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九章:風太

244.激闘の末に

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【オオオオオオ!!】
【チィ、魔力弾で脆くなったところを……! 吹き荒べ『ブリーズ』!】
【グルゥゥゥ……!!】
【こっちもだ!】

 レムニティとグラッシ、そしてレッサーデビル達がベヒーモスの足止めを請け負い戦いを続けていた。
 将軍二人の強さは健在で、風太を庇わないでよくなったレムニティは全力で攻撃を仕掛けることができているのも大きい。
 しかしそれでも『体が大きい』という圧倒的有利を覆すのは難しく、いよいよ市街地へとベヒーモスが侵入した。

「外壁がいとも容易く……! 騎士団、前へ! 左右から仕掛けろ!」
「「「たぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
「「「わあああああああ!!」」」
「弓兵はありったけの矢を射かけろ!」

 だがその時、ロクニクス王国も市民の避難が終わり、反撃のため騎士団が散開し始めた。剣士・弓兵・槍兵・魔法使いと、かなりの数が展開される。
 その中でレムニティは知った顔を見つけて降下する。
 
【ドライゼン】
「レムニティさんか! ……あんたも魔族だったとは」
【今更だがな。避難状況は?】
「あ、ああ、殆ど町の外に出ている」
【そうか。ならもう少し暴れても構わんということか】

 状況を聞いてレムニティがベヒーモスを見ながらそう返す。するとドライゼンが不思議そうな顔でレムニティへ話しかける。

「そりゃあそうだが……今までは本気じゃなかったってか?」
【まあ、そこまで変わるものではないがな】
「……レッサーデビル達は信用できるのかよ」
【大丈夫だ。フウタが名付けた奴もいる。盾くらいには――】

 レムニティがそう口にした瞬間、ベヒーモスのブレスが地面を割いて兵士が宙を舞う。それをレッサーデビル達が空中で拾い地上へ降ろしていた。

「おお……」
【ひとまずあの化け物を倒す方が先だ】
「ならなんで俺を止めたんだよ」
【……フウタのことだ。もしまだリクの師匠とやらに苦戦しているようであれば手伝ってやって欲しい】
「なんだって? あいつは勇者だしなんとかなるだろう?」

 すぐ追いついてくるんじゃないか?
 ドライゼンがそう返すと、レムニティは目をつぶってから考えを述べた。

【……実力でいけば私と殆ど変わらないくらいには強くなったと思う。剣と大精霊の力を使えばさらに上だ。だが、相手は単純な力だけで測れないなにかを感じる】
「魔法使いってことか」
【いや――】

 レムニティが考えていることを口にしようとした瞬間、ベヒーモスの後方で大きく衝撃波が巻き起こった。
 ベヒーモスが怯むのが見え、そちらに視線を合わせると――

「こっちだ!」
「おお、勇者様!」
「わんわん!」
【グルォ♪】

 ――そこには追いついてきた風太が居た。ウェンティを振るい、大精霊ウィンディアとともに魔法と剣の波状攻撃を仕掛けていた。

「戻って来たな! 無事みたいだぜ。よし、俺も遊撃に回る」
【……ああ】

 ドライゼンが良かったなとレムニティへ言い、斧槍を手にしてベヒーモスの下へ馬で駆けて行く。フウタとグラッシの攻撃がベヒーモスへ確実にダメージを与えているのが見て取れた。

【……今のフウタで奴に勝てるとは思えなかったが、いったい……。それに、フウタから迷いのようなものを感じなくなった】

 なにがあったのか? アヤネに対して感じていたことは『掴みどころのない者』だった。そして、もし風太を殺すとしたらそれはリクの前でだと思っていた。

 だから時間稼ぎになると考えたがのだが、それがどうして、風太は吹っ切れた顔でベヒーモスへ斬りこんでいた。

【(……どういうことだ? あの女は撤退したのか? この短期間であの変わりよう……いや、今はいいか。フウタの調子が上がっているなら倒すチャンスができた)】

 そう胸中で呟きレムニティは地を蹴って再び空に舞い上がった。

◆ ◇ ◆


「つぁぁぁぁ!!」
【ガルァァァァ!!】

 アヤネを退けた僕は急いで王都へ駆け付けた。
 空を飛ぶ、とは少し違うけど風に乗って移動することはできないだろうかと風魔法を展開してその流れに沿って進んで来た。
 結果としてスキップに近い歩法でここまで一気に、文字通り飛んでくることができた。……リクさんの移動方法が少し分かった気がする。
 そのままベヒーモスに接敵して斬りかかったんだけど、不思議と防御魔法陣に防がれることなく尻尾を斬り裂くことができた。
 なにかが変わった感じはしないけど、妙に頭がスッキリしている。さて、レムニティ達と合流して倒しきるかと、周囲に視線を合わせる。

「怯んだ! 魔法を撃てぇぇぇ!!」
【ゴガァ!】
「凄い……!」

 見れば騎士さん達も参戦したようで尻尾に傷をつけて怯んだベヒーモスへ、火や氷の魔法を浴びせていた。
 ヴァッフェ帝国でもここまでの規模は無かったと思うくらいだ。

「……! ビエント、僕を空へ!」
【ガル!】

 僕についてきていたレッサーデビルへお願いをして背中に乗せてもらう。飛び上がって状況を確認すると、四方から騎士さん達が攻めているのが分かる。
 もちろん簡単にダメージを取れているわけではなく、防御魔法陣が浮かび上がりオートガード状態は維持していた。
 だけどよく観察すると威力が大きい攻撃がヒットする瞬間、そちらに魔法陣が集約されていることが分かった。
 
「……なるほど、あの時もレムニティ達との連携でそうじゃないかと思ったけど、やっぱりか。これは数が多ければ多いほどこっちが有利に働くな」
【散れ! 雷撃が来るぞ!】
「「「うおおお!?」」」
【オォォォォン……!!】

 僕が分析をしていたその瞬間、例の角から広範囲に渡って雷撃を繰り出した。頭を振り回しその場で暴れ回るベヒーモス。

「被害が大きくなる……! このまま突っ込んでくれ!」
【ガ!? ……グォォォ!】
「わおーん!!」

 ビエントに指示を出すと一瞬怯んだ。しかし、すぐに叫びながら突っ込んでくれた。狙いは一点。まずはあの角を破壊する!

「うわああああああ!!!!」
【ゴガァァァァァァ!!】
『<エアカーテン>!』

 こっちに気づいたベヒーモスが咆哮を上げてこちらにも雷撃を放つ。だけどウィンディア様の防御魔法がそれを打ち消した。そのままウェンティを振りかぶり角を狙う。

「くううううう……!! 折れろぉぉぉぉ!」
【グァァァァ……!!】

 接触する瞬間、やはり魔法陣に防がれた。バチバチという音と閃光が僕の剣を阻む。だけどこっちは一人じゃない。

「グラッシさん!」
【任されたぞ……!!】
【ガ……!?】

 僕の声に合わせて急降下してきたグラッシさんの斧が僕の剣に……ではなく少しずれたところへ落ちた。そしてその部分が防御魔法で弾かれた。

「レムニティは居るかい!?」
【もちろんだフウタ。……むん!】
「そのまま二人とも力を! 騎士さん達――」

 次にレムニティの名を出すと、下から登場して角ではなく額を狙う。もちろん魔法陣でガードされるがそのままを維持してもらう。そして最後に騎士さん達へ声をかける。
 ベヒーモスがこちらの言葉を認識しているかわからないけど、今から回避はできないはず。

「――ありったけの火力を、脇腹へ集中して放ってください!!」
「「「……!?」」」
「勇者殿のオーダーだ! 皆、アタックだ!!」

 驚いた顔を見せたけどドライゼンさんがそう言ってくれたので、騎士さん達は一斉に右脇腹に攻撃を仕掛けてくれた。流石に何百人といる騎士さん達の攻撃が集中するとベヒーモスと言えど――


【グ……グガァァァァ……!?】

 ――ダメージを受けきれなくなってきた。

「よし、このまま押し切る! 僕の魔力を使って鋭さを……増せ!!」

 単純なことだけど僕はウェンティに魔力を送り込んだことはない。それほど大きな戦いがあったわけではないため試していなかったというのが本音だ。
 だけど、今、アヤネの言う通りやることをやらなければ……リクさんはここにおらず、水樹や夏那を助けにもいかないと……

「いけないんだぁぁぁぁぁ!」
【ガ――】
『これ……は……!?』

 僕の魔力が膨れ上がり刀身が光輝いていく。ベヒーモスの魔法陣は粉々に砕け散り、柔らかい羊羹でも斬るように角がスパッと斬れた。

【やったか……!】
「よし!」
【……む! まて、ベヒーモスが!】
「こいつ、まだ!?」
【ゴガァァァァ!!】

 全身から雷撃と魔法陣が消えてベヒーモス本体へダメージが通るようになった。しかし、それを察したのか、口から泡を吹きながらベヒーモスは加速を始めた。

「城を壊す気か……! 忠実な奴だな!」
「がううう!!」
【グルォァァ!】

 ファングやビエントも攻撃に参加してくれるが止まる気配はない。騎士さん達も止めようとしてくれたが暴走するダンプよりでかいため弾き飛ばされていた。そこでとんでもない光景を目にすることになる。

「きゃああ!?」
「いやあああ!?」
「リースン!?」

 進行方向にリースンと、逃がしている途中の町の人が居たのだ。このままでは突撃に巻き込まれる……!?

「さ せ る か あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
【なんだ!?】
【これは……フウタ、お前は――】

 僕は目いっぱい力を込めて大剣を掲げた。刀身の幅が大きくなり、長さも伸びる。それをベヒーモスの脳天へと突き刺し――


【ギャァァァァァァァァ!?!?】

 頭ごと、地面に縫い付けた。
 一瞬で白目を剥いて絶命したが、力なくともまだ動こうとしていた。

「ダメか……!」
【後は我らが】
【よくやった、フウタ】

 そこでレムニティとグラッシさんの二人がベヒーモスの前足を切り落とし、その場で崩れ落ちる。ギリギリ、リースン達には届かなかった。

「ふう……今度こそ、終わり……かな?」
「わん♪」

 汗をぬぐう僕に、ファングが鳴いて返事をしてくれた。
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