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九章:風太
246.増える味方
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「さて、聞きたいことは山ほどあるが……フウタ君は異世界の勇者であるのは間違いないのだね?」
「はい」
瓦礫撤去などを行っていたところでフラッド様が僕の前に現れた。
話がしたいというので、レッサーデビル達を全員呼び戻して王都の外で話し合いとなる。
大きなテントを騎士さん達が設営。イスとテーブルを運び込み、フラッド様の前に座っていた。
僕を真ん中にし、両脇にレムニティとグラッシさんが座る。名前をつけたレッサーデビルのビエントとブレッザを後ろに立たせてもいた。
フラッド様も背後にドライゼンさんやアーデンさんといった騎士をたくさん連れている。
そしてまず、フラッド様は確認事項として僕を勇者か尋ねてきた。すでに能力は見せているので誤魔化す必要もないと即座に肯定する。
『それはこのわたくし、大精霊ウィンディアが証明しましょう』
「おお……大精霊様……」
そこで僕の背後にウィンディア様がスッと現れて後押しをしてくれた。騎士さん達も見ていたと思うけど、一瞬、場が騒然となる。乱戦状態だったから確信が無かったのだろう。
「ウィンディア様……魔族が現れた際、戦争時に少し手伝ってくれたとお伺いしたことがあります。その後、他の大精霊様と共に傍観を決めたようですね」
『そうですね。わたくしは世界樹の衰えをなんとかしなければいけなかったので』
フラッド様ウィンディア様へそう尋ねると、毅然とした態度でそう返していた。他の大精霊様は何故かは分からないけど、彼女の言い分は僕達が知っている。
「そうですね。今も僕の力を世界樹に渡して維持してもらっています」
「ふむ……そこは信じるしかなさそうだね。それで、君たちを召喚し、神と言っても過言ではない者を倒しに行くということだな。魔族達も騙されていたから一緒に、と」
【そういうことになる。レムニティ……こいつは一部始終を見てきたそうだ。この狼に憑依し、勇者達とも旅をしてきたらしい】
【その上で、魔王様の身体を乗っ取り、我々を戦いに導いた。魔王様を見つけてどう指示を出してくるかわからないが、少なくとも【渡り歩く者】を倒すまでは人間に手を出すことはないだろう】
「わん!」
僕達と行動を共にしていたレムニティは人間に対してそれほど悪感情はないし、グラッシさんも命令で戦っていただけなので切り替えが早い。
「本当の敵を倒すために、ですね」
「わかった。落ち着いて話を聞くと、とんでもないことだ。ブラインドスモークへは行けるのだろうか?」
「船があれば行けると思います。海を支配していた魔族のメルルーサさんも転移魔法で飛ばされましたし。だけど行くのは止めた方がいいです。行くとしても僕達が全員揃った状態で各国の精鋭が居てようやく、というところです。先のベヒーモスのようなものを持っている可能性が高いですし」
僕は改めて敵対勢力のことを話して危険度合いを口にする。そこで、あのベヒーモスをここに来させた理由の推測が頭に浮かぶ。
もしかしたら、ああいう手駒を持っているぞと見せることで攻めにくくしているのかも……グラジールの成長を待つ間なら考えられるなと。
「そのようだね。船もヴァッフェ帝国ほどのものを作らないと難しいだろう……それでフウタ君は仲間を探しに?」
とりあえず予測は置いておき、フラッド様の話に耳を傾けた。当初の予定を再確認して来たので、僕は頷いてから答えた。
「はい。レッサーデビル達に運んでもらえれば楽に移動できます。ひとまず中立であるグランシア神聖国のメイディ様に話をしに行こうかと」
「なるほど、考えているね。仲間の手がかりは?」
「手がかりは……ありません。一人、勇者専用の意思疎通ができる魔道具で生きていることは分かっているのですが……」
ミズキにだけ通話ができたので生きているのは間違いない。あれから通話できていないけど、旅に出たらかけるつもりだ。
そう、考えていると――
「……!?」
【どうしたフウタ?】
「すみませんフラッド様、少し失礼します」
「どうしたんだい? ……それは――」
僕は懐からスマホを取り出した。なぜならマナーモードで振るえていたからだ。ディスプレイには水樹の名前が表示されており、人目もはばからず通話ボタンを押した。
「水樹!」
(あ、風太君! 良かった、また繋がったわ……今、どこに居るの?)
「僕はロクニクス王国というところにレムニティと居るよ。水樹は?」
(私はブリヒース国というところよ。一応、メルルーサさんと飛ばされたんだけど……魔族だから、監禁されているの。私はなんでかわからないけど豪華な部屋に……あ、ノック……ごめんなさい、また連絡――)
「もしもし! 水樹! ……切れたか……」
【大丈夫かフウタ?】
僕は通話終了ボタンを押してスマホを切る。
そこでレムニティが声をかけてきた。僕の表情が険しかったようで眉を顰めて尋ねてきた。
「大丈夫……」
「それが魔道具かな? 仲間と連絡がついた、ということか」
「はい。生きているのは間違いないんですが、ブリヒース王国というところに居るというのが分かりました。グランシア神聖国より先にそっちに行こうかと――」
「……いや、止めておいた方がいい」
「え?」
【どういうことだ?】
居場所が分かったなら先にそっちへ行くべきだ。そう言ったところ、フラッド様は顎に手を当てて『行くな』と返して来た。グラッシさんが聞き返すと、フラッド様は少し考えた後に話し出す。
「あの国、ブリヒースは少し特殊でね。ここから西へ行った場所だ。帝国とは違った意味で厄介だ。独自の神を信仰している国でよそ者を嫌う。歓迎されない上に、仲間のことを聞いても逆にだんまりを決め込むだろうね」
「なら水樹は危ないんじゃ……」
「可能性は高い。だけど現在生きているなら、女性は例外かあるいは勇者だからということかもしれない」
【どこにあるんだ?】
「ここから西に行くと海につきあたるんだけど、そこから向こうの大陸へ渡るとそこがブリヒース国になる。商人でもあまり交易が無いから実態はわからないんだ」
【……大陸が別にあるのか。そっちは我々があまり侵攻しなかったな。海を支配していたメルルーサが攻める予定だったのかもしれない】
アキラスがロカリス国とエラトリア王国、レムニティがグランシア神聖国とヴァッフェ帝国。ブライクさんがイディアール国、グラッシさんがロクニクス王国とこの大陸だけで四人の幹部が暗躍していた。
ではグラジールは……?
もしかするとグラジールがエルフの森に執着していたのは独断だったのかもしれない。大幹部と呼ばれていた二人は島から出る予定はなさそうだったし……
「うーん、どうするかな……」
【空を飛べるメリットがあることを考えると、強行突破でいいのではないか? 近くに行けばその連絡魔道具も上手く繋がるんじゃないか?】
「そうだね。ああ、こういう時もう一人居ればメイディ様に連絡も出来るんだけど……」
僕が唸っていると、フラッド様は微笑みながら口を開く。
「そこは頼ってくれよ、勇者様。書状は私が出そう。侵犯と言われてはこちらも困るのでフウタ君の手助けは出来ないが、こっちの大陸なら融通が出来るからね」
「ありがとうございます! なら、僕達はブリヒース国へ行こう」
【分かった】
【ミズキとメルルーサか……合流できれば他も探しやすくなるか】
グラッシさんとレムニティは即答してくれた。
その後は旅に必要な物を用意してくれるというありがたい申し出があり、僕達は素直に受けた。
もう少し復旧を手伝いたかったけど、居る場所がわかっているなら行動は迅速にするべきだ。リクさんなら間違いなくそうする。
その間、リースンが僕のところへ来れないようにしていたのはちょっと面白かったけど。
グランシア神聖国へはアーデンさんが向かってくれるとのこと。彼女なら問題なく伝えられると思う。
そして僕達は水樹の下へと向かう――
◆ ◇ ◆
「ちょっと、やっぱり違うじゃない!」
【わたしは『そうかもしれない』って言っただけでーす! 決めたのはカナじゃないですか!】
「減らず口を……!」
【なんですか!】
よく分からない場所に飛ばされて何日経ったのかしら……あたしはレスバと草原を彷徨っていた。幸いというか何故か船の近くに置いてきたソアラと馬車が傍に居たので移動はなんとかなっている。
食料は……殆どなかったからまあ、気が立っているのよね……町は――
【ん? カナ、あそこ! 灯りじゃありませんか!】
「お! でかしたレスバ! ごめんソアラ、あそこに行って!」
あたしがそう言うとソアラは『わかりました』という感じで鳴いて速度を上げてくれた。彼女は水と草を食べているのでまだ元気なのだ。
はあ……みんなどこに居るんだろう……
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