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第八章:魔族との会談

210.本題に入るのはスムーズにな

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氷嵐ブリザードブレス!】
「うわ!? だけど……!!」

 本気を出したメルルーサの魔法は周囲を氷の粒で囲い、夏那と水樹ちゃんを襲う。
 だが、夏那は臆することなく槍を手にメルルーサへと突っ込んでいく。さっきディサッピアーの弱点を見切ったから作戦があるか? そう思っていると、左手を前に出して魔法名を叫ぶ。

「この状況なら……<クリムゾンブラスト>!」
「おや、あいつ、あの魔法を習得していたのか」
「夏那は凄く頑張ってましたからね」

 風太がそういって拳を握って笑う。クリムゾンブラストはこの世界だと上位クラスの魔法で、婆さんのところで魔法の書物を見ていた時に使ってみたいと話していた。それを習得していたらしい。
 夏那の魔法は広範囲をカバーするもので、メルルーサの目の前で氷の粒と相殺し爆発を起こす。

【やるわね。そこ!】
「ぐぬぬ……!!」

 爆発で起こった蒸気の陰から槍を突き出すが、メルルーサは腕の刃でそれをしっかりガードする。その瞬間、水樹ちゃんの声が響き渡る。

「<フリーズランサー>!」
【側面からの奇襲か】

 腕を組んだブライクが少し感心した感じで呟いていた。しかし、メルルーサは水を操るのが得意な将軍だ。フリーズランサーは中級クラスなので――

【ふふ】
「……!」

 もちろんディサッピアーでそれは無効化される。……が、夏那はすぐにメルルーサに手をかざす。

「<ファイアアロー>!」
【……!?】

 ディサッピアーは集中しないと効果が出ない。先ほど夏那が口にしていた通り。そして今、水樹ちゃんの魔法を無効化しているため、若干のタイムラグが発生する。そこを狙ってのファイアアローだ。

【なるほど……! よく考えていますね……】
「お前達魔族は能力の高さが裏目に出るんだよ。あまり策を立てなくても力押しできることが多いからな。こっちは弱い人間だ。思考する癖がついているんだ】
【だから魔王様を倒せた、と?】
「そうだ」

 珍しくビカライアがそんなことを言うので、魔族の弱点を語ってやった。するとブライクと二人で神妙な顔になった。

「あ、リクさん!」
「お」

 風太が俺の袖を引っ張って戦闘の方を指さす。

「うおおお!」
「はあああ!」
【チィ……!】

 夏那のファイアアローはディサッピアーで無効化できずにいくつか被弾した。その困惑を狙って槍の柄で氷の刃を弾いてからさらに踏み込むと、槍を半回転させて切っ先を顔に向ける。
 そして水樹ちゃんはというと、木製のダガーを脇に突き付けていた。

「水樹ちゃんがダガーを……」
「はい! レスバとの訓練で最低限の近接を覚えた方がいいって水樹が言い出したんです」

 船は俺が操舵しているから目が届いていない時が多かったが、思っているより戦いに関して貪欲になっているらしい。魔王との接近が近いから、だろうな。
 トランプとかしていた割にそういうところはしたたかだなと苦笑する。
 
 それはともかく――

「これで終わり……ってことでいい?」
「降参、してください!」

 ――夏那と水樹ちゃんがそう言う。だが、メルルーサはまだ諦めていない。目がそう言っていた。

【甘いわね】
「ん!?」
「きゃあ!?」

 メルルーサの足が地面を潜り、夏那達の足に絡みついて引きずり倒す。だが、二人も負けてはいない。お互いの武器を振り回し、さらに魔法をぶっ放してメルルーサの身体にぶつけた。

【ぐぎゃ!?】
【ああ! メルルーサ様がカエルみたいな声を上げた……!】
「戻って来たのか」

 いつの間にか俺の隣にレスバが戻ってきてそんなことを叫ぶ。さて、これくらいにしておくか。

「よっと」
【……! 速い……】

 一足で三人の下に駆け付けて頭にチョップを食らわす。

【いたっ!?】
「きゃ!?」
「なによ!?」
「終わりだ。お互いの実力を見るのはこれくらいでいいだろ? どうだメルルーサ、新しい勇者は」

 涙目になっていたメルルーサに尋ねてみる。すると頭をさすりなが口を開いた。

【まあまあね。この子達も手加減をしていたし、私も本気ってわけじゃなかたけど足を使わされるとは思わなかったわ】
「今回は引き分けってところね」
【それでいいわ♪ リクは私のだけど】
「ダメですって!」
「やれやれ……」

 水樹ちゃんがメルルーサに掴みかかろうとするのを俺が止める。お互い本気で倒す気がないのは分かっていたからやらせてみたけどなかなかどうして夏那と水樹ちゃんの成長を見ることができるとは思わなかったな。

「まあ、お前と付き合うとかは無理だがな」
【つれないわねえ相変わらず。そういう堅いのがかっこいいんだけどさ。あなた達、名前は?】
「いたた……あたしは夏那よ」
「……水樹です」
【よろしくね、カナ、ミズキ! そっちの小さいのは久しぶりか】
『リーチェよ! 元気そうだけど、また魔王の手先に戻ったの?』

 リーチェが夏那の頭に乗ると、腰に手を当ててそう言う。もちろん顔見知りである。するとメルルーサは眉を下げてから肩を竦める。

【まあ、いきなり知らないところに来たら、ねえ? そういえばブライクとビカライアも一緒みたいだけどあんた達もリクの仲間になったの?】
【そうではない。だが、魔王様について色々と考えることがあってな。お前はこの男を覚えている。ビカライアもだ。……しかし俺は覚えていないのだ】
【おっと、なんか雰囲気が違うと思ったけどそうだったのね】
「気づかなかったの?」

 カナが首を傾げて『おかしいじゃない』と口にする。しかし、俺はそれが判断できるのは半々であることを知っている。

【そりゃあ、私達が集まっただけならお互いは知っているし、魔王様の一言でこの世界に来たって言われたら『そういうもの』だって認識になるわ。前の世界で死んだはずの将軍は魔王様が蘇らせたわけだし、記憶があろうがなかろうがあまり関係ないのも理由だわ】
「確かにそうかも……でもリクさんがいるかもしれない……ってことは無いか。別の世界だもんね」

 話が本題に入り、俺達は立ったままそんな話を続ける。そう、水樹ちゃんの言う通り『別世界から来たことを明言する必要が無い』のだ。もう少し、ブライクとメルルーサから詳しく話を聞こう。

 それにして色々と話が出来過ぎている……そう思うがどこまで魔王の思惑の内なのかがわからない。レムニティの失言で魔王が損傷していることは分かっている。
 記憶がある者と無い者が俺に関係している……やはり、俺がメインで風太達が巻き込まれた側なのか……?
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