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九章:風太
224.風太とレムニティ
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――魔空将レムニティ
ヴァッフェ帝国でリクさんが倒した魔族の一人だ。
だけど確かにあの時、謁見の間で彼の首を僕は見た。さらに言えば目の前で灰にしたところも。
「……」
【腑に落ちない、という顔だな】
「そりゃ……そうなるよ。だってリクさんに倒されて死んだはずのあなたがこうしてここに居ること自体、おかしいんだし」
【そうだな。だけど勘違いして欲しくないが、私は最初から死んではいないのだ】
「え?」
僕の問いにフッと笑みを浮かべてそんなことを口にした。
「どういう……」
【言葉通りの意味だ。私と勇者は一騎打ちをし、私は敗れた。だが――】
◆ ◇ ◆
【フッ、私の……負けだ……トドメを刺せ】
「……」
【……? どうした】
勇者は私の顔に剣を向けたまま神妙な顔で止まっていた。なにかを計るような、そんな表情で。しばらく沈黙が続いた後、リクと呼ばれていた勇者はあろうことか剣を収めた。
【どういうつもりだ?】
「……ここでお前を殺す必要があるのかと思ってな。どうだレムニティ、俺と取引をしないか?」
【取引、だと……?】
ボロボロになった体を起こすと、リクはしゃがんでから私と目線を合わせてそう口にした。どうせ負けた身だ、話くらいは聞いてもいいと思っていた。……魔王様に影響を及ぼすような取引なら受けるつもりは無いが。
「簡単な話だ。お前、俺達についてこい」
【なんだと?】
「正直、お前が俺のことを覚えていないことがおかしくてな。セイヴァーも俺が倒した魔王の名だ。ということはこの世界に居る魔族は俺が知っている奴等ばかりのはず。なのにお前は俺を知らない」
【……】
何度か質問をされた話の繰り返しだった。私は本当にこの男を知らない。勇者と言われれば納得する強さだが、今まで生きてきた中で視たことはない。
「これは俺の推測だが、お前は違うんだ。聖女の婆さんがお前達も異世界からの来訪者と言っていたわけだが、セイヴァー以外はもしかするとこの世界で創り上げたか、召喚した可能性がある」
【創り……変えた、というならまだわかるが……召喚だと?】
気づけば私はリクの話を真面目に聞いていた。何度も自分を知らないかと尋ねるこの男に興味を覚えたのかもしれない。そして召喚と口にした。その意味は――
「……お前は俺が、俺達が居た世界から召喚されたんじゃねえかって思っている。お前を倒した記憶があるからパラレルワールドのお前だろうが」
【よく、わからないな……】
「こういうことさ――」
◆ ◇ ◆
【――そこでヤツが口にしたのは『並行世界のレムニティを召喚したのではないか』というものだったのだ】
「リクさんはあの時点でもうそのことに気付いていたのか……」
「わふ」
「わあ!? ファング、落ち着けって」
座り込んでいる僕にファングがじゃれてきて懐に抱っこする。するとレムニティはファングを指差して言う。
【そいつはリクがあの時、私の目の前で召喚したのだ。理論はできていたらしい】
「やっぱりリーチェの言う通り知っているファングだったのか……」
【いや、やはりパラレルなんとかと言っていた。リクや魔王様が居た世界とはずれているらしい】
「へえ……」
そういえば知っている個体より少し小さいみたいなことを言っていた覚えがある。
【そしてリクの言う魔王様の本当の目的を知るため、私は傷を癒すためにファングに憑依していたのだ】
「そうなの!? できるんだ……」
【なにを言う。アキラスとて姫の身体に入っていただろう?】
「ああ、そういえば」
そうだった。
アキラス以外はそういった手段を使っていなかったから失念していたなとちょっと考えを改めた。そこでもう一つの疑問を尋ねてみる。
「じゃああの首はなんだったんだい? 死んだ証拠として持ち帰ったものだけど……」
【あれはその辺の魔物を倒して変化させたものだ。よく分からないがそういう魔法と聞いている】
変貌かと僕はピンときた。瞬間、レムニティは首を振る。
【……魔族は絶命すると人間と違い灰になる。憑依している時はそのまま形が残るものだが、首だけにという状況は有り得ないのだ】
「そういえば……アキラスもドーナガリィもガドレイも灰になっていた……よくあんなことしたなあリクさん……」
一歩間違えれば疑いがかかる。レムニティを仕留めたという証拠は欲しいけど、恐ろしく派手な方法を選んだものだと背筋が冷えた。
【まあ、灰になるということを知っていれば『証拠は残らない』のだから確認のしようは無いのだが】
「確かに。でも、クラオーレ陛下達に確実な援助を求めるならそういう分かりやすい手を使うだろうなって気もするよ」
【ふん、なるほど。流石は奴の弟子というところか。よく分かっているな】
「どうも。あなたもよく協力してくれる気になったと思うよ」
【……不可解は不可解だったのでな。結果、そういうことだったわけだが】
レムニティは魔王がそうではなかったということを目を瞑って呟いていた。
実際、記憶のあるレスバやビカライア、ハイアラートといった人達は騙されていたと言っても過言ではないのだから。
それにしてもリクさんはあの時すでに召喚ができたのか……もしかしたらいつも読んでいた文献……あれになにかヒントがあったのかも? 今となっては確認しようも無い――
「って、そういえばここはどこだろう!?」
【そういえばとりあえずお前達を運んできただけだから場所までは気にしていなかったな】
「オッケー。……ふう、焦るな……ひとつずつ確認していけばいい――」
話の途中で飛ばされたからあの後どういった話になったか分からないけど、やることは一つしかない。
そう、もう一度あの島へ行く。そのためにはヴァッフェ帝国に行かなければならないのだ。
「とりあえず移動しよう。ファング、おいで。レムニティも来てくれるかい?」
「わん!」
【そうだな……私としても仲間が居るので戻るべきだと判断する。飛んで行った方が早いと思うが?】
「まずは情報収集をしないと。それに飛んでいたら魔族だって知られてしまう。今は人間を敵に回すのは避けたいんだ」
【……なるほど。では偽装するとしよう】
「助かるよ」
レムニティは理解したと騎士風の姿に変わった。レスバと同じく耳は短くなり、肌の色も概ね僕と同じになった。
「いいじゃない。レスバもそうだったけど、上手くすれば人間と共存できそうなんだけどなあ」
【それが魔王様の命令ならやらなくはない。私とて戦争をしたいわけではないのだから】
「……それもどうかと思うけど、ね」
【どういうことだ?】
自分が無い、か。なんとなくリクさんが魔族を見ていた目というのが分かった気がする。
ブライクさんやハイアラートなんかもそうだったけど、魔王ありきなんだなって。
逆に言えばレスバやメルルーサさんは特殊な感じだなと今ならそう思う。
……さて、それよりも先のことだ。どこかに町があるといいけど。
ヴァッフェ帝国でリクさんが倒した魔族の一人だ。
だけど確かにあの時、謁見の間で彼の首を僕は見た。さらに言えば目の前で灰にしたところも。
「……」
【腑に落ちない、という顔だな】
「そりゃ……そうなるよ。だってリクさんに倒されて死んだはずのあなたがこうしてここに居ること自体、おかしいんだし」
【そうだな。だけど勘違いして欲しくないが、私は最初から死んではいないのだ】
「え?」
僕の問いにフッと笑みを浮かべてそんなことを口にした。
「どういう……」
【言葉通りの意味だ。私と勇者は一騎打ちをし、私は敗れた。だが――】
◆ ◇ ◆
【フッ、私の……負けだ……トドメを刺せ】
「……」
【……? どうした】
勇者は私の顔に剣を向けたまま神妙な顔で止まっていた。なにかを計るような、そんな表情で。しばらく沈黙が続いた後、リクと呼ばれていた勇者はあろうことか剣を収めた。
【どういうつもりだ?】
「……ここでお前を殺す必要があるのかと思ってな。どうだレムニティ、俺と取引をしないか?」
【取引、だと……?】
ボロボロになった体を起こすと、リクはしゃがんでから私と目線を合わせてそう口にした。どうせ負けた身だ、話くらいは聞いてもいいと思っていた。……魔王様に影響を及ぼすような取引なら受けるつもりは無いが。
「簡単な話だ。お前、俺達についてこい」
【なんだと?】
「正直、お前が俺のことを覚えていないことがおかしくてな。セイヴァーも俺が倒した魔王の名だ。ということはこの世界に居る魔族は俺が知っている奴等ばかりのはず。なのにお前は俺を知らない」
【……】
何度か質問をされた話の繰り返しだった。私は本当にこの男を知らない。勇者と言われれば納得する強さだが、今まで生きてきた中で視たことはない。
「これは俺の推測だが、お前は違うんだ。聖女の婆さんがお前達も異世界からの来訪者と言っていたわけだが、セイヴァー以外はもしかするとこの世界で創り上げたか、召喚した可能性がある」
【創り……変えた、というならまだわかるが……召喚だと?】
気づけば私はリクの話を真面目に聞いていた。何度も自分を知らないかと尋ねるこの男に興味を覚えたのかもしれない。そして召喚と口にした。その意味は――
「……お前は俺が、俺達が居た世界から召喚されたんじゃねえかって思っている。お前を倒した記憶があるからパラレルワールドのお前だろうが」
【よく、わからないな……】
「こういうことさ――」
◆ ◇ ◆
【――そこでヤツが口にしたのは『並行世界のレムニティを召喚したのではないか』というものだったのだ】
「リクさんはあの時点でもうそのことに気付いていたのか……」
「わふ」
「わあ!? ファング、落ち着けって」
座り込んでいる僕にファングがじゃれてきて懐に抱っこする。するとレムニティはファングを指差して言う。
【そいつはリクがあの時、私の目の前で召喚したのだ。理論はできていたらしい】
「やっぱりリーチェの言う通り知っているファングだったのか……」
【いや、やはりパラレルなんとかと言っていた。リクや魔王様が居た世界とはずれているらしい】
「へえ……」
そういえば知っている個体より少し小さいみたいなことを言っていた覚えがある。
【そしてリクの言う魔王様の本当の目的を知るため、私は傷を癒すためにファングに憑依していたのだ】
「そうなの!? できるんだ……」
【なにを言う。アキラスとて姫の身体に入っていただろう?】
「ああ、そういえば」
そうだった。
アキラス以外はそういった手段を使っていなかったから失念していたなとちょっと考えを改めた。そこでもう一つの疑問を尋ねてみる。
「じゃああの首はなんだったんだい? 死んだ証拠として持ち帰ったものだけど……」
【あれはその辺の魔物を倒して変化させたものだ。よく分からないがそういう魔法と聞いている】
変貌かと僕はピンときた。瞬間、レムニティは首を振る。
【……魔族は絶命すると人間と違い灰になる。憑依している時はそのまま形が残るものだが、首だけにという状況は有り得ないのだ】
「そういえば……アキラスもドーナガリィもガドレイも灰になっていた……よくあんなことしたなあリクさん……」
一歩間違えれば疑いがかかる。レムニティを仕留めたという証拠は欲しいけど、恐ろしく派手な方法を選んだものだと背筋が冷えた。
【まあ、灰になるということを知っていれば『証拠は残らない』のだから確認のしようは無いのだが】
「確かに。でも、クラオーレ陛下達に確実な援助を求めるならそういう分かりやすい手を使うだろうなって気もするよ」
【ふん、なるほど。流石は奴の弟子というところか。よく分かっているな】
「どうも。あなたもよく協力してくれる気になったと思うよ」
【……不可解は不可解だったのでな。結果、そういうことだったわけだが】
レムニティは魔王がそうではなかったということを目を瞑って呟いていた。
実際、記憶のあるレスバやビカライア、ハイアラートといった人達は騙されていたと言っても過言ではないのだから。
それにしてもリクさんはあの時すでに召喚ができたのか……もしかしたらいつも読んでいた文献……あれになにかヒントがあったのかも? 今となっては確認しようも無い――
「って、そういえばここはどこだろう!?」
【そういえばとりあえずお前達を運んできただけだから場所までは気にしていなかったな】
「オッケー。……ふう、焦るな……ひとつずつ確認していけばいい――」
話の途中で飛ばされたからあの後どういった話になったか分からないけど、やることは一つしかない。
そう、もう一度あの島へ行く。そのためにはヴァッフェ帝国に行かなければならないのだ。
「とりあえず移動しよう。ファング、おいで。レムニティも来てくれるかい?」
「わん!」
【そうだな……私としても仲間が居るので戻るべきだと判断する。飛んで行った方が早いと思うが?】
「まずは情報収集をしないと。それに飛んでいたら魔族だって知られてしまう。今は人間を敵に回すのは避けたいんだ」
【……なるほど。では偽装するとしよう】
「助かるよ」
レムニティは理解したと騎士風の姿に変わった。レスバと同じく耳は短くなり、肌の色も概ね僕と同じになった。
「いいじゃない。レスバもそうだったけど、上手くすれば人間と共存できそうなんだけどなあ」
【それが魔王様の命令ならやらなくはない。私とて戦争をしたいわけではないのだから】
「……それもどうかと思うけど、ね」
【どういうことだ?】
自分が無い、か。なんとなくリクさんが魔族を見ていた目というのが分かった気がする。
ブライクさんやハイアラートなんかもそうだったけど、魔王ありきなんだなって。
逆に言えばレスバやメルルーサさんは特殊な感じだなと今ならそう思う。
……さて、それよりも先のことだ。どこかに町があるといいけど。
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