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第三章:堕落した聖女

その40:途絶えないゴースト

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 「あの話からまだ三日だぞ、そんなに深刻な事態になったのか?」
 「ですです。あんまり酷いので近々ゴースト退治の依頼をかけるとギルドマスターが言ってました。魔物討伐の依頼もありますけど、ゴーストに襲われる可能性が高いところしか残っていません」
 「そんなあ、早起きしたのに……」

 真顔で宣言するクーリにファムががっくりと肩を落とす。昨日の夜は張り切っていたから文字通り肩透かしといったところだろう。
 俺もジャイアントアントあたりなら修行になるかと思っていたので残念だ。
 しかしゴースト相手はできないが追い払おう事はできるか。

 「ジャイアントアントの討伐を――」
 「おお、ザガム! 久しぶりだな」
 「あ、スパイクさん!」

 俺が依頼を受領しようとしたところでギルドマスターのスパイクが声をかけてきた。

 「依頼か?」
 「ああ、ジャイアントアントだ。ゴーストが出るらしいが、まあなんとかなるだろう」
 「お前、目立ちたくないとか言いながら大胆なことするんだな……」
 「誰も見ていないからな。それよりなにか用か?」

 小声で話しかけてくるスパイクに尋ねると、愛想笑いを浮かべて手を振る。

 「いや、見かけたから声をかけただけだ。ファムちゃんの修行だろ? 気を付けてな」
 「ありがとうございます!」
 「はい、受領オッケーです。ゴーストにだけは気を付けてくださいね」
 「承知している。行くぞ」
 「はーい」
 「おい、手を離せ」
 「いいじゃないですかー」

 俺はファムに手を引かれながらギルドを後にし、ジャイアントアント討伐へと向かう――

 ◆ ◇ ◆

 「ふう……行ったか」
 「どうしたんです、スパイク様? 背中、凄い汗ですよ」
 「あ、ああ、いやあ、暑いじゃないか今日!」
 「外、曇ってますけど……」

 ザガムが冥王かもしれないという事実に行きついたスパイクは様子を探ろうと近づいたが、いざ話してみると緊張してしまい、ぎこちない笑顔になっていなかっただろうかと心配する。

 「そ、そうだな……。ここに来たのはお前達にも話があったからだ、話がついて各町から僧侶や神父を借りれることになった。打ち合わせどおりゴースト討伐のためパーティを募るぞ」
 「あ、そうなんですね! 早い方がいいですからね、こういうのは」
 「その通りだ。……ザガムとファムにも声をかけておいてくれ」
 「ええ? あの二人Eランクですよ?」
 「……少しでも戦力は欲しいからな、ちゃんと優秀な僧侶をつける。それと、ルーンベルを奴隷商人からレンタルする手配も頼む」
 
 スパイクの言葉にクーリが目を丸くして驚き、口を開く。

 「彼女を使うんですか? 確かに対ゴーストには向いてますけど」
 「実際、彼女が奴隷になってからそっち系の依頼はあまり消化できていないからな。保険もあると伝えろ。報酬はこれくらい出してもいいだろう」
 「了解しました。では早速戻って来た冒険者には声をかけておきますねー」
 「頼む」

 短く返してからスパイクは部屋へと足を運び、難しい顔をしながら胸中で呟く。

 「(もしザガムが冥王なら、ゴースト達は大した脅威にならないはずだ。というより彼が来てからゴーストが増えた気がする、ファムと一緒だからまさかとは思うが……)」

 ◆ ◇ ◆

 「ファム、触覚を狙え。胴体はまだお前の力では無理だ」
 「は、はい! 正面に立って、すれ違いざまに……斬る!」
 「ギチギチ……!?」
 「ほう」
 「やったぁ! 次!」

 ファムは俺がお手本で見せたことを忠実にこなし、ジャイアントアントを仕留めていく。やはり教えたことの吸収力はかなりいいな、アホの炎王とは違う。
 しかし、まだ模倣がやっとできる段階なのでお手本無しで本番をやらせるのは難しい。前途は多難だ。

 「5匹やれました!」
 「よくやった。触覚と外殻を剥がして土に埋めるぞ」
 「うう、解体作業は苦手ですよ……」
 「流石に荷車があっても、依頼の20匹を丸々運ぶのは無理だからな。……ん?」

 俺達以外の気配に気づき、視線を向けるとゴーストがフワフワと浮かんでいるのが見えた。

 「あ、ゴーストですね……小さな子供やお年寄りばかり……」
 「悪意は無いから放っておいても大丈夫そうだ」
 「はい、河原の時みたいに嫌な感じはしませんね」

 俺の袖を掴んでそう言うので強がっているのかと思ったが――

 「なんか、凄く悲しい顔をしていますね……」
 「なんでお前が泣いているんだ……?」
 「え? あ、あれ? なんでだろ、あのゴースト達を見て村の両親やおばあちゃんを思い出しちゃったのかなあ」
 
 ファムの肉親は存命らしいので、家族がそうなったと想像したのかもしれない。
 
 「そういえばザガムさんのご両親は大魔王に殺されたんですよね……」
 「まあ、な。仇は……養父だがな。俺は孤児で、本当の両親は知らないんだ」
 「そ、そうなんですか……ぐす……」
 「泣くな。気にしていない」
 「で、でも、本当の両親の顔も知らないし、育ててくれた人も死んじゃって……」
 「俺には祖父代わりの男がいる、まだ一人じゃない」
 
 俺がそう返すと、ファムは泣きながら笑って俺の手を握ると、

 「今は私も居ますからね! 幸せになりましょう! 打倒、大魔王!」
 「……自分で魔物を倒せるようになっても居ないのに、調子に乗るな」
 「えへへー」

 頬を引っ張って注意したのに何故か嬉しそうに笑うファムに首を傾げながら、俺達は町へと帰還する。
 ……帰るまでずっとファムが俺の手を握っていたが、不思議と悪い気はしなかった。
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