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第二章:勇者
~幕間2 国王と勇者~
しおりを挟む「……ファムはあの男を引き留められるでしょうか?」
「分からん。が、あのザガムという男を好いておったようだからなんとしてもついていくと言うと思うぞ」
ザガムとファムが立ち去った後、謁見の間ではまだ大臣のザップ、騎士団長のエイター、それと兵士達が残って話をしていた。
もちろん話題はザガムのことで、あの強さはおかしいとどよめきが起こっており、兵士のひとりが一歩前へ出て膝をついて話し出す。
「陛下、あの男はあのままで大丈夫でしょうか? 一国の城を蹂躙できるほどの力……本格的に牙を剝いたら我々では勝負になりません」
国王のアレハンドロは言葉を発した兵士に目を向け、口元に笑みを浮かべてから口を開く。
「まあ、あの男はアホだから今は問題あるまい。それにそうなった場合、徹底抗戦はするが恐らく勝つことはできんだろうな。腹立たしいが言っていることは間違っておらんし、下手に手を出してここが墜とされるのも避けたい」
「今は、ですけどね。僕も騎士団長という地位に甘えていたようです。申し訳ございませんでした、また修行を積みたいと思います」
「良い、私としてもいい薬になった。お前達なら全員を広い場所に展開してかかればあるいは、とも思うがな」
「勿体ないお言葉です」
エイターが膝をついて頭を下げると、兵士達も同様の所作を行い、一瞬場が静かになる。
そこでザップがアレハンドロへ質問を投げかける。
「しかし、この国に置いておくのは少々危険では? まあ、ファムが教えを教えを請い、強くなるのは吝かではありませんが……」
「逆だ、この国に居てもらった方が確実に良い。ザガムは大魔王の討伐を目的としていた。となればなんらかの理由でこちらへ攻めてくる可能性があるということだろう? その時、強い戦力が居ればいるほど心強い。……ファムが死ねば勇者の力は神に返されまた別の人間を選別するというが、もし彼女が強くなれば私の策は愚行だったということだな」
「なるほど……」
ザップは顎に手を当てて納得していると、アレハンドロはさらに続ける。
「今はそんな気を起こす国は無いだろうが、戦争になった際も同じことだ」
「そうですね。北のジアラートあたりは斥候でこちらを探っているようですが……」
「あそこは土地が痩せているから作物は貿易頼み。小競り合いで領地を狙う可能性は十分にある。どちらにせよザガムという戦力はここで足止めをしておく、動向は探るようにな」
「ハッ!」
「それと明日から私も剣の稽古に混ぜてくれ。一矢報いることはできんだろうが、あのすまし顔を驚かせたい」
「えーと……」
エイターは困った顔で口を濁す。
変な強襲者、ザガムは意外にもこの国を良い方向へ転換するきっかけとなり、とある事件でそれを証明するのだが、それはまだ先の話――
◆ ◇ ◆
「……ぐがー」
「この人、何者なんだろう……」
深夜――
不意に目が覚めた私は、上半身を起こして隣のベッドで気持ちよさそうに寝ているザガムさんを見ながらひとり呟く。
今日はたった一日で色々なことがあったので、正直興奮冷めやらぬというのが本音だ。
昨日出会った時から不思議な人だと思っていたけど、まさか単独で城に突撃して兵士や騎士団長まで倒し、国王様に謝罪をさせるなんてまるで理解が及ばない。
「でも、私のためにやってくれたんだよね」
そう口にすると顔が熱くなり、顔がにやけてしまうのが自分でもわかる。ここまでされて『はい、さよなら!』なんてできるはずができない。
師匠として教わるのも本当のことだけど、私はこのぶっきらぼうなザガムさんを好きになってしまったのだ。
「あそこまでされて惚れない女の子は居ないよね。それと覚悟してたんだけど……」
この宿に来た時、私はザガムさんと同じ部屋にしてもらった。もともと一人部屋だったんだけど――
「おかえりなさいませ! ……って、お連れさんですか?」
「ああ。ファム、手続きを」
「えっと、ザガムさんと同じ部屋でお願いできませんか?」
「俺の部屋は一人部屋だからそれは無理だぞ」
あっさりと言い放つザガムさんに私は唖然とする。
こういう時って男の人は『ラッキー』と思うんじゃなかったっけ? そ、その、え、えっちなことをしたいっていつも考えているって聞いたことがあるんだけど……?
「どうした?」
うん、全然そんなことを考えている顔じゃないし。
もしかしたら死んでいたかもと考えればえっちなことをされるくらいなんでもない。むしろ惚れた人に抱かれて処女を捧げるのはちょっとロマンティックかもなどと思う。
「えっと、お客様は同じ部屋がいいんですか?」
「はい!」
なにかを感じ取ってくれた宿屋のお姉さんが声をかけてくれ、思わず大声で返事をし、苦笑されてしまう。
だけど、すぐにザガムさんに向き直って提案を口にしてくれた。
「お嬢さんもこう言っておりますし、お部屋を変えてみてはいかがでしょうか?」
「料金はどうなる?」
「あ、私が持ってますから大丈夫ですよ」
「ダメだ。それはお前のものだから、きちんと支払いは分けねばならん。どうだ?」
真面目だなあ……真顔でそんなことを私に言っていると、お姉さんが金額を提示してくれた。
「パーティメンバーで二人部屋ならもう少しお安くなりますよ? ザガム様は七日間で七千ルピですが、二人で一つの部屋をお使いなら七日で一万ルピになります。少しですが、お安くなりますしいかがでしょう?」
「むう……確かに安くなる……金も無限ではないし、だが結婚もしていないのに女性と同室など……」
そういえば女性が苦手だって言ってたような気がする。でも、だからそこは問題ないと思うので私はお姉さんに声をかける。
「同じ部屋で大丈夫です! ザガムさんのお見合いを阻止するために結婚するつもりですし」
「あらあら、モテモテですね! そういうことなら三階の静かな部屋をご案内しますね!」
「おい、俺はまだ承諾して――」
「お金、大事なんですよね?」
「む、それはそうだが。年頃の娘と同室というのは……あいつみたいでな……」
「あいつ?」
「いや、なんでもない。……まあ、安くなるなら願っても無い。よろしく頼む」
――という感じで二人部屋を取ってからお昼ご飯を食べた後、町の外で私の訓練を早速開始。
夕方くらいに戻ってまたご飯を食べた後は適当にくつろいでいた。
……お風呂に入った後、隣のベッドでザガムさんを見てドキドキしていたんだけど
「では俺はもう寝る。明日はギルドで依頼を受け、金を稼ぎながら訓練をしよう」
「あ、はい」
――私が思っていたようなことはまったくこれっぽっちも起こらず、ザガムさんはさっさと寝てしまい、私はスンと気持ちが平常になり、ふて寝ともいえる形で布団に入って、今に至る。
「……私に魅力が無いのかもしれないけど……」
まあ、逆に言えば恩に着せたり、力づくで襲ってくるような人ではないと考えれば信用できると思う。
「どっちにしても、これからよろしくお願いしますね、ザガムさん♪」
「……ぐがー……」
私はザガムさんの頬にそっとキスをして再び布団に潜り込むのだった――
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