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第八章:魔族との会談

200.目が曇っているぜ?

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「どうしたんですか?」
「お客さんらしい。悪いがここは任せる。ブライク達に話を聞いておいてくれ」
「いいんですか?」
「こいつらとお前達が戦うとほぼ互角。下手なことをしたら俺が戻ってくるから心配するな」
【ほう……そこまでか】

 ブライクが興味深げに呟く。俺は首だけ振り返ってから片手を上げて返す。

「模擬戦ならいつかやってもいいかもしれないな。それじゃ行ってくる」
「気を付けてくださいねー」
『こっちは任せておいて!』

 水樹ちゃんとリーチェの声を背中に受けながら俺は来た道を戻っていく。さて、俺達をつけてくるとなるとそう多くの人間は浮かばない。
 有力なのはミーヤやタスク。次に考えられるのは――

「む……」
「お、ノヴェルか? どうしたそんなに騎士を引き連れて」


 ――城の人間だと思っていたが、どうやらそっちで合っていたらしい。目の前に現れたのは陸に上がった副団長、ノヴェルだった。背後には20人程度の騎士がいるが、どういうつもりだ?
 どちらかといえばイケメンの顔立ちをしているのだが、いつも眉間に皺を寄せているのでもったいない気がする。
 そんなノヴェルが目を細めてから答えた。

「……リク殿、あなたには魔族と通じている疑惑がかかっている」
「なんだと? そりゃ一体なに情報だ?」
「エルフの森で魔族の強襲にあったと聞いている。その時、レッサーデビル達と幹部クラスが現れた」
「そうだな」
「その時、幹部魔族と話をしていたようだな? その後で飛び去っていく魔族を攻撃することも無く逃がした。貴様、魔族と手を組んでいるんじゃないか?」

 ……なるほど。あの時はブライクとビカライアに話を聞くため一時休戦をしたな。近くにいた騎士にはそう伝えていたが急なことだったし覚えていないか。
 まあ別に焦ることもないので俺は肩を竦めてからノヴェルへ言う。

「あの時は聖木を運んでいる最中だったから攻撃されるのは勘弁して欲しかったんだ。で、魔族の幹部と一戦交えたわけだが大して強くなかった。だから見逃してやる代わりに魔族連中を引き上げさせたってわけだ。そのための話し合いだな」
「そんな話が通用するとでも――」
「するさ。あのまま放っておいたら自暴自棄になって森を焼き払うつもりだったんだからな? そうなったら聖木はおろか騎士達も無事じゃすまなかった。倒すだけが勝つ道じゃないってことだ」
「……」
「ノ、ノヴェル殿……」

 
 実際に会話を聞かれていたわけではないので俺の言葉が嘘だとしても確認はできない。そして幹部魔族に襲われているにも関わらず騎士達が無事に帰って来たのは紛れもない事実だしな。
 倒せば良かったというのは簡単だが、さっきも言った通りそうすることによってエルフの森が焼かれて騎士が被害にあい、聖木をダメにされる可能性が非常に高い。
 
 ノヴェルが黙り込んだのはレムニティとのやり合いで奴等の攻撃を目の当たりにしているからだろう。町が度々蹂躙されているのに黙って逃げたのは俺が居たから。

「……残りの三人はどうした? 一緒に出て行ったはずだが」
「散歩だよ。お、こっちに来たのか」
「きゅーん」
「魔物……」
「まあ、このくらいなら可愛いもんだ。レッサーデビル達と比べれば全然だ。そう思わないか?」

 足元に絡みついてきたファングを抱き上げてノヴェル達に笑いかけると騎士達は愛想笑いを浮かべて冷や汗を流す。当のノヴェルは顔を醜く歪めてから歯を食いしばって俺を睨みつけていた。

「話は終わりか? 一応、聞いてみるが俺が魔族と繋がっていたらどうするつもりだったんだ?」
「当然、拘束して尋問だ。この国を危機に陥れる可能性がある者を生かしておくわけにはいかないだろう……」
「拘束か。そりゃ面白い発言だ」
「な――」

 ノヴェルがなにかを言う前に、俺は瞬時に前に出て奴の首に手刀を突き付けてやる。

「魔族幹部を倒し、交渉すらできる俺にそんなことができると思ってんのか? 言っておくがお前達相手でも俺一人で倒せるんだからな。魔法の威力は知っているだろ?」
「う……」

 驚愕の表情で俺に目を向けるノヴェルはどっと汗を拭き出させた。武器なしでも魔法があれば十分全滅させることができるのだ。

「というか俺が魔族と通じているなら、聖木なんて必要ないし騎士を助ける必要もない。そもそもレムニティを倒す必要も無いだろ? 帰ってきてから謁見で陛下を殺すくらいはするだろうに」
「た、確かに……魔族の仲間であれば陛下の命は何度か危機に晒されている。ノヴェル殿、ここは退きましょう」
「し、しかし……いや、そうだな。すまないリク殿。ここは退かせてもらう」
「おう、どうせすぐ船で出港するからお前の心配は無くなるぜ」

 俺がそういうと鼻をならしてから戻るぞと指示を出して踵を返して町へと戻っていった。しばらくこの場で待っていたが、隠れて戻ってくるというようなことは無かった。

 
魔封サイレンスを使っているからあっちの声は聞こえないが早く切り上げた方が良さそうだな」
「わふわふ」

 ファングを抱えてそのまま風太達のところへ戻る。
 
 ……ノヴェルの独断って感じもするが、騎士達を連れてきた。この調子だと魔族と通じているって噂はクラオーレ陛下達にも伝わっているだろうな。素知らぬ顔で明日にでも出ていくとするか。
 

「あ、戻って来た」
「なんでした?」

 みんなのところへ戻ると、夏那と風太がこちらに気づき声をかけてきた。俺は先ほど起こったことを伝えると、水樹ちゃんが怪訝そうな顔で口を開く。

「敵は同じなはずで、そのために尽力をしているリクさんを疑うのはおかしいですよね」
「まあ、あながち間違っちゃいないからなんとも言えないがな? 俺だって前の世界で魔族と通じているなんてやつが居たら詰めると思う。そこはあいつを責めるつもりはないんだ」
【人間らしい話だな】

 ビカライアが呆れたように口にするが、その通りだなと苦笑する。
 それはともかく、とりあえずあいつらと話している間、なにをしていたか聞いてみることにした。

「それで、なにか面白い話でも聞けたか?」
「そうねえ。魔族は意外と利己的だったってことかしら? 話せばわかるって感じね」
【同じ言葉を話せるからな】
『魔王の命令を聞いて襲ってくる奴が言ってもねえ』
【トップの命令は絶対だ。それは人間の国も同じだろう? 今はそれがわからなくなったから話を合わせているだけだ。お前達の話が正しくなければ戦いになるだろう】
「まあ、その部分で大人しくしているのが利己的なんだけどね。価値観は近いけど、やっぱり違う……向こうの世界で言う人種の違いみたいな感じかなと思いました」

 ブライクの言葉に風太がそう感想を述べる。
 確かにそう言われれば僻地の民族みたいな感じにも見えるな。人間を食う部族とかいるくらいだし。
 とりあえずアキラスやバーガトリィ、グラジールよりも邪悪じゃないのも話しやすい要因だろう。人間にも極悪人はいるからそういう意味では価値観が近いというのは分かる気がする。

「とりあえずご飯は食べてもらいましたけど、後は?」
「俺達は撤収だ。まだ疑っていると思うし、戻ってこられても面倒だ。で、明日には出港するから夜の内に準備を整えるぞ」
「あ、いよいよ出るんですね」
「ああ。一度出港すればこの国にもあまり用は無いし、早い方がいいだろう。ハリソン達と港で待って、早朝に出るぞ」

 三人は頷く。
 食料なんかも必要だし、今のうちに買いあさっておくかね。
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