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九章:風太

237.話が早いのは助かるよ

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 ――城門から出たあたりで騒ぎが大きくなり、あちこちで閃光が起こり、爆発音が鳴り響く。それを聞いた僕は本格的に戦闘が始まったと後ろを振り返る。
 
「……始まったみたいだ」
【こちらはこちらの出来ることをやるだけだ、グラッシさえ抑えればこの国は落ち着くだろう】
「そうだね」

 レムニティの言う通りだと僕は気を引き締めて再び前を向くと速度をあげた。
 そしてしばらく城壁の周辺を走って行くと、数体のレッサーデビルと遭遇する。

【グルゥ……】
「やっぱりか……!」
【いい勘だなフウタ。こいつらは任せておけ。……止まれ】
「え?」

 僕が剣を抜いて斬り伏せようとしたところ、レムニティが手を翳しながら任せろと言う。すると次の瞬間、レッサーデビル達がびくんと身体を震わせた。

「わふ」
「動かなくなった……?」
【基本的に上位魔族の命令は無視できないようになっているからな】
「へえ、それって作った魔族が別でも同じなんだ?」
【ああ】
「なら、人間を魔族に変えるのも?」

 僕が恐る恐る尋ねてみるとレムニティは小さく頷いて肯定した。少し捕捉してくれたのだけど、人間を魔族に変化させるのは結構面倒くさいらしい。
 だけど、無機物……例えば石や木といったものから作り出すより人間や魔物、動物を使った方が強いのだとか。

【……特に人間は知性があるから魔法を使えるようになる個体が多い。精神力の高い者なら理性を持った魔族になれることもある】
「そ、そんなこともあるのか……」
【前の世界では魔族になりたいという人間は居たぞ?】
「そうなんだ……」

 理由はあまり聞きたくないところである。裏切られたとか同じ人間に絶望したからといったものだろうしね。
 そして知性のあるレッサーデビルは数体程度しか出来なかったと話してくれた。

「効率は良くないけど、アキラスのように王都を内側から滅ぼすみたいな用途になら役に立つなあ」
【そうだな。暴れてくれるだけでも混乱を起こせる。あんな風にな】
「なに? ……あ!?」

 この王都はヴァッフェ帝国のように背後が崖なっているようなことはなく、周囲は草原と森に囲まれている。
 町へ入るための入口は一つしかないけど周囲はどちらかといえばひらけているので攻撃しようと思えば回り込むことは可能だ。
 
「レムニティみたいな服を着ている奴がいる。あいつがグラッシか」

 レッサーデビルの他にグレーターデビルの姿も見えるあたり、やはり本命のようだ。その中に僕達よりも体躯の大きい褐色肌の魔族の姿もあった。

【ああ。他の人間も馬鹿ではなかろう。こちらに来られる前にケリをつけるぞ】

 レムニティはそう言って前傾姿勢になると風を周囲に纏い、速度を上げる。

「速いよ!? かっこいいけど!?」
【風の大精霊がついているお前ならこれくらいはできると思うがな? 先に行くぞ】

 さらに速度を上げてグラッシへ接敵する。僕もできるって……ウィンディア様に頼むとか?

『やりましょう。世界樹に注ぐ力を少しだけフウタさんに――』
「あれ、ウィンディア様!? ……うわ、体が……ファングおいで!」
「わん!」

 頭の中で久しぶりにウィンディア様の声が聞こえたと思った瞬間、僕の身体が急に軽くなった。ファングが背中に飛び乗ってきたのを確認してから足を踏み出す。
 するとレムニティのように一気に加速した。

「おおお……!? こ、こうか……!」
【やるな】

 彼のように前傾姿勢になると安定して走れるようになった。レムニティに並ぶと口元に笑みを見せていた。
 そして向こうもこちらに気づいたようで、驚きの表情を見せて口を開く。

【……! 人間……! こちらに気づいたか。対応が早いな<鋼鉄の刃スティールブレイド>!】

 判断が早い!
 グラッシと思われる者がすぐに魔法を放ってきた。斧みたいな刃が回転しながら僕達に向かって飛んでくる!

【グラッシ!】
「たあああ!」
【なに……!? 俺の魔法をこうも容易く受け流すだと! それにお前は――】

 
 レムニティが剣を抜いてグラッシに振り下ろすと、武骨な斧でそれを受け止めた。そのままレムニティは小声で話し始める。

【私だ、グラッシ】
【お前……レムニティか!? どうして人間と一緒に居るのだ……!】
【いきなり斬りかかって悪かった。まずは手を止めさせるのが先だったからな。……話を聞いてくれ。とても、重要な話だ――】

 そしてレムニティは力を緩めてから剣を降ろすと、グラッシは訳が分からないと言った感じで斧を下げた。
 これまでの経緯を告げると、グラッシは目を閉じて聞き、やがて口を開く。

【魔王様……それに勇者とは……話では聞いていたが直に目にするのは初めてだな】
「まあ、セイヴァーさんと戦ったのは僕じゃありませんけどね。というわけで、本当に倒さなければならないのは渡り歩く者。人間を攻撃するのは辞めてもらえませんか?」
【そうだな。レムニティは本物だし、嘘をついているとは思えん。魔王様の命令で攻撃していたが、その言葉が虚構であったなら従う理由もあるまい】
【うむ。それで我々はこのまま魔王様やフウタの仲間を探しに行こうと考えている。一緒に来てくれ】

 レムニティはハッキリとそう言う。来ないか、ではなく来てくれときちんと言えるのは優柔不断な僕には凄いと感じるよ。

「それなら話が早い。レッサーデビル達を下がらせてもらえるかい?」
【ふむ、こいつらは消せないからなあ……倒すかフウタとやら?】
【グルゥ……!?】
「いや、それはなんか可哀想かな。敵対しているならともかく、何もしていないのに倒すのはちょっと……」
【なんと、優しいことを言う男だ。よく今まで生きてこられたな? レッサーデビル達はいつでも作れるから構わんのに】
【グルル……】
「うわあ!? 僕の後ろに隠れないでよ……」

 何故かレッサーデビル達……三体が僕の後ろに来ていた。意外と感情はあるんじゃないのかこれ? さてどうしようかと思っていると、背後から声がかかる。

「う、うわ!? フウタ、危ない!」
【グエ!?】
「え!? あ!? リースン!?」

 声をかけてきたのはまさかのリースンだった!? 帰れって言ったのについてきてたのか!

「大丈夫!? ……ていうか目の前に居る奴って……将軍、じゃないの?」

 どうする……このままどこかへ行こうと思ったけどこれじゃまずいな……いや、リクさんなら――

「……ストップだ、リースン! この将軍は降参したんだ。今、ちょうど説得を終えたところさ」
「そう! 説得をしたのね! ……説得!? いやいやいや、なんでフウタが説得できるのよ!?」
「それは――」
【……この者達が俺より強いからだ。この国を攻撃する意味も無くなった】
「そんなことを言われても……」
【証拠が欲しいか? ならばこれでどうだ?】

 グラッシは空に向かってなにかを放つ。
 それが空で爆散すると、レッサーデビルやグレーターデビル達がこちらに集まって来た。

【攻撃は中止。これでいいだろうか?】
「え、ええっと……ちょっとなにがなんだか……魔族の将軍を倒したってことでいいのかしら……」
【それでいいぞ】
「軽いわね!? ま、待ってて! ドライゼンや騎士団長を連れてくる! あ、お父様も呼ばないと!」
「そうしてくれると助かるよ」

 リースンはそう言ってこの場から駆けて行く。僕はその姿を見送った後、二人に向き直る。

「さて、それじゃ行こうか。まずはグランシア神聖国だ」
【む? あの娘を待たなくていいのか? 俺はこの国の王にも挨拶をしておきたいが】
「変なところで律儀だ!? グラジールとアキラスはとんでもない奴等だったのに……いや、メルルーサさんが理解ある魔族だったしそうでもないのかな……」
【約束を破るとは、やるじゃないかフウタ】
「面倒ごとはごめんだってことだよ。説明したら混乱するだろう?」

 僕は二人のことを考えて言ったのだけど、レムニティは首を振って僕へ言う。

【……この件は私達だけの問題では済まない可能性が高い。聖女の知り合いであること、それとお前が勇者であること。これを伝えておいた方が後に有利になるだろう】
「ふむ……魔族と通じていると思われないかな?」
【そこはお前の手腕の見せ所だろう?】
「本音は?」
【……ファングにいい飯を食わせてやれるかもしれんだろう?】

 呆れた奴だった。
 まあ、でも勇者として話を進めるとグラッシに会うのは難しかったかもしれないし終わった今となっては構わないか。

【ガルゥ】
【グルル】
「……こいつらをどうしようかなあ」

 問題は多いけど、やるしかないか。
 リクさんはこんなことをしていたんだろうなあ……
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