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第三章:堕落した聖女

その42:お久しぶりのメンツ

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 ゴースト討伐の件をクーリから聞いて七日が経過した。
 昨日は雨だったから宿で休んでいると、ギルドから派遣された人間がやってきたのだ。

 ちょうど夕食を終えて部屋に居た時だったんだが――

 ◆ ◇ ◆

 「すみません、ギルドからの使いできたのですが……」
 「ん? 入っていいぞ、鍵は開いている。じゃんけんほい」
 「あっちむいてホイ! やったー勝ったぁ♪」
 「もう一度だ」
 「いいですよー! じゃんけんほい」
 「あっちむいてホイ。俺の勝ちだな」
 「ぐぬぬ……」
 「し、失礼します……」

 ファムとの勝負がひと段落したところでギルドの人間に向きなおり、俺が先だって口を開く。

 「待たせたな、ギルドの使いということはゴーストの件か?」
 「そうですけど、あの、一体何を……?」
 「あっちむいてホイというゲームだそうだ。なかなか引っかかるものだぞ」
 「そ、そうですか……」
 「ザガムさんずるい! 勝ち逃げですか! もう一回、白黒はハッキリしましょう、で、負けたら勝った方の言うことを聞く!」
 「待て、まずは話を聞くのが先だ。話してくれ」

 頬を膨らませて俺の首に腕を回してくるファムを窘めつつ、目の前に立つ女性に俺が問いかけると、なぜか呆然としていた女性が我に返り咳ばらいをして話を進める。

 「こほん……えっと、ギルドマスターからの伝言です。明日の早朝、北門前の広場にて集合。準備は怠らないようにとのことです。ザガムさんとファムさんは荷車部隊ですので、比較的安全ですが装備はしっかりしてきてくださいね」
 「分かった、明日だな」
 「それじゃあ、すぐ寝ないといけないですね……もうちょっとパジャマを着て遊びたかったんですけど」
 「遊ぶ……」
 「張り切りすぎて疲れるのも困るしな、今日は早いところ寝よう。情報、感謝する」
 「張り切る……」
 
 また呆然としていた女性に俺が声をかける。

 「どうした?」
 「ハッ!? い、いえ、なんでもありまひぇん!? そ、それではこれにて失礼しますっ!!」
 「ありがとうございます! それではまた明日!! それじゃあやりますよザガムさん!」
 「仕方ない、少しだけだぞ」

 ここで差をつければ諦めるだろうと先ほどの続きに興じ、翌朝を迎える――


 ◆ ◇ ◆

 ――ギルドの伝令嬢、ライラはザガムたちに用件を伝えて宿を出た後、振り返って一息つく。

 「ふう……」
 
 そしてクワッと目を見開き、近くにあったタルに顔を突っ込んで大声で叫び出した。

 「なんなのあのイチャラブカップルは!! びっくりした! マジでびっくりした!! 勇者ファムがEランク冒険者とパーティを組んだって聞いていたけど、ザガムさん美形ぃぃぃぃ! それにあっち向いてホイだと!? 可愛すぎか二人とも!! 新作パジャマをザガムさんに見せたい勇者ファムが尊すぎるんじゃぁぁぁぁ!!! 頬を膨らませて後ろから抱き着くとかそんなの初めてみたわ!」
 「にゃぁぁぁぁ!?」
 「わんわん!!」

 驚いた野良犬や野良猫に吠えられたところで樽から顔を出して笑顔で呟く。
 
 「はあ……スッキリしました……。それにしてもあの二人、甘々すぎてずっと見ていたいくらいですね……! お盛んみたいだし、勇者から奥さんにクラスチェンジするのもすぐかもしれない……みんなにも教えてあげなくちゃ♪」

 ◆ ◇ ◆

 「よし、そろそろ行くか」
 「ですね、装備は……オッケーです!」
 「よし。今回は物理攻撃が出来ない相手だから俺から離れるな。一応これを渡しておこう」
 「あ、フルムーンケープ! これ可愛いのに防御力が高くて好きです」
 「いざという時は迷わずつけろ」

 準備を万端にして北門の近くにある広場へ向かう。
 何度か通っているのだが、植栽や椅子などがあり、のどかな場所というイメージだ。
 しかし、到着した今、その面影は無く見えるだけで五十名以上の人により一部が埋め尽くされていた。

 「ふわー、いっぱい居ますね」
 「冒険者はちらほら見たことがあるヤツがいるが、僧侶や神父は初めてみたな」
 「召集まで時間がかかったのはあの人達を待っていたからよ」

 俺の言葉に答えを投げかけるように女の声が聞こえ、そちらを振り向くと久しぶりの顔ぶれが姿を現した。

 「マイラの言う通り、ゴーストを祓える人間を集めていたみたいだ。久しぶりだねザガム、ファムちゃん」
 「む、ザガートか。久しぶりだな」
 「久しぶりです~」
 「元気そうね、私達もあれから依頼づくしで顔を合わせることが無かったから」
 「ニコラさんもレティさんもお元気そうで何よりです!」

 ザガート達のパーティがそれぞれ挨拶をしながら俺達の前に立つ。ゴブリンロードは結局ザガート達がなんとか倒した、ということで片付いていたので目立ちたくない俺としては感謝しているが、そのせいで他のパーティと調査依頼をいくつも頼まれることになったらしい。
 スパイクも事情は知っているものの、嘘だとは言えないので相応の依頼ランクで森を調査させているのだとか。

 「今日は一緒に行くんですね、よろしくお願いします」
 「うん。ファムちゃんは裏方みたいだからゆっくりね。私の火魔法は少しゴーストを追い払えるし、レティも明かりの魔法が使えるからね」
 「お役に立てるといいんですけどね、私も」
 「いいのよ、まだFランクなんでしょ?」

 女性陣がファムを囲んで賑やかに話始めたところで、ザガートが俺に小声で話しかけてきた。

 「……実際どうなんだ? ゴースト相手でもお前ならやれるんじゃないか?」
 「一応、ノーだと言っておこう。追い払うのが精一杯だな」
 「それでもEランクじゃ難しいことだけどな」
 「まあ、嘘をついても無意味だということだ。本職に……ん? あいつは――」

 俺が僧侶や神父達の方に目を向けると――

 「おほほほほ……ここで活躍して借金をチャラに……! そして私は自由になるのよ! タイムイズマネー! 人を呪わば穴二つ! さあ、出発よ!」
 「「「うおおおおお!!」」」

 ――奴隷商人の店で正座をしていた自称聖女見習い、ルーンベルが荷台の上で高らかに宣言していた。あいつも行くのか……?
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