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4巻
4-3
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その後、俺達は町へ出て、一番賑わっていた酒場で、遅い夕飯を食べる。
かなりの喧騒で、こっそりリーチェが出ていても分からないだろう。
入店した俺達を、店員が元気に迎え入れる。
「いらっしゃいませー!」
「あ、えっと……四人ですけど、空いていますか? できれば隅のほうがいいんですけど」
「四名様、大丈夫ですよ! あちらの角の席をお使いください~」
水樹ちゃんがおずおずと従業員に声をかけると、店員はサッとどこに行けばいいか案内してくれた。
俺達はすぐに移動し、料理と飲み物をいくつか注文する。
「賑わっていますね」
「このあたりは魔族の攻撃が少ないのかしら?」
風太と夏那の感想に、俺は首を横に振って答える。
「いや、どうだろうな。魔族か魔物か、どちらに対応するためか分からないが、冒険者っぽい人間が多い」
「……確かに」
俺がいくつかの集団に視線を向けると、水樹ちゃんは理解したようだ。テーブルの近くに武器を置いている奴らが多い。
「この国でも魔族の襲撃があるとして、どんな将軍か気になるわね」
『まあ、今回はエルフの森だし、そうそう出くわさないでしょ。あ、来た来た♪』
夏那が魔族の将軍を気にしていたが、リーチェは出会わないだろうと口にする。
向こうの世界での将軍の仕事は人間の国を攻めることだった。だから引きこもっているエルフに用があるとは思えない。先に人間を倒せばいいと考えるだろう。
「ほら、とりあえず飯だ! 明日からエルフの森に行くからまた忙しくなるぞ」
「あら、あなた達も? 最近、エルフの森に行く人が多いわね」
料理を運んできたウェイトレスが俺達の会話を聞いていたようで、テーブルに料理を置きながらそんなことを言う。
そこで俺はウェイトレスに聞き返す。
「ん? そうなのか?」
「ええ、つい先日も、エルフの森に何度も出かけては帰ってくる冒険者が居たのよ」
「依頼、とかですかね? 魔物が多いとか」
水樹ちゃんが唇に手を当てて首を傾げると、ウェイトレスが答える。
「魔物はエルフが狩っているみたいだから、それほど出ないんだよね。ただ、珍しい薬草とかキノコがあるからそれを採りに行っているのかも? それじゃごゆっくり~」
風太にウインクをしながらウェイトレスは去っていった。
「あたし達だけじゃないのね」
夏那の呟きに、風太が答える。
「そりゃ他の人も居るよ。でも、冒険者同士なら出会っても問題ないと思うよ」
「風太の言う通りだ。後をつけてくるような奴だけ気をつけておけばいい」
冒険者は採取に狩りとやることは存外多い。そういう商売だから森に出向いてもおかしくないため、会っても波風を立てなければいいだけだ。
『ふふふ、明日はわたしが大活躍ね! もぐもぐ……』
「あ⁉ あたしの骨つき肉! リーチェ!」
「また頼めばいいだろ? ひとまず乾杯だ!」
長旅を終えたが間髪を容れずに次の目的地に向かうということで、美味い物を食い、明日に備えてゆっくりと寝ることにした。
実は温泉がある町だということが分かり、風呂に浸かった夏那と水樹ちゃんはご機嫌だった。
そして翌日、十分な休息を取った俺達はエルフの森へと向かう。
町を出て数時間ほど経過した頃、いよいよ森が見えてきた。
「よーし! なんかでっかい森が見えてきたわね! ハリソン、ソアラ、もう少し頑張ってね」
「凄い、木ってあんなに高く成長するものだっけ」
夏那が荷台から馬達を励まし、御者台の水樹ちゃんは遠くからでも分かる木の大きさに感嘆していた。
「地図だとここら辺なのか……地図で見るより現物のほうがちょっと大きい気がします……」
森というより、もはや樹海と呼んでも構わないほどの光景が目の前にあった。
「人間より少ないとはいえ、エルフもそれなりの数は居る。この森はエルフの国と言っても差し支えないと思うぞ?」
「そう言われると納得ですね」
俺の言葉に、水樹ちゃんが森を見て微笑みながらそう言った。
「向こうの世界だと、森にいくつか集落を作って縄張りを決めていた。木を伐採されすぎないように監視をするといった仕事なんかもやっていたぞ」
「外の世界にはあまり出ないんですか?」
風太が地図を片手に質問を投げかけてきた。
「人間と関わりたくないって奴が多かったし、森から出なくても暮らしていけるからな。若い連中が出ていくことはあったけど」
こっちの世界でもギルドで数人エルフを見ているから気にしない奴も居るとは思う。
「じゃあ人里に来ないエルフは、自給自足で生活しているってこと?」
「ああ。森の中だけで完結させているぞ」
あいつらは自然と人が共存して暮らすことを主としているから、必要以上に獲物を狩ったり木を切ったりはしない。
長寿の秘密を知ろうとする奴や、聖木を手に入れようとして襲いかかるといった欲深い人間とは関わり合いになりたくないと、俺の知るエルフは引きこもっていた。
「言葉が通じるなら、そこまで確執ができるとは思えないんですけどね……」
「だが、魔族と戦う協力体制があったにもかかわらず、袂を分かっている。みんなが真面目にやっている中、悪さをする奴が出て、人間不信になったのかもな」
実際、一番厄介なのは人間なのかもしれないと、俺は前の世界から思っている。
風太達を元の世界へ戻したいと声を大きくしていたのは、異世界の人間はタチが悪いというのを知っているからである。
誘拐、強盗……地球でもあることだが、異世界は特に頻度が高い。
そんな奴らに関わりたくないというのは自然なことである。
……だが、水樹ちゃんみたいに異世界に残りたいというのであれば、それを止める権利はない。
どっちの世界が幸せかなんて、本人にしか分からないのだから。
そんなことを考えながら後ろの荷台で御者台に座る三人の様子を見ていると、ほどなくして森の入り口へと到着した。
「……これは……」
「凄いな、まだ昼前なのに森の中は薄暗い……」
「なんだか吸い込まれそうですね」
森の前で馬車を止めた夏那、風太、水樹ちゃんが喉を鳴らす。
街道を外れてだだっ広い草原を走ってきたので、特にでかく見える気がする。
「さて、と。ここからはお前の出番だ。頼むぞ、リーチェ」
『ふっふっふ……ついにこのわたしが大活躍する時が来たわね! ハリソン、頭に乗せてもらうわね』
「飛んでいけばいいのに」
夏那が呆れたように口を開くとハリソンが『お構いなく』といった感じで一声鳴いた。
そこへリーチェが振り返って、指を振りながら得意げに返す。
『甘いわねカナ。森の声を聞くには集中力が必要なの。だから飛ばずにこうやって意識を集中するのよ』
生意気なことを言うリーチェに、水樹ちゃんが微笑みかけた。
「ふふ、ならお願いね、リーチェちゃん」
『まっかせなさーい♪ さあ行くわよ、ハリソン!』
「大丈夫ですかね……?」
いつも以上に元気なリーチェに対し、風太が不安そうに眺める。
「まあ、俺の分身だから、能力に関しては心配してないんだが……」
「だが?」
言い淀む俺に、夏那が聞いている。
「世界が違うから、そこはどうなのかと思ってな。ま、とりあえず行ってみないことには分からん、先を急ごう」
「まったく、張り切りすぎて失敗しないでよ?」
調子に乗っているリーチェを見て、夏那が口を尖らせていた。
風太がまあまあと彼女を宥めていると、水樹ちゃんが馬車を進ませて森の中へと入っていく。
「わ……」
水樹ちゃんが思わず小さく声を漏らす。
無理もない、陽光が木々に遮られて、一瞬であたりが暗くなったからだ。
これだけ暗いと時間の感覚がおかしくなる。たまにスマホを見て、時間を確認しないとな。
体内時計もあるが、戦闘になって緊張状態が続くと崩れるんだよな。
俺も経験があるけど、一人でこういう暗い森に入ると、おおむね迷ったり疲労の蓄積が酷くなったりする。
まあ、四人居れば、薄暗い嫌な雰囲気もそれほど気にならないだろう。
『むむむ……』
ひとまずリーチェに目を向けると、胡坐をかいてなにやら唸っていた。
「どう、リーチェちゃん?」
『シッ……今、風の精霊の声を探しているから、話しかけないで……』
「あ、ごめんね」
前を向いたままのリーチェが水樹ちゃんにそう言う。そして自身はまた黙って耳を傾ける。
「前の世界では、どう活躍してたんですか?」
「いい質問だ、風太。あいつの精霊の声を聞く力は、発動すればかなり便利だ。魔物の位置を教えてくれたり、川の方角を教えてくれたりするんだ」
風太が小声で尋ねてきたので、俺もならって質問に答えた。
そこで夏那もひょっこりと顔を近づけてきて言う。
「ならレムニティの時も聞いたらよかったんじゃない?」
「と、思うだろ? だけどこれが意外と難しいみたいでな。見ての通り、かなり集中しないとダメだ。戦闘中なんかとてもじゃないが待っていられない」
「あー」
夏那は納得したような声を上げる。
しかし、ここではリーチェを頼る以外に方法はないので、あいつのやりたいようにやらせるべきだと三人に告げた。
そのままゆっくりと木々の間を抜けながら馬車を進めていると、しばらくしてからリーチェが立ち上がった。
『……! 居た! ねえ、わたし達エルフの集落に聖木を貰いに来たの。そこまで連れて行ってくれない?』
「お」
「見つけたみたいですね」
「なんか一人芝居をやってるみたいで可愛いわね」
リーチェがとある場所に顔を向けて喋り出したので、俺達は馬車を止めて交渉を見守ることにする。
『え? 人間が居るから無理? そこをなんとか……! 大丈夫、この人達勇者だから! あ、ちょ、待ちなさいよ! 嘘じゃないって……ええい、ミズキ、追うわよ!!』
突然話しかけられた水樹ちゃんが、驚いて聞き返す。
「ええ⁉ どうしたの?」
『今話していた精霊はこの森に住む精霊だから、エルフの味方なの。人間には会わせたくないって』
「こ、こっち?」
『そう! ハリソン、ソアラ! ゴーゴーゴー! わたしに姿を見られて、逃げられると思うなよー!』
リーチェが犯人を追う刑事みたいなことを言いながら、ハリソンの頭をぺちぺちと叩く。
すると二頭は『了解しました』という感じで鳴き、リーチェの指さすほうへと早足で移動を始めた。
「馬車で森の移動は結構きついですね……!」
「入り口に置いてきてもよかったが、見張りが居ないと魔物にやられる可能性が高いからな。それに万が一迷った時に寝床として使える……っと、お客さんか」
『魔物!』
ハリソン達の正面、数十メートル先に、前歯が長く体の大きさも風太の胴体ほどあるウサギ型の魔物が五匹、姿を現した。俺達はともかくハリソン達が危ない。
「倒すしかないわね!」
「うん。夏那は水樹と御者を交代して、水樹は矢で応戦して。避けた個体は僕とリクさんが魔法で倒そう!」
風太が即座に判断して俺達に指示を出してきた。悪くない作戦だと俺は頷く。
「分かった! 夏那ちゃんお願いね」
「オッケー、任せたわよ。……リク、捕まえたら血抜きの練習でもしておく?」
「時間があればな。行くぞ。リーチェは見失わないよう頼む」
『うん! ……それにしても森が静かすぎるような気がするけど――』
リーチェが眉を顰めるが、今は目の前の敵を倒すことが先決だと、俺は迎え撃つ準備を始める。
◆ ◇ ◆
――エルフの森 入り口付近――
リク達が戦いを始めたその時、木の上からその様子を見ている、フードを被った人影があった。
「……人間か。いったい、なんの用だ? 別の場所にも人間が入り込んだようだし、長老に報告する必要があるか――」
そう呟いたフードの人影はその場を立ち去ると、そのまま村の入り口である門へと辿り着いた。
門の前には男が立っており、彼がフードの男へ話しかける。
「どうした?」
「長老と話をしたい」
門を守っていた男の耳は長く、声をかけられた人物もフードを取ると耳が長かった。
ここはリク達が目指すエルフの集落で、二人はエルフだった。
そして門をくぐったフードを被っていたエルフの男は一番大きな家へと向かう。
リク達を観察していたフードのエルフは、報告を行うために集落へ戻ったのだ。
そして一番大きな家では、十人ほどのエルフが集まり会議をしていた。
「――人間か……」
「ええ、南西に男女が居て、北西には馬車に乗った四人組でした。こちらに入り込もうとしているようですね」
「男女のペアはともかく、馬車に乗った四人組のほうが気になりますな。精霊を追っていたのだろう?」
「そうだな。精霊は人間に見えないはずだが、どうしてどこに居るのか分かっていたのだろう?」
フェリスのこともあり、エルフ達は人間がエルフの集落へ侵入しようとしていることは知っていた。
そのため、集められたエルフ達は動揺することなく冷静に話をしていた。
しかしフェリスとは違った勢力であるリク達が、明らかに精霊を追っていたのは不可解だと、口々に言う。
エルフ達がそれぞれ、憶測や迎え撃とうというようなことを口にし、ヒートアップし始める。
そこで一番奥に座る年老いたエルフが片手を上げて制する。
「……落ち着け。四人組は『聖木を欲している』と言っていたのだな? ふむ……ひとまず様子見といこう」
若いエルフがおずおずと尋ねる。
「グェニラ様、よろしいのですか?」
グェニラと呼ばれた年老いたエルフが、落ち着いた口調で答える。
「聖木の存在をどこで知ったのか気になるが、こちらから積極的に関わる必要はあるまい」
「それは……そうですね」
尋ねたエルフがグェニラの言葉に頷いた。
「精霊様が迷わせてくれるだろうが……念のためロディは数人、若いのを連れて警戒にあたれ。こちらから姿を見せてはならんぞ」
グェニラがフードを被っていたエルフ、ロディに指示を出すと彼は頭を軽く下げてから口を開く。
「承知しました、長老。しかし、あの中に少し気配が違う人間が居たのが気になるのです」
「ほう」
「弓を使っていた女でしたが、他の三人より、神聖なオーラが少し……」
ロディが水樹のことについてそう伝えると、横から別のエルフがからかうように口を開く。
「おいおい、人間の女に恋でもしたってか? やめとけやめとけ、どうせ先に死んじまうんだぜぇ?」
「……そういうのじゃない、ドーラス。もしかすると世界樹を――」
ドーラスと呼ばれた男と問答をしようとしたところで、グェニラが口を挟む。
「どちらにしても人間を信用するつもりはない。集落に入られないようにだけ気をつけるんだ、いいな?」
言いたいことがありそうだったロディは、話を中断して指示を受けた。
「……分かりました。では準備をして警戒を強めます、念のため他の者は集落から出ないようにしたほうがいいかと。採取などでどうしても出る時は、狩猟者と一緒がいいでしょう」
「うむ、そうだな。通達するとしよう。世界樹に近づかせるわけにはいかん」
「はい」
エルフの集落から外の世界に出ている者は数割しか居らず、ほとんどの者は森に住んでいるため、エルフは集団としての規模がかなり大きい。
森も深く広いので、その気になれば入ってきた人間を始末することは難しくない。
そして世界樹のあるこの集落に居る長老――グェニラは全てのエルフを束ねる存在だ。
聖木とは世界樹の枝を加工した木材のことで、それはこの集落にある。つまり、ここがリク達が目指すべき場所ということだ。
「俺とドーラス、それとチェルは四人組のほうに行くからウラとニケは男女ペアを頼む」
「はあ? オレもかよ!」
巻き込まれると思っていなかったドーラスは大声で抗議する。
男女ペアとはフェリスとグラデルのことだ。
「軽口を叩いたバツだ。まあ、小さい頃からの友人であるお前達二人なら、俺の言っていることも分かるだろ」
「俺も見てみたかったなあ」
「後で交代してくれよ? んじゃ行ってくるぜ」
ウラとニケは笑いながらそう言って出ていった。
それを見送りながら女性のエルフであるチェルが矢を腰に下げてから口を開く。
「それにしてもロディがあんなこと言うなんて驚いたわ。女の子に興味ないって感じなのに」
「そんなことはないが……」
「まあ、せっかくだし見に行ってみようぜ? お前も男を見て好きになったりするんじゃあねえぞ、チェル」
「減らず口はやめなさい、ドーラス。ってか、聖なる感じって、もしかすると聖女なんじゃない?」
チェルの疑問に、ロディは首を横に振って答える。
「どうかな、外の世界については、情報がないから分からないよ」
ロディが森のほうへ目を向けた後、すぐにどこからでも目立ちそうな大木に視線を合わせた。
そこでチェルが同じく大木を見ながら悲痛な表情で言う。
「……なんだか元気がないよね、世界樹。どうしちゃったのかしら」
「世界樹の精霊と話ができるシャーマンのミリンとポリンも、大精霊の声が聞こえないってことらしいしな。いよいよ森も危ないのかねえ……」
村のどの場所からも見える世界樹は、代々エルフの巫女が管理している。
現シャーマンであるポリンという娘は、特殊な力で精霊のみならず大精霊の声を聴くことができる。
しかし、最近はめっきり話さなくなったと話しているのを、チェルは聞いたことがあった。
「やめてよ、ドーラス……!」
「でも人間の国が落とされたら、魔族の標的はこっちに移る。敵対したくないと言っても聞かないだろう、その前に力をつけるんだ」
ロディが弓と剣を装備してから歩き出すと、二人も頷いて後に続く。
魔族が現れて五十年という月日が流れ、森に引きこもったエルフ達。
彼らは、魔族が本気になったら、自分達はいつ全滅してもおかしくないと考えていた。
ゆえに鍛錬をおろそかにしていないのだ。
あまり子供が生まれないエルフ達は、種族の存続のため一人でも失いたくないので、いつか来るその日に備えている。
そして彼らはリク達の監視をするため、村を出発する。
そんな中、集会に出ていたエルフ達は手分けしてあちこちの家や外に居る者へ伝令をするため回っていた。
「――というわけで、村の外には出ないようにしてくれ。人間がここまで辿り着けるとは思えないが、外でばったり顔を合わせる可能性があるからな」
「分かりました。矢や武器をもう少し作ったほうがいいかもしれませんね。ねえ、あなた」
まず伝令役のエルフが赴いたのは鍛冶を行っている家だった。
妻が入り口で応対し、後ろに居る気難しそうな男へ告げる。
「……そうだな」
伝令役は男に話しかける。
「ジエールさんも鉱石を採りに行く時は複数人でな。まあ、鉱脈があるのは、報告のあった場所とは逆方向だから大丈夫だと思うけど」
「ああ、分かった」
目つきが鋭く、短髪に無精髭を生やしたジエールと呼ばれたエルフが、相手の言葉に小さく頷き、妻と共にリビングへ戻った。
「怖いわねえ、人間がなにしに来たのかしら」
「さあな。また協力してくれとかそんなところだろう」
「だとしたら今さらよねえ……私達の数が減ったのも魔族との戦いのせいだし。エルフを盾に逃走するなんて馬鹿なことをしてくれちゃったものねえ」
「人間が全部というわけではないが、あの事件はある意味、人間の本性が見れた気がするな。とりあえず武具はいざという時のため揃えておこう。そうだクリミナ、エミールにも外に出ないよう言い含めておかねば」
「そうね。エミール、こちらにいらっしゃい! お話があるの」
妻のクリミナが子供の名前を呼んでみるが返事がない。
「あら? 寝ているのかしら?」
「工房かもしれん、俺はそっちを見てくる」
「それじゃあ、部屋を見てくるわ」
ジエールとクリミナの二人がそれぞれ席を立ったのだが――
かなりの喧騒で、こっそりリーチェが出ていても分からないだろう。
入店した俺達を、店員が元気に迎え入れる。
「いらっしゃいませー!」
「あ、えっと……四人ですけど、空いていますか? できれば隅のほうがいいんですけど」
「四名様、大丈夫ですよ! あちらの角の席をお使いください~」
水樹ちゃんがおずおずと従業員に声をかけると、店員はサッとどこに行けばいいか案内してくれた。
俺達はすぐに移動し、料理と飲み物をいくつか注文する。
「賑わっていますね」
「このあたりは魔族の攻撃が少ないのかしら?」
風太と夏那の感想に、俺は首を横に振って答える。
「いや、どうだろうな。魔族か魔物か、どちらに対応するためか分からないが、冒険者っぽい人間が多い」
「……確かに」
俺がいくつかの集団に視線を向けると、水樹ちゃんは理解したようだ。テーブルの近くに武器を置いている奴らが多い。
「この国でも魔族の襲撃があるとして、どんな将軍か気になるわね」
『まあ、今回はエルフの森だし、そうそう出くわさないでしょ。あ、来た来た♪』
夏那が魔族の将軍を気にしていたが、リーチェは出会わないだろうと口にする。
向こうの世界での将軍の仕事は人間の国を攻めることだった。だから引きこもっているエルフに用があるとは思えない。先に人間を倒せばいいと考えるだろう。
「ほら、とりあえず飯だ! 明日からエルフの森に行くからまた忙しくなるぞ」
「あら、あなた達も? 最近、エルフの森に行く人が多いわね」
料理を運んできたウェイトレスが俺達の会話を聞いていたようで、テーブルに料理を置きながらそんなことを言う。
そこで俺はウェイトレスに聞き返す。
「ん? そうなのか?」
「ええ、つい先日も、エルフの森に何度も出かけては帰ってくる冒険者が居たのよ」
「依頼、とかですかね? 魔物が多いとか」
水樹ちゃんが唇に手を当てて首を傾げると、ウェイトレスが答える。
「魔物はエルフが狩っているみたいだから、それほど出ないんだよね。ただ、珍しい薬草とかキノコがあるからそれを採りに行っているのかも? それじゃごゆっくり~」
風太にウインクをしながらウェイトレスは去っていった。
「あたし達だけじゃないのね」
夏那の呟きに、風太が答える。
「そりゃ他の人も居るよ。でも、冒険者同士なら出会っても問題ないと思うよ」
「風太の言う通りだ。後をつけてくるような奴だけ気をつけておけばいい」
冒険者は採取に狩りとやることは存外多い。そういう商売だから森に出向いてもおかしくないため、会っても波風を立てなければいいだけだ。
『ふふふ、明日はわたしが大活躍ね! もぐもぐ……』
「あ⁉ あたしの骨つき肉! リーチェ!」
「また頼めばいいだろ? ひとまず乾杯だ!」
長旅を終えたが間髪を容れずに次の目的地に向かうということで、美味い物を食い、明日に備えてゆっくりと寝ることにした。
実は温泉がある町だということが分かり、風呂に浸かった夏那と水樹ちゃんはご機嫌だった。
そして翌日、十分な休息を取った俺達はエルフの森へと向かう。
町を出て数時間ほど経過した頃、いよいよ森が見えてきた。
「よーし! なんかでっかい森が見えてきたわね! ハリソン、ソアラ、もう少し頑張ってね」
「凄い、木ってあんなに高く成長するものだっけ」
夏那が荷台から馬達を励まし、御者台の水樹ちゃんは遠くからでも分かる木の大きさに感嘆していた。
「地図だとここら辺なのか……地図で見るより現物のほうがちょっと大きい気がします……」
森というより、もはや樹海と呼んでも構わないほどの光景が目の前にあった。
「人間より少ないとはいえ、エルフもそれなりの数は居る。この森はエルフの国と言っても差し支えないと思うぞ?」
「そう言われると納得ですね」
俺の言葉に、水樹ちゃんが森を見て微笑みながらそう言った。
「向こうの世界だと、森にいくつか集落を作って縄張りを決めていた。木を伐採されすぎないように監視をするといった仕事なんかもやっていたぞ」
「外の世界にはあまり出ないんですか?」
風太が地図を片手に質問を投げかけてきた。
「人間と関わりたくないって奴が多かったし、森から出なくても暮らしていけるからな。若い連中が出ていくことはあったけど」
こっちの世界でもギルドで数人エルフを見ているから気にしない奴も居るとは思う。
「じゃあ人里に来ないエルフは、自給自足で生活しているってこと?」
「ああ。森の中だけで完結させているぞ」
あいつらは自然と人が共存して暮らすことを主としているから、必要以上に獲物を狩ったり木を切ったりはしない。
長寿の秘密を知ろうとする奴や、聖木を手に入れようとして襲いかかるといった欲深い人間とは関わり合いになりたくないと、俺の知るエルフは引きこもっていた。
「言葉が通じるなら、そこまで確執ができるとは思えないんですけどね……」
「だが、魔族と戦う協力体制があったにもかかわらず、袂を分かっている。みんなが真面目にやっている中、悪さをする奴が出て、人間不信になったのかもな」
実際、一番厄介なのは人間なのかもしれないと、俺は前の世界から思っている。
風太達を元の世界へ戻したいと声を大きくしていたのは、異世界の人間はタチが悪いというのを知っているからである。
誘拐、強盗……地球でもあることだが、異世界は特に頻度が高い。
そんな奴らに関わりたくないというのは自然なことである。
……だが、水樹ちゃんみたいに異世界に残りたいというのであれば、それを止める権利はない。
どっちの世界が幸せかなんて、本人にしか分からないのだから。
そんなことを考えながら後ろの荷台で御者台に座る三人の様子を見ていると、ほどなくして森の入り口へと到着した。
「……これは……」
「凄いな、まだ昼前なのに森の中は薄暗い……」
「なんだか吸い込まれそうですね」
森の前で馬車を止めた夏那、風太、水樹ちゃんが喉を鳴らす。
街道を外れてだだっ広い草原を走ってきたので、特にでかく見える気がする。
「さて、と。ここからはお前の出番だ。頼むぞ、リーチェ」
『ふっふっふ……ついにこのわたしが大活躍する時が来たわね! ハリソン、頭に乗せてもらうわね』
「飛んでいけばいいのに」
夏那が呆れたように口を開くとハリソンが『お構いなく』といった感じで一声鳴いた。
そこへリーチェが振り返って、指を振りながら得意げに返す。
『甘いわねカナ。森の声を聞くには集中力が必要なの。だから飛ばずにこうやって意識を集中するのよ』
生意気なことを言うリーチェに、水樹ちゃんが微笑みかけた。
「ふふ、ならお願いね、リーチェちゃん」
『まっかせなさーい♪ さあ行くわよ、ハリソン!』
「大丈夫ですかね……?」
いつも以上に元気なリーチェに対し、風太が不安そうに眺める。
「まあ、俺の分身だから、能力に関しては心配してないんだが……」
「だが?」
言い淀む俺に、夏那が聞いている。
「世界が違うから、そこはどうなのかと思ってな。ま、とりあえず行ってみないことには分からん、先を急ごう」
「まったく、張り切りすぎて失敗しないでよ?」
調子に乗っているリーチェを見て、夏那が口を尖らせていた。
風太がまあまあと彼女を宥めていると、水樹ちゃんが馬車を進ませて森の中へと入っていく。
「わ……」
水樹ちゃんが思わず小さく声を漏らす。
無理もない、陽光が木々に遮られて、一瞬であたりが暗くなったからだ。
これだけ暗いと時間の感覚がおかしくなる。たまにスマホを見て、時間を確認しないとな。
体内時計もあるが、戦闘になって緊張状態が続くと崩れるんだよな。
俺も経験があるけど、一人でこういう暗い森に入ると、おおむね迷ったり疲労の蓄積が酷くなったりする。
まあ、四人居れば、薄暗い嫌な雰囲気もそれほど気にならないだろう。
『むむむ……』
ひとまずリーチェに目を向けると、胡坐をかいてなにやら唸っていた。
「どう、リーチェちゃん?」
『シッ……今、風の精霊の声を探しているから、話しかけないで……』
「あ、ごめんね」
前を向いたままのリーチェが水樹ちゃんにそう言う。そして自身はまた黙って耳を傾ける。
「前の世界では、どう活躍してたんですか?」
「いい質問だ、風太。あいつの精霊の声を聞く力は、発動すればかなり便利だ。魔物の位置を教えてくれたり、川の方角を教えてくれたりするんだ」
風太が小声で尋ねてきたので、俺もならって質問に答えた。
そこで夏那もひょっこりと顔を近づけてきて言う。
「ならレムニティの時も聞いたらよかったんじゃない?」
「と、思うだろ? だけどこれが意外と難しいみたいでな。見ての通り、かなり集中しないとダメだ。戦闘中なんかとてもじゃないが待っていられない」
「あー」
夏那は納得したような声を上げる。
しかし、ここではリーチェを頼る以外に方法はないので、あいつのやりたいようにやらせるべきだと三人に告げた。
そのままゆっくりと木々の間を抜けながら馬車を進めていると、しばらくしてからリーチェが立ち上がった。
『……! 居た! ねえ、わたし達エルフの集落に聖木を貰いに来たの。そこまで連れて行ってくれない?』
「お」
「見つけたみたいですね」
「なんか一人芝居をやってるみたいで可愛いわね」
リーチェがとある場所に顔を向けて喋り出したので、俺達は馬車を止めて交渉を見守ることにする。
『え? 人間が居るから無理? そこをなんとか……! 大丈夫、この人達勇者だから! あ、ちょ、待ちなさいよ! 嘘じゃないって……ええい、ミズキ、追うわよ!!』
突然話しかけられた水樹ちゃんが、驚いて聞き返す。
「ええ⁉ どうしたの?」
『今話していた精霊はこの森に住む精霊だから、エルフの味方なの。人間には会わせたくないって』
「こ、こっち?」
『そう! ハリソン、ソアラ! ゴーゴーゴー! わたしに姿を見られて、逃げられると思うなよー!』
リーチェが犯人を追う刑事みたいなことを言いながら、ハリソンの頭をぺちぺちと叩く。
すると二頭は『了解しました』という感じで鳴き、リーチェの指さすほうへと早足で移動を始めた。
「馬車で森の移動は結構きついですね……!」
「入り口に置いてきてもよかったが、見張りが居ないと魔物にやられる可能性が高いからな。それに万が一迷った時に寝床として使える……っと、お客さんか」
『魔物!』
ハリソン達の正面、数十メートル先に、前歯が長く体の大きさも風太の胴体ほどあるウサギ型の魔物が五匹、姿を現した。俺達はともかくハリソン達が危ない。
「倒すしかないわね!」
「うん。夏那は水樹と御者を交代して、水樹は矢で応戦して。避けた個体は僕とリクさんが魔法で倒そう!」
風太が即座に判断して俺達に指示を出してきた。悪くない作戦だと俺は頷く。
「分かった! 夏那ちゃんお願いね」
「オッケー、任せたわよ。……リク、捕まえたら血抜きの練習でもしておく?」
「時間があればな。行くぞ。リーチェは見失わないよう頼む」
『うん! ……それにしても森が静かすぎるような気がするけど――』
リーチェが眉を顰めるが、今は目の前の敵を倒すことが先決だと、俺は迎え撃つ準備を始める。
◆ ◇ ◆
――エルフの森 入り口付近――
リク達が戦いを始めたその時、木の上からその様子を見ている、フードを被った人影があった。
「……人間か。いったい、なんの用だ? 別の場所にも人間が入り込んだようだし、長老に報告する必要があるか――」
そう呟いたフードの人影はその場を立ち去ると、そのまま村の入り口である門へと辿り着いた。
門の前には男が立っており、彼がフードの男へ話しかける。
「どうした?」
「長老と話をしたい」
門を守っていた男の耳は長く、声をかけられた人物もフードを取ると耳が長かった。
ここはリク達が目指すエルフの集落で、二人はエルフだった。
そして門をくぐったフードを被っていたエルフの男は一番大きな家へと向かう。
リク達を観察していたフードのエルフは、報告を行うために集落へ戻ったのだ。
そして一番大きな家では、十人ほどのエルフが集まり会議をしていた。
「――人間か……」
「ええ、南西に男女が居て、北西には馬車に乗った四人組でした。こちらに入り込もうとしているようですね」
「男女のペアはともかく、馬車に乗った四人組のほうが気になりますな。精霊を追っていたのだろう?」
「そうだな。精霊は人間に見えないはずだが、どうしてどこに居るのか分かっていたのだろう?」
フェリスのこともあり、エルフ達は人間がエルフの集落へ侵入しようとしていることは知っていた。
そのため、集められたエルフ達は動揺することなく冷静に話をしていた。
しかしフェリスとは違った勢力であるリク達が、明らかに精霊を追っていたのは不可解だと、口々に言う。
エルフ達がそれぞれ、憶測や迎え撃とうというようなことを口にし、ヒートアップし始める。
そこで一番奥に座る年老いたエルフが片手を上げて制する。
「……落ち着け。四人組は『聖木を欲している』と言っていたのだな? ふむ……ひとまず様子見といこう」
若いエルフがおずおずと尋ねる。
「グェニラ様、よろしいのですか?」
グェニラと呼ばれた年老いたエルフが、落ち着いた口調で答える。
「聖木の存在をどこで知ったのか気になるが、こちらから積極的に関わる必要はあるまい」
「それは……そうですね」
尋ねたエルフがグェニラの言葉に頷いた。
「精霊様が迷わせてくれるだろうが……念のためロディは数人、若いのを連れて警戒にあたれ。こちらから姿を見せてはならんぞ」
グェニラがフードを被っていたエルフ、ロディに指示を出すと彼は頭を軽く下げてから口を開く。
「承知しました、長老。しかし、あの中に少し気配が違う人間が居たのが気になるのです」
「ほう」
「弓を使っていた女でしたが、他の三人より、神聖なオーラが少し……」
ロディが水樹のことについてそう伝えると、横から別のエルフがからかうように口を開く。
「おいおい、人間の女に恋でもしたってか? やめとけやめとけ、どうせ先に死んじまうんだぜぇ?」
「……そういうのじゃない、ドーラス。もしかすると世界樹を――」
ドーラスと呼ばれた男と問答をしようとしたところで、グェニラが口を挟む。
「どちらにしても人間を信用するつもりはない。集落に入られないようにだけ気をつけるんだ、いいな?」
言いたいことがありそうだったロディは、話を中断して指示を受けた。
「……分かりました。では準備をして警戒を強めます、念のため他の者は集落から出ないようにしたほうがいいかと。採取などでどうしても出る時は、狩猟者と一緒がいいでしょう」
「うむ、そうだな。通達するとしよう。世界樹に近づかせるわけにはいかん」
「はい」
エルフの集落から外の世界に出ている者は数割しか居らず、ほとんどの者は森に住んでいるため、エルフは集団としての規模がかなり大きい。
森も深く広いので、その気になれば入ってきた人間を始末することは難しくない。
そして世界樹のあるこの集落に居る長老――グェニラは全てのエルフを束ねる存在だ。
聖木とは世界樹の枝を加工した木材のことで、それはこの集落にある。つまり、ここがリク達が目指すべき場所ということだ。
「俺とドーラス、それとチェルは四人組のほうに行くからウラとニケは男女ペアを頼む」
「はあ? オレもかよ!」
巻き込まれると思っていなかったドーラスは大声で抗議する。
男女ペアとはフェリスとグラデルのことだ。
「軽口を叩いたバツだ。まあ、小さい頃からの友人であるお前達二人なら、俺の言っていることも分かるだろ」
「俺も見てみたかったなあ」
「後で交代してくれよ? んじゃ行ってくるぜ」
ウラとニケは笑いながらそう言って出ていった。
それを見送りながら女性のエルフであるチェルが矢を腰に下げてから口を開く。
「それにしてもロディがあんなこと言うなんて驚いたわ。女の子に興味ないって感じなのに」
「そんなことはないが……」
「まあ、せっかくだし見に行ってみようぜ? お前も男を見て好きになったりするんじゃあねえぞ、チェル」
「減らず口はやめなさい、ドーラス。ってか、聖なる感じって、もしかすると聖女なんじゃない?」
チェルの疑問に、ロディは首を横に振って答える。
「どうかな、外の世界については、情報がないから分からないよ」
ロディが森のほうへ目を向けた後、すぐにどこからでも目立ちそうな大木に視線を合わせた。
そこでチェルが同じく大木を見ながら悲痛な表情で言う。
「……なんだか元気がないよね、世界樹。どうしちゃったのかしら」
「世界樹の精霊と話ができるシャーマンのミリンとポリンも、大精霊の声が聞こえないってことらしいしな。いよいよ森も危ないのかねえ……」
村のどの場所からも見える世界樹は、代々エルフの巫女が管理している。
現シャーマンであるポリンという娘は、特殊な力で精霊のみならず大精霊の声を聴くことができる。
しかし、最近はめっきり話さなくなったと話しているのを、チェルは聞いたことがあった。
「やめてよ、ドーラス……!」
「でも人間の国が落とされたら、魔族の標的はこっちに移る。敵対したくないと言っても聞かないだろう、その前に力をつけるんだ」
ロディが弓と剣を装備してから歩き出すと、二人も頷いて後に続く。
魔族が現れて五十年という月日が流れ、森に引きこもったエルフ達。
彼らは、魔族が本気になったら、自分達はいつ全滅してもおかしくないと考えていた。
ゆえに鍛錬をおろそかにしていないのだ。
あまり子供が生まれないエルフ達は、種族の存続のため一人でも失いたくないので、いつか来るその日に備えている。
そして彼らはリク達の監視をするため、村を出発する。
そんな中、集会に出ていたエルフ達は手分けしてあちこちの家や外に居る者へ伝令をするため回っていた。
「――というわけで、村の外には出ないようにしてくれ。人間がここまで辿り着けるとは思えないが、外でばったり顔を合わせる可能性があるからな」
「分かりました。矢や武器をもう少し作ったほうがいいかもしれませんね。ねえ、あなた」
まず伝令役のエルフが赴いたのは鍛冶を行っている家だった。
妻が入り口で応対し、後ろに居る気難しそうな男へ告げる。
「……そうだな」
伝令役は男に話しかける。
「ジエールさんも鉱石を採りに行く時は複数人でな。まあ、鉱脈があるのは、報告のあった場所とは逆方向だから大丈夫だと思うけど」
「ああ、分かった」
目つきが鋭く、短髪に無精髭を生やしたジエールと呼ばれたエルフが、相手の言葉に小さく頷き、妻と共にリビングへ戻った。
「怖いわねえ、人間がなにしに来たのかしら」
「さあな。また協力してくれとかそんなところだろう」
「だとしたら今さらよねえ……私達の数が減ったのも魔族との戦いのせいだし。エルフを盾に逃走するなんて馬鹿なことをしてくれちゃったものねえ」
「人間が全部というわけではないが、あの事件はある意味、人間の本性が見れた気がするな。とりあえず武具はいざという時のため揃えておこう。そうだクリミナ、エミールにも外に出ないよう言い含めておかねば」
「そうね。エミール、こちらにいらっしゃい! お話があるの」
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「あら? 寝ているのかしら?」
「工房かもしれん、俺はそっちを見てくる」
「それじゃあ、部屋を見てくるわ」
ジエールとクリミナの二人がそれぞれ席を立ったのだが――
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