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第八章:魔族との会談

202.信用できないのはお互いさまってことだ

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「……」
『大丈夫、見張りは居ないわ』
「流石にレムニティを倒しているから警戒が緩んでいるわね」

 ――早朝

 まだ陽が登っていない内から俺達は荷物をまとめて宿をチェックアウトして夜の町中を歩いていた。
 目的地はもちろん港だ。
 森での一件でノヴェルに疑いをもたれているというのが分かったので、本来明日出る予定を早めてさっさと出港をすることにしたのだ。
 いざ出港日になって『ちょっと待て』と言われるのが面倒だから黙って出ていくことにした。
 船は書面で俺達のものだと証明できるものもあるため、乗って行っても問題ないしな。

 町の中は静寂に包まれているため馬車とハリソン達の足音がやけに大きく聞こえる。開いている店は酒場だが、客足はそろそろ遠のく時間なので喧騒はあまり無い。

「変に思われないでしょうか?」
「ま、港まで行けば後はどうとでもなる。最悪ここに戻る必要もない」
「そうですね。やっぱりリクさんの言う通り、帝国は油断できないしこのまま離れるのがいいと思います」

 水樹ちゃんの言葉に返していると、風太が渋い顔で口を開く。
 確かに魔族を味方につけているが、レムニティを倒したという事実があるのに疑ってくるのはどうなのかと。

「気にするな風太。利用して利用されてってのはよくあるしな。俺はあんまり気にしてないぜ? なあ、ファング」
「わふ」
『教団の連中とかあったわねえ』
「なにそれ?」
「その内話してやるよ。港だ、念のため気を引き締めておけ」
「うん!」

 夏那が頷き、荷台で槍を肩に担いで御者台から顔を覗かせていた。俺は港の入口に居る二人の見張り騎士へと声をかける。

「おはようございます。出港したいんだが通してもらえるかな?」
「おや、これは皆さまお揃いで。出港は明日だと聞いていましたが行かれるのですか?」
「ああ。ちょっと早いがここでやることも無くなったし、もう出ようと思うんだ」
「なるほど。新しい魔族の襲来も無いですし、本当にお世話になりました」

 騎士がそう言って頭を下げながら道を開けてくれた。すれ違う際、夏那が口を開く。

「ありがとうございます! 皆さんも頑張ってくださいね。聖木があれば船の再建築もできるでしょ」
「ですね。海洋騎士団が喜びますよ」

 そう言って片手を上げて見送ってくれる騎士達。
 俺達はそのまま前へ進み、自分たちの船へと向かっていった。波の音が聞こえてくる中、月明りだけで船を見つけると乗り込むための板を繋げて馬車を乗り込ませた。

「ふう、こいつらを乗り込むませるのが一番大変なんだが、さっと終わって良かったぜ」
「確かに……はあ、そうですね。エスカレーターみたいなのが無いから押さないといけないですし」
「結構急な角度よね。ふう……」
「それじゃ行きましょうか」

 三人が馬車の積み込みに疲れているなか、馬達は『ありがとうございます』といった感じで鼻を鳴らしていた。
 とりあえず荷物は荷台にあるし、後はロープを外して接舷から解放するだけとなった。

 すると――

「待て……! お前達、なぜ出港している!」
「おっと、ノヴェルか」
「ロープを外しますね」

 ノヴェルと数人の騎士が港へ入ってきて遠くから大声をあげながら駆けてきた。水樹ちゃんがロープをほどくと、操舵のレクチャーを受けた風太を操舵室へ行かせる。

「別にお前達の許可は要らないだろ? 明日が今日になった、ただそれだけだ」
「陛下に挨拶も無しに……! やはりなにか隠しているな!」
「そう言われてもな。あんまり言いたくないがこの国を魔族から解放したのは俺達だ。聖木も持って帰った。貢献度はかなり高いと思うんだがね?」
「ええい、少なくとも陛下に挨拶をしないのは無礼だろうに……!」

 話の分からん奴だな。
 陛下には事前に言ってあるし、それ以上に世話をしたと思う。こいつにしてみれば出航できるようになったのだから感謝されてもこんなことを言われる筋合いはねえんだよな。

「てめえがそんなんだから魔族に後れを取るんだよ。確かお前は海洋部隊の副団長だったな? 団長はどうした。お前が勝手に動いて引っ掻き回しているんじゃねえか?」
「貴様……! 行かせるな! 矢を放て!」
「し、しかし、それは流石に……」

 そりゃそうなるだろと俺は肩を竦める。牽制はしておくべきかと声を大にして告げることにした。

「おい、それをやったら大問題だがわかってんのか? なにを考えているか知らないがノヴェル、やっていることは魔族以下になるぞ」
「魔族と同じだと……! ふざけるな私のどこが――」
「その身勝手なふるまいそのものが、ですよ。私達は何人か魔族を見てきましたが、本質はそこだと思います」
【あれ……!?】
「あんたは黙ってなさい」
「ぐ……」

 水樹ちゃんにぴしゃりと言われて言葉に詰まるノヴェル。レスバはとりあえず夏那が船の奥へと追いやった。続けて俺はノヴェルに告げる。

「お前の言っていることも理解できる。俺だって魔王は憎いし、魔族も自分勝手で人間をなんとも思っていないような奴が多い。だけど、恩人に剣を向けるのかお前は?」
「……」
「こっちはなんとかする。お前達は備えだけしておけばいい」
「お前は……一体何者なんだ……」
「ただの冒険者さ。じゃあな、頑張って船を再建してくれ」

 そういうとノヴェルは訝しんだ顔のまま立ち尽くして俺達を見送る形になった。攻撃されても厄介なので魔妖精の盾シルフィーガードを用意しておく。

 だが、攻撃が飛んでくることは無かった。

「仕掛けてきませんでしたね」
「魔族に恨みがあるってのは分かるが、同じことをやっていると言われりゃさすがに手は出して来ないだろ」
「とりあえずこれでやっと海に出られたわね」


 夏那が戻ってきて岸を見ながら口を開く。食料もあるし、船の上ならそうそう手を出して来れる奴もいないからようやく邪魔をされないという意味でも『やっと』というところだな。

【岸に居る騎士とはなかなか感慨深いですねえ】
『あ、また出てきた!』
【人をゴーストみたいに言うのは止めてくれませんかねえ!?】
「はいはい、とりあえずきちんと内装が機能しているか確認しに行くわよ」

 レスバのダジャレに突っ込みを入れるリーチェをつまんで、夏那達が船の中へ消えていく。

「……じゃあな。多分戻ってくることも無いだろうが――」

 恐らく一番長くいたであろう、遠くなっていくヴァッフェ帝国を見ながらそんなことを呟くのだった――


◆ ◇ ◆


「……」
「ノ、ノヴェル様……」
「いい。ひとまず陛下に報告だ」
「承知しました」

 遠ざかっていく船から視線を逸らして部下に指示を出す。

「(くそ……魔族と同じだと……? 団長に大けがを負わせた相手と同じなわけがない! ……あいつは魔族について知りすぎている。まさかとは思うが、奴自身が魔族なのではないか?)」

 そこまで考えてノヴェルは首を振る。

「いや、考えすぎか。魔族であれば同族を殺すような真似はしない、か――」

 そしてクラオーレに報告へ戻ると―― 
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