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九章:風太

245.昨日の敵は戦友となる

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「やった……!」
「うおおお! 勇者様が倒したぞ!!」
「わあああ!!」
【ぐるぉぉぉ!!】
【おおおお!】

 ベヒーモスが完全に動かなくなったところで騎士さん達やレッサーデビル達が歓喜の声を上げていた。
 僕はリースンと町の人へと近づいて声をかける。

「大丈夫かい?」
「……」
「……」

 だけど彼等は目をぱちくりさせるだけでまったく動く気配が無い。やっぱり怖かったのかなと思っていると――

「すっごぉぉぃ! フウタ凄い!」
「お兄さん凄いねえ! あんな化け物を倒してしまうなんて!」
「勇者様ー!」
「うわあ!?」

 ――その瞬間、リースン達は急に立ちあがり僕を取り囲んで称賛の嵐を浴びせてきた。勢いが凄く、僕がたじろいでいるとアーデンさんがやってきた。

「さすが勇者様。あの大物にトドメを刺すとは」
「アーデンさん助けて……!?」
「うん。さあ、リースン、陛下に報告をしに行って。後は騎士達で片づけをするわ」
「えー、私もフウタを……」
「ダメ。宰相様にも報告をしないと」
「ぶー」

 アーデンさんにそう言われてリースンは渋々回れ右をして城へと戻って行った。町の人達が僕と握手をしようとしたけど、騎士さん達に移動するように言われてその場を離れていく。
 残された僕とアーデンさんの下へ今度はレムニティとグラッシさん、それとレッサーデビルがやってきた。

「わんわん!」
「はは、くすぐったいよ」
【倒したな。犠牲はそれなりにあったが、及第点といったところか】
「……そうだね」

 かなりの巨体が暴れたため、城壁を含めて決して無傷というわけにはいかなかった。あちこちで負傷した騎士さんや兵士がおり、動かない人も居た。

「……僕達がもっと早く倒せていれば……」
【難しい話だな。あの女が出てこなければ有り得たかもしれないが、我々が二手に分かれた時点で手が一つ潰されたからな】

 運ばれていく人達を見てグラッシさんがそんなことを言う。予測はできないけど、僕がきちんと戦えていればとは考えてしまう。

【(覚悟が足りないんじゃないか?)】

 なんとなく、アヤネが言いたかったことはそういうことなのかもしれないなと今になって思う。

【グラッシを発見し、ベヒーモスを止めることが出来た。グランシア神聖国へ行くか】
「そうだね。ここはもう脅威が無い……と思うし。アヤネがなにを考えているかわからないけど、僕が居なくなれば興味も無くなるんじゃないかな?」
【そうだな。魔族である私達が居るのも人間達も困るだろうしな】

 レムニティの言葉に僕とグラッシさんが頷く。今回は共闘したけど、戦争をしていたという事実は変わらないのだ。

「……陛下の指示を待ってもらえませんか? このまま立ち去られては恩人に報いなかったと笑いものになってしまいます」
「いや、でもレッサーデビル達も居るし……」

 アーデンさんの申し出はありがたいけど、魔族に殺された人も居るだろう。流石に問題があると思い断ろうとしていると、近くから子供の声が聞こえてきた。

「すげえな! あんなでかい瓦礫を持ち上げるなんてよ! めっちゃ怖いけど!」
「おかあさんを助けてくれてありがとう! 怖いけど」
【グルフフフ……!】

 見れば何故かレッサーデビル達が子供に囲まれてお礼を言われていた。満更でも無いのか力こぶを作ったりしてなにかアピールをする。

「なにやっているんだ……」
【誰かに礼を言われるなどあり得なかったから、困惑しているのだろう】
「困惑……?」
「肩に乗せてくれよ!」
【グルウ】

 妙に馴染んでいる気がするけど……子供は強いなあ……。
 ちなみにレッサーデビル達も腕が無かったり、土くれになっていたりと散々な感じなのでこちらも無傷とはいかなかった。

「うーん、もう人間は襲わないと思うけど……」
「ま、とりあえずレッサーデビル達は集めておいてくれると助かるけどな?」
「ドライゼンさん!」
「将軍も居るけど、協力してくれたしフウタが倒したのは間違いない。陛下もある程度融通を利かせて話をしたいと考えているはずだ」
【ふむ。俺達は外で待たせてもらえるだろうか? やはり攻めていた国と仲良くというのはまだ難しいだろう】

 そこに難色を示したのはグラッシさんだった。
 僕達が止めたとはいえ、本来はグラッシさんが攻めているところにアヤネとベヒーモスが乱入して来た形になるからそこが引っ掛かっているようだ。

「なら僕達は王都の外に居ますね」
【そうするか。馬車くらいはもらっておくか?】
「空を飛んだ方が早くないかな?」

 レムニティが報酬をくれるなら馬車と言うが、レッサーデビル達に運んでもらった方が早いと思うんだよね。空からの方が分かりやすいし、魔物との遭遇率も低くなるはずだ。

【グルウ】
「ん? わ、ビエントじゃないか。どうしたんだい?」
【グオウ】

 そこで僕の肩を叩く者が居て振り返るとビエントだった。なにごとかと思ったら、騎士さん達が瓦礫を撤去しているところを指さす。

「……手伝いたいってことかな?」
【グオウ♪】
【なるほど手伝いか。それならいいかもしれない。ドライゼン、私達も片づけを手伝おう。レッサーデビル達はこちらの言うことを聞く。騎士を数人つけても構わない】
「ふむ。まあ、見ていればいいか? レッサーデビル達の力は頼りになる」
「よし、それじゃ僕達もお手伝いだ。みんな行くぞ」
【グオオ!】

 何故だかやる気のレッサーデビル達を率いて、僕達は町の片付けに入った。ベヒーモスの体当たりと、魔法弾や口からのビームはかなり被害を出していた。
 城も一部が損壊して青空状態となっているのが見えた。

【ガオオオ!】
「こいつら相手に戦ってた俺達も結構強かったんだなって思うよ」
「喋れないけどいい奴等だな。なんで戦ってたんだよ」
【グ、グルウ……】

 そりゃ命令だから仕方ないよね。色々言われているレッサーデビル達は暴れもせず、仕事に励んでいた。リクさんが見たらびっくりするだろうなあと思いながら作業を続けた。
 特にベヒーモスの遺体はかなり重く、少しずつ解体していこうということになった。

 そして――

「……勇者、それに魔族の将軍よ。よくあの怪物を倒してくれた」
「いえ、僕達だけでは倒せませんでした。騎士さんや魔法使いさんが防御魔法を散らしてくれたから一撃を入れることができました」

 ――僕達は王都の外でフラッド陛下と顔を合わせることになった。


◆ ◇ ◆

 
【……フッ、やるじゃないか】
『どうしました?』

 魔族の島、ブラインドスモークにてアヤネが砕けた水晶を前に一人呟く。そこへフェリスがやってきて眉をひそめて尋ねてきた。

【いや、怪物をとある国に送り込んで潰そうと思ったんだけど、生き残った勇者が魔族と一緒に止めたんだ】
『なんですって……!? 勇者が魔族といっしょに……やはりあいつらは……』
【ふん、今さらだろうが。俺達だってそうだからな】
『グラジール。……そう、ですね』

 グラジールも登場し、そんな話をする。
 それを見ながら渡り歩く者アヤネは不敵な笑みを浮かべていた。

【さて、フウタ君はひとまず置いておこう。ベヒーモスを投入して負けるとあっては、ね】
『もしかして勇者達の居場所を……? 始末しに行きましょう』
【いや、グラジールも大きくなってきたけどまだまだ勝てない。私がなんとかしてみるよ。……次は、彼女にするか――】

 フェリスに続いてグラジールも現れた。口ぶりで渡り歩く者アヤネがリク達の居場所を知っていると判断したフェリスが攻撃を仕掛けようと言い出した。
 しかし、渡り歩く者アヤネはグラジールも本調子でないためもう少し待てと、止めた。

【(さて、次の手札は――)】
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