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第三章:堕落した聖女
その43:行軍する冥王と他の冒険者
しおりを挟む広場に集まった俺達冒険者はすぐに出発するかと思いきや、スパイクからの激励をもらうとのことでしばらく待機していた。
ちなみに聖女見習いのルーンベルがはしゃいでいたが、マイラ曰く隷属の首輪がはめられているので一時のことだろうとのこと。……まあ、150万ルピなどそうそう返せる額じゃないので当然か。
「――というわけで、最近頻発しているゴーストの件は諸君らに任せることになった。僧侶や神父の皆さんの安全に留意しながら達成をお願いしたい。なお、俺も同行するのでよろしく頼む」
鬨の声があがり、最終的に総勢80名ほどの人間が町を出立。
そして今、移動を始めて30分くらいのところだが、俺の横でファムが口を開く。
「北の村まではどれくらいで行けるんですか?」
「半日ってところだな、この人数だし十時間弱ってところか。ファムちゃん、改めて見ると似合ってるな装備」
「ありがとうございますザガートさん! ですって、ザガムさん」
「くっ……」
荷車を引く俺にぴったりくっついて離れないファムを見て歯噛みをするザガートに、俺は後ろの取り巻きに目線をやって言う。
「お前、慕ってくれる人間がすでにいるのにファムにまで手を出すのか?」
「ふん、可愛い子に声をかけないのは失礼ってもんだろ?」
「よくわからん。女は苦手だ」
すると緑髪の女、ニコラが背後で疑問を投げかけて来た。
「ファムちゃんとは一緒に居るのに?」
「こいつは弟子だから気にならないのだろう」
「ええー……そんなことある?」
「仲良しですからね私達。昨日の夜も楽しかったです!」
「くっつくな、動きづらい」
満面の笑みでザガムの腕に絡むファムを見て、三人はぼそりとなにかを呟くのが聞こえたが、
(イチャラブ……これはもう……)
(イチャラブかあ、ザガートには無理ね)
(イチャラブ……微笑ましいですね)
まあ、無視で良さそうだ。なんだ、イチャラブとは?
そのような他愛のない会話をしながら進んでいると、幾度か魔物とも遭遇。
「<メガファイア>! ザガート、そっち!」
「分かってるよ!」
「ソードマンティスとは穏やかじゃないわね、目を狙うわ」
ザガート達はゴブリンロードにやられはしたものの、流石はBランクパーティだけあって連携が上手い。回復術師のレティを庇いつつ、攻守のバランスが良い。
「一匹だけ遅れているやつを叩け。他は別の冒険者か俺に任せてもいい」
「はいっ! やああ!」
こっちは孤立しているやつか出遅れた魔物を倒せばそれでいい。集団戦の経験にはちょうどいいかもしれないなと思いながら、寄ってきたヒュージフロッグを殴り飛ばす。
「ちょっと、こっちに飛ばさないでよ!? ……それに目立ちたくないならコレを殴り飛ばすような真似は止めた方が良くない?」
「む、すまない。……それもそうか」
マイラに言われて、確かに腰に剣を下げておきながら使わないのはおかしいと思い、ブラッドロウ……ではなく、適当なロングソードを収納から取り出してヒュージフロッグを真っ二つにする。
「これでいいか」
「Eランクレベルの魔物だけど一瞬で……やっぱりあんた、タダ者じゃないわね」
「マイラさん、ザガムさんは私のだから駄目ですよ?」
「そ、そういうんじゃないわよ!? む、向こうへ行ってくるわ」
ジャイアントアントを倒していたファムがいつの間にか俺の近くに現れ、マイムと俺の間に割り込んで頬を膨らませる。
「むー」
「どうしたんだ、ファムらしくないな」
「ザガムさんは油断が多いですからこれくらいしないと」
「俺は油断なんてしないぞ。……ハッ」
「流石ぁ♪」
と、魔物の襲撃はあったもののこちらも腕利きを揃えているのでこの程度の魔物なら余裕だった。
「まだゴーストは出ないですね」
「河原もまだ先だからな。……それが少し引っかかるが……」
「引っかかる?」
「いや、なんでもない。急ごう」
そこから、魔物と戦うパーティが偏らないよう、スパイクの指示で前衛と後衛のローテーションを変更。ザガート達もその余波で俺達のところへ行ったり来たりを繰り返しつつ、先へと進んでいく。
そして荷台の聖水やらを運ぶのは俺達だけではないので、他の人間とも話をすることもあった。
「うああ、きっついなこれ……報酬が良かったから受けたけど、やめときゃよかったかな……君、全然平気そうだね」
「鍛えているからな」
「汗一つかいていない……ランクは――」
「Eランクだ」
「なんでいつもそこだけ得意気何ですか……」
「ああ、ファムさん。良かったね、嫌がらせが無くなって」
苦笑するファムにだらしない顔をして話しかける。やはりファムの見た目は良いので男には人気のようだ。
「はい! ザガムさんが助けてくれたんですよ」
「ええ……? 僕と同じEランクなのに……」
「鍛え方が違う」
「鍛えてどうにかなるものなのかな……」
「おい、ロディちゃんと引けよ! 重くなったぞ!」
「あ、ああ、ごめん! ふう……ふう……」
後ろについていた仲間に怒鳴られて男の荷車は速度を上げて俺を追い抜いていく。それを見て思うところがあり呟くと、
「あれくらいがEランクか……もう少し楽をするかな」
「あ、私が引いてもいいですか?」
「ん? そうだな、体力アップの訓練を兼ねてみるか」
ファムが交代してくれと言い出し、任せてみることにする。
「んー!! ……はあはあ……。んー!!」
「少し動いたぞ」
「……うう」
俺はファムを荷台に乗せて再び引き始め、移動を再開する。
長い行軍、魔物との戦いで段々疲れがみえ、移動にばらつきが出始めたころ、僧侶たちの乗る馬車に追いついた。
荷台と同じでオープンなので丸見えなのだが――
「ぐがー……」
「ルーンベルさん、寝てますね……」
「肝が太いな、まあ賭け事をするようなヤツだからそんなものかもしれないが」
すると、ルーンベルが目を開き上半身を起こした――
「……気を付けて、ゴーストのテリトリーに入ったわよ」
「む」
陽が暮れ始めた森の中でルーンベルがそう言った瞬間、
【キェァァァァ!】
【カエレ……カエレ……!】
ゴーストが襲ってきた――
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