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第三章:堕落した聖女

その52:冥王とルーンベル

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 さっさと村へ戻るため、ファムとルーンベルを小脇に抱えてフライの魔法で飛んでいく。
 
 「空も飛べるんだ……流石は冥王ってところね。落とさないでよ……?」
 「それはお前の態度次第だ」
 「むう……」
 「うーん……ザガムさん……もう食べれないですよぅ……」

 肩の傷を治療したファムは寝入っており、呑気な寝言を口にしていた。老婆を庇ったのは咄嗟のことで、すぐに気絶したから覚えていないと思う。

 「あ、見えてきたわ」
 「念のため村の外で降りるぞ。後は打ち合わせ通りにな?」

 ルーンベルを降ろし、ファムを背負ってから村へ戻ると老婆に手渡された薬を使って冒険者達の治療をしていく。
 幸い死者は居ないが、食べた量の大小の差か症状の回復には差があった。
 
 ただ、ギルドマスターであるスパイクの症状は軽かったので事情説明が容易だったのは助かったが。

 「……ふむ、アムレート司祭が魔族で村人はヴァンパイアとゴーストに返られてしまっていた、か。まさか村全体が壊滅していたとは……」
 「いやあ、驚きました。しかし、残された私、ルーンベルがゴースト達やヴァンパイアを千切っては投げ、千切っては投げの大活躍。報酬を期待したいですね!」
 「ああ、まあ、そこはいいが……ヴァンパイアは相当強いだろ? それはどうしたんだ?」

 と、スパイクは俺をちらりと見ながらルーンベルにそう言う。まあ、あいつは俺の強さを知っているからな、だいたい分かると思う。
 だが、そこは打ち合わせてあることを話してもらう。

 「それは……アムレートの力が及ばなくなったため、ヴァンパイア達は元の死体に戻りました。ゴーストは私が全部払いましたがね?」
 「ほう、ヴァンパイアはそうなのか。……お前はなにをしていたんだザガム?」
 「俺はファムを守るので精一杯だったから何もしていない。ルーンベルは凄かったぞ」
 「うわあ、適当な感想」

 ルーンベルが嫌そうな目で俺を見るが、無視しておく。ちなみにヴァンパイアのしもべは元のヴァンパイアが死ぬ、もしくは式範囲内から去ってしまうと死体になってしまうのは本当のことである。
 メギストスの愛人であるヴァンパイアロードに聞いたことがあるので間違いないだろう。
 さらに言えば【聖言】を使ったルーンベルが活躍したのも嘘ではないしな。
 スパイクは訝し気な目を向けてくるが、状況を見ていないので渋々と言った感じで頷く。

 「そうか、ともあれ君『達』のおかげで助かったようだ。では動ける人間はヴァンパイアになった村人を埋葬だ! 動けるようになったらして町へ帰還する!」

 ――スパイクの一声で作業は進み、俺達とルーンベルは休息をということで例の老婆の家へ。
 スパイクは俺が手伝ったということに気づいているようだが、いちいち確認してこないのは楽でいい。

 「ファムちゃんは寝かしておいたわ」
 「そうか、助かる」
 「……あんた、本当にわからないわね。洞窟で見せたあの冷酷さと残忍さ、言動は同じ人物とは思えないんだけど? まあ、あの姿を見たら【冥王】ってのは分かるけど」
 「まあ、間違いなく本物だ。あの時は少し頭痛が酷くてな、手加減ができなかった」
 「言葉の手加減ってなんなのかしら……。えっと、言いたくないなら言わなくていいけど、なんでこんなところに居るの? 魔族と勇者が一緒なんて理解に苦しむわ。アムレートみたいに力を奪う、とか? すけべ?」

 ルーンベルが席について俺を見据えながら尋ねてくる。
 こいつの処遇は決めかねているが、あいつと同じに思われても困るので少しだけ話しておこう。

 「……俺の目的は大魔王メギストスを倒すことだ。これは国王とスパイクは知っている」
 「はあ……?」
 「なんだその顔は」

 こいつ馬鹿なのと言っている顔を見て聞き返すと、ルーンベルがため息を吐いて首を振る。

 「あんた達魔族の総大将でしょ? なんで倒す必要があるのよ」
 「お前達には理解できんかもしれないが、魔族とは実力主義だ。大魔王がするなと言えば大抵のものは従う。だが俺は大魔王に従うのが嫌だ、ということだな」
 「へえ……魔族って自分勝手に生きているイメージだったけど、強い者に巻かれるのね。あそこって人間が立ち入れないからよく分からないけど」
 「だいたいその認識で合っているが……大魔王クラスになると逆らうのも面倒だと思うヤツが殆んどだろうな」

 俺が腕を組んでそう言うと、口をへの字にしてルーンベルが肩を竦めて言う。
 
 「やる気ないわね……で、今の大魔王って人間と無駄に争わない方向だから、人間には喜ばれているけど。ハッ!? それを倒そうとするってことはもしかして――」
 「……気づいたか、能力も優秀だが頭も切れるようだな」

 青い顔で椅子から立ち上がり後ずさる。
 俺も立ち上がり、ルーンベルへと近づいていく――

 「ファムちゃんを唆して大魔王を倒し、人間界を征服してハーレムを作るのね……!? ファムちゃんは用が無くなったら性奴隷……あの子の純愛を利用するなんという悪行!?」
 「違う。いや、違わない部分もあるが、ハーレムなど興味はない。俺は魔族達の領地を広げるためお前達人間を支配するつもりだ。だが、今の大魔王はそれを良しとしない。だが、今の俺では勝つこともできない」
 「……だから勇者を使って倒す、ってこと?」
 「そうだ」

 すると今度は真面目な顔で俺の胸倉を掴んで睨みつけてきた。

 「……どっちにしても最低ね。ファムちゃん、あんたのこと本当に好きみたいなんだけど気づいている? それを利用しようだなんて」
 「それはファムが勝手に思っていることだ、俺に言われても困る。利用するために助けたのだから」
 「なら、それを知った私を殺すの?」
 「……そうだな」

 俺の正体を知る人間は危険だ、ここで始末しておくべきだろう。
 ただ、ここではまずい。今回の事件の功労者であるルーンベルを消せばスパイクも黙ってはいないだろう。
 全てが終わってから攫い、遠くで始末するべきだ。
 しかし、俺はこいつに対して一つ考えていることがある。それを口にしようとした時、ルーンベルが先に喋り出した。

 「いやぁぁぁぁ!? まだ死にたくないぃぃ! 言い過ぎましたすみません! 殺さないでください! あの、タダでいいんで私の身体を好きにしてもらっても構いませんっ! 命だけはお助けを……!! 私にはまだやることがあるのよぉぉぉ!」
 「……」

 さっきまでの勢いはどこへやら。ルーンベルは膝をついて命乞いをしてきた。泣き叫ぶその姿には呆れるが、やはり人間、死にたくはないのだろう。
 とりあえず縋りつくルーンベルは女性が苦手な俺にはきついのでやんわり突き放し、考えを言ってやることにする。
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