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第八章:魔族との会談
197.前進と後退につながる道
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――さて、ヴァッフェ帝国へ戻って来た俺達にできることは案外少ない。聖木を渡した後は船が完成するまで待つしかないからだ。
とはいえ長い旅だったのは間違いないので、束の間の休息ができるのはありがたいことである。
戻ってきたその日は風呂にゆっくり浸かり、飯を食ってから即就寝。
いきなり凱旋パーティなんて騎士達も含めて出来るわけが無かったので翌日というヴァルカの案はファインプレイでしかないな。
俺はともかく四人とリーチェはぐっすりと休み、文字通り泥のように眠り、今朝はさわやかに目覚めていた。
「んー……! 久しぶりのベッドだったから寝すぎちゃったわ」
『私は旅行中、殆ど隠れていたからようやく動き回れるって感じよ』
「そういえば人前に出られないもんねリーチェちゃんは」
『まあね。ほら、レスバ起きなさい! 捕虜が一番遅くまで寝ているとはなにごとか……!』
【ぐへっ!? あ、あと五分……】
リーチェの膝がレスバの額にヒットし悶絶する。それを見た風太が苦笑しながら笑う。
「色々ありましたけど皆さん無事で良かったです。レスバといえば、魔族幹部はどうしていますか……?」
小声で周囲を気にしながら俺に聞いてくる。
昨晩、全員が集まった後に俺達の後を魔族幹部がついてきていることと、今のところ攻撃をしてくる様子はない話をしておいた。
最初は驚いていたが、レスバという個体がそれなりに人間と打ち解けることができるという点があったので、そういうこともあり得るかと理解を示してくれた。
「気配は近くにあるので呼べば飛んでくるはずだぞ」
【そんなブライク様を文鳥みたいに……】
「そこまでは言ってないだろ!?」
「昔のロボットアニメとかそうじゃない? 笛を吹いたら……みたいな」
「やめろ夏那。さて、それはともかく、一度お前達とも顔合わせをしておきたいんだが……」
話はしているが実際に言葉を交わしたことは無いからな。しかしそこで水樹ちゃんが手を上げて口を開く。
「帝国内では控えておいた方がいいのでは? 誰かに見られると私達が疑いをかけられるかもしれませんし」
「あー、確かにそれはあるか。顔だけでも覚えておいてもらえると助かるんだけどな」
「船で沖へ出たら嫌でもあたし達だけになるし、それまではいいんじゃない?」」
夏那が言う通り、出航した後ならあいつらも空を飛んで合流してくれればそれでいいか。どうせメルルーサのところで再度話し合いになるだろうし水樹ちゃんの意見でいいか。
「その内、一緒に魔王のところへ行くというなら同じことですからね。今はゆっくり休みましょう」
「そうするか。あいつらにゃ悪いがもう少し待たせておくか」
【聞いたら怒りそうですけどね】
「ビカライアがだろ?」
【あったりー! さすがリクさん!】
……今ので嬉しかったのは三人が物怖じせずに俺へ意見を告げたことだな。最初の頃なら俺が決めたことをなぞるだけだっただろう。戦闘面もだが精神面も成長が感じられる。これならセイヴァーの下へ連れて行ってもなんとかなるかもしれない、か。
「皆さま、朝食の準備ができました」
「ありがとうございます! それじゃまずはお腹を満たしましょう」
『私の分もこっそり持ってきてよね』
【任せておいてください】
『なんであんたが返事をするのよ』
と、リーチェの魔族嫌いはまだまだ治らないが、それでも憎悪の対象からは少し溜飲が下がっているような気がする。
とまあそんなやり取りをしつつ朝食を終えると、俺達は自分たちの乗る船の確認をしに港へ出向く。
◆ ◇ ◆
「おー、やってんな!」
「ん? 大将か! よくぞ無事に戻ってきたもんだ!」
船の技術者であるカロリスに声をかけると、向こうもこちらへ気づいて大きく手を振って迎えてくれる。
まだ陸の上でハリボテのような姿の船の上から飛び降りると俺達のところへやってきた。
「持ってきてくれた聖木ってやつは凄いぜ。少し削って海に浮かべたらその部分だけ濁っていた部分がキレイになった」
その場へ行ってみると確かに一部分だけ澄んでいる箇所があった。覗き込みながら水樹ちゃんが口を開く。
「藻が無くなったからみたいですね? あれも魔物の一種だったのかも」
「なるほどなあ。騎士を連れてエルフの森へと聞いた時には無茶をすると思ったもんだ。他の魔族が来たらどうするんだってな」
「ま、そのあたりは陛下達に頑張ってもらうしかないから申し訳なかったが、仕事はしてきただろ?」
「確かにそうだな! もう数日かかるから楽しみに待っていてくれ!」
「おう、頼むよ」
「お願いしますー!」
俺達はそのまま続けてカロリスへ船の構造や求めていた機能がついているかの確認のため実際に船の近くまで案内してもらう。
「部屋は二つで、女子三人の部屋は少し広くとっている。トイレとキッチンは一つずつで、リビングもあるぞ」
「まだ骨組みだけどな」
「今からだっつってんだろ? 食糧庫はこの辺だな」
カロリスが口を尖らせながらため息を吐き、作業している他の人間が笑っている声が聞こえてきた。いつものことだからと作業員が揶揄すると小さい木槌が額に刺さる。
「うるせえぞ。手を止めるな」
「はは、夏那みたい……痛っ!?」
「誰が狂暴だって? 風太」
「そ、そこまで言ってないだろ……」
とりあえず一通り見せてもらい、俺達の部屋やトイレなど求めていた機能は実装レベルらしいことが分かった。
大きさ、地球でもある大型のクルーザーに近いので完成すると迫力がありそうだ。
武装は要らないといったんだが一つだけバリスタをつけると言ってきかなかったのでそれだけ許可した。
ブライクとかが甲板に乗るだろうから不要なものは無い方が良かったんだがな。
「どれくらいで出来る?」
「数日だって。……急ぐのか?」
「まあな。他の国にも行きたいし」
と、適当に答えるとカロリスは神妙な顔で顎に手を当てて考える。
「……他の国を助けに行くってんなら急ぐか。三日だ。最短でもそれだけもらうぜ」
「問題ない。急かして欠陥品よりは時間がかかったほうがいいんでよろしく」
「ふん。ウチがそんなヘマするかよ。聞いたかおまえら! 急ピッチでいくぞ! 給金は期待しろ!」
「「「「おおおおおおお!!!」」」」
その瞬間、作業員の雄たけびがあがり動きが早くなる。文字通り現金な奴等だが頼もしい限りだ。
「とりあえずこっちは問題無さそうね。次はどうするの?」
「町に出てみるか。店も復旧しているみたいだし」
「あ、いくいく。前はきちんと見れてないからさ」
【リーチェさんがむくれるんじゃないですかね?】
『こっそり見るわよ……』
【おう!? びっくりした!?】
どうせ船が出来るまで暇だしとあくびをしながら港を後にする。
◆ ◇ ◆
「ふむ、話とはなんだエドワード」
「騎士団長と副団長も交えてとは穏やかじゃねえな?」
「い、一応、お耳に入れておきたいと思いまして……」
クラオーレ、ヴァルカ、キルシート、ノヴェル、そしてへラルドが集められた会議室で、冷や汗をかきながらエドワードが呟く。
そして彼は目を泳がせながら、言う。
「その……エルフの森でリク殿が魔族と交戦したのは報告通りなのですが……。何故かその後、魔族は攻撃をしてこなかったのです」
「リク殿の強さに恐れをなしたのではないか?」
「だといいのですが……どうも魔族と話をしていたような、感じだったのです。遠くで会話は聞こえなかったのですが――」
その瞬間、その場に居た全員の表情が変わる。
ある者は疑心。ある者は鼻で笑い、そしてあるものは笑みを浮かべる。
「(やはりあの男、胡散臭いと思っていた……! このノヴェルが化けの皮を剥いでやる……!!)」
とはいえ長い旅だったのは間違いないので、束の間の休息ができるのはありがたいことである。
戻ってきたその日は風呂にゆっくり浸かり、飯を食ってから即就寝。
いきなり凱旋パーティなんて騎士達も含めて出来るわけが無かったので翌日というヴァルカの案はファインプレイでしかないな。
俺はともかく四人とリーチェはぐっすりと休み、文字通り泥のように眠り、今朝はさわやかに目覚めていた。
「んー……! 久しぶりのベッドだったから寝すぎちゃったわ」
『私は旅行中、殆ど隠れていたからようやく動き回れるって感じよ』
「そういえば人前に出られないもんねリーチェちゃんは」
『まあね。ほら、レスバ起きなさい! 捕虜が一番遅くまで寝ているとはなにごとか……!』
【ぐへっ!? あ、あと五分……】
リーチェの膝がレスバの額にヒットし悶絶する。それを見た風太が苦笑しながら笑う。
「色々ありましたけど皆さん無事で良かったです。レスバといえば、魔族幹部はどうしていますか……?」
小声で周囲を気にしながら俺に聞いてくる。
昨晩、全員が集まった後に俺達の後を魔族幹部がついてきていることと、今のところ攻撃をしてくる様子はない話をしておいた。
最初は驚いていたが、レスバという個体がそれなりに人間と打ち解けることができるという点があったので、そういうこともあり得るかと理解を示してくれた。
「気配は近くにあるので呼べば飛んでくるはずだぞ」
【そんなブライク様を文鳥みたいに……】
「そこまでは言ってないだろ!?」
「昔のロボットアニメとかそうじゃない? 笛を吹いたら……みたいな」
「やめろ夏那。さて、それはともかく、一度お前達とも顔合わせをしておきたいんだが……」
話はしているが実際に言葉を交わしたことは無いからな。しかしそこで水樹ちゃんが手を上げて口を開く。
「帝国内では控えておいた方がいいのでは? 誰かに見られると私達が疑いをかけられるかもしれませんし」
「あー、確かにそれはあるか。顔だけでも覚えておいてもらえると助かるんだけどな」
「船で沖へ出たら嫌でもあたし達だけになるし、それまではいいんじゃない?」」
夏那が言う通り、出航した後ならあいつらも空を飛んで合流してくれればそれでいいか。どうせメルルーサのところで再度話し合いになるだろうし水樹ちゃんの意見でいいか。
「その内、一緒に魔王のところへ行くというなら同じことですからね。今はゆっくり休みましょう」
「そうするか。あいつらにゃ悪いがもう少し待たせておくか」
【聞いたら怒りそうですけどね】
「ビカライアがだろ?」
【あったりー! さすがリクさん!】
……今ので嬉しかったのは三人が物怖じせずに俺へ意見を告げたことだな。最初の頃なら俺が決めたことをなぞるだけだっただろう。戦闘面もだが精神面も成長が感じられる。これならセイヴァーの下へ連れて行ってもなんとかなるかもしれない、か。
「皆さま、朝食の準備ができました」
「ありがとうございます! それじゃまずはお腹を満たしましょう」
『私の分もこっそり持ってきてよね』
【任せておいてください】
『なんであんたが返事をするのよ』
と、リーチェの魔族嫌いはまだまだ治らないが、それでも憎悪の対象からは少し溜飲が下がっているような気がする。
とまあそんなやり取りをしつつ朝食を終えると、俺達は自分たちの乗る船の確認をしに港へ出向く。
◆ ◇ ◆
「おー、やってんな!」
「ん? 大将か! よくぞ無事に戻ってきたもんだ!」
船の技術者であるカロリスに声をかけると、向こうもこちらへ気づいて大きく手を振って迎えてくれる。
まだ陸の上でハリボテのような姿の船の上から飛び降りると俺達のところへやってきた。
「持ってきてくれた聖木ってやつは凄いぜ。少し削って海に浮かべたらその部分だけ濁っていた部分がキレイになった」
その場へ行ってみると確かに一部分だけ澄んでいる箇所があった。覗き込みながら水樹ちゃんが口を開く。
「藻が無くなったからみたいですね? あれも魔物の一種だったのかも」
「なるほどなあ。騎士を連れてエルフの森へと聞いた時には無茶をすると思ったもんだ。他の魔族が来たらどうするんだってな」
「ま、そのあたりは陛下達に頑張ってもらうしかないから申し訳なかったが、仕事はしてきただろ?」
「確かにそうだな! もう数日かかるから楽しみに待っていてくれ!」
「おう、頼むよ」
「お願いしますー!」
俺達はそのまま続けてカロリスへ船の構造や求めていた機能がついているかの確認のため実際に船の近くまで案内してもらう。
「部屋は二つで、女子三人の部屋は少し広くとっている。トイレとキッチンは一つずつで、リビングもあるぞ」
「まだ骨組みだけどな」
「今からだっつってんだろ? 食糧庫はこの辺だな」
カロリスが口を尖らせながらため息を吐き、作業している他の人間が笑っている声が聞こえてきた。いつものことだからと作業員が揶揄すると小さい木槌が額に刺さる。
「うるせえぞ。手を止めるな」
「はは、夏那みたい……痛っ!?」
「誰が狂暴だって? 風太」
「そ、そこまで言ってないだろ……」
とりあえず一通り見せてもらい、俺達の部屋やトイレなど求めていた機能は実装レベルらしいことが分かった。
大きさ、地球でもある大型のクルーザーに近いので完成すると迫力がありそうだ。
武装は要らないといったんだが一つだけバリスタをつけると言ってきかなかったのでそれだけ許可した。
ブライクとかが甲板に乗るだろうから不要なものは無い方が良かったんだがな。
「どれくらいで出来る?」
「数日だって。……急ぐのか?」
「まあな。他の国にも行きたいし」
と、適当に答えるとカロリスは神妙な顔で顎に手を当てて考える。
「……他の国を助けに行くってんなら急ぐか。三日だ。最短でもそれだけもらうぜ」
「問題ない。急かして欠陥品よりは時間がかかったほうがいいんでよろしく」
「ふん。ウチがそんなヘマするかよ。聞いたかおまえら! 急ピッチでいくぞ! 給金は期待しろ!」
「「「「おおおおおおお!!!」」」」
その瞬間、作業員の雄たけびがあがり動きが早くなる。文字通り現金な奴等だが頼もしい限りだ。
「とりあえずこっちは問題無さそうね。次はどうするの?」
「町に出てみるか。店も復旧しているみたいだし」
「あ、いくいく。前はきちんと見れてないからさ」
【リーチェさんがむくれるんじゃないですかね?】
『こっそり見るわよ……』
【おう!? びっくりした!?】
どうせ船が出来るまで暇だしとあくびをしながら港を後にする。
◆ ◇ ◆
「ふむ、話とはなんだエドワード」
「騎士団長と副団長も交えてとは穏やかじゃねえな?」
「い、一応、お耳に入れておきたいと思いまして……」
クラオーレ、ヴァルカ、キルシート、ノヴェル、そしてへラルドが集められた会議室で、冷や汗をかきながらエドワードが呟く。
そして彼は目を泳がせながら、言う。
「その……エルフの森でリク殿が魔族と交戦したのは報告通りなのですが……。何故かその後、魔族は攻撃をしてこなかったのです」
「リク殿の強さに恐れをなしたのではないか?」
「だといいのですが……どうも魔族と話をしていたような、感じだったのです。遠くで会話は聞こえなかったのですが――」
その瞬間、その場に居た全員の表情が変わる。
ある者は疑心。ある者は鼻で笑い、そしてあるものは笑みを浮かべる。
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