上 下
94 / 130
第八章:魔族との会談

205.最初に倒した奴が一番の謎とはな?

しおりを挟む
【……】
「なにをしているんですか?」
【ん? 陽の光を浴びている。俺は光を司る将軍だからな。それとメルルーサの居場所を勇者に教えるためだな】

 食事が終わった後、メルルーサのところへ行くための航海を続ける。とはいえ、海の上でできることは多くないから各々時間を潰すために散っている。
 レスバと夏那は船のリビングに行き、ビカライアはそれについていった。水樹ちゃんはリーチェと一緒に、ここぞとばかりにファングを構い倒していた。

 そして筋トレをしていた風太が、船の先で腕組をしながら立つブライクに声をかけていた。あいつが魔族に声をかけるとは珍しいな。レスバ相手にもあまり話をしないからな。

「俺は勇者じゃねえって」
【俺からすればいつまで経っても勇者は貴様だ。魔王様もそうだろう】
「……どうかな」

 俺が苦笑していると風太が汗を拭きながら話を続けた。

「そういえばメルルーサという魔族も海に居るし、やっぱり属性ある土地だと強くなるってことなんですか?」
【それを教える義理はないが……】
「あ、そ、そうですね。すみません」

 ブライクが呆れたような顔で風太を見ていた。そりゃ、自分の戦力を相手に教える敵は居ないからな。
 慌てて離れようとする風太に助け舟を出そうとしたところで、ブライクは振り返り船の先に腰をかけた。

「?」
【まあ、勇者も居るし今更か。どうせ知っているのだろう?】
「今、言おうとしていたところだ」
「リクさん?」

 そこは流石に将軍か。もちろん俺は全員……いや、アキラス以外とは戦っているため概ねこいつら将軍がどんな存在か分かっている。それにブライクも気づいたのだろう。

「俺は実際に戦った人間だからな、風太の疑問は解消できると思うが……本物が言った方が説得力があるな」
【なにが本物だ。俺のみならず魔王様も倒した奴が】
「まあ、何度も言うが正当防衛ってやつだぞ? お前らが侵攻しなきゃ双方戦争になることは無かったんだ。倒すか倒されるか。あれはそういうものだ」
「仕掛けたのは魔族側でしたもんね」
【……】

 風太の言葉にブライクは特に答えなかった。仕掛けた側が負けたということは理解しているし、逆恨みをするような奴でもないから黙るしかない。

【正直、魔王様が敗れるとは思わなかったがな。で、俺達のことだったか。フウタといったな、お前の言う通り力を使おうと思えば適した場所があると有利になるな。特に火・水・地・風の連中は顕著だった】
「僕達が会ったのはレムニティとグラジール……確かに強かった」
「ちなみにグラジールは地底火山で戦ったが強かったぞ。性格もあってこっちを殺すことに躊躇がないから仲間を下がらせた。師匠と俺だけで戦ったな」

 溶岩とか操ってくるから面倒だったなという話をすると、風太が冷や汗をかいて目を見開いていた。

「僕達が触れたら一瞬で死んじゃうじゃないですか!?」
「おう、あれは怖かったぞ。魔妖精の盾シルフィーガードみたいな防御魔法が無いと一瞬で消し炭ってやつだ」
「ええー……」
【環境を大きく使えるのは有利になる。まあ、おまけみたいなものだが】
「あいつの敗因は人間を見下すところにあったからな。おまえやレムニティみたいな慎重な奴の方が面倒だった」
「うぉふ!」
「あら、どうしたのファング?」
『ミズキにお腹を撫でられて嬉しいんじゃない?』

 甲板の真ん中でファングが一声鳴いた。
 それに水樹ちゃんとリーチェがそんなファングを撫でまわしながらそんなことを口にする。

「おまけって言っても、グラジールがそんなことをできるならメルルーサが海上にいるってことはかなり有利ってことじゃないですか?」
【そうだな。ただ、あいつは戦闘能力はそこまで高くない。こうやって海を支配するなど戦闘以外の方が有能だからな】
「……アキラスも?」
【アキラスか、あいつも人間を下に見るからグラジールに近いが人間を操る手腕には長けていたな】
「あー。僕達もそれにやられかけました」
【冷静にことを運んでいればつけいる隙を見出す能力は高いな】
「リクさんが居なかったら危なかったからなあ……」

 風太がしみじみと頭を掻くが、俺は別のことを考えていた。何度か確認で口にしていたが、やはりブライクはアキラスを知っている。に、だ。
 
 これだけは未だに解消されない謎だ。レムニティは記憶が無く、グラジールは質問をする前に倒したしな。頼りはビカライアだが、別行動をしていたという情報しかない。
 
 これだと俺が倒した者のみ記憶が無いという考えていた前提はおかしくなる。アキラスは倒していないのに俺を知らない。
 会ったことが無ければ知らないのは当然だが、こいつの言う人間を操ることがあったのなら、俺を調査していてもおかしくないんだよな。
 
そうなると老けたとはいえ俺の顔を知らないということは無いはずと思った次第だ。本当に知らないならどうしようもないが俺が倒していないのに記憶がないパターンという、最初に倒した魔族なのに謎が多い奴になってしまった。

「で、ブライクさんは光ですけどこういうところだと強いってことですか?」
【そうだな】
「ブライク、あれを見せてくれよ。お前の最大魔法」
【ああ? 手の内を見せる真似ができるか……ってそういうってことは知っているのか……】
輝く球形の爆シャイニング・スフィアだっけ?」

 俺がニヤリと笑って言うと忌々しいという感じで口をへの字にして睨んで来た。しばらくすると、立ち上がってから船の左側に歩いて行き、海に向かって手をかざした。

 そして――

「うわああああ!?」
「きゃあ!?」
『なによいきなり!』

 ブライクから拳くらいの大きさをした光の球が撃ち出され、ブライクがぐっと手を握りこむと大爆発を起こした。
 割と遠くに撃ったが、それでも波が起こり船が大きく揺れた。

「す、すごい……」
【将軍ならこれくらいは余裕だ。お前は風が得意そうだな。レムニティが居れば切磋琢磨できたかもしれん】
「あいつも強かったけど、戦ったのはリクさんだったんですよね。確かにレムニティの大技を会得すればかなり強くなれたかもしれない……」
「わふわふ」
「ん? どうしたんだいファング? この揺れで動き回ると危ないよ」
『相変わらずの魔力ねえ。太陽の下だとかなり強いもんね』

 リーチェが呆れながらそんなことを言う。逆に言えばこいつがここで大人しくしてくれているのはかなりありがたいわけだ。その気になりゃ船を沈めればいいわけだしな。

 というか、やはり話しても分からないことは多い。やはりメルルーサが鍵になりそうだな。
 
 さらに航海は続く――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。