上 下
123 / 135
九章:風太

234.拗らせた王様は手に負えないよ

しおりを挟む
「わふーん!」
「ご機嫌だねファング」
【ブラッシングをしてやったからな】

 翌朝、僕達は朝食を終えた後、町を散策することにした。
 特に待機するというわけでもなく町から出さえしなければ問題ないと言われているしね。
 みんなに可愛がられ、レムニティに構われた上に美味しい朝食を食べた、足取りの軽いファングについていきながら周囲を観察する。 
 
「さすがにヴァッフェ帝国ほど防衛が硬い感じはしないなあ」
【あそこは戦闘国家というやつだな。私も一気に陥落できないほどには苦労していた】
「そういえば攻めてたっけ」

 自然と横を歩いているのでそんな気がしなくなってくるけど、魔族の将軍だったなと思い返す。
 さて、昨日は二人と一匹になりようやく一息ついて宿で話し合いをすることができた。
 肝になる部分はやっぱり次をどうするかだった。

 ここでまずグラッシを止めた後、どこへ行くか? そこが問題だ。
 今のところ水樹の声だけは聞けたけど、スマホを鳴らしても出てくれなかった。リクさん、夏那は言わずもがな。
 せめて水樹の場所が分かれば合流するんだけどなあ。

【……やはりエルフに助けを求めるか、グランシア神聖国だろうな】

 で、レムニティはそう言っていた。
 ヴァッフェ帝国を攻めていたので気まずいのかと思ったけど、下手に告げると渡り歩く者の下へ行ってしまう可能性が高いとのこと。
 聖木もあるし船が作れるから確かにと納得のいく意見だった。結局、元凶になる存在はあの島に居るから倒そうとするのはあり得る。
 エルフなら僕も覚えがあるし、メイディ様なら親身になってくれるという算段がある。

「……リクさんと夏那もだけど、他のみんなも無事だといいけど」
魔族私達は人間よりも強固だから心配は要らないだろう。魔……我が主様も顕現された。ただ、一般の者は戦える者が少ないからそこは気にかかるがな】
「ああ、レスバがおばあちゃんが居るって言ってたっけ。本当なんだなあ」

 魔王と言いかけて変えるレムニティ。こういう機転は賢いなと感じる。そしてレスバのおばあちゃんは存在するのだそうだ。

【まあ、あいつは珍しく一般の中で強かったから幹部に抜擢された者だ。前の世界では我々の住む土地はそれほど裕福ではなかったので食料のため参加していた】
「え、そういう感じだったのか!?」

 なるほど……魔族が人間の土地を欲したから攻めたという理由があったのか。困っていたセイヴァーが渡り歩く者に唆された形なのかな?

「わふ? わんわん」

 そんな話を小声でしながら歩いていると、ファングがなにかに気づき声を上げた。ふと前を見ると、アーデンさんとドライゼンさんの姿があった。

「よ、お二人さん」
「ファング、おはよう」

 目標は僕達だったようで目が合うと挨拶をしながら近づいてきた。昨日までお世話になった人達なので、僕はもちろん頭を下げて挨拶を返す。

「おはようございます、ドライゼンさん、アーデンさん。色々とお世話していただきありがとうございます」
「ははは、どういたしまして! というより、殆どリースンがやったことだけどな」
【確かにな。だが、おかげでゆっくり休むことが出来た】
「よかった。ファングも元気」
「おふ♪」

 腰をかがめて大きく尻尾を振っているファングの頭をアーデンさんが撫でていた。微笑ましい光景だ。
 するとそこでドライゼンさんが周囲を気にしながら口を開く。

「……とりあえず場所を変えて話がしたい。いいか?」
「え? 構わないですけどなにかありました?」
「ここじゃちょっと。行こう」
「僕達の宿に来ますか?」

 アーデンさんも緊張な面持ちで言うので部屋の方がいいかと提案するも、二人は同時に首を振って答えた。

「いや、そこはまずい。すでに張られている可能性がある」
【どういうことだ?】
「ひとまず馬車を用意しているから乗ってくれ」
「え、ええ……」

 よく分からないけど緊迫した状況のようだ。まさか集めた冒険者が狙われていたり、とか? 魔族が町に入る事例はすでに経験済みなのでここは言うことを聞いておこう。
 ファングを抱っこして二人についていき、窓付きの椅子がついた馬車に乗るとほどなくして出発した。

「一体なにが……あ、リースン――」
「伏せろ……!」
「うわ!?」
「わふ!?」
【なんだ……!?】

 少し移動したところでリースンが見えたので声をかけようとしたらドライゼンさんに頭を下げさせられた。
 レムニティも無理やり下げさせられ腰から嫌な音が聞こえていた。

「……大丈夫、やり過ごした」
「いてて……なんなんですか……」
「くぅん……」
【むう……】
「すまない、すぐに到着する」

 ドライゼンさんが本気で謝って来たので仕方ないなと肩を竦める。リースンには知られたくない理由……はさすがにわからないな。
 そのまま無言で馬車に乗っていると、窓の外にちょっと信じられない光景が見えてきた。

「ん!? ちょっと待ってドライゼンさん! お城が見えるんですけど!」
「あ、ああ……そう、みたいだな」
「紛れもなく城」

 ドライゼンさんは焦り、なぜかドヤ顔で頷くアーデンさん。城に何の用だろう。昨日の話では遊撃に回ればいいというだけだったので城に行く必要は無かったと思う。
 そんなことを考えつつ流れに身を任せていると、普通に城内へ通され謁見の間へ……は行かずに普通の部屋に案内された。

「えっと、お連れしました」
「む、入ってくれ」
「失礼します」

 ドライゼンさんが部屋の扉に声をかけると、中から若い男性の声が返って来た。アーデンさんが続けて扉を開けると、そこに男の僕でもカッコイイと思える人が窓際に立ってこちらを見ていた。
 彼は僕達に近づきながら視線をドライゼンさんに向けて口を開く。

「どっちかな?」
「こちらのフウタ殿です」
「ふむ、確かに悪くない顔立ちだ。立ち話もなんだし座ってくれ」
「あ、はい……」

 品定めをするように僕を見る視線はちょっと感じ悪いなって思う。一体ここでなんの話をするのだろうか?
 備え付けのテーブルに
「さて、まずはここに来てくれてありがとう。私の名はフラッド。フラッド・ロクニクスという。よろしく頼む」
「あ、僕は風太で、こっちはレムニティ。この狼の子がファングです」
【待て、今あなたはなんと言った? ロクニクスだと?】
「あー……態度は……って言ってもこっちが悪いし、いいですよね陛下」
「陛下!?」

 レムニティが目を細めて発した言葉にドライゼンさんが冷や汗をかきながら目の前に居る男性、フラッドを「陛下」と口にする。僕はそれに驚き、目を見開いた。

「うむ、その通りだ」
「涼しい顔で言っていますけど、なんで一介の冒険者である僕達と話をしようとしたんですか……?」
【理由を聞かせてもらおう。私達もそれほど暇ではないので手短に頼む】
「あ、ああ」

 レムニティが陛下という単語に怯むことなく淡々と告げる。するとフラッド様は答えてくれた。

「……リースンのことだ。私は彼女を妻に迎えるつもりでいた――」
「あ、そうなんですね! おめでとうございます」
「――いたのだが、昨日戻ってきてから話をするとフウタ、お前を婿にすると言い出した」
「へえ僕を婿に……って、ええええええ!?」

 フラッド様がジロリと、僕を見る目が厳しくなった。その様子に慌てた僕はしどろもどろに返答をする。

「いやいや、彼女とは出会って数日だしそんな様子もありませんでしたよ!? 初耳もいいところです! なあファング!」
「わふ?」
「ああ、違った!? レムニティ!」
【そうだな。フラッド殿、それはリースンの妄想かなにかだ】
「彼女を貶すんじゃない……!」

 ドンとテーブルを叩いてフラッド様は不満を露わにしていた。そこでアーデンさんが助け船を出してくれる。

「だから言ったじゃないですか。フウタさんはなにも知らないと。リースンが勝手に惚れて適当を言っただけです」
「む、むう……」
「これで気は済みましたか?」

 昨日、どうやらドライゼンさん達とそういう問答があったようだ。少し落ち着いてきたので、僕は咳ばらいをしては話を続ける。

「コホン! それに僕は、その、好きな人が居るのでリースンは眼中にありません」
「リースンが可愛くないとでも言いたいのか!?」
「そうじゃありませんよ!?」

 面倒な人だなあ……リクさんならどう返すだろうか?

「ハッキリと告げます。僕は好きな人が居るのでリースンとはなにもありません。こちらから近づくことも無いのでご安心ください。気になるなら、僕に近づけないようにしてもらえると助かります」
【よく言ったぞフウタ】
「お前は僕のなんなんだよ……話はそれだけですか? なら帰らせてもらいますけど」
「う、むう……よく吠えたな……確かにそれなら私が心配することもないか。しかし二人旅のようだが、故郷にでも置いてきているのかな?」

 ようやく冷静になったらしいフラッド様がそう言うと、

【そういえばミズキとカナとはそういう仲では無かったが誰だ? レスバか?】
「一番遠い名前が出たなあ。レムニティと会う前に立ち寄ったエラトリア王国の騎士だよ。フレーヤさんって言うんだ」
「エラトリアとはまた遠いところの国の名が出たな。そこから旅をしてきたのか。どうしてまた」

 おっと、変な方向に話がいきそうになってきた。エラトリア王国の名前は余計だったかな? でも具体的なキーワードが出ている方が信じてもらえるだろうし、なにより嘘じゃない。

「まあ、僕はさっきも言った通り一介の冒険者ですからね。武勲でもあげて騎士と釣り合う男になろうかと……」
「お、かっこいいなフウタ殿」
「はは……えっと、お話がこれだけならこれで失礼させていただきたいのですが……」
【ファングの散歩の途中だったからな】

 それはどうでもいいんだけどね。ちょっと構い過ぎじゃないかな? そんなことを考えていると、フラッド様が口を開く。

「そうだね、呼び立ててすまなかった。リースンには改めてきちんと想いを伝えることにするよ。そこまでハッキリ、好きな人が居ると宣言する君に敬意を表して」
「いやあ、そんな……」
「ただ、もう少しだけ話がしたい」
「え、まだなにか?」

 僕が尋ねると、フラッド様は僕の腰にある剣に視線を合わせて来た。

「……アーデンから聞いたけど、君の剣、随分と特殊なものみたいだ。一つ見せてもらえないかな、と」
「!」

 ここまでの旅路では抜いていない。けど、その特殊性をアーデンさんは見抜いたらしい。
 さて、どうするかな? 
しおりを挟む
感想 627

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

決着は来世でつけると約束した勇者と魔王はお隣さんで幼馴染になる

八神 凪
ファンタジー
人間と多数の異種族が暮らす世界・ワルレーズ そこでは人間と魔族の種族が争っていた。 二つの種族の戦いは数十年続き、どちらが始めたのか分からないほどの年月が経っていた。 お互い拮抗状態を極めていたが、その様子を見かねた女神が人間に勇者と呼ばれる人物を選出したことで終焉を迎えることになる。 勇者レオンと魔王アルケインは一昼夜、熾烈な戦いを繰り広げた後、相打ちとなった。 「「決着は来世でつける……女神よ願いを叶えろ……!」」 相手を認めているがゆえに相打ちという納得のいかない結末に二人は女神に来世で決着の機会を願い、倒れた。 そして時は流れて現在―― 二組の家族が危機に陥ったところから物語は始まる。

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。