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九章:風太

236.必ずみんなと再会するために

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「わんわん」
「ふあ……おはようファング……」

 そろそろ起きてご飯ちょうだいと言った感じで僕のお腹に乗ってファングがふんふんと鼻を鳴らしていた。少し重みを感じながらファングの背中を撫でつつ上半身を起こした。

【起きたか】
「ああ、レムニティおはよう。よっと……」
「わふ」

 窓際で椅子に座っていたレムニティが僕に気づいて声をかけてきた。ファングを抱っこしてベッドから降りると、彼にファングを渡して顔を洗いに共用の洗面所へ向かう。

 さて、フラッド様と顔合わせをしてから三日ほど経過した。だけど、今のところ生活に変化はなく、穏やかに時間が過ぎていた。魔族が来ることも無く、食っちゃ寝ばかりだ。
 まだ三日……されど三日という感じで、早く出てこないかと気持ちだけがはやる。

 なぜかというと何度かスマホで電話をかけてみたけど、今度は水樹にも繋がらなかったからだ。他のみんなは何をしているのか……早く探しに行きたいんだよね……
 どこに飛ばされたかわからないけど、生きていればグランシア神聖国へ行くと思うのでここの件が片付いたらメイディ様のところへ向かうつもりだ。

「ところでリースンは?」
【今日はまだ見ていないな】
「オッケー、見つからないように朝食へ行こうか」
「わんわん♪」
【あの王はダメだな】
「はは……」

 レムニティがファングを抱いたまま立ち上がりそんなことを口にし、僕は苦笑するしかなかった。
 彼女はまだフラッド様から求愛を受けていないらしく、連日姿を現していたからだ。
 まあ、適当に相手をして帰ってもらっているし、アーデンさんが迎えに来るのでそこまで煩わしくない。けど、何かあった時に糾弾されるのは困るんだよなあ。

「早く出てこないかな……」
【私としても早く出てきて欲しいものだ。奴と戦うには必要だ】
「……」

 宿に出てモーニング的なものを食べられるお店へ向かいながら、僕は素直な気持ちを吐露する。レムニティも同じくグラッシが出てきて欲しいと呟いた。
 そしてとは渡り歩く者のことだろう。全員が一緒に、それこそリクさんと魔王が一緒でも倒せるか少し怪しいほどに能力が高いと感じる。

「そういえば……」
【どうした?】
「あいつって――」
「あ、見つけた!」
「げっ!?」

 宿を出て歩きながら話し僕がふと気になったことを口にしようとした時、聞きなれてしまった声を耳にした。
 振り返るとそこには仏頂面のリースンが立っていた。

「『げっ』ってなによ! 折角会いに来たのに嬉しくないの?」
「まあ……」
「嘘でしょ!? 結構、容姿には自信があるし、近所でも可愛いいって評判なんだけど!」

 どこの近所だろう……
 宰相の娘なら基本的に城の人間になると思うんだけど。リースンが可愛く無いとは言わないけど、もし城の人に言われているなら忖度されている可能性は高い。
 それはともかく、僕はリースンに話しかける。

「それより、こんな朝早くからどうしたんだい?」
「むう。なんか引っかかるけど、まあいいわ。というかこの町に着いてからフウタと全然会わないから探していたのよ! なんかあった?」
【特に無い。なあファング】
「わふん」
「なんでファングに聞くのよ……」

 レムニティがファングの顔を自分の目の前にもっていきそんなことを言う。返事がてら鼻の頭を舐められていた。

「まあ、宰相の娘さんと一緒っていうのも恐れ多いしね。なにか用事があるのかい?」
「うん! お父様に紹介しようと思って!」
「ぶっ!?」
「きゃあ!?」

 いきなりなにを言い出すんだこの子は……僕はため息をつきながら頭を振って返す。

「だから一介の冒険者である僕が宰相に会うのはおかしいんだって……」
「でも、私が連れて来たし……」
「僕は魔族と戦うために来た。君のお父さんと会うためじゃないからね? 用事がそれだけなら行くよ」
「あ、待ってよ!」

 僕はレムニティに視線で移動するよう示唆した。小さく頷いて彼がついてくる。リースンも同じくついてきて、僕の隣に並んだ。

「コネはあった方がいいと思うけど? ……それに私と付き合ったり、とか?」
「うーん、僕は好きな人が居るし仲間を探す旅をしないといけないから、悪いけど辞退させてもらうよ」
「えー」
「今の気持ちは一時的なものだよ。きっといい人が見つかるって」
「お見合いはしたくないんだけど……お父様もフウタなら気に入ると思うのよね。真面目だし」

 理解はしたけど納得はしていない感じかな。だけど、言い続けていればその内諦めてくれるだろう。
 実際、嘘は言ってないしね。

 するとそこでけたたましい鐘の音が鳴り響いた。

「なんだ……!?」
「嘘、魔族が来たの!? この時間に!?」
【……ふむ】

 どうやら僕達の目当てがやってきたらしい。早朝の緩やかなタイミングを狙ってくるとはなかなか嫌らしいことをする。そしてリースンの口ぶりからすると早朝に来襲してきたことはないようだ。

「迎撃だ! 王都内に入れさせるな!」
「「「おおおお!!」」」
「やっと来たか、ボーナスだな!」

 そこで僕達の前を冒険者達が駆け抜けていく。馬に乗った者や走っている人など様々だ。しかしみんなの向かう先は城門の方だった。

「私達も行くわよ!」
「リースンは城へ戻るんだ。ドライゼンさんやアーデンさんが居ないと危ないだろ?」
「……! 私を心配してくれるのね!」
「そうだけどそうじゃないよ!? とにかく、宰相の娘だし、君はあまり強くないんだから無茶はしないでよ! レムニティ、走るよ!」
【承知した】
「わんわん!」

 言うが早いか、僕とレムニティは一気に駆け出す。グラッシが居るかまだ分からないけど、これはチャンス。もし引き上げるならその後を追えばいい。

「待って、一緒に……って速すぎない!?」

 後方でリースンの声が聞こえるけど、すぐに遠くなっていく。これでグラッシを見つけて説得できればもう会うこともないはずだ。

「頼んだぞ!」
「はい!」

 門番さんに声をかけられ、頷きながら外へと躍り出る。その時、空と地上でいくつかの閃光が奔った。

「もう戦闘が始まっている……レムニティの時と違い、随分と近いな」
【グラッシは頭がいい。早朝の襲撃は狙ってやっていると考えていい】
「なるほど……」

 確認できていないけど、同じような時間帯で続けて襲撃をかけてきていた可能性がある。そして慣れたところで時間を変えて襲撃というところまでは考えた。

「そうすると、正攻法で来ないかもしれないな。みんなと違う場所へ行ってみよう!」
【承知した】

 ハズレても移動すればいいだけだし、最悪森に紛れてレムニティに行ってもらうこともできる。

 そして――
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