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第二章:勇者
その22:冥王、静かに怒る
しおりを挟む「ちょ、ちょっと待ってください!? どうしてお城に行くんですか!?」
「……」
びっくりしたせいか、完全に泣き止んだファムが俺に引きずられるように早歩きをしながら俺に声をかけてくるが、それを無視して眼前に見える城へと向かう。
「す、すごい、こんなに速いのに人とぶつからない……」
「地上戦も空中戦も動き方が重要だ、足さばきを覚えれば誰でもできる」
「へえ……じゃなくて――」
ファムが抗議の声をあげようとしたが、立ち止まった俺の背中に顔をぶつけて掻き消えた。そして俺の眼前には城門とそれを守る門番が二人。
「ん? なんだ貴様、城に用か?」
「謁見の予定は聞いていないぞ。見たところ冒険者のようだが……」
「Eランク冒険者ザガムだ。急ですまないが、勇者について国王に話を聞きたい」
「わひゃ!?」
「「……!?」」
ファムを前に出すと門番二人が目を見開き、驚愕した顔で一瞬怯み、咳払いをして口を開く。
「……勇者か。なおのこと通せんな、悪いことは言わん立ち去れ」
「どういうことだ? 確かにこいつは弱いが、勇者だぞ。しかも国王が呼んでおいて蔑ろにしているのはおかしいではないか」
「ガタガタとうるさい男だな、帰れと言っているだろうが!」
そう言って門番が俺の肩を押して追い返そうとしたので、俺はその腕を取って捻り上げて転ばす。
「ぐあ……!?」
「ザガムさん!?」
「貴様……!」
「もういい、悪いが力づくで通らせてもらうぞ」
転ばせた門番から手を離し、ファムを連れて門に向かうと、背後からもう一人の門番が殴り掛かって来た。
「なんのつもりか知らんが拘束させてもらうぞ! 勇者ファム、貴様も同罪だ」
「ええええ、そんなぁ……!?」
「大丈夫だ」
「ぐ……!?」
俺は振り向き様に、門番の腹を殴り悶絶させる。鉄の鎧など少し力を解放すれば生身と変わらない。
地面に寝かせていると、先に倒れていた門番が立ち上がり槍を手に襲い掛かってきた。
「貴様ぁ!」
「きゃあ!?」
「少し寝ていてくれ」
「消え……!?」
槍で殴られそうになった瞬間、俺はそれを打ち払い背後に回って拳で背中を強く打ち付けてやる。
「よし、行くぞ」
「『行くぞ』じゃありませんよ!? 門番さんを倒すなんて……って、聞いてくださいよ!」
「大丈夫だ、ちょっと話を聞くだけだ」
門番二人を壁を背に座らせると俺は門を開けて中に入り、静かに閉じる。背中を殴った方は数分もすれば目が覚めるだろうから職務放棄にはならないだろう。
「さて、国王はどこにいる。謁見の予定が無いなら自室か?」
「あわわわわ……極刑……極刑になる……ごめんなさい、お父さんお母さん……ファムはもう帰れそうにありません……」
「早く行くぞ」
「ううう……責任とってくださいよぉ……」
さっさと歩き出した俺に、また泣きべそをかいているファムが慌てて駆けだし、背中にぴったりついてくる。
「まあまあ大きな城だな……。あまり時間をかけたくない、聞いてみるか」
城へ入ると豪華な調度品に目が行き、他には使用や、メイドと言った人間があちこちに歩いているのが見える。
ちょうど近くに兵士が通りかかったので聞いてみることにしよう。
「すまない、国王はどこに居る?」
「あ? なんだてめぇ。陛下になんの用だ」
「Eランクの冒険者だ。こいつについて話しがある」
「あ!? 勇者か!? おい、こいつは城に来れないようになっていたはずだ、どういうことだ」
「そ、それは……」
ファムが目を泳がせると、兵士はさらに続ける。
「クソ雑魚勇者だってことが判明して、せめて妾にでもなって役に立てと言われたのに拒否したのはお前だろう? 顔を見せるなと言われたろうが」
「だ、だって、いきなりベッドに連れ込もうとされたら驚きます……」
「……」
それを聞いて俺はさらに気分が悪くなり、兵士の肩を掴んで質問する。
「もう一度聞く。国王はどこだ」
「教えるわけねえだろうが!? 不審者だ、みんな出てこい! 捕まえろ!」
兵士はどこからか笛を取り出し、けたたましい音を立てて吹くと、廊下や部屋、階段から武装した兵士があちこちから出てくる。
「賊か? 門番はなにをしていた?」
「知るか。みろ、勇者だ。あいつも殺して構わん、そうすればまた次代の勇者が出てくる可能性があるからな」
「……なるほど」
「あわわわわ……」
そういうことか。
妾になれ、というのはさておき国王はこいつを殺すつもりだったのだろう。故に依頼はおおよそ達成できないものばかりに限定しているというわけだ。
「もう一度聞くぞ、国王はどこだ? 大人しく言えば痛い目を見なくて済むぞ」
「……っざけやがって!! この数を見てよくもそんな口が吐けたもんだな! Eランク風情が、調子に乗るなよ!」
「残念だ<フルムーンケープ>」
「え? あれ、なんか光ってる……」
「魔法壁だ。物理攻撃ならここに居る全員の攻撃を受けても破れはしない。そこでじっとしていろ」
「あ、あの、ちょ――」
ファムの言葉を最後まで聞くことなく、俺は指を鳴らして突撃する。
数は五十というところか? この国の兵士の強さとやらを確かめてやろうじゃないか――
◆ ◇ ◆
「昼間から酒を飲めるとは、謁見が無い日はいいのう」
「左様ですな、わたくしめもご相伴に預かれるとは恐縮にございます」
近くに居るメイドに指示を出し、少し髪が心配になってきた大臣のグラスに酒を注ぐのを赤ら顔でニヤニヤと笑いながら口を開くのは、この国の王、アレハンドロ。
歳は四十を過ぎて少しといった感じで、髭は無い。
「たまには大臣を労うのも良かろう。私は心が広いからな! わっはっはっは!」
「恐縮です。……む、なにやら廊下が騒がしいですな?」
「ん? ……確かにそのようだな。賊が侵入したか? いや、そんなことはないな、強国の一つである我が城に攻め込むアホはおらんだろう!」
「そうですな、なにかあれば報告がありましょう」
アレハンドロが高笑いをした瞬間、私室の扉が激しく開け放たれ、剣は折れ、鎧をへこませた兵士が転がるように入って来る。
「へ、陛下ぁ、お、お逃げください! ば、化けも――」
「な、なんだ!? お、おい、いったい何があったと言うのだ」
白目を剥いて倒れた兵士を助け起こしたその時――
「ここが国王の部屋か? 邪魔するぞ」
――ザガムが部屋に入って来たのだった。
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