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第二章:勇者

その13:ブライネル王国

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 キアンズの町を発ってから数時間、ようやくオルソネリア公国の国境を空から越えることができた。
 
 「地図を見てはいたが結構距離があったな。飛行魔法を使える人間は少ないとメギストスに聞いたことがあるが、この距離を馬車や徒歩でしか移動できない人間は不便なものだ」

 魔族領ならドラゴンのような空を飛ぶ魔物を使役すれば飛べるし、俺のように魔法が使えれば自由自在。それに魔族はマルクスのように羽が生えている者も多い。

 「……空から攻めれば容易いか?」

 俺はそんなことを考えながら月を背に先を急ぐ。
 陽が昇れば飛んでいることに気づく人間も出てくるので、今の内になるべく王都へと近づいておきたい。
 
 「広い土地を持っていながらあまり町や村は多くないな、勿体ない。やはり有効活用するには俺がメギストスの上に立ってこの地を手にれる必要がある。しかし――」

 ――しかし、どうしてメギストスは先代の大魔王のように人間を打倒しようと思わないのだろう? ヤツの力なら人間など吹けば飛ぶ。勇者が居ない間に攻め込めばいいだろうに。

 「……あいつは本当によく分からん……」

 俺は速度を上げると王都へと向かい、陽が昇り始めたころにようやく大きな町へ到着することができた。

 「おっと、町に入るには金が必要だったな」

 いきなり町に降りた後、話がややこしくなることは避けたいのでキアンズの町と同じく正攻法で入るべく離れたところで着地して街門へと向かう。

 「すまない、町に入りたいのだが」
 「ふあ……。んあ? 朝っぱらからご苦労なこったな、商人か?」
 
 眠そうな門番に声をかけたところ、舐めるような目つきで品定めするように俺を見ながら尋ねてきたので、ギルドカードを見せながら答えることにした。

 「冒険者だ、ギルドカードもある」
 「どれ……なんだEランクか、しょぼいな。ま、金さえ払えば町に入れるから関係ないけど。問題は持っているかどうかだよな?」
 「いくらだ? 三百ルピでいいのか?」
 
 そう言うと門番は嫌な笑みを浮かべ、指を突き付けながら口を開く。

 「おいおいどこの田舎から来たんだよ? 王都に入るのにそれは安すぎだろうが。千ルピだ、持ってるんだろうな。持っていなかったら貸すが、利子は取るぞ」

 千ルピとはまた高いな。
 しかし、バリーが言っていたように金に汚い国のようだからこれくらいはあり得るかと俺は財布から金を取り出して門番に渡す。

 「確かに受け取ったぜ。ほら、通りな♪」
 
 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら道を開ける門番に嫌な予感を覚えつつ通り過ぎようと前へ進む。すると、門番は俺の目を見ながら足を出して転ばそうとしてきた。

 「……」
 「へへ、田舎者は……うお!?」
 
 勝ち誇ったような顔をした門番の足が俺に触れた瞬間、門番は派手に回転して背中を打ち付けた。一瞬だけ力を解放し、踏み出した足を振り抜いた結果である。
 なにが起こったのかわからない門番がきょとんとしているが、俺は構わず進み、顔だけ振り返って一言。

 「疲れているのか? 早く休んだ方がいいんじゃないか」
 「う、うるせえ! さっさと行け!」

 ふん、自分から仕掛けておいてやられたら反撃してこないのか、不甲斐ない男だ。
 まあ無駄な時間を使う必要も無いかと俺は宿を探すため町を散策する。
 
 「勇者を探す前に一眠りしたいが宿はどこだ……? 門番に聞いておくべきだったか……」

 とはいえ戻るのも面倒かと、俺は先の町と同じような店が並んでいるそれらしい通りを歩いていき、ひと際大きな建物を見つけて中へ入る。

 「いらっしゃいませ! いつもニコニコ現金払い、ホテル‟スパロウ”へようこそ! 徹夜ですか? お疲れ様です! お一人様でしょうか?」
 「そうだ、一番安い部屋で構わない」

 給仕服らしきものを着た元気な娘が俺に気づき、受付と書かれたカウンターで捲し立てるように尋ねてきたので用件だけを簡単に返す。

 「わ、よく見れば凄いイケメン……一番安い部屋でいいんですか?」
 「手持ちがあまり無いからな。というかこの宿は客の素性を詮索するのか?」
 「あ、いえ、そういう訳では……申し訳ありません! 一番安いのはスタンダードで一泊千五百ルピ、お客様が冒険者であればカードをご提示いただけますと七日で七千ルピというプランもございます」

 一泊千五百ルピとは驚いた、最低でもジャイアントアントを十匹は倒さないと寝床を確保することすらできないとは。
 とりあえず何日この町に留まるか分からないので冒険者プランというものでいこうとギルドカードをカウンターに差し出した。

 「……うん、オッケーです! こちらの宿帳にお名前のご記入をお願いします」
 「わかった」

 受付の女性が手に取って確認が終わるカードを手渡され、帳面に名前を記入し終わると、女性は鍵を差し出して微笑みながら言う。

 「それではこちらが鍵です。204号室は角部屋なのでゆっくり眠れますよ!」
 「助かる。金はいつ払う?」
 「先払いでいただきますが問題ありませんか?」
 「ああ」

 俺は財布から一万ルピを差し出し、三千ルピと支払い証明書なるものを返してもらう。

 「後払いの人は少ないですけど、念のため宿を出るまで無くさないでくださいね?  面倒になるので」
 「丁寧に助かる。もういいか、眠いのでそろそろ部屋に行きたい」
 「はい! 朝食と夕食は簡単なもので良ければお出しできるのでお申し付けくださいね」

 元気な娘だと思いながら二階に上がり部屋を発見してすぐにベッドに横たわり、目を瞑る。

 「……一番安い割には悪くない寝床だ、部屋に鍵もあるし安心して、眠れる……」

 思ったより生活に金がかかるというのがネックだな、城に住んでいた時はイザールが全部やってくれていたからあまり庶民の生活というのを知らなかったが、これは大変だ。

 「ふむ、もう少し給金の制度を見直すか……? いや、実際に魔族の賃金が適正かどうか――」

 色々考えることはあるが、当面は金を稼ぎつつ勇者を探すという目的をこなさなければならないので忙しくなるだろう……

 「……勇者、すぐ見つかればいいが……それにしても宿賃が高い……飯はいくらになるんだ……五万ルピが無かったらあっという間に干からびているぞ」

 野宿は【王】に相応しくないなどと考えていると、気づけば俺の意識は途切れ、深い眠りについていた――
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