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九章:風太
227.いやあ、よくある光景だよね
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「また来なよ!」
「あ、はい……」
宿屋の親父さんが苦笑しながら僕達を見送ってくれた。宿を出てその場でため息を吐くと、ファングがつぶらな瞳を向けて尻尾を振りながら足に抱き着いてくる。
「まいったなあ。お金の管理はリクさんがやっていたから持っていないんだよ」
【金か。我々魔族にも通貨が無いわけではないが、人間……まして世界が違うのだから使えないな】
「そこは期待していないし、できないよ。さて、どうするかな……」
財布はあるけど日本の通貨じゃ意味がない。レムニティと同じなのだから。となると稼ぐしかないんだけど、なにをするべきか?
「日雇いのバイトとかあるかな」
【稼ぐのか? なら、いい手があるだろう】
「ホント?」
【ギルドとやらに戻って仕事を受ければいいんじゃないのかい? 金をやり取りしている人間達が居た】
「あ」
……確かに。
小説とかだと主人公はギルドで依頼を受けて物語が進むものだ。立ち寄ったギルドにも依頼を貼った掲示板があったはず。
「レムニティの言うとりだ。行こうか」
【ああ】
「わふーん」
甘えた声を出すファングを抱っこして再びギルドへ向かうことにした。水樹はどこかに居るみたいだけど、夏那やリクさん、レスバは大丈夫だろうか? 二人はスマホがあるけどレスバは持ってないしなあ。
まあ、魔族達は空も飛べるし戦闘力は高いので簡単にやられないと思うけど……
「……あの転移魔法は厄介だな」
【そうだな。次に相対した際、また飛ばされて終わりだ】
「っと、声に出てた?」
【ああ。意図していないなら気をつけておくのだな。ただ、私とフウタはアレに対して少し有利になったが】
「どういうこと?」
【後でゆっくり話そう。まずは金だ。腹も減って来たし、食事もしたい。だなファング】
「わん!」
レムニティにはなにか考えがあるのか? 尋ねようと思ったところで、ギルドに到着して話を変えた。
それはともかく真顔で腹が減ったと口にし、ファングを撫でる彼はなんだか面白かった。冗談じゃなく本気で言っているからね。
「オッケー、僕も依頼は初めてだけどなんとか稼いでみよう!」
そして再びギルドの扉を開けて受付へ。
「いらっしゃ……あら、さっきの。なにか忘れ物ですか?」
「忘れたというか落としたというか……宿に泊まるお金が無くて、なにか依頼を受けたいと思っているんですけど」
「財布を落としたの!? それは大変ね……うーん、今日はもう割のいい依頼は無かったかな。今日引き受けた依頼はまだ精査中だし……」
「なんでもいいです。食事ができるくらいのお金でも」
物語でよくある『朝に全部いい依頼はもっていかれる』というやつらしい。受付の女性が掲示板を見ていると、スッとレムニティが前に出て一枚の張り紙を剥がした。
【これでいい。結構な金になるだろう?】
「えっと……ええ!? これってアーマーライノの討伐!? この魔物はかなり強いですよ! 最低Bランク以上はないと……」
【Bランク?】
「ああ、レムニティは知らないよね。ギルドでこういうカードを作るんだけど、強さによってランクで分けられるんだ。お姉さん、僕は多分大丈夫です」
レムニティに説明をしながらカードを見せる。受け取った女性が目を細めて確認してくれた。
すると、すぐに目を大きく見開いて驚いていた。
「Bランク……!? あんまり戦うって感じがしないのに……」
「あはは……」
【なるほど、そういうことか。フウタは間違いなく強いぞ】
「ありがとうレムニティ。ちなみに彼は僕よりも強いですよ。最近、田舎から出てきたからカードは持っていないんですけど」
そう説明すると、女性がカードを僕に渡しながら僕達を交互に見ていた。そこで僕に抱えられているファングの頭を撫でだした。
「よくみればこの子もホワイトウルフ……何者なんですか……? ま、まあ、それはともかくアーマーライノを倒してくれるならこちらも助かります。受領していいですか?」
「もちろんです!」
返事をすると女性はにっこりと微笑んだ後、受領のハンコを押し、張り紙の一部を切り取って僕に差し出して来た。
「これは?」
「受領証です。倒した後、それと個体を運んで依頼完了ということになります。これが個体の絵になります」
「あ、そういうことですね。分かりました」
受領証は大事に持っておかないととポケットに入れておく。サイみたいな魔物だなと思いつつお礼を言い、そのままギルドを出るため踵を返す。
「ふうん、坊ちゃんっぽいのがアレをねえ」
「くく、泣いて帰ってくるんじゃねえの?」
「だけどBランクらしい」
「金で買った、とか? たまにそういうギルドもあるらしい――」
「となりの兄ちゃんが強そうだし、あいつに――」
「財布を落としたって、ドジだねえ」
途中で僕達の話を聞いていた冒険者達があえて聞こえるようにそんな話をしていた。レムニティが目を細めてそちらを見ると、そそくさと視線を逸らす。迫力あるからなあ。
【……まったく、人間は身の程を知らないな。分からせた方がいいんじゃないか?】
「いいさ。アーマーライノってやつを倒して持ってくればいいんだろ? 残っているってことは彼等には倒せないんだから、倒せばそれでわかるさ」
【ほう。……その通りだな】
僕の言葉にニヤリと笑うレムニティ。嘲笑していた冒険者達は舌打ちをしながらこちらを睨みつけていた。
リクさんならこれくらいは言うだろう。……まあ、実際は心臓がどきどきしているんだけど。
「わふわふ」
「お、もう出ていくのか……?」
「ちょっと依頼を。行ってきます」
門番さんが不思議そうな顔をしていたので、苦笑しながら町の外へ。そのまま出現位置であると言われている、西の草原へと足を運んだ。
「背の高い草が多いなあ。ファング、自分で歩けるかい?」
「わふ!」
【アーマーライノならそれなりに大きい。すぐに見つかるはずだ。水辺で張っておくのもいいかもしれない】
「よし、それじゃ行こう」
少しずつ慎重に歩いて行き、草原から林に差し掛かったところで――
「きゃああ!?」
「……!? 女の子の悲鳴……!」
【近いな】
「そういう時は急ぐんだよ……!? 行くぞ!」
――女の子の悲鳴を聞き、僕達は先を急ぐことにした。
「あ、はい……」
宿屋の親父さんが苦笑しながら僕達を見送ってくれた。宿を出てその場でため息を吐くと、ファングがつぶらな瞳を向けて尻尾を振りながら足に抱き着いてくる。
「まいったなあ。お金の管理はリクさんがやっていたから持っていないんだよ」
【金か。我々魔族にも通貨が無いわけではないが、人間……まして世界が違うのだから使えないな】
「そこは期待していないし、できないよ。さて、どうするかな……」
財布はあるけど日本の通貨じゃ意味がない。レムニティと同じなのだから。となると稼ぐしかないんだけど、なにをするべきか?
「日雇いのバイトとかあるかな」
【稼ぐのか? なら、いい手があるだろう】
「ホント?」
【ギルドとやらに戻って仕事を受ければいいんじゃないのかい? 金をやり取りしている人間達が居た】
「あ」
……確かに。
小説とかだと主人公はギルドで依頼を受けて物語が進むものだ。立ち寄ったギルドにも依頼を貼った掲示板があったはず。
「レムニティの言うとりだ。行こうか」
【ああ】
「わふーん」
甘えた声を出すファングを抱っこして再びギルドへ向かうことにした。水樹はどこかに居るみたいだけど、夏那やリクさん、レスバは大丈夫だろうか? 二人はスマホがあるけどレスバは持ってないしなあ。
まあ、魔族達は空も飛べるし戦闘力は高いので簡単にやられないと思うけど……
「……あの転移魔法は厄介だな」
【そうだな。次に相対した際、また飛ばされて終わりだ】
「っと、声に出てた?」
【ああ。意図していないなら気をつけておくのだな。ただ、私とフウタはアレに対して少し有利になったが】
「どういうこと?」
【後でゆっくり話そう。まずは金だ。腹も減って来たし、食事もしたい。だなファング】
「わん!」
レムニティにはなにか考えがあるのか? 尋ねようと思ったところで、ギルドに到着して話を変えた。
それはともかく真顔で腹が減ったと口にし、ファングを撫でる彼はなんだか面白かった。冗談じゃなく本気で言っているからね。
「オッケー、僕も依頼は初めてだけどなんとか稼いでみよう!」
そして再びギルドの扉を開けて受付へ。
「いらっしゃ……あら、さっきの。なにか忘れ物ですか?」
「忘れたというか落としたというか……宿に泊まるお金が無くて、なにか依頼を受けたいと思っているんですけど」
「財布を落としたの!? それは大変ね……うーん、今日はもう割のいい依頼は無かったかな。今日引き受けた依頼はまだ精査中だし……」
「なんでもいいです。食事ができるくらいのお金でも」
物語でよくある『朝に全部いい依頼はもっていかれる』というやつらしい。受付の女性が掲示板を見ていると、スッとレムニティが前に出て一枚の張り紙を剥がした。
【これでいい。結構な金になるだろう?】
「えっと……ええ!? これってアーマーライノの討伐!? この魔物はかなり強いですよ! 最低Bランク以上はないと……」
【Bランク?】
「ああ、レムニティは知らないよね。ギルドでこういうカードを作るんだけど、強さによってランクで分けられるんだ。お姉さん、僕は多分大丈夫です」
レムニティに説明をしながらカードを見せる。受け取った女性が目を細めて確認してくれた。
すると、すぐに目を大きく見開いて驚いていた。
「Bランク……!? あんまり戦うって感じがしないのに……」
「あはは……」
【なるほど、そういうことか。フウタは間違いなく強いぞ】
「ありがとうレムニティ。ちなみに彼は僕よりも強いですよ。最近、田舎から出てきたからカードは持っていないんですけど」
そう説明すると、女性がカードを僕に渡しながら僕達を交互に見ていた。そこで僕に抱えられているファングの頭を撫でだした。
「よくみればこの子もホワイトウルフ……何者なんですか……? ま、まあ、それはともかくアーマーライノを倒してくれるならこちらも助かります。受領していいですか?」
「もちろんです!」
返事をすると女性はにっこりと微笑んだ後、受領のハンコを押し、張り紙の一部を切り取って僕に差し出して来た。
「これは?」
「受領証です。倒した後、それと個体を運んで依頼完了ということになります。これが個体の絵になります」
「あ、そういうことですね。分かりました」
受領証は大事に持っておかないととポケットに入れておく。サイみたいな魔物だなと思いつつお礼を言い、そのままギルドを出るため踵を返す。
「ふうん、坊ちゃんっぽいのがアレをねえ」
「くく、泣いて帰ってくるんじゃねえの?」
「だけどBランクらしい」
「金で買った、とか? たまにそういうギルドもあるらしい――」
「となりの兄ちゃんが強そうだし、あいつに――」
「財布を落としたって、ドジだねえ」
途中で僕達の話を聞いていた冒険者達があえて聞こえるようにそんな話をしていた。レムニティが目を細めてそちらを見ると、そそくさと視線を逸らす。迫力あるからなあ。
【……まったく、人間は身の程を知らないな。分からせた方がいいんじゃないか?】
「いいさ。アーマーライノってやつを倒して持ってくればいいんだろ? 残っているってことは彼等には倒せないんだから、倒せばそれでわかるさ」
【ほう。……その通りだな】
僕の言葉にニヤリと笑うレムニティ。嘲笑していた冒険者達は舌打ちをしながらこちらを睨みつけていた。
リクさんならこれくらいは言うだろう。……まあ、実際は心臓がどきどきしているんだけど。
「わふわふ」
「お、もう出ていくのか……?」
「ちょっと依頼を。行ってきます」
門番さんが不思議そうな顔をしていたので、苦笑しながら町の外へ。そのまま出現位置であると言われている、西の草原へと足を運んだ。
「背の高い草が多いなあ。ファング、自分で歩けるかい?」
「わふ!」
【アーマーライノならそれなりに大きい。すぐに見つかるはずだ。水辺で張っておくのもいいかもしれない】
「よし、それじゃ行こう」
少しずつ慎重に歩いて行き、草原から林に差し掛かったところで――
「きゃああ!?」
「……!? 女の子の悲鳴……!」
【近いな】
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――女の子の悲鳴を聞き、僕達は先を急ぐことにした。
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