上 下
9 / 155
第一章:旅立ち

その9:冥王は依頼を受領する

しおりを挟む

 「えっと……ケガは無いみたいだけどどうしたのかしら……」
 「アレイヤが行けと言っていたので来ただけだ。しかし、ケガが無いのも怪しいか……すまない、包帯を適当に捲いてもらえないか?」
 「ええー……」

 手当を受けるフリをしておくのも重要だと左手に包帯を捲いてもらい、何度か握っているとアレイヤとライが近づいてくるのが見えたので俺から声をかける。

 「他になにをすればいい」
 「手当は終わったみたいね、適正検査はこれで終わりよ」
 「あ、あの」
 「……」

 手当をしてくれた女性がなにか言おうとしたので俺は振り返り、余計なことを言うなと圧をかける。
 
 「どうしたの?」
 「ああああああ、な、なんでもありません!?」
 「おいおい、大丈夫か!?」

 尻もちをついた女性をライが助け起こしながら俺に向きなおり、口元に笑みを浮かべた後に口を開く。

 「まだ粗削りだが、打たれ強さと筋はいいから何度か実戦を経験すればDランクはすぐだと思う。ギルドは腕のいい冒険者が居れば助かるからな、頑張ってくれ」
 「ああ」
 「それじゃ受付に戻りましょうか」

 訓練場を立ち去るらしいので、ライに手を上げてこの場を後にすると、俺は歩きながらアレイヤの背中に質問を投げかける。

 「これで依頼とやらを受けることができるだろうか? 早く金を稼ぎたい」
 「ええ、適正なやつを見繕ってあげるわ」

 受付に回りながら微笑むアレイヤは書類の束のようなものを出して目を通し始めたので、手持ち無沙汰になる。
 このまま待っても良かったが、とりあえず本来の目的である勇者のことを聞いてみるとしようか。

 「作業しながらでいい、聞いてくれ」
 「なにー?」
 「勇者が現れたと耳にしたんだが、本当なのか? もし本当であればどこに居るか教えて欲しいんだ」

 するとアレイヤの動きがピタリと止まり、顔を上げて俺に言う。

 「勇者のことを聞いてどうするの?」
 「……大魔王を倒せるほどの強さだ、両親の仇を取ってもらえないかとな」
 「仇、か……。やったのは魔族? 復讐したい気持ちはわかるけど、勇者も暇じゃないと思うわよ。噂じゃブライネル王国に現れて、少し前に王様に会ったらしいってことくらいね」
 「なるほど、ブライネル王国だな」

 壁に貼ってある地図に目をやり、地名と町名から現在位置を確認。
 人間の居る地域に来るのは初めてだが、世界地図は不本意ながらメギストスやイザールとの勉強で教わったことがあるため地図を見ればだいたいの位置は把握している。

 「ならザガムは王都に行くの?」
 「勇者が居るならそうなるな」
 「そっか……できればこの町で活動して欲しかったけど、敵討ちなら引き止められないわね。なんだかんだで貴方優秀そうだし」
 「そう言われて悪い気はしない。が、日銭を稼いだら旅に出る」

 『あっさりしてるわね』とアレイヤが肩を竦めて笑うが、少し冷めたような笑い方だなと気になり尋ねてみる。

 「アレイヤにも討ちたい敵がいるのか?」
 「……敵は討ったわ、間接的にだけどね。村を襲ってきた魔族にやられたんだけど、冒険者が倒してくれたのよ。それから冒険者のサポートができるこの仕事を選んだってわけ。だから、敵討ちってんならそれは止められないなって」
 「……」

 魔族か……大魔王の目が届かない人間の領地に居る魔族なら襲うことは有り得なくはない。
 特にゴブリンやオーク、オーガといった種族は魔族とは言っても『キング』や『ロード』という位を持つ者以外はそこまで賢くないため魔物と殆んど変わらないのだ。
 魔族と魔物の違いはそこまで無く、言葉が話せるかどうかが一番重要になる。
 俺のような人型も居ればマルセルのように羽が生えている者もいるし、ユースリアも海に戻れば下半身は海の生き物に変化できるらしい。
 判断基準としてはやはり見た目より知能だと思う。
 
 それにしてもアレイヤが魔族に爺さんを殺されていたとはな。
 俺もイザールになにかあれば、大魔王相手でも殺しにいくだろう。それを他の人間の手を借りたとはいえ成し遂げたのは褒めるべきだ。
 
 「そんじゃ、王都に行くまで旅をするなら何日か稼がないとね。とりあえずこれなんてどう?」
 「ふむ」

 先ほど見せた寂し気な顔から一転して、笑顔になりアレイヤが俺に渡した紙を見ると――

 「ジャイアントアントの討伐か」
 「そう、あまり強くないんだけど最近数が増えてきたのよ。ちょうど西門から出た森にいっぱい出るらしいから駆逐して欲しいわ。一匹当たり百五十ルピだから分かりやすいでしょ?」
 「そうだな、これを受けるとしよう」
 「決まりね! それじゃ、この依頼はザガムが受領、と。カードを貸して」
 
 俺がギルドカードを渡すと、アレイヤが紙の隅にカードを押し当て、直後その部分に焼き印のようなものがついた。

 「これで貴方以外終了できないし、なりすましで取られることもないわ。それじゃ、頑張ってね♪」
 「分かった、西門だな」
 
 明るく手を振って見送ってくれるアレイヤに片手を上げて応えギルドを後にし、早速西門へと向かう。

 「……ギルドは勉強になるな、まずは俺の領で試しに作ってみるか? 魔物退治などに報奨を出せば確かにやる気になる。戦力を図るのも競争心を煽れていいかもしれん」

 ……それでも疑問は残る。
 大魔王メギストスはどうして人間と冷戦状態に入ったのか……?
 俺が人間を隷属したいのは魔族だけの領地が人間の領地に比べて狭く、強者である俺達にあれだけしかないのは納得がいかないからだ。もっと広くなればもっと発展するはずと俺は魔族の将来を考えている。

 「……やはり鍵は勇者か」

 会うためには金が要るかと、ジャイアントアント討伐のため西門へ行く。

 「依頼ですか? 帰って来た時にこのカードを提示していただければ入町料は必要ありませんので、無くさないようお願いします」
 「ああ、また払いたくないしな」

 金を今から稼ぎにいくしなと胸中で呟きながら、俺は門を出て森へと歩き出した――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...