38 / 155
第三章:堕落した聖女
その36:夜になると出るアレと冥王
しおりを挟む「ぐぬぬ……」
「頑張れ、この先にある川に着いたらキャンプをしながら依頼をこなすぞ」
「は、はいぃぃぃ……!」
というわけで雑貨屋を出た後、昼過ぎから依頼を遂行するため森へと来ていたりする。
俺の後についてくるファムは随分遅れているが荷物が多すぎて足が鈍いのでこればかりは仕方がない。
これも修行の一環なので、俺もゆっくり前を歩くことにしているが、このままでは陽が暮れてしまいそうな勢いである。
「ううう……が、頑張るべさ……」
「食材はまあまあいいものを買っているし、疲れている時の夕食は美味いぞ」
「は、はーい……」
正直無茶をさせているので、到着したら労ってやるかと思いながら俺達は地図を片手に進んでいき、なんとか暮れる前には川へついた。
「ぐふぅ……」
「よし、よく頑張ったな。では少し休んだらテントを組み立てるぞ」
「うえええ……」
「水だ、ゆっくり飲めよ」
「ありがとうございます……」
体力はもう限界といったところだが、限界まで使ってゆっくり休むというのを繰り返すことで自然と体力は上がるので今はこんなものだが、徐々に慣れてくれば疲労度は減るはずだ。
「ふう……いやあ、買いすぎちゃいましたね」
「そうだな。あえて何も言わなかったが、買いすぎると身動きすら取りにくくなるということを体で覚えてもらいたかったんだ」
「な、なるほど」
ファムががっくりと肩を落としているが、俺は続ける。
「気を落とす必要は無い、最初はこんなものだ」
「ザガムさんも?」
「うむ。俺は食料ばかり買い込んで食器などを忘れたことがあるな」
「あは、ザガムさんでもそうなんだ! ちょっと安心かも」
「そういうことだ。ここで少し講義になるが、荷物というのはある程度目的に合わせて変える必要がある。例えばテントや調理器具などは必須だろう?」
「ですね」
「だが、日帰りの場合テントは必要だろうか? 答えはノーだ。これは分かりやすい例だが、他にも川や海に行くなら釣り竿があった方がいいといったのもある。俺達の場合は依頼に合わせて持っていくのがいいだろうな」
店員に勧められるまま、まだ寒くもないのに厚手の毛布を買わされたり、でかい鍋や何に使うか分からない猫の置物といった本当に不要なものまで詰まっているので重いのは当たり前なのだ。
ちなみに今回の依頼は川辺にいるデーモンサーモンという川に棲む魔物の狩りなのだが、夜は活動をしなくなるので朝イチに始めることになると思う。
ファムの荷物と体力アップを兼ねているのでデーモンサーモンはまあおまけといったところだが。
「分かりました! 次からは荷物をしっかり選別しますので、出かけるときに一度見てくださいね」
「その意気だ。さて、それじゃそろそろ休憩は終わりだ。お前は初めてか?」
「ええ!? そ、そりゃ、今までずっと村に居たので初めてです……」
「だろうな、村に居ればわざわざ危険なことをする必要もない」
「き、危険……というか痛いのは最初だけって聞いています……」
「? お前はなにを言っているんだ?」
「初めてのことですけど……」
もにょもにょと指を絡ませながら顔を赤くするが、理由は分からないので改めて尋ねてみる。
「ふむ、よく分からんがテントの組み立ては村に居たらやらないだろう? 初めてじゃないのか?」
「え、テント!? ……あ、あはは……。そうです! 初めてですよテント! 早くやっちゃいましょう! ……も、もう……勘違いさせて……」
「なにか言ったか?」
「なんでもありません!」
何故か怒鳴られ、さっきまで疲れていたと思っていたファムは元気に背負ってきた物凄い大きさのリュックを漁り始めた。女はよく分からん……だが、あれだけ動いて元気そうなのはいいことだ。
「ではテントの組み方だが――」
人間のテントは俺も初めてだったが、概ね魔族のものと同じようなものだったのでファムと一緒にそれなりに大きなテントを張ることができた。
そこで陽がすっかり暮れてしまったので俺はファムに回復魔法をかけた後、夕飯の支度をする。
「んー! このお肉美味しいですね! 疲れが吹き飛びますよ」
「ロック鳥のもも肉は柔らかいし疲労回復効果があるからしっかり食べておけ。ほら、野菜も焼けたぞ」
「ありがとうございます! ふふ」
「どうした?」
「いえ、ザガムさんに会えて良かったなあって。もしあの時会わなかったら、もう死んでいたかもしれません」
「有り得ただろうな」
「そういうと思いました。ザガムさん容赦ないですもんね」
俺は正直に答えただけなのに、ファムがもも肉を口にしながら可笑しそうに笑う。
「そういえばユースリアも俺がハッキリ言うと呆れながら笑っていたな。女はそういうものなのだろうか」
「……ユースリア? 誰ですそれ……?」
「どうした、目が怖いぞファム? ……む、なんだこの気配は……」
「誤魔化さないで答えてください! って、ザガムさん!?」
俺は松明に焚火の火を移して立ち上がると、暗闇に目を向ける。するとそこには――
『う、うううう……』
『ああああああああ』
『イタイ……イタイ……』
「わああああ!? ゴースト!?」
――ファムがひっくり返りながら叫ぶとおり、そこにはゴーストが群れていた。
「ゴーストが出るとは聞いていないが、まあこいつらはどこにでも現れるしな。ファム、下がっていろ」
「は、はい!」
さて、ゴーストやゾンビを使役できる立場であるとはいえ、送り返すのは俺にはできない。とりあえずこの辺りに冥王の結界を張って近寄れないようにするのが一番だ。
「引け、ゴースト共。<シャイン・ペンタグラム>」
『おおおおおお――』
俺が腰の剣、ブラッドロウを振りながら魔法を使うとゴースト達は逃げるように空へ舞い上がりスゥっと姿を消した。
「す、すごいです! 流石ザガムさん!」
「これくらいはな。さて、食事の続きをするか」
「ですね。でも、ゴーストが出るなら注意喚起がギルドから出るはずなのに……イレギュラーなんですかね?」
「分からん。とりあえずファムじゃ倒せないし、俺も追い払うのが限界だ。依頼を終わらせたら報告してあの世へ送ってもらえばいい。……どうした?」
「あ、いえ、なんか苦しそうだったから、なんで死んじゃったのかなって思って」
「あまり気にするなよ。同情すると連れて行こうと寄ってくるからな」
「うう、や、止めてくださいよ……怖いから今日は一緒に寝ますからね」
怖がっていたファムが、いいことを思いついたとばかりに笑顔になり、そんなことを言う。
「俺は外でいいんだが……」
「ダメです。私になにかあったら大魔王を倒すどころじゃありませんよ?」
よく分からない脅迫だと思いながら、俺は無言でロック鳥のもも肉の串焼きを口に放り込んだのだった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?
うみ
ファンタジー
『イル・モーロ・スフォルツァ。喜べ、一番の愚息であるお前が今日から王になるのだ』
隣国から帰国した翌日、玉座にふざけたことが書かれた手紙が置いてあった。
王宮はもぬけの殻で、王族連中はこぞって逃げ出していたのだ!
残された俺の元には唯一の護衛である騎士と侍女しかいなかった。
重税につぐ重税で国家は荒廃し、農民は何度も反乱を起こしているという最悪の状況だった。
更に王都に伯爵率いる反乱軍が迫って来ており、自分が残された王族としてスケープゴートにされたのだと知る。
王宮から脱出した俺は伯爵を打ち倒し、荒廃しきった国を最強国にまで導くことを誓う。
いずれ逃げ出した王族たちに痛撃を食らわせることを心に秘めながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる