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4巻

4-2

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「そんじゃ、早いところ出発するか」
「む、もう行くのか? ゆっくりしていけばいいのに」
「いや、船を早く使用できるようにしたい。幹部を倒したわけだし、奴らに気づかれたらなにかしら動きがあってもおかしくない。迅速じんそくに行動すべきだろう」

 アキラスとレムニティという二人の幹部を倒しているので、いずれ仲間に連絡がつかなくなり、各国に調査を回すだろう。
 前もって準備を整えておくのにこしたことはない。
 元の世界に戻る方法をエルフが知っていたりすると、より助かるんだが……

「必要な物資は用意させるから、遠慮えんりょなく言っていいぞ」
「助かるよ」
「ありがとうございます!」

 食料や水樹ちゃんの矢といった消耗しょうもう品を補充してもらい、俺達はグランシア神聖国を出立しゅったつし、いよいよ南西にあるエルフの森へと向かう――

 ◆ ◇ ◆

 ――エルフの森――

「また同じ場所……エルフ達の仕業しわざということでいいのかしら? さすがに疲れたわね」

 リク達がグランシア神聖国へ到着したのとほぼ同じ時、フェリスはエルフの森へ足を運んでいた。
 彼女が森を訪れるのは、これで数回目である。
 しかしどう進んでも、目印をつけた地点か、入り口に戻っていた。
 最初の三日は魔物を警戒しながら森で野営をするなどしていたが、途中から近くの町へ戻り英気を養ってから、再チャレンジを試みている。
 なお、手配書が出回っているのを見た彼女はすぐに長かった髪を短くし、服装も地味な冒険者用のものに変えている。

「暗くなる……今日はこれくらいにしましょうか。エルフに伝わる魔法……必ず」

 フェリスはあの時、レムニティを倒せなかったリク達へ逆恨さかうらみをし、それをずっと根に持っていた。それと同時に、自分に対しても不甲斐ふがいなさを感じ、力を得るためにエルフに会いに来たというわけだ。

「あいつらがちゃんと戦っていれば、こんなことには……!」

 復讐心ふくしゅうしんと逆恨みの心情は、フェリスの表情を変えた。道を歩く彼女は眉間みけんしわを寄せて、にらみつけるように目を細める。
 ……彼女を知る者でも、恐らくすぐにフェリスだと気づけないほどにゆがんだ表情だ。

「お、帰ってきたかお嬢さん」

 野宿でもいいが、せっかくならと近くの町へ来たフェリスに門番が声をかけた。

「……ええ」
「強いみたいだが、一人で森は危ないぞ?」
「大丈夫ですよ。慣れていますから」

 門をくぐった彼女は食事のために酒場へと足を運ぶ。路銀ろぎんはそれほど多くないものの、毎回魔物を倒して食べるのも気が滅入めいるからだ。


 料理を運んできた店員の声が響く。

「お待たせしました!」
「……いただきましょうか」

 運ばれてきた肉を切り分けながら、フェリスはため息をついた。

「……それにしてもどうしたらいいのかしら……」

 エルフの森まで到着したものの、打開策がないまますでに数日が経った。どうしたものかと考えながら食事をしていると、ジョッキを持った男が近づいてくる。

「よう姉ちゃん、一人かい? 俺と飲まねえか?」
「結構よ」

 フェリスは容姿がいいため、何度か声をかけられたことがある。だが、魔族を殺すという目的にとりつかれている彼女は、男に好かれることをうとましく思っていた。
 以前、リクを誘惑しようとしたこともあるが、それは目的を果たすためで、フェリスは自身の体が『使える』と判断しただけのことだった。
 しかし――

「へへ、そうかい? もしかしたらエルフの森についてなにか話せるかもしれないぜ?」
「……!」

 フェリスはジョッキを傾け、訝しげな視線を男に向けて観察をする。
 燃えるような赤い髪に少し垂れた目。髪と同じ赤いひとみと自信ありげに笑う口から、おおよそ浮ついた男というイメージが拭えない。
 それでも今のところ打つ手がないフェリスは、エルフの森について話があるなら聞いてみたいと考えた。

「……では、向こうで」

 ならば少し話をしようと、目線で奥の席を示唆しさし、いくつかのメニューを指さす。

「オッケー、いいぜ。おい、俺達は向こうへ移るから注文票はまとめて頼むぜ。後、これも追加で」
「ありがとうございますー!」
「……」

 男とフェリスは喧騒けんそうの中を移動し、奥の角にある比較的静かなテーブルについた。
 椅子に腰かけ、持ってきた料理をテーブルに置くと、ジョッキをカチンと突き合わせてから一口飲む。

「……それで、私がエルフの森に行っているのをどうして知っているのかしら? ずっと後をつけていたんじゃないでしょうね」
「いやあ、それは一回きりだぜ。あんたが何度かこの町に来ては出ていくのが気になってな。冒険者でもないのに森へ行く美女に興味があって、声をかけさせてもらったわけよ。……で、なんでまたあんなところに?」
「あなたに関係があって?」
「料理をおごってやってるんだから教えてくれたっていいだろ? これで無理なら追加も考える」

 そう言って男はふところから金貨の入った袋を取り出してテーブルに置き、中身を見せながらウインクをする。

「私は……フェリシアよ、あんたは?」
「交渉成立ってか? 俺はグラデルってんだ。よろしくな、フェリシア」

 フェリスはどこで誰が聞いているか分からないと思い、咄嗟とっさに偽名を口にする。そして彼女はグラデルと名乗った男へ冷たい視線を向けながら言う。

「夜のお供はしないから、そのつもりで。私はエルフに会う必要があるの。エルフにしか伝わっていない古代魔法を習得するためにね」
「おっと、美人さんはお高いねえ。それにしても、エルフにそんなのが伝わっているとは知らなかったぜ。それは確かなのか?」
「私はせい……いえ、文献で色々と勉強したから間違いないわ」

 文献と聞いて口元の笑みは変えず、グラデルがスッと目を細める。無言で少し飲んだ後、フェリスへ意図を尋ねた。

「……なんでまたそんな魔法を求めているんだ?」
「魔族を殺すために決まっているわ! 思い出したくもない……あの役に立たない勇者達が居なければ……!!」

 フェリスはレムニティとの戦闘を思い出して苛立ちをあらわにした。
 その直後、ジョッキを一気にあおってテーブルに叩きつける。
 それを見ていたグラデルが口笛を吹くと、彼もぐいっと飲んでから口を開いた。

「いま、勇者って言ったかい?」

 失言したと一瞬そう思ったが、リク達に義理立てする必要もないかとフェリスは口を開く。

「……そうよ。少し前に勇者達が魔族と戦っているのを見たことがあるの。だけど、倒せなかった。役立たずよ」
「ふうん、そりゃ残念だな。本当に勇者なのかね? で、魔族はそんなに憎いのかい?」
「当たり前よ! 私の国はあいつらに滅ぼされたわ、両親も友達もみんな死んだ! 今度はあいつらを滅ぼしてやらないと気が済まない……!!」
「なるほどねえ。俺達冒険者は魔族と戦うのが当たり前みたいになってる。来たら倒すくらいの感覚だぜ。……さて、話は変わるが、実は俺はこいつを見て声をかけたんだよねえ」
「なに……? あ……⁉」

 グラデルが出した紙はフェリスの手配書だった。
 そこにはフェリスの顔と重大な違反をしてグランシア神聖国から逃げ出したということが書かれていた。
 グランシア神聖国からすでに国境を抜けているので安心していた彼女だったが、まさか隣国にまで手が伸びていると思わず、冷や汗を流す。
 だが、すぐに冷静さを取り戻してグラデルに向かい合う。

「……それがなに? 見ての通り、私の髪はそんなに長くないわ。それに手配書に書かれた人間がこんな目立つ場所で気軽に飲んでいるわけがないでしょう?」
「ふうん、そう来るか。まあ、確かに見た目はかなり違うが、エルフの森の文献なんてそこらにあるもんじゃねえ。あんたはフェリス……そうだな?」
「……」

 黙り込んでしまうフェリス。
 その直後、料理を持ってきた店員が沈黙を破った。

「ソーセージの炭火焼きになりますー」

 さて、どうするかとフェリスはなにごともなかったかのように、持ってきたソーセージに口をつけて考え始める。
 一番いいのはここで適当にあしらって町を出ることだ。
 しかし、目の前の男がその前に町の警護団や賞金目当ての冒険者に声をかければ、簡単に捕まってしまう。
 ここは交渉をするべきだ――フェリスはそう判断した。

「……なにが望み?」
「話が早くて助かるぜえ! あんたの体も欲しいが、それよりも聖女候補から落ちた話を聞きたいねえ。さっき言っていた勇者についてもだ。勇者は召喚されていないんじゃなかったか……?」
「そうね――」

 フェリスは料理を無言で胃に収めた後、『場所を変えましょう』と言って二人で外に出た。
 グラデルが宿を見て嫌らしい表情を浮かべるが、フェリスはビンタをして広場へと誘い、木に背を預けてから口を開く。

「……少し前にグランシア神聖国に勇者が来るとメイディ様が予言をしたの。で、実際に異世界からの四人組がやってきたのよ。そいつらはロカリス国に居た魔族の将軍を倒したと言っていたわ」
「……そりゃすげえ、普通、たった四人で将軍なんて倒せねえぞ」
「いえ、正確には一人で倒していたらしいわ。その男なら魔族を滅ぼせると思って交渉をもちかけたのだけど――」
「だけど拒否されたってか?」
「……あいつらは元の世界に戻るために旅をしているとか甘いことを言っていた……! こっちが魔族のせいでどれだけ苦しめられているかも知らずに……!!」

 フェリスが歯を割らんばかりに食いしばり、うめくように言うとグラデルが笑いながら言う。

「そいつはおもしれえ奴らだな。……ぐあ⁉」

 ふざけるなとフェリスがグラデルに石をぶつける魔法を放った。
 石を受けて鼻血を出している彼に構わず、フェリスは話を続ける。

「で、あいつらが滞在している時に神聖国へ魔族の幹部が襲来したの。後一歩で殺せるところだったのに、捕まえて尋問するなんて言い出したわ。その時に私がトドメを刺そうとしたのだけど、狙いを外してしまい、その隙に逃げられたのよ……」
「いや、お前が悪いだろそれ」
「うるさい……!!」

 グラデルに突っ込まれ、フェリスはまたも魔法を放つ。

「おっと、さすがに二回目は食らわねえよ。なるほど、そういう事情だったのか。要するに勇者が復讐相手の魔族を殺さなかったことに腹を立ててるのか。その将軍と勇者の力量差はどうだった?」
「え……? 恐らく、確実に倒せたでしょうね。特にリクは他の三人よりもかなり強かったわ」

 それを聞いて、グラデルが顎に手を当ててなにか考える。少し間を置いてから、フェリスへ向き直った。

「……それで、自分で魔族を殺すためにエルフの魔法を探す、か。なるほど面白そうじゃねえか。その話、俺も乗るぜ」
「はあ?」

 急にそんなことを言いだしたのでフェリスが間の抜けた声を出した。
 するとグラデルは片目を瞑ってからエルフの森がある方角を見た。

「エルフには興味があるんだ……いや、どちらかと言えば世界樹せかいじゅだったっけか? そいつが防具として凄い素材になると聞いたことがあってな。いつか見てみたいと思っていた。だから、協力してやるぜ」
「……世界樹、確かにあるわね。邪魔をしないというなら、同行させてもいいわ」
「おうよ。俺の強さを見せてれさせてやるよ」

 二人は不敵に笑いながら握手をする。
 そして翌日、フェリスはグラデルを連れ、再びエルフの森へと向かうのだった――



 第二章 エルフの集落


 ――グランシア神聖国を出てからすでに五日が経過し、俺達はイディアール国へと入っていた。
 俺達は、南西にあるというエルフの森を目指して進む。
 この国は地図で見たところ領地が広く、到着までの道中はゆっくり寝泊まりができる程度に町が点在していた。
 どの程度町を作るのかは国の方針で変わるが、根なし草の冒険者にとっては町が多いのはありがたい。
 そんなことを考えていると、荷台からお茶を持って風太が顔を出してきた。

「エルフの森まで後二日という感じですね。御者、変わりますよ」

 お茶が入ったカップは温かく、風太が火魔法で温めてくれたことがうかがえる。

「おう、サンキュー。ふー。二人は?」

 俺はお茶に一口つけてから、荷台に乗る二人の状況を尋ねた。

「よく寝ています。昼間は活躍してくれましたし」

 今は時間にして二十時を過ぎたあたりだ。この世界の一日は元の世界と同じで、日本人ならまだ起きていそうなところだが、二人は寝入っているらしい。
 まあ、風太の言う通り、昼間は夏那が御者をやっていて、寄ってくる魔物は水樹ちゃんが全てさばくという状況だった。
 この作戦の言い出しっぺは水樹ちゃんで、魔法の練習が目的だった。
 俺と風太は手を出すなと言われていたので、本当になにもしていない。だから二人の消耗も激しかったはずだ。

「ま、寝かしておこう。エルフ相手の交渉がどうなるか分からないからな」
「はい。ハリソン達は大丈夫ですかね」
「近くの町で一晩休むから大丈夫だ。急ぎたいが、馬達も含めてメンバーが欠けるのは避けたい」

 月明かりの下、珍しく男二人でそんな話をしながら先を急ぐ。
 俺がお茶を飲んでいると風太がチラリと後ろに視線を向けながら言う。

「あの……水樹のことでちょっと気になることが……」
「……なんだ? やっぱり連れて帰るか?」
「いえ、それは本人が拒否すると思います。リクさんが向こうでも水樹を助けてくれるなら考えますけど……」
「向こうでさらって逃げてなんてことしたら、俺は誘拐犯だぞ? ……っと、冗談はこれくらいにして、本当は?」
「えっと、メイディ様の話を聞いて思ったんですけど、アキラスが水樹を『勇者じゃない』と言っていたのは、もしかしたら勇者ではなく聖女だったから、とか」

 風太が自分の考えを口にしたので、俺も思っていることを話すことにする。

「その可能性は十分にある。勇者としての資質はあくまでも風太と夏那だけが持っている。だけど水樹ちゃんも勇者ではないと判断されたのに力がある。となると、水樹ちゃんには聖女としての素質があるという婆さんの言葉が一番納得いく」

 アキラスがなぜ水樹ちゃんを勇者ではないと言ったのか、いまだに分からないくらい、水樹ちゃんの能力はかなり高い。

「今のところ、俺はそう考えている」
「やっぱりリクさんもそう思いますか……」
「なにかあるのか?」

 風太の様子がおかしいので尋ねてみると、風太は小さく頷いて口を開く。

「僕と夏那が帰れたとしても、やっぱり残った後が心配だなって思ったんです。芯が強いのはいいんですが、それ以上に優しいですからね。その、利用されないかと」

 風太の危惧きぐは間違っていない。俺達が居なくなった後に、婆さんが同情を誘って言いくるめる未来は見える。すでに先日やろうとしていたしな。

「ま、この世界で過ごそうとする水樹ちゃんが心配なのも分かるが、帰った時のことも考えておけよ?」
「……ということはリクさん、魔王を倒そうと考えています?」
「そうだな。正直、魔王を倒さずにお前達をさっさと帰せる手段があれば、そっちを優先するつもりだったのは本当だ。だが、レムニティを見て、この世界に現れたのが、俺がかつて倒した魔王セイヴァーであるなら、帰るのが難しいと判断したのも事実だ」
「恐らくですけど、前と同じで倒さないと帰れないというわけですね」

 風太の勘に俺は頷く。
 そう、今までこの世界に来た勇者が戻ったという情報はあるが、という証拠はない。
 だが、俺は魔王を倒して帰ったことがある。
 その実績を考えれば倒したほうが早いと思うんだよな……

「問題は強制的に戻されるかもしれない、てことですね。僕達はともかく水樹とリクさんは残りたいと考えているし」
「ああ。前の時は、魔王を倒した人間で異世界人は俺だけだったから、俺一人が戻された。だが、このメンバーで倒したら、全員で戻るって可能性のほうが高い」
「なるほど……」
「この世界に長く居て、情が芽生えたら別れが辛い。だからさっさと船に乗って、魔王の居る島へ行きたいんだ。まあ、お前達を危険な目に遭わせたくないってのは、今でもそうなんだぞ?」

 三人の意思を尊重して訓練をしているが、危ないことをさせないという基本方針は変わっていない。
 すると俺の言葉に風太がくすりと微笑みながら言う。

「はは、リクさんの近くは安心できますけど、最近は僕達も強くなってるんですよ?」
「お、言うじゃないか。その側面は確かにあって、今はお前達の成長も考慮こうりょしているんだ。戦闘力だけならかなり信頼できるレベルになっているし、もう少しきたえればレムニティなら倒せるはずだ」
「あ、ありがとうございます! でも、戦闘力だけならって……?」
「今のまま楽勝で最後までいければいいが、どこかで苦戦を強いられることがあるかもしれない。また、強すぎたせいで俺みたいに殺しすぎた結果、心の中でなにかが変わる可能性もな」
「……」

 そう説明する俺の目を、風太は黙って見ていた。

「だから精神も鍛える必要があると思っている。とはいえ、こっちから襲って相手を殺すみたいなことはしない」
「それはさすがに僕達が嫌ですよ」

 風太が苦笑しながらそう言うが、魔族は人型だし、一番怖いのは人間にまぎれた魔族が戦争を促すというアキラスがやっていたパターンだ。
 そういう策略が得意な魔族が居ることを考えれば、人間同士の争いとなる前にセイヴァーと会う必要があるのだ。

「人に紛れる……アキラスみたいに誰かに乗り移るとかですか?」
「そうだな、魔族は人間とほとんど変わらないだろ? だから紛れ込むのはちょっと変装するくらいで割と分からない。アキラスは姫さんを人質にするためにあの策を採っていたが、上手くいけばロカリスはもっとめちゃくちゃだっただろうぜ」
「うーん、そういうのも居るのか……それにしても魔族の目的ってよく分からないですよね。異種族という点ならエルフだってそうですし、上手くすれば共存できそうな気がしますけど」
「まあな」

 それは俺もそう思う。だが、魔族の側が聞く耳を持たないので、戦わざるを得ないのだ。

「どちらにしても敵は倒す。それが生きていくために必要なことだ。知らない相手は完全に信用できるまで疑い続けろよ」
「はは……僕にできるかな……」
「やるんだよ。死にたくなけりゃあな」

 俺は風太の頭を軽く叩いてから肩を竦める。
 寝ている二人にも後で聞かせるつもりだが、三人は今後、保護対象から肩を並べる戦友として扱っていくと決めた。もちろん、命の危険があればすぐに撤退させるがな。
 なあなあで進めるのはよくない……口にして覚悟を持たなければと、俺は気を引き締めた。


 そんな話をしているとやがて町に到着し、俺達はすぐに宿へ向かった。

「ほら、起きろ。布団で寝たほうが疲れは取れるぞ」
「う、うーん……連れて行ってぇ……」
『ふああ』
「夏那、起きなよ。ハリソン達も呆れているよ」

 風太が苦笑しながら夏那を起こす。ハリソン達には醜態しゅうたいを見られたくないのか、夏那は俺が手を貸すとリーチェと一緒にフラフラと荷台から降りた。

「ふあ……ごめんなさい、結局、ここまで寝ちゃいました……」

 続けて水樹ちゃんもあくびをしながら荷台から出てきて地上へ降りた。

「いいって。自分の能力がどの程度なのかを知るのも大事なことだ。次は魔力を使いすぎないといった行動を心がければいいさ」
「風太は先に二人と宿にチェックインしてくれ」
「んー、餌やりをするんでしょ? あたしもやるー」
『ハリソン、ソアラお疲れ様――……』

 まだ眠たそうにするリーチェがハリソンのたてがみに着地すると、ハリソンは『お休みになってください』といった感じで小さく鳴いた。

「リーチェとやっておくから夏那は部屋で休んでろって。荷物を置いてから戻ってきてもいいだろ?」
「あ、それもそうね! 行こう二人共!」
「あ、待ってよ」

 夏那が宿の入り口へ向かい、風太と水樹ちゃんが追いかけていく。
 俺は三人を見送った後、厩舎きゅうしゃに移動した。リーチェは見せられないから後でポケットだな。
 さて、実は、宿のチェックインはあえてやらせてみたのだ。
 普段は俺が矢面やおもてに立って交渉や買い物の支払いなどをしているため、こういうのも慣れさせておくかと考えたからだ。

『ご飯はー?』
「宿に食うところがなけりゃ食いに出るよ」
『うう……お留守番じゃない……』

 リーチェが俺の髪の毛を引っ張りながら抗議の声を上げていた。そこでソアラが『一緒にお留守番しましょう』といった感じで鳴く。

『それもいいけど、見つかったら困るからダメよ。後、美味しいもの食べたいー』
「うるさいぞ。宿にレストランがあることを祈っとけ」

 時間的に居酒屋のような酒場しか開いていないだろう。リーチェには悪いが、外で食いたい気持ちもある。
 明日からエルフの森を探索するから、英気を養っておきたい。

「リク、ハリソンとソアラにお水を持ってきたわよ」
「お、サンキュー、夏那。部屋は?」
「バッチリよ! 四人で一部屋にしたわ!」
「いいのか? 水樹ちゃんと二人のほうが落ち着くと思うぞ」
「まあ、キャンプとか荷台で寝ることも多いし、いいかなって。まとまっていたほうが楽だし、なにより安上がりだもの」

 夏那はそう言って笑う。
 夏那達も色々と考えているようで、俺も自然と笑みがこぼれた。

『カナ、ご飯を食べるところあった?』
「え? そういえば宿の中にはなかったわね。どこかに行かないとダメっぽいわ」
『えー⁉』

 リーチェの希望は叶うことなかったが、駄々だだをこねたので連れて行ってやることにした。


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