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第三章:堕落した聖女
その35:ファムの修行
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「やっぱり話題になってますね」
「まあ、脅威には違いないからな」
――ゴブリンロードを倒した翌日、町は騒然としていた。
ギルドマスターのスパイクのよる冒険者へのお触れがあり、冒険者はもちろん、町の外へ行く人間や行商人といった依頼を受けない人間達にも注意喚起がなされていたからだ。
「でも、こうガッっとやってバキッと倒したザガムさんを見ていたら大したこと無さそうって思っちゃいましたけどね!」
「そういうセリフはゴブリン一体でも一人で倒してから言うんだな」
「あ、あはは……」
苦笑しながら頭をかくファムと俺は町の散策をしていた。
予期せぬ金が入ったので、いつでも野営ができるようにキャンプ用品を買いに商店が並ぶ道を適当に歩く。
「あ、綺麗な髪飾り」
「これは翡翠とブラウンエレファントの牙で作った髪飾りなんだ、一つ千五百ルピ。どうだい彼氏さん」
とある露店の前でファムが足を止めて雑貨を眺め出し、俺も後ろから覗き込んでいると店主が先のようなことを言ったので髪飾りを手に取って目を細める。
「この翡翠の純度、あまり良くないな。純度の高い者はもっと深い緑をしている。確かに値段的にはそれくらいになりそうだが、エレファ――」
「あ、あ、だ、大丈夫です! さよならっ!」
「どうした?」
急に俺の腕を引いて走り出したので、俺も早足でファムについていくと、少し離れたところでファムが俺の背中を叩きながら口を開く。
「おじさん顔真っ赤にしてたじゃないですか! もう、ああいうのは雰囲気を楽しむようなものだから相応の値段ならいいんですって」
「そういうものか? 欲しかったのなら買っても良かったと思うが」
「んー……」
俺が露店を見てそう言うと、ファムは唇に指を当ててから少し考えた後で笑いながら答えた。
「……これから勇者としてやっていくわけですし、髪飾りを買っても使う機会は多分ないと思うからいいです! さ、キャンプ用品を買いに行きましょう!」
「そうか」
一瞬、寂し気な顔が見えたような気がしたが、気のせいか?
「こっちですよ雑貨屋さん! テントとか毛布が要るんですよね」
しかし、その後は特にそういった様子が見られなかったので俺はとりあえずファムについていく。
「なかなか良さそうな店だな、ファムは二人用のテントを探してくれ。お、これは軽くていい鍋だぞ。フライパンか……あの頃が懐かしいな」
「ふふ、楽しそうですね。あの頃ってなんです?」
「ん? ああ、修行時代、何度も死の……いや、森で力をつけていたんだ、俺も最初から強かったわけじゃない」
「へえ、仇ってもしかしてご両親、とかですか……?」
気まずそうに聞いてくるファムに、親父は仇というより敵なんだがな、と胸中で呟く俺。
元々孤児だった俺をメギストスが拾って育ててくれたことには感謝している。
魔王軍のNo,2という肩書きを持ち、ここまで強くなれたのは間違いなくヤツのおかげで、あの強さに憧れたし尊敬もしていた。
「……意外と面倒見がいいやつだったな、そういえば」
「ザガムさん……辛いですね……」
「ん?」
俺がぽつりと呟いた言葉にファムが反応し、目にハンカチを当てて涙を拭いていた。
「だ、大丈夫です! 私、きっと強くなって大魔王を倒しますから!」
「まあ、出来る限り鍛えるが、歴代でもすぐに死んだ勇者も居るらしいから、無理はしなくていいぞ」
「冷たいよ!? ザガムさんのバカー!!」
「探すのは二人用のテントだぞ」
泣きながら駆けていくファムの背中に声をかけると、ピタッと立ち止まって俺に振り返って舌を出してから言う。
「そういうところですよ! べーだ!」
「むう」
何故か怒っているファムに首を傾げていると、下から覗き込むように三つ編みの女がニヤニヤしながら声をかけてきた。
「はっはっは、微笑ましいねお兄さん! どう、あたしに乗り換えたりしない?」
「俺は女性が苦手でな、離せ」
「ありゃ、つれないね? あたし、いい線いっていると思うけど。あの子はいいのかい?」
「あいつは弟子だからな」
「ふうん、あの子はそう思っていなさそうだけどねえ。……さて、それじゃ仕事しますか、なにかお探し?」
店員だったのか。それならと、俺はファムが去って行った方へ顔を向けて女へ頼むことにする。
「あいつは野営の素人でな、必要なものを見繕ってやってもらえるか?」
「ご自身ではやらないのです?」
「これも修行だ。高価なものを押し付けてもいいぞ、買おうとした内容を見てダメ出しをするつもりだ」
「はは、お優しいことで! そう言うことであればお任せください、お嬢さん~♪」
女店員はファムに近づいていき会話を始めたので、俺は見ないようにして自分の買いたいものを物色する。
旅に必要なものは割と限られていて、今の俺は収納魔法があるので困らないが、あれもこれもと手にして自分で持ち運びができる範囲を越えた時、修行どころか移動もおぼつかなくなる。
なのでファムには今日買ったものを持ってもらい、一日使って森で修行する予定だ。
まあ、村娘だったファムには文字通り少し荷が重いかもしれないがと思いつつ、俺は新しいコップや鍋を物色するのだった。
「まあ、脅威には違いないからな」
――ゴブリンロードを倒した翌日、町は騒然としていた。
ギルドマスターのスパイクのよる冒険者へのお触れがあり、冒険者はもちろん、町の外へ行く人間や行商人といった依頼を受けない人間達にも注意喚起がなされていたからだ。
「でも、こうガッっとやってバキッと倒したザガムさんを見ていたら大したこと無さそうって思っちゃいましたけどね!」
「そういうセリフはゴブリン一体でも一人で倒してから言うんだな」
「あ、あはは……」
苦笑しながら頭をかくファムと俺は町の散策をしていた。
予期せぬ金が入ったので、いつでも野営ができるようにキャンプ用品を買いに商店が並ぶ道を適当に歩く。
「あ、綺麗な髪飾り」
「これは翡翠とブラウンエレファントの牙で作った髪飾りなんだ、一つ千五百ルピ。どうだい彼氏さん」
とある露店の前でファムが足を止めて雑貨を眺め出し、俺も後ろから覗き込んでいると店主が先のようなことを言ったので髪飾りを手に取って目を細める。
「この翡翠の純度、あまり良くないな。純度の高い者はもっと深い緑をしている。確かに値段的にはそれくらいになりそうだが、エレファ――」
「あ、あ、だ、大丈夫です! さよならっ!」
「どうした?」
急に俺の腕を引いて走り出したので、俺も早足でファムについていくと、少し離れたところでファムが俺の背中を叩きながら口を開く。
「おじさん顔真っ赤にしてたじゃないですか! もう、ああいうのは雰囲気を楽しむようなものだから相応の値段ならいいんですって」
「そういうものか? 欲しかったのなら買っても良かったと思うが」
「んー……」
俺が露店を見てそう言うと、ファムは唇に指を当ててから少し考えた後で笑いながら答えた。
「……これから勇者としてやっていくわけですし、髪飾りを買っても使う機会は多分ないと思うからいいです! さ、キャンプ用品を買いに行きましょう!」
「そうか」
一瞬、寂し気な顔が見えたような気がしたが、気のせいか?
「こっちですよ雑貨屋さん! テントとか毛布が要るんですよね」
しかし、その後は特にそういった様子が見られなかったので俺はとりあえずファムについていく。
「なかなか良さそうな店だな、ファムは二人用のテントを探してくれ。お、これは軽くていい鍋だぞ。フライパンか……あの頃が懐かしいな」
「ふふ、楽しそうですね。あの頃ってなんです?」
「ん? ああ、修行時代、何度も死の……いや、森で力をつけていたんだ、俺も最初から強かったわけじゃない」
「へえ、仇ってもしかしてご両親、とかですか……?」
気まずそうに聞いてくるファムに、親父は仇というより敵なんだがな、と胸中で呟く俺。
元々孤児だった俺をメギストスが拾って育ててくれたことには感謝している。
魔王軍のNo,2という肩書きを持ち、ここまで強くなれたのは間違いなくヤツのおかげで、あの強さに憧れたし尊敬もしていた。
「……意外と面倒見がいいやつだったな、そういえば」
「ザガムさん……辛いですね……」
「ん?」
俺がぽつりと呟いた言葉にファムが反応し、目にハンカチを当てて涙を拭いていた。
「だ、大丈夫です! 私、きっと強くなって大魔王を倒しますから!」
「まあ、出来る限り鍛えるが、歴代でもすぐに死んだ勇者も居るらしいから、無理はしなくていいぞ」
「冷たいよ!? ザガムさんのバカー!!」
「探すのは二人用のテントだぞ」
泣きながら駆けていくファムの背中に声をかけると、ピタッと立ち止まって俺に振り返って舌を出してから言う。
「そういうところですよ! べーだ!」
「むう」
何故か怒っているファムに首を傾げていると、下から覗き込むように三つ編みの女がニヤニヤしながら声をかけてきた。
「はっはっは、微笑ましいねお兄さん! どう、あたしに乗り換えたりしない?」
「俺は女性が苦手でな、離せ」
「ありゃ、つれないね? あたし、いい線いっていると思うけど。あの子はいいのかい?」
「あいつは弟子だからな」
「ふうん、あの子はそう思っていなさそうだけどねえ。……さて、それじゃ仕事しますか、なにかお探し?」
店員だったのか。それならと、俺はファムが去って行った方へ顔を向けて女へ頼むことにする。
「あいつは野営の素人でな、必要なものを見繕ってやってもらえるか?」
「ご自身ではやらないのです?」
「これも修行だ。高価なものを押し付けてもいいぞ、買おうとした内容を見てダメ出しをするつもりだ」
「はは、お優しいことで! そう言うことであればお任せください、お嬢さん~♪」
女店員はファムに近づいていき会話を始めたので、俺は見ないようにして自分の買いたいものを物色する。
旅に必要なものは割と限られていて、今の俺は収納魔法があるので困らないが、あれもこれもと手にして自分で持ち運びができる範囲を越えた時、修行どころか移動もおぼつかなくなる。
なのでファムには今日買ったものを持ってもらい、一日使って森で修行する予定だ。
まあ、村娘だったファムには文字通り少し荷が重いかもしれないがと思いつつ、俺は新しいコップや鍋を物色するのだった。
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