思わんだろう、被害が広がる前に抑えられたと喜ぶべきだ」
 「はっ……」

 スパイクは今回のゴースト退治について、ルーンベルの報告で黒幕が魔族だったことを国王に告げる。
 
 「(以前なら醜態をさらしたと怒鳴り散らしているだろうに、変わられたな)」

 神父や僧侶を集めるため資金を提供してもらっているので少しくらいはかくごしていたが労いを貰えるとは思わなかったと安堵する。
 
 「ご苦労だったな、報酬もきちんと配分するのだぞ」
 「かしこまりました。。それと一つお話があるのですがよろしいでしょうか?」
 「ん? おお、構わんぞどうした?」

 それを聞いてスパイクは一度深呼吸をして『本題』に入る。

 「……ザガムのことなのですが」
 「あの男か……私の目を覚まさせてくれた者ではあるが、いつかぎゃふんと言わせたい。どうした? 目立った動きはしておらんようだが」
 「はい、今回は彼が直接なにかをしたということは無いのですが、無傷で帰還しています」
 「まあ、ウチの騎士団と団長を相手に勝てるような男だから目立ちたくなくて加勢したと考えられるな」
 「それもあるのですが、少し思い出したことがありまして」

 神妙な顔で目を細めるスパイクに妙な気配を感じた国王は襟を正して座りなおす。

 「なんだ?」
 「あの男は【冥王】ザガムと同じ名前なのです。もしそうであればあの強さも頷けます」
 「【冥王】……はうあ!? た、確かにそうだ! どっかで聞いたことがあるなとは思っていたが、ま、魔王の一人じゃないか!?」
 「ええ、気づいたのはたまたまだったのですが、あの強さは恐らく」
 「くうう……まさかこの国を狙って……!? ヴァンパイアもその先兵か!? ……いや、でもそれならファムと一緒に来た時に私を殺していればことが済んだはずだ」

 確かに、とスパイクはそこが引っかかっていた。一応の回答は持ってきたのでそれを進言する。

 「彼は大魔王を討伐すると言っていました。ファムを鍛えているため、その目的は嘘ではないのでしょう」
 「そうだな。しかし、ファムはいいとしても、冥王からすれば我等にそれほど価値があるとは思えん、怒らせたりしたら国が亡びるのではないか」

 そこで控えていた騎士団長のエイターが手を上げて発言の許可を得ようと前へ出る。

 「良いぞ」
 「ありがとうございます。スパイク殿のおっしゃるように、ザガム殿の目的は嘘ではないと思います。それと同名なだけで別人の可能性を捨てない方がよろしいかと」
 「むう」
 「もしそうだったとしても、ファムさんの処遇に怒り、攻めてきましたが犠牲者はゼロ。もしかすると大魔王退治に協力すれば味方につけることも可能かと」
 「危険ではないか?」

 国王が呟くと、今度はスパイクが口を開いた。

 「いえ、そうとも言えません。少なくとも、彼を怒らせるようなことをしなければファムと共にこの町に居てくれると思います。そこで提案があるのですが……」
 「……言ってみろ」
 「ザガムとファムに家を与えてはいかがでしょう? ファムはザガムのことを好きなようですし、もし結婚でもしてくれればファムが抑止力になるかと」
 「確かに悪くないな。しかし魔族が人間と恋仲になるだろうか?」
 「ザガム殿は真面目な男でしたし、義理に厚そうだと感じました。我々に近い思考をしているのではないかと思います。利用するようで心苦しいですが、お互いのためスパイク殿の案は良いかと」

 国王は少し考えた後、ゆっくりと頷いてからスパイクへ命じる。

 「わかった、空き家を適当に見繕ってプレゼントしてやれ。冥王に見劣りしないものでな、監視などはつけなくていい。下手に刺激するとこっちが危ない」
 「承知いたしました」

 ――そして

 ◆ ◇ ◆


 「ううーん……おふぁようございます……」
 「よく寝たな。昼に近いぞ」
 「ええ!? お、起こしてくださいよ」

 ――町へ戻った俺達は報酬を貰い、疲れた体を癒していた。

 正直な話、蓋を開けてみれば北の村は全滅という結果なのでザガートを含めた冒険者は意気消沈し、報酬を貰ったものの表情は暗かった。

 「……あの村どうなるんですかね」
 「あのまま廃村になると聞いた。遺体も多いし、行きたがる人間もいないだろうから仕方ないな」
 「もっと私が強かったらこんなことにはならなかったんですかね……」
 「それは違う。俺達が向かった時点ですでに手遅れだったのだから気に病む必要ない」
 「はい……」

 それでも何とかならなかったかと俯くファム。
 これ以上かける言葉が見つからないので、俺は別の話をすることにした。

 「すまんファム、頼みがあるんだが」
 「え! ザガムさんが私に! もちろんいいですよ!」
 「そう言ってくれると助かる。実はルーンベルを買おうと思っている」
 「ダメです」
 「即答だと? 今いいと言ったじゃないか」
 「嫌ですよ! 折角二人きりの空間なのに、あのおっぱいお化けが来たらどうにかなっちゃいますよ!」

 取り乱しながら俺に詰め寄ってくるファムを押しのけながら、説得にあたる。

 「聞け、とりあえずあいつは大魔王討伐で使える人材だ。パーティに入れておいて損はないと判断した」
 「うー……確かにゴースト相手にめちゃくちゃ凄かったみたいですけど……」
 「ちょっとだけあいつの力を見たが、聖女見習いは伊達じゃない。金を払う価値がある」

 ……実際は監視目的もあるがそれはファムに言う必要は無い。

 「一緒の部屋にならないならいいです……」
 「お前が特殊なだけで別の部屋でいいんだぞ」
 「嫌です。一緒がいいです」
 「そうか」

 頬を膨らませながら俺の腰に抱き着いてくるファムに呆れるが、善は急げと奴隷市場へと向かう。

 「――というわけでルーンベルを買う」
 「マジですかい!? いやウチとしては文句がないんだが……安くなったとはいえ100万ルピだ、兄さん持ってのかい?」
 「これでいいか」
 「毎度ーーーー!! おい、契約書だ! 厄介者が売れたぞ!!」
 「……やっぱり辞めません?」
 「まあ、いいだろう」

 そして満面の笑みで奥の部屋から出てきたルーンベルが『大特価』と書かれた札を剥がして捨てる。

 「ダーリン!! やっぱり私が忘れられなかったのね!」
 「ルーンベルさん、ザガムさんが優しいから買ってくれたんですよ? ギャンブルとかして困らせないでくださいね」
 「もちろんよ♪ ……ま、ちょっとお返しはしておこうと思うけど」
 「とりあえず今日からパーティに加わってもらう。よろしくな」
 「前にも言った通り私はめいお――ぎゃあああああああ!?」
 「よろしくな」
 「うわあ痛そう……」

 やはり監視下に置いて正解かと顔面を掴みつつそう思った。
 商人から買った証拠と、契約書を貰いスラム通りを後にすると、ルーンベルが背伸びをしながら聞いてくる。

 「うーん……解放感のある娑婆いいわね! とりあえず寝床は?」
 「宿だ、お前は別部屋を借りる」
 「え? お金持ってないわよ私。同じ部屋でいいじゃない、お金、勿体ない」
 「なんでカタコト……ダメです。これは勇者として進言します」
 「関係ないじゃない!? ファムだって一緒の部屋でしょ? 不公平だわ」
 「ダメなものはダメなんですー!」

 むう、往来でうるさいな。黙らせるか? 俺がそう思う指を鳴らしたところで声がかかった。

 「お、やっと見つけたぞザガム! あ? ルーンベル?」

 声の主はスパイクだった。
 スパイクはルーンベルを見てから訝しむが、先にルーンベルが口を開いた。

 「はぁい、ご主人様に買われちゃった♪」
 「離れてくださいよう」
 「お前あの金を? 無茶するなあ……」
 「役に立ちそうだからな」
 「ま、まあ、多いならそれはそれでいいか……?」
 「なんのことだ?」

 ぶつぶつと呟くスパイクに尋ねると、意外なことを口にした。

 「ザガム、お前にプレゼントがある。ついてこい」
 「プレゼント……?」
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