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九章:風太

240.巨獣との戦闘

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「こいつ、速いぞ……!」
【災厄と呼ばれるだけのことはある、ということだ。油断するなよ!】
【行くか】

 動き出したベヒーモスはロクニクス王都に向かって前進を始めているんだけど、これが速い。
 巨体というのもあって鈍重かと思いきや全力のハリソン達より少し遅い程度だと、僕は認識する。

「よし、降下してくれ!」
【グルォ】

 ベヒーモスが眼下に見えたその瞬間、僕はそのままレッサーデビルに指示を出して降下を始めた。
 足は速いけどこの角度なら頭に剣を刺せるかもという算段だ。
 
「グラッシさん、こいつと戦ったことは?」
【こいつは封印されていたんだ、戦ったことは無い。正直、グラジールが目覚めさせるまで伝説は伝説だと思っていたくらいだからな】
「なるほど……」

 そうなるとリクさん以外にこいつのスペックを知っている人は居ないのか……攻撃手段でも分かっていればかなり違うんだけど。
 
【考えても仕方が無い、仕掛けるぞ。吹き荒べ『ブリーズ』】
「ああ!」

 レムニティが言葉を紡ぐと抜いた剣が緑色に輝き出した。そういえば彼もリクさんと戦っていて、僕はグランシア神聖国での戦いしか見ていない。

「それ、レムニティの本当の武器?」
【ああ。我々八将軍はそれぞれ専用の武器を魔王様から与えられている。私はこのブリーズだ。お前のウェンティと同じ風を操ることができる。……こんなふうにな!】

 ベヒーモスへ最初に攻撃を仕掛けたのはレムニティだった。ある程度降下したところで輝きを増した剣を振りかぶり頭部を狙う。
 得体のしれない相手でも頭を潰されれば動けなくなると思っていたので、考えていたことは一緒だったようだ。
 そして眉間に剣が迫った瞬間、ベヒーモスがギロリした目をこちらに向けてきた。

【オォォォン!】

 レムニティの剣が刺さるかと思いきや、ベヒーモスの雄たけびと同時になんらかの魔法陣が浮かび上がった。
 
【チッ】

 魔法陣に剣がヒットすると鈍い金属音が響き渡り、眉間には通らなかった。リクさんの|魔妖精の盾
《シルフィーガード》に似ている。

【通らんか、レムニティ?】
【なかなかに厄介な魔法だな。勇者の魔法のようだ】

 一度、こちらに戻って来たレムニティもそう思ったようだ。もしかしてリクさんの魔法って――

【なら同時に仕掛けるぞ! 破砕せよ『オルソテッラ』!】

 僕が考えていると、魔族の二人が再度アタックを開始した。グラッシさんの武器である斧が、言葉と同時に濃い金色という感じに光り出す。
 レムニティの攻撃は先ほど弾かれたので次はグラッシさんがやるようだ。

【ウォォォォン!】
【防御魔法……だが、俺の一撃ならば!】

 先ほどと同じようにベヒーモスは魔法陣展開してくる。またも防がれるか? そう思っていると、魔法陣に亀裂が入った。

「やった……!」
【まだだ! レムニティ!】
【うむ! フウタ、お前も来い】

 完全に破壊までには至らず、空を飛びながらグラッシさんはレムニティに援護を頼んでいた。迷いなく返事をして突っ込んでいくレムニティは僕を呼ぶ。

「わかった! 頼むぞウェンティ!」
『承知しております』
「ウィンディア様もお願いします!」

 レムニティと僕がひび割れた魔法陣へ追撃を仕掛けると今度こそ砕け散るように割れてフッと消えた。するとベヒーモスは驚いたように目を細めた。

【……!】
【つおぉりゃああ!】
「もらった!」

 グラッシさんの斧が眉間に入り、僕とレムニティの攻撃の通った。
 しかし、つるんとした見た目と違い剛毛だったため皮膚に到達するにはまだ力を加えなければならないようだ。

「硬い……というより、斬撃が吸収されているみたいだ」
【天然の鎧というやつだな。だが、刈り取ってしまえば問題ない。<スカーウインド>】

 頭に乗っかった僕が何度も剣を振るうが、皮膚にまで到達するにはかなり時間がかかりそうだ。そこでレムニティが魔法を放った。直後、ベヒーモスの毛が刈り取られていく。かまいたちのような魔法かな……? 
 魔法が飛んでいるところは歪んで見えるので視認できなくはない。

【グルォォォォォ……!!】
「うわ!?」
【背中に移動しろ】

 すると頭部にいるのを嫌がったベヒーモスは僕達を落とそうと頭を振り回してきた。バランスを崩した僕をレムニティが掴んで背中へと乗っかる。毛に覆われた背中は小さい草原のようだ。
 
【よし、背中に乗ってこのまま倒しきるぞ!】
「はい! っと、また防御魔法か!」
【任せろ!】

 ベヒーモスは走りながら僕達の攻撃に対して防御魔法を展開して来た。だが、グラッシさんの一撃で飛散する。

「さっきよりも脆いね」
【私達が動いているから集中力が薄れているのだろう。チャンスは今だ】
「だね。なら……<ゲイルスラッシャー>!」
【グゴォォォ……!】
【やるな】

 僕の使える一番強い魔法を出すと、分厚い毛が風で斬り裂かれていく。グラッシさんがそれを見てニヤリと笑い、レムニティと共に、思い切り武器を背中に突き立てた。

【……! いったか!】
【そのようだ】

 王都まであと少しというところで僕達の攻撃がついに通り、グラッシさんの斧に血がついていた。レムニティも斬撃を繰り出していき血しぶきがあがる。

「ベヒーモスの足が止まった! このまま攻撃をしていけば――」
「わんわん!!」
「え? ……!? レムニティ、グラッシさん、飛んで!」
【なに……!?】

 僕もベヒーモスの背中に剣を突きたてる。するとそこでレッサーデビルに抱えられたファングが大きな声で吠えた。
 なにごとかと思い頭を上げると足を止めたベヒーモスの角が帯電しているのが見えた。
 咄嗟に二人へ声をかけると、すぐに反応して空に舞い上がる。ただ、僕は飛べないので飛び降りるかを一瞬思案する。

【グオオオ!!】
「お前!? 危ない!」
【グルァァァ! ……グゲ!?】

 僕をここまで運んでくれたあのレッサーデビルが駆けつけてくれ、両脇を抱えてくれた。だけど浮いた瞬間、角に集めた雷がベヒーモスの全身をスパークさせる。
 レッサーデビルは僕を空に放り投げてくれ、レムニティがキャッチしてくれた。だけどレッサーデビルは雷が当たり全身から煙を上げて落下していく。

「うわあ!? た、助けにいかないと!」
【いや、直撃はしなかったようだ】
【グオア……】

 レムニティが冷静に呟く中、落下していくレッサーデビルはサムズアップしながら地面に落ちた。

「頑丈だなあ……」
【だから兵としては優秀だし、この世界の人間は苦戦を強いられるのだ。さて、どう攻めるか】
「ここからが本番、ってところだね……」

 ベヒーモスは足を止めたけど、それは僕達を「敵」と認識したからだ。空に居る僕達を見ながら鼻息を荒くする。
 
「だけど毛を再生する力はないようだ。攻め続ければ勝機はあるよ」
【防御魔法と角の雷撃に注意しながら慎重に攻撃を――】
【ゴガァァァァ!】
【む……!】

 グラッシさんが指針を決めようと話している矢先、ベヒーモスは口から巨大な炎の塊を、僕とレムニティに吐き出した。察したレムニティはすぐに高く飛び上がりそれを回避すると、グラッシさんは目を細めて口を開く。

【……訂正だ。炎をかいくぐり、防御魔法と雷撃に注意だ。俺とレムニティは散開して頭を攻める。フウタは地上から注意を引けるか?】
「そうだね……自由に動けない空中より、それの方がいいかも、足を止めてくれた今なら、ね」
【助かる。一番狙われやすいのが下だ、気をつけろよ】
「ああ」
【グオォォォォ……!!】
【来た……! 散開するぞ!】

 また口から炎を放って来た。今度はレムニティが急降下して地面に向かい、僕を降ろしてから再び飛び上がる。
 上を見上げると、レムニティとグラッシさんがすでに交戦を始めていた。
 
「……下から見ると改めてでかいな。でも死角は多いかな? ……よし!」
 
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