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第八章:魔族との会談

206.目的と手段の悪手が浮き上がるな

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「暇ね」
『うん』

 航海五日目。
 夏那とリーチェという、ウチでも特にうるさい二人が甲板で海を見ながらそんなことを口にしていた。
 とりあえず聞かなかったことにしておこう。特にできることはないしな。
 今日もいい天気で、海も穏やか。風太とブライクが筋トレをしているのが暑苦しい。

「ん?」

 俺がそんなことを考えているとレスバが夏那達のところへ歩いて行くのが見えた。そういえば今日は水樹ちゃんが食事当番か。

【ごきげんよう。まあ、いいじゃありませんか平和なのが一番ですよ】
『魔族のあんたが言うなっての。そういえばビカライアは?』
【偵察中ですよ。人間が追いかけてくるとは思いませんが、なんかぶつぶつ言っていたので追い出……行ってもらいました】
「あんたってあいつには強気よね。確かに平和なのが一番だけど、なにもすることがないからさ。トランプでもあればちょっと違うと思うんだけど」
『とらんぷ?』
【なんですかそれは? 美味しい?】
「することがないっつってんのになんで食べ物なのよ……」

 三人からそんな話が聞こえてくる。そこで俺が少し高い位置にある操舵室から甲板へ降りた。

「あら、リク? 船は?」
「穏やかだし、しばらく真っすぐ進むから平気だ。夏那も訓練をしたらどうだ? 水樹ちゃんとかレスバはいい相手になるだろ」
「それもいいんだけど、なんだかんだで訓練の時間は取っているじゃない? 風太はそれ以上やっているけど。たまには娯楽……そう、息抜きも必要だと思わない♪」
「こら、くっつくな。日差しが強いから暑い」

 腕に絡みついてきた夏那を追い払うが、不満気に口を尖らせながらも離さない。まあいいかと俺は息を吐いた後、そのまま話を続ける。

「それじゃそんな夏那にこいつを渡そう」
「ん?」
「<収納ストレージ>」

 久しぶりに収納魔法を使い、何もない空間に手を差し込むと俺の通勤カバンを取り出した。就職してからずっと使っている馴染み深いカバンからプラスチックケースを手に取る。

「あ! トランプ!?」
【これがですか? 透明ですけどガラスじゃない……なんでしょう】
『これはわたしも初めて見るわね? 夏那達の世界にあるものなの?』
「俺も同じところ出身だぞ。まあ、これが夏那の言うトランプというやつだ。これでなにをするのかというと――」

 トランプをケースから出してシャッフルをする。マジックとかはできないけど、シャッフルの上手いやり方は暇な時によくやっていた。

【おおー、これはキレイですね! こうやって遊ぶものなんですね!】
「いや、これは余興って感じだな。本来の目的はゲームになる」
『げーむ?』
「というかなんで持っているのよ」

 リーチェが俺の頭に乗って尋ねてきた。夏那は知っているが、異世界の二人は流石に知らない。リーチェは俺の記憶を持っているというわけでもないからな。
 夏那がなぜ持っていたのか聞いてくるが、会社の昼休みでたまに使っていたんだよな。ジュース代を賭けたりとかな。
 そんなことを考えながらリーチェとレスバに、カードを裏返してマークと数字が違うことを見せる。

【ほう……鮮やかな絵ですね。これが数? 王と王妃……大臣ですか?】
「まあ、そんなところだ」
「そういえばあたし達、この世界の文字が読めるし書けるわね。今まで気にしていなかったけど……」
「この世界に来た際になにか頭の中が刷新されるんだ。俺も前の世界じゃ違和感が無かった。まるで最初からそうだったようにな」
『ねえねえ、これでどうやって遊ぶの! やってみようよ!』

 割と重要なことを夏那が気づいたのだが、まあ今さらだろう。城に居たころはそれどころじゃなかったし、その後すぐに旅立ったから考える余裕も無かったからな。
 そう考えるとこの航海はかなり珍しくゆっくりしていると思う。それはともかくリーチェが俺の前髪を引っ張って催促してくるので話を――

「夏那、後は頼む」
「え!? ここまで話しといてあたしに振るの!? ま、まあ、いいけどさ。って、どこいくのよ」
「操舵室に戻るぞ? 遊び道具は渡したんだそれでいいだろ?」

 片手を上げて戻ろうとしたら夏那に呼び止められた。ひとまず暇つぶしができたからいいはずだと思っていると、リーチェが目の前に飛んできた。

『折角だしみんなで遊ぼうよ! ミズキを呼んでくるー』
「料理の邪魔をするなよ? ったく、魔族も居るのに呑気なことを言ってる自覚をもってくれ」
【ならフウタとブライク様も連れてきましょう。目の前にいれば大丈夫では?】
「あいつがやるわけねえだろ……」
【ふにゃ!? や、やってみます……!】

 と、笑顔で言うレスバの鼻を摘まんでやった。しかしめげずに風太達に声をかけに行く。風太はともかくブライクが人間の遊戯などするわけがない。

【ほう、殴り合い以外で勝負ができるのか?】
「トランプかあ、久しぶりだな」

 ……と、思っていたら割とノリ気でこっちにきやがった。

「お前らさあ……」
【なんだ? 俺がやってはいかんのか?】
「いや、マジで魔王のせいだったんだなって改めて思ったんだよ。人間を食い物にしなくて良かったんじゃないか、普通に飯食うし」
【……確かにな。勇者のお前が強いから手を出さないというのはあるが、そうでなくとも他の三人を攻撃しようとは思わないな。ミズキの飯は美味い】
「そうなんですか? ありがとうございます」
【まあ、わたしも一緒に生活していますし少なくとも仲良くなれないわけではないというのはありますよね】

 レスバがトランプをシャッフルする夏那に輝かせた瞳を向けながらそう呟く。するとそこで風太が口を開いた。

「やっぱり魔王の目的が気になりますね。そこまでする必要があったのか?」
【そればかりは聞いてみる以外にないな。今も勇者にやられた傷を癒すため眠りについておられる】
「……」

 さりげなく重要なことを口にしたなブライク? レムニティが口にしたように、俺と戦った後のままか。
 倒すのは難しくなさそうだが……イリス、お前はどうなっている……?

「なーに辛気臭い顔をしているのよ! ほら、ババ抜きを教えるから手伝って!」
「はは、わかったよ夏那」

 俺の頭の中とは裏腹に夏那達は呑気にトランプを始めた。まあ、後少し……それでこの旅は終わりだ。
 そう思いながら俺は仕方なくトランプに混ざることにした。

 そして――

【ぐっ……馬鹿な……】
「あんた顔に出過ぎなのよ」
『弱っ! ファングとわたしより弱っ!』
【あはははは! ブライク様……いひひひひ……5連敗……!】
【笑うな貴様】
【ああああああ!?】

 ――初めてプレイするブライクには荷が重く、余裕で負けていた。レスバに八つ当たりをしていたところで空に気配が現れ見上げる。

【……私が居ない時にいったいなにが……? いや、楽しそうですね……!?】
「あ、忘れてた」

 偵察にでていたビカライアが仲間はずれになっていたことに今、気づく。
 もちろんその後ルールを教えたが、ブライクとビカライアの一騎打ちにしかならないので、他のゲームをすることになった。
 
 そこからさらに2日。
 俺達は眼前に怪しい島を発見する――
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