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第三章:堕落した聖女
その46:北の村
しおりを挟む「キリがねぇな」
「ああ、僧侶さん達も頑張ってくれているが、原因が突き止められないとなあ」
「……これだけ冒険者が居ても難しいんですね」
――翌日
冒険者達が慌ただしく村を出たり、入ってきたりを繰り返しているのを見ながらファムが不安げな様子で俺の袖を引く。
「そうだな。僧侶だけでは魔物に対抗できず、冒険者達だけではゴーストに太刀打ちできないことを考えると慎重にならざるを得ないだろう。緊張が続くと気づかない内に疲弊しているものだ」
「あー、確かに魔物と戦った後ベッドに寝転がると凄くだるくなりますもんね。お魚、裏返しますね」
そんな俺達は聖水の引き渡しと空き瓶の回収をしながらゆっくり過ごしていた。Eランクでは戦力にならないと判断されたからだが、スパイクとしては出張って欲しいようで、たまに俺をチラチラと見てくるのだ。
……全然関係ないが、今朝から冒険者達が俺に優しい目を憎悪の目という両極端な視線が突き刺さる。恨まれるようなことをした覚えはないんだが、と思いつつ、交代の時間になったので村を散策する。
「なんだか故郷の村を思い出しますね」
「こんな感じなのか。……ん? あの男――」
「どうしました?」
「いや、ちょっとな。すまない、そこの人」
「ひっ!? す、すまん、今忙しいんだ」
薪割りをしていた男に近づいて声をかけたところ、そそくさと逃げるように家の中へ入ってしまう。
「ふむ」
「驚かしたらダメですよ」
逃げられたか。
少し確かめたいことがあったのだが、最初の揉めごとから冒険者は警戒されているようだ。
まあ、他にも確認できるかと思ったところで背後から声がかかった。
「どうされましたか?」
「あ、司祭様」
「はい、こんにちは。村の者になにか御用でしょうか?」
穏やかな声の主はこの村に流れ着いたという、確かアムレートとかいう名前だったか。
「……ああ、少し確認したいことがあったんだがな」
「私で良ければ聞きますが?」
「いや、恐らくお前では分からないだろうからな」
「確かに流れ者ですが、お世話になって一ヶ月ほど経ちましたからおっしゃっていただければ……」
「いや、いい。行くぞファム」
「は、はい」
「なにかあれば遠慮なく」
嫌味がましく言ったが、アムレートはあまり気にした様子もなくチラ見すると柔和な笑顔で軽く手を振っており、ファムはその手を振り返していたので手を引いてこちらに引き寄せておいた。
「わ、珍しいですね。ザガムさんから手を引いてくれるなんて」
「ちょっとな。あの男どうも嫌な感じがする、一人で近づくな」
「そうですか? 優しそうな人だと思いましたけど……あ、やきもちですか? やきもちですね!」
「嬉しそうに言うな、……交代の時間か、行くぞ」
「はーい♪」
もう少し村を回りたいが、このローテーションは少々面倒だな……ファムだけ残して単独行動できないかスパイクに聞いてみるか。
確証は無いが、俺はいくつか気になることがあった。それを調査しようと考えている。
だが、スパイクは忙しく、村の外にも出ているためタイミングを掴めず今日は夜になってしまった。
「今日はお魚にします?」
「ああ、お前の獲ったデーモンサーモンを焼く。パンに挟んで食えば結構美味いぞ」
「食べたい食べたい!」
闇夜なので収納魔法に手を突っ込んでバターを用意し、切り身に少し塗ったあと串に刺して広場にある焚火で焼く。
ふわりとバターが溶けていい匂いを出すと、周囲で同じく夕食を用意していた冒険者がこちらを見ていた。
「えへへ、みんな注目してますよ! すっごいいい匂いですもんね。パンは切っておきましたよ」
「ああ、皿に乗せて置いてくれ。もうすぐ食べごろになるぞ」
「おっさかなさん、おっさかなさん♪ はっやくできないっかなー♪」
「あーしんど……美味しそうなお魚ね、一本頂戴♪」
ファムが妙な歌を歌いながら体を揺らす。そんな楽し気にしているファムの横にスッと人影が現れ、もうすぐ食べられそうな串がかすめ取られた。
「あ!? お行儀が悪いですよルーンベルさん!」
「いいじゃない、やっと交代なんだもん。あちち!? うま! あつ!? うま!?」
「落ち着いて食え。俺達の代わりに戦ってくれているんだ、それくらいやってもいい。……戦況はどうだ?」
デーモンサーモンの切り身に熱がったり美味がったりと忙しいルーンベルに問うてみると、
「……いやあ、全然ね。どこからともなく沸いてくるし、浄化してもしきれない……こんなのは初めてよ」
「聖女見習いでもダメなんですね」
「……ま、所詮は『見習い』だから、力及ばずってところかな? ホントこれ美味しいわね……」
「ファムが獲ったものだ、勇者の魚を心して食え」
「そんな大層なものじゃないですよ!? あ、パンに挟むとホントに美味しい」
「へえ、分けてよ」
「いいぞ」
「というかなんでここに来たんだ……?」
「んー、知り合いは多いしんだけど、奴隷になってからちょーっと気になるのよね。僧侶たちも汚物を見るような目で見るし。あんた達は私が売られているところを見ているから吹っ切れたって感じ? ……アプローチしたら買ってくれるかもしれないし」
まだ諦めていなかったのかと、胸元を強調するルーンベルから視線を外してため息を吐く。
「なによ!? あんた男色家じゃないの!? このクソエロボディを見てため息とか失礼過ぎない!?」
「俺は女性が苦手なだけで嫌いじゃない。男に抱き着かれたら殺しかねんぞ」
「なんか過去にあったの?」
「さあ」
「なによそれ」
「ザガムさんは謎が多いんですよね。こう、お嫁さん候補としてはもう少し教えて欲しいというか」
「嫁以前に勇者だろうが……ん?」
焚火を前にそんな話をしていると、昨日の老婆が近づいてくるのが見えた。
「あ、おばあちゃん! こんばんは」
「ええ、ええ、こんばんは。今ご飯かい? 一日動き回ってそれだけじゃ足りないだろう、モモノキの実をお食べ」
「わー、ありがとう! 昨日のも凄く美味しいかったです」
「ウチで採れたものだけど、嬉しいことを言ってくれるお嬢ちゃんだね。二人が寝ていた木がそうなんだよ」
どうやらあの木はこの老婆のものだったらしい。とはいえ別にいたずらをしたわけではないので何も言わずに飯を食っていると、
「あれだったらこの婆の家で休むかい? 旦那に先立たれて空きがあるんだけど」
「えーっと……」
ファムが俺に伺い立てるように顔を向けてきたので、少し考えてから口を開く。
「スパイクに相談して良ければ、な」
「! はい! おばあちゃん、お願いします!」
「まだ決まってないわよ? さて、ごちそうさま。持ち場へ戻るわ」
「そうか」
「はあ、気を付けてくらい言えないのかしら。こういうのだけは彼氏にしたくないわねえ」
ルーンベルはきれいに魚とパンを平らげ、言っていることと違い顔は満足気だった。
その後スパイクに許可をもらい、老婆の家で休んだ。
それから三日、事態は好転しないままじり貧になってくる。
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