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第八章:魔族との会談
204.海上で会合をしとくか
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――洋上に出ておよそ一日が経過した。
現在、朝の8時半。
すでに俺達を追える人間はこの世界に居ないであろう海の向こうへと到着していた。見渡す限りの水は魔族に支配されているとは思えないほど穏やかで奇麗だった。
「天気が良くなったわね!」
『ほーら、この辺なら遊んでいいわよ。落ちないように!』
「きゅんきゅん!」
甲板には夏那とリーチェ、それとファングが出ており気持ちよく背伸びなどをしていた。ずっと馬車で窮屈だったせいかファングはふんふんと鼻を鳴らしながらウロウロしていた。
「リクー! 船の操舵はどう?」
「ん? ああ、悪くない。さすが帝国製ってところだな。舵輪で操作できるのは技術力が高い証拠だ」
「ふうん? ファング、おいでー」
「わふん♪」
一段高いところにある操舵室はガラスなんてないため吹き抜けているので甲板から声をかけられてもよく通る。
質問に答えたがあまりよく分かっていない夏那は首を傾げてすぐにファングの方へ興味を移した。
地球の中世では16世紀くらいまで舵輪なんてものはなかったのだ。ちなみに前の世界でも舵輪ができたのは俺の知識から新造した。
……まあ、こういうのがある程度であとは現地人が考えたんだけどな。普通の高校生は舵輪の仕組みなんて詳しく知らん。
「朝食が出来たよー!」
そうこうしている内に水樹ちゃんが甲板に料理を運んできた。
船内にリビングはあるが天気がいいので甲板で食べようと水樹ちゃんが提案し、特に断る理由もないので許可した。
【いやあ、この船って乗り物は空を飛べない人間にとって命綱ですね。あのノ、ノ……ノエルでしたっけ? あの人間がこだわった理由もわかりますね!】
「ノヴェルだよ……覚えていないなら無理しないでいいから」
水樹ちゃんに続いて料理をもったレスバと風太が甲板へ出てきた。妙なテンションでクルクル回りながら甲板に広げたテーブルに料理を置く。人間が、みたいなことを言っているが一番はしゃいでいるのはレスバである。
「リクさんは降りてこられますか?」
「ああ、大丈夫だ。風太、錨を降ろしてくれるか?」
「わかりました!」
風太に頼んで船首にある錨を下ろしてもらう。
これは木で作るわけにはいかなかったので、あの変な牡蠣魔物にかじられないよう完全な鉄製である。
沈んだ錨が固定されたのが分かったので俺は舵輪を止めて甲板へ降りた。
「お、美味そうだな」
「ふふ、いつものソーセージとスクランブルエッグですけどね。ジャムは2種類ありますから好きなのをつけてください」
【わたしベリー! ベリーがいいです!】
「お前はなんで朝からそんなにテンションが高いんだよ……」
さっと着席したレスバに呆れていると、足元にリーチェを乗せたファングがじゃれついてきた。
「うぉふ!」
「お前も元気だな? ファングはミルクだ」
「わんわん!」
『ソーセージも欲しいって』
「はいはい、後でな」
そういうとファングはしっかりお座りをして待つ体勢になった。そこで夏那が椅子に背を預け、空を指さして口を開く。
「あいつらはどうするの? そろそろ合流してもいいんじゃない?」
「あ、そうだな。レスバ、頼めるか?」
【ほいほい】
俺が指示すると懐から笛を取り出して聞こえない音を鳴り響かせた。
「犬笛だよねえ……」
「まあ異世界だしそういうものかもしれないわ」
「わんわん!」
『ファングには聞こえているみたいね?』
「やっぱそうじゃないか!?」
風太と夏那がレスバの笛吹きにツッコミを入れていた。夏那のいうとおり異種族は生活習慣や生態は全然違うから、魔族が特殊な周波数を聞き取れると言っても気にならない。
そして――
【呼んだか?】
【ようやく海に出られたようだな】
――数秒後にブライクとビカライアが青い空から降りてきた。
「ずっと空に居たのか?」
【まあな。目立たぬよう高いところからお前達のことは見ていた】
【勇者にしては人間を欺くのだな】
「勇者なんてちょっと強いだけの人間だぞ? お前たち魔族も含めて、前の世界で面倒くさい奴等も見てきたからな。あの対応で十分だ」
【なるほど、それは分かりやすい。それで何の用だ?】
ブライクが腕組みをして船のへりに腰を掛けながら言う。その言葉に水樹ちゃんがパンとスクランブルエッグを降りてきた二人に差し出した。
「これから話し合いをします。だけどその前にご飯を食べるんですよ。私達だけで食べるのも嫌なので、どうぞ」
【むう……】
【いいのか?】
「ウチのメンバーがそうしたいらしい。食ってくれ」
【うめえ……! 相変わらずミズキの料理は完璧ですね……!】
そんな会話の中、レスバはすでに飯を口に入れて舌鼓を打っていた。俺とブライク、ビカライアが呆れた目を向ける。
「……ま、ああいう感じだ」
【申し訳ない……】
なぜかビカライアが変な汗をかきながら謝って来た。あいつは魔族同士で生活していた時もああだったのだろうと気の毒になるな。
そんなわけで魔族と食事、特に将軍クラスと囲むとは思わなかったが朝食が始まる。
【ひとまずメルルーサのところでいいのか?】
「ああ。悪いがこのままお前達にはそこまで案内をして欲しい」
【分かった】
「やけにあっさり承諾したなあ……」
風太が目を丸くしていた。俺も気になっているが、ブライクの中で『俺と記憶の齟齬』は無視できないらしい。
だから恐らくメルルーサを含めた他の将軍とすり合わせがしたいというところだろうな。
【人間! ブライク様にそのような言い方を!】
「あ、ごめん。でもビカライアさんもレスバと同じで見た目、僕達と変わらないからさ。リクさんにとっては前の世界の悪の象徴だけど、こうやってご飯を食べていると特に」
【悪の象徴とか言うな……!】
「でもお前らに殺られたのは本当だからな」
【この世界でなら分かるが、そっちは覚えがないが。まあ、いい。とりあえず美味いなこの飯】
「レスバが食べられるから大丈夫だと思ってましたけど良かったです」
水樹ちゃんがそう言って二人へ話すと、口をへの字にしたビカライアがソーセージにかぶりつき、咀嚼しながら俺に質問を投げかけてきた。
【それにしてもどうしてメルルーサ様なのだ? 他の将軍でも良かったのではないか?】
「ん? ああ、どうせ魔王の下へ行くには船が必要だったからな。そのついでにお前達と会って話が通じた。だからさらについでにメルルーサに会うって話だ。魔王のところへ行った際に将軍が居るのは助かりそうだ」
【話によってはお前達に牙を剥くぞ】
「その時は倒すまでだ」
【……ふん】
ブライクは面白いと言わんばかりにニヤリと笑う。あんまり表情と言葉に感情が乗らない奴だが、そこは興味があるらしい。
さて、『こっち』のメルルーサはどうかね。俺はそんなことを考えながら夏那と水樹ちゃんを見るのだった。
現在、朝の8時半。
すでに俺達を追える人間はこの世界に居ないであろう海の向こうへと到着していた。見渡す限りの水は魔族に支配されているとは思えないほど穏やかで奇麗だった。
「天気が良くなったわね!」
『ほーら、この辺なら遊んでいいわよ。落ちないように!』
「きゅんきゅん!」
甲板には夏那とリーチェ、それとファングが出ており気持ちよく背伸びなどをしていた。ずっと馬車で窮屈だったせいかファングはふんふんと鼻を鳴らしながらウロウロしていた。
「リクー! 船の操舵はどう?」
「ん? ああ、悪くない。さすが帝国製ってところだな。舵輪で操作できるのは技術力が高い証拠だ」
「ふうん? ファング、おいでー」
「わふん♪」
一段高いところにある操舵室はガラスなんてないため吹き抜けているので甲板から声をかけられてもよく通る。
質問に答えたがあまりよく分かっていない夏那は首を傾げてすぐにファングの方へ興味を移した。
地球の中世では16世紀くらいまで舵輪なんてものはなかったのだ。ちなみに前の世界でも舵輪ができたのは俺の知識から新造した。
……まあ、こういうのがある程度であとは現地人が考えたんだけどな。普通の高校生は舵輪の仕組みなんて詳しく知らん。
「朝食が出来たよー!」
そうこうしている内に水樹ちゃんが甲板に料理を運んできた。
船内にリビングはあるが天気がいいので甲板で食べようと水樹ちゃんが提案し、特に断る理由もないので許可した。
【いやあ、この船って乗り物は空を飛べない人間にとって命綱ですね。あのノ、ノ……ノエルでしたっけ? あの人間がこだわった理由もわかりますね!】
「ノヴェルだよ……覚えていないなら無理しないでいいから」
水樹ちゃんに続いて料理をもったレスバと風太が甲板へ出てきた。妙なテンションでクルクル回りながら甲板に広げたテーブルに料理を置く。人間が、みたいなことを言っているが一番はしゃいでいるのはレスバである。
「リクさんは降りてこられますか?」
「ああ、大丈夫だ。風太、錨を降ろしてくれるか?」
「わかりました!」
風太に頼んで船首にある錨を下ろしてもらう。
これは木で作るわけにはいかなかったので、あの変な牡蠣魔物にかじられないよう完全な鉄製である。
沈んだ錨が固定されたのが分かったので俺は舵輪を止めて甲板へ降りた。
「お、美味そうだな」
「ふふ、いつものソーセージとスクランブルエッグですけどね。ジャムは2種類ありますから好きなのをつけてください」
【わたしベリー! ベリーがいいです!】
「お前はなんで朝からそんなにテンションが高いんだよ……」
さっと着席したレスバに呆れていると、足元にリーチェを乗せたファングがじゃれついてきた。
「うぉふ!」
「お前も元気だな? ファングはミルクだ」
「わんわん!」
『ソーセージも欲しいって』
「はいはい、後でな」
そういうとファングはしっかりお座りをして待つ体勢になった。そこで夏那が椅子に背を預け、空を指さして口を開く。
「あいつらはどうするの? そろそろ合流してもいいんじゃない?」
「あ、そうだな。レスバ、頼めるか?」
【ほいほい】
俺が指示すると懐から笛を取り出して聞こえない音を鳴り響かせた。
「犬笛だよねえ……」
「まあ異世界だしそういうものかもしれないわ」
「わんわん!」
『ファングには聞こえているみたいね?』
「やっぱそうじゃないか!?」
風太と夏那がレスバの笛吹きにツッコミを入れていた。夏那のいうとおり異種族は生活習慣や生態は全然違うから、魔族が特殊な周波数を聞き取れると言っても気にならない。
そして――
【呼んだか?】
【ようやく海に出られたようだな】
――数秒後にブライクとビカライアが青い空から降りてきた。
「ずっと空に居たのか?」
【まあな。目立たぬよう高いところからお前達のことは見ていた】
【勇者にしては人間を欺くのだな】
「勇者なんてちょっと強いだけの人間だぞ? お前たち魔族も含めて、前の世界で面倒くさい奴等も見てきたからな。あの対応で十分だ」
【なるほど、それは分かりやすい。それで何の用だ?】
ブライクが腕組みをして船のへりに腰を掛けながら言う。その言葉に水樹ちゃんがパンとスクランブルエッグを降りてきた二人に差し出した。
「これから話し合いをします。だけどその前にご飯を食べるんですよ。私達だけで食べるのも嫌なので、どうぞ」
【むう……】
【いいのか?】
「ウチのメンバーがそうしたいらしい。食ってくれ」
【うめえ……! 相変わらずミズキの料理は完璧ですね……!】
そんな会話の中、レスバはすでに飯を口に入れて舌鼓を打っていた。俺とブライク、ビカライアが呆れた目を向ける。
「……ま、ああいう感じだ」
【申し訳ない……】
なぜかビカライアが変な汗をかきながら謝って来た。あいつは魔族同士で生活していた時もああだったのだろうと気の毒になるな。
そんなわけで魔族と食事、特に将軍クラスと囲むとは思わなかったが朝食が始まる。
【ひとまずメルルーサのところでいいのか?】
「ああ。悪いがこのままお前達にはそこまで案内をして欲しい」
【分かった】
「やけにあっさり承諾したなあ……」
風太が目を丸くしていた。俺も気になっているが、ブライクの中で『俺と記憶の齟齬』は無視できないらしい。
だから恐らくメルルーサを含めた他の将軍とすり合わせがしたいというところだろうな。
【人間! ブライク様にそのような言い方を!】
「あ、ごめん。でもビカライアさんもレスバと同じで見た目、僕達と変わらないからさ。リクさんにとっては前の世界の悪の象徴だけど、こうやってご飯を食べていると特に」
【悪の象徴とか言うな……!】
「でもお前らに殺られたのは本当だからな」
【この世界でなら分かるが、そっちは覚えがないが。まあ、いい。とりあえず美味いなこの飯】
「レスバが食べられるから大丈夫だと思ってましたけど良かったです」
水樹ちゃんがそう言って二人へ話すと、口をへの字にしたビカライアがソーセージにかぶりつき、咀嚼しながら俺に質問を投げかけてきた。
【それにしてもどうしてメルルーサ様なのだ? 他の将軍でも良かったのではないか?】
「ん? ああ、どうせ魔王の下へ行くには船が必要だったからな。そのついでにお前達と会って話が通じた。だからさらについでにメルルーサに会うって話だ。魔王のところへ行った際に将軍が居るのは助かりそうだ」
【話によってはお前達に牙を剥くぞ】
「その時は倒すまでだ」
【……ふん】
ブライクは面白いと言わんばかりにニヤリと笑う。あんまり表情と言葉に感情が乗らない奴だが、そこは興味があるらしい。
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