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第八章:魔族との会談

217.俺を舐めるなよ?

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「何者……って魔王でしょ?」
「……」

 俺の言葉に夏那が冷や汗をかきながら俺の袖を引っ張る。口では魔王と言っているが、なにか違和感を覚えているのかもしれない。

【貴様……魔王様を愚弄するか! ご命令を! こやつらを倒す指示を!!】
「来る……!?」

 ハイアラートが激昂して立ち上がり、片手をこちらに向けてきた、風太が慌てて剣に手をかける。俺は一歩前へ出て三人を庇う位置へと移動した。

「リクさん……」
「あたしも――」

 水樹ちゃんが息を飲み、夏那がなにかを言おうとした。だが、そこでメルルーサが肩を竦めてハイアラートの肩に手を置いて言う

【落ち着いてハイアラート。リク、姿は魔王様ではなく聖女だから、ってこと?】
「いえ……メルルーサさん、そうだとしたらリクさんは『何者だ』とは問いません。ハッキリ、イリスさんだと口にするかと」
『確かにそうね』
「わふ」

 メルルーサの問いに風太が答えてくれた。その通り。俺はこいつがセイヴァーでもイリスでもないと判断して尋ねたのだ。

【(なにか誤解があるようだが……我は……私はセイヴァー。勇者よ、お前が最後に繰り出した斬撃が我の肩から胸に――)】
「そういうのは別に必要ない。俺は別にハッタリで尋ねたわけじゃないぜ?」
【(……)】
【なにか、確証足りえるなにかがある、と?】

 ビカライアが膝をついたまま俺に顔を向けて言う。そこでレスバも顔を上げて口を開いた。

【一回リクさんに致命傷を受けて聖女の身体になったってことでもありそうですけど……?】

 と、口にするが冷や汗が見える。
 そういやレスバとビカライアは記憶がある側の個体だったな。もしかしたらなにか違和感を覚えているのか?

「……まあ、アキラスと召喚の話でだいたい、な。水樹ちゃんか夏那、風太でもいい。こいつがハイアラート達を召喚時の話を覚えているか?」
「え!? ……ええっと……召喚の方法を覚えてから国を滅ぼしてから……あ!?」
「……!」

 水樹ちゃんが途中まで言ってから気づいたようだ。夏那と風太もどっと汗を噴き出させているところを見ると気づいたか?

「そう、は国を滅ぼしてからハイアラート達を召喚したと言った。そして『いつ、どこで、誰を』ある程度指定できる。こうも言ったな」
【……確かにそうだ。それがどうした?】
「気づかないかハイアラート? アキラスは誰を召喚した?」
【どうしたんですかリクさん? もうボケたんですか? 自分たちが召喚されたんじゃないですか! あはははは……はうあ!?】
「レスバも気づいたようだぜ?」
【なるほどね……】

 メルルーサも気づいたらしい。
 俺は深呼吸をした後、セイヴァーに向けて告げる。

「そう、セイヴァーはハイアラート達を召喚したとハッキリ言った。なら、どうして回りくどい真似をした? ある程度がつくなら直接その時に喚ばなかった?」
【(……)】
『そうよね、別の世界の存在がいけるならリクもいけるはずよ』
【(……勇者を喚べるのはやはり人間が適任だと思ったから――)】
「いや、やろうと思えばできたはずだ。もしセイヴァー、もしくはイリスであれば少なくとも、俺を知らないアキラスに任せることは無い。さっきの話を聞いてこいつが別のであることを確信した」

 もし人間しかできないということであっても、召喚を覚えられるヤツが俺を知らない魔族を派遣するとは考えにくい。

「さらに記憶の有無も理解しているならラストで顔を合わせたハイアラート、もしくはメルルーサが適任だ」
【(ハイアラートはここに置いておく必要があった……メルルーサは海の防衛が必要だろう?)】
「だったら攻める前にやってもよかったし、呼び戻しても良かったんじゃない?」
「夏那の言う通りだ。メルルーサさんは海をほぼ掌握していた。僕なら少しくらい呼び戻し、人間が必要ならいつもみたいに攫ってからやらせる」

 ヤツの言葉に夏那と風太が反論していた。俺でもあっちでは裏切者とはいえ、俺と関わっているヤツの方が確率は上がるはずだ。

「だから俺は訝しんだ。アキラスに任せて風太達を巻き込んだのはわざじゃないかってな」
『そんなことができるの?』
「さあな? だけど風太達を助けるために俺が巻き込まれた。……俺を狙っていることを隠したかったんじゃないか?」
「で、でもアキラスはリクを知らないんでしょ?」
【いや、そうでもない。過程は分からないが、向こうの世界で『勇者』と言えばリクになる。若い姿の人間と勇者の気配が近くにあれば誤認させられるかもしれん】
【ブライク、貴様も勇者の味方をするのか……!】
【俺は真偽を確かめたいとこいつらを連れて来た。それでも魔王様寄りだぞ?】
【わたしは命令されたら戦うかも……?】
「いい度胸ねレスバ?」
【あひん……!】

 不敵に笑う夏那はさておき、俺は続けて推測を口にする。

「これは可能性の話だが、もしかするとアキラスは捨て石だったんじゃないか? それともう一つ」
「まだ、なにかあるんですか……?」

 水樹ちゃんがそう呟く。

「ああ。……これは完全に想像だがアキラスは踊らされたんじゃないかと」
【(どういう、ことだ?)】
「アキラスは俺を人間に召喚させるようが頼んだ。だが、途中でが横やりを入れて『国を奪いつつ、勇者を戦力にせよ』というオーダーに変えた……」
【(……)】

 俺の言葉に水槽に浮かぶ身体がピクリと動くのを見逃さなかった。

「ってことは……セイヴァーはどこかの段階では居た……」
「そういうことだ。セイヴァーとイリスの口調を混ぜて混乱を狙っていたようだが逆に不自然だ」
【(……聖女の力は強い、肉体も聖女のものだからな)】
「ふん、さっきまで弱々しく話していたのに、今はやけに饒舌じゃないか?」
【(我は……私はいわば混合体だ、魔王であり聖女である)】
「……いいや、お前は違う。確実に」
【何を根拠に――】

 ハイアラートは興奮気味に口を開こうとしたが、俺は手で制止して続けた。

「呼び方だよ。さすがに覚えちゃいなかったようだが……さっきからこいてゃ『聖女』と口にしているが、セイヴァーはイリスのことを、ただ聖女とは言わない。『聖女イリス』と呼ぶ。何故かわかるか?」
【あ、そういえば……妹がいたわね】
「そう。あそこには聖女は二人いた。魔王のプライドと敬意をもって取り込んだ。中にイリスがいるならとも考えられそうだが、それこそ自分を聖女とは言わない。イリスはそういう奴だ」

 セイヴァーも自身を『魔王』と言うのは不自然だと思うがな。まあ、これはさすがにあそこで相対しただけだからわからないが。

「……さて、そういうことだ。俺が魔族達を始末しないでここに連れて来た理由はこの事実を突きつけるためだ。だってそうだろ? みんなお前が魔王だと思って従っているんだ。違う奴に忠誠は誓えないだろ?」
【(……)】
『それでか』

 リーチェがポツリと呟く。
 この世界においては魔族も被害者で、さらに別のなにかが干渉しているということになる。魔族は敵だが、風太達を帰すまで味方におくのも吝かではなかったということだな。

【フ……フフ……】
【ま、魔王様……?】

 まだ言えることはあるが、その前に水槽に浮かぶ身体から直接声が発せられた。
 さて、どう出る?
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