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九章:風太
230.二人の誤算
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「他言無用、ってほどでは無いけど何人かに仕事の依頼をかけているの」
「冒険者が冒険者に依頼……? それは大丈夫なのかい?」
女の子の冒険者であるリースンが神妙な顔でそんなことを口にする。依頼ならギルドに募集をかけて他の人間が受けるという形なのは先ほど理解した。
それがいきなり冒険者同士の交渉になっているので驚くよね。するとリースンは腕組みをして話を続ける。
「これはギルドにも了承を取っているわ。私は冒険者として動いているけど、実は戦闘経験は少ないのよね」
【何故だ? 訓練してから実戦をするべきだろう。動きは速いがヒュージトードに手こずっていたし、せめて仲間を連れて行くべきだ】
レムニティが僕も考えていたことを口にした。
これはリクさんが頑なに僕達と離れようとしないのと同じで、実力に見合わない相手と対峙したら死ぬ可能性が高いからだ。少なくともパーティメンバーが居れば作戦を立てられる。
実力がないのは言語道断で、基本が無い彼女が一人で依頼を受けているのは違和感があった。
「……信じてもらえるかわからないけど、私はこの国の宰相の娘なの。で、このまま依頼の話に戻るけど、あなた達、国を助けるのに協力してくれない?」
「は?」
真顔で身を乗り出して来た彼女の言葉を聞いて、僕は間の抜けた声を上げる。宰相の娘……? ということはお嬢様ってやつじゃないのか?
「どうしてそんな人がこんなことをしているんだ!?」
「各地にスカウトする人を出しているんだけど、私が立候補したの。結構、屋敷で剣と魔法の稽古をしていて、魔物退治に行きたいと思っていたからね! お父さんにめちゃくちゃ怒られたけど、許可を貰って家を出てきたってわけ」
「うわあ……」
「ちょっと、そこは『凄い』とか『国の為に偉い』みたいなセリフでしょ!?」
自分の欲求を満たすためでもあるので賛同はできないと僕はドン引きだった。逆に、水樹もこれくらいお転婆なら楽だったのかもしれないなと考えてしまう。
テーブル越しに詰め寄ろうとしてきたリースンを両手で制しているとレムニティが視線を外に向けて言う。
【なるほどな。ずっとついてくる気配があったが、お前の連れか】
「え? どういうことだい?」
【森でこの女と出会った後、それとギルドの時。そして今。こいつが居るとどこからかこちらを見ている気配があるぞ】
「……本当だ。気付かなかった」
【その娘の相手をして意識が散っているから仕方が無い】
未熟さを嘆いていると、何故かレムニティが擁護してくれた。意図を尋ねたかったがその前にリースンがニヤリと笑みを浮かべて口を開く。
「流石ね。最初は私も一人でいける! と思ってたんだけど、実戦は難しかった……それでお付きの戦士と魔法使いをつけてもらったの」
「まあ、その辺の事情は必要ないけど……」
「君、結構言うわね!? それはともかく、良さそうな人だと判断したあなた達に協力して欲しいの。魔族と戦うために」
「……!」
【ふむ】
彼女が言うには何人か王都へ送っているそうだ。ヒュージトードの時みたいに、危険を顧みずに助けてくれる人や自分に嫌らしい目を向けてこない人間などが候補となるそうである。もし助けてくれなかったら仲間が倒す予定だったとか。素で信用できる人間じゃないとダメなのだそうだ。
そして先へ進むことを優先していて失念していたけど、ここはイディアール国。魔族の攻撃を受けている国の一つだった。
……どうしよう。
リクさん達が居ない今、グランシア神聖国かエルフ森、最悪ヴァッフェ帝国へ行くべきだと僕は思っている。
知り合いに助けを求めるのは恥ずかしいことじゃない。それにメイディ様ならみんなの行方が分かるかもしれない。
だけど魔族が攻めているならレムニティを通じて止めさせるべきだと思う。魔王の正体が判明した今、事情を知らずに国を攻撃している将軍の行動は無意味なのだ。
「……」
【行くべきだろうな】
「レムニティ」
【魔族、ということならグラッシが居るはずだ。そして将軍はヤツで最後。あの渡り歩く者とやらと戦うため戦力は多い方がいい】
小声で僕にしか聞こえないような声でそう告げる。
そうか、ロウデンという魔族も島に居たし、ハイアラートも飛ばされた。ブライクはすでに仲間みたいなものだし、メルルーサさんもこちら側……そう考えると魔壁将グラッシが最後の将軍なのか。
「なに?」
こちらをじっと見ているリースンと目を合わせる。そして少し間を置いてから僕は答えた。
「……わかった。その話が本当なら手助けをしたい」
「わふ!」
「……! 本当! やった!」
依頼を承諾するとリースンはテーブルを叩いて喜んでいた。少し遠回りになるけど、戦いを止めさせることができるし、味方が増えるのはありがたいからね。
そこで丁度、マスターが料理を運んできた。
「お待ちどう! なんだ、やけに嬉しそうだな」
「うん! これで故郷に帰れるわ。この二人、Bランクだけど実力はAに近いみたい。魔族との戦いが少しでも楽になるといいけど」
「そうだな。ここはいつの間にか魔族の襲撃が無くなったんだよなあ。誰かが倒したのかって言われているけど、案外お前達だったりしてな」
マスターとリースンがそんな会話を交わしていた。けど、ん? ……なんか違和感が――
「イディアール国はいいわよね。もう魔族が居ないんじゃないかって言われているし」
あれ?
「あ、ちょっと待ってくれないかいリースン。故郷ってイディアール国じゃないのかな?」
「ああ、そういえば言い忘れてたわね! 私はここから西にあるロクニクス王国から来たの。なんか魔族が居なくなったって聞いてこっちに強い人がいるのかもって――」
なんだって!?
そ、そういえばこの国に居たのってブライクさんとビカライアだっけ!? でもレムニティもグラッシが居るって言っていた……そう思って彼を見ると――
【……】
珍しく冷や汗をかいていた。
【……我々はあまり連携が取れていないのでな。どこに誰が居たのか、わからんのだ】
そしてさらに珍しく言い訳を口にしていた。
まあ、これは仕方ないよ……ロクニクス王国って結構距離があった気がするけど、時間が惜しいなと思う僕だった。
「冒険者が冒険者に依頼……? それは大丈夫なのかい?」
女の子の冒険者であるリースンが神妙な顔でそんなことを口にする。依頼ならギルドに募集をかけて他の人間が受けるという形なのは先ほど理解した。
それがいきなり冒険者同士の交渉になっているので驚くよね。するとリースンは腕組みをして話を続ける。
「これはギルドにも了承を取っているわ。私は冒険者として動いているけど、実は戦闘経験は少ないのよね」
【何故だ? 訓練してから実戦をするべきだろう。動きは速いがヒュージトードに手こずっていたし、せめて仲間を連れて行くべきだ】
レムニティが僕も考えていたことを口にした。
これはリクさんが頑なに僕達と離れようとしないのと同じで、実力に見合わない相手と対峙したら死ぬ可能性が高いからだ。少なくともパーティメンバーが居れば作戦を立てられる。
実力がないのは言語道断で、基本が無い彼女が一人で依頼を受けているのは違和感があった。
「……信じてもらえるかわからないけど、私はこの国の宰相の娘なの。で、このまま依頼の話に戻るけど、あなた達、国を助けるのに協力してくれない?」
「は?」
真顔で身を乗り出して来た彼女の言葉を聞いて、僕は間の抜けた声を上げる。宰相の娘……? ということはお嬢様ってやつじゃないのか?
「どうしてそんな人がこんなことをしているんだ!?」
「各地にスカウトする人を出しているんだけど、私が立候補したの。結構、屋敷で剣と魔法の稽古をしていて、魔物退治に行きたいと思っていたからね! お父さんにめちゃくちゃ怒られたけど、許可を貰って家を出てきたってわけ」
「うわあ……」
「ちょっと、そこは『凄い』とか『国の為に偉い』みたいなセリフでしょ!?」
自分の欲求を満たすためでもあるので賛同はできないと僕はドン引きだった。逆に、水樹もこれくらいお転婆なら楽だったのかもしれないなと考えてしまう。
テーブル越しに詰め寄ろうとしてきたリースンを両手で制しているとレムニティが視線を外に向けて言う。
【なるほどな。ずっとついてくる気配があったが、お前の連れか】
「え? どういうことだい?」
【森でこの女と出会った後、それとギルドの時。そして今。こいつが居るとどこからかこちらを見ている気配があるぞ】
「……本当だ。気付かなかった」
【その娘の相手をして意識が散っているから仕方が無い】
未熟さを嘆いていると、何故かレムニティが擁護してくれた。意図を尋ねたかったがその前にリースンがニヤリと笑みを浮かべて口を開く。
「流石ね。最初は私も一人でいける! と思ってたんだけど、実戦は難しかった……それでお付きの戦士と魔法使いをつけてもらったの」
「まあ、その辺の事情は必要ないけど……」
「君、結構言うわね!? それはともかく、良さそうな人だと判断したあなた達に協力して欲しいの。魔族と戦うために」
「……!」
【ふむ】
彼女が言うには何人か王都へ送っているそうだ。ヒュージトードの時みたいに、危険を顧みずに助けてくれる人や自分に嫌らしい目を向けてこない人間などが候補となるそうである。もし助けてくれなかったら仲間が倒す予定だったとか。素で信用できる人間じゃないとダメなのだそうだ。
そして先へ進むことを優先していて失念していたけど、ここはイディアール国。魔族の攻撃を受けている国の一つだった。
……どうしよう。
リクさん達が居ない今、グランシア神聖国かエルフ森、最悪ヴァッフェ帝国へ行くべきだと僕は思っている。
知り合いに助けを求めるのは恥ずかしいことじゃない。それにメイディ様ならみんなの行方が分かるかもしれない。
だけど魔族が攻めているならレムニティを通じて止めさせるべきだと思う。魔王の正体が判明した今、事情を知らずに国を攻撃している将軍の行動は無意味なのだ。
「……」
【行くべきだろうな】
「レムニティ」
【魔族、ということならグラッシが居るはずだ。そして将軍はヤツで最後。あの渡り歩く者とやらと戦うため戦力は多い方がいい】
小声で僕にしか聞こえないような声でそう告げる。
そうか、ロウデンという魔族も島に居たし、ハイアラートも飛ばされた。ブライクはすでに仲間みたいなものだし、メルルーサさんもこちら側……そう考えると魔壁将グラッシが最後の将軍なのか。
「なに?」
こちらをじっと見ているリースンと目を合わせる。そして少し間を置いてから僕は答えた。
「……わかった。その話が本当なら手助けをしたい」
「わふ!」
「……! 本当! やった!」
依頼を承諾するとリースンはテーブルを叩いて喜んでいた。少し遠回りになるけど、戦いを止めさせることができるし、味方が増えるのはありがたいからね。
そこで丁度、マスターが料理を運んできた。
「お待ちどう! なんだ、やけに嬉しそうだな」
「うん! これで故郷に帰れるわ。この二人、Bランクだけど実力はAに近いみたい。魔族との戦いが少しでも楽になるといいけど」
「そうだな。ここはいつの間にか魔族の襲撃が無くなったんだよなあ。誰かが倒したのかって言われているけど、案外お前達だったりしてな」
マスターとリースンがそんな会話を交わしていた。けど、ん? ……なんか違和感が――
「イディアール国はいいわよね。もう魔族が居ないんじゃないかって言われているし」
あれ?
「あ、ちょっと待ってくれないかいリースン。故郷ってイディアール国じゃないのかな?」
「ああ、そういえば言い忘れてたわね! 私はここから西にあるロクニクス王国から来たの。なんか魔族が居なくなったって聞いてこっちに強い人がいるのかもって――」
なんだって!?
そ、そういえばこの国に居たのってブライクさんとビカライアだっけ!? でもレムニティもグラッシが居るって言っていた……そう思って彼を見ると――
【……】
珍しく冷や汗をかいていた。
【……我々はあまり連携が取れていないのでな。どこに誰が居たのか、わからんのだ】
そしてさらに珍しく言い訳を口にしていた。
まあ、これは仕方ないよ……ロクニクス王国って結構距離があった気がするけど、時間が惜しいなと思う僕だった。
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