85 / 134
第八章:魔族との会談
196.不安要素はまだまだあるがひとまず凱旋だ
しおりを挟む「お? ……おおお! も、戻ってきたぞ! 陛下に伝令!」
色々と編成を変えつつ、最終的に先頭へ立った俺の馬車を見た門番の一人が大声で部下らしき別の人間を城へ走らせた。そう、いよいよヴァッフェ帝国に戻ってきたというわけだ。
【いやあ、長旅でしたねえ……】
「戦争なら遠征もあるだろうが、今みたいな防衛が主になる戦いだとこの距離はきつい。いい訓練になったとは思うけど」
【いやいや、リクさんの回復魔法があっての旅ですよこれ……。途中死んでもおかしくない場面あったし】
と、横で肩を竦めるレスバ。
帰りは備品を受け取った安堵と、単純な疲労。それと帰るだけという緊張の糸がほどけてしまったせいか、魔物に襲われた際にケガをした騎士が多くいた。
その中で重傷と言える大怪我をした奴もいてレスバはそのことを言っているのだ。
「ま、今回限りだがいい聞かせているから油断はしなくなるんじゃないか?」
俺がそう言うとレスバは『人間はすぐ忘れますからねえ』と肩を竦めてため息を吐いた。死にそうな目に遭って注意を怠るようならそりゃまあ死ぬしかないんだが。
【ですね。だからリクさんは人間でも好きですよ】
「はいはい、ありがとよっと。ここまでくりゃ編隊を組む理由も無いか。ここで風太達と合流しよう」
【変態? ぐは……!?】
「おーい、そこのあんた。悪いけど先にクラオーレ陛下に報告をしておいてもらえるか? 後から風太達と謁見の間へ行く」
「……え、ええ」
「ん? なんかあるか?」
「いえ! ではお先に失礼します!」
呼び止めた騎士がなんだか挙動のおかしい感じがした。すぐに敬礼をして馬を進ませたが、なんか気になることでもあったか?
【なんですかね? なんだかリクさんを見る目が恐怖に包まれていたような……】
「嘘だろ?」
【名前はなんでしたっけ? エドワードとかそんなんだった気が】
よく覚えているなと思いつつ、『そういう』雰囲気を出す場面は無かったので恐れられていることはないと思いたい。エドワードを見送り聖木を運ぶ騎士達が目の前を過ぎていく。
「リクさんありがとうございました! もうすぐミズキさん達の馬車が来ますよ!」
「おう、みんなもお疲れさんだったな! ゆっくり休んでくれ」
「楽しかったです。みんなに自慢できますよ」
【頑張りましたからねー】
過ぎていく騎士達に挨拶をされてそれに応える俺とレスバ。しばらくそんなことをやっていると先ほどの騎士が言った通り夏那と水樹ちゃんの馬車が通りかかり道から逸れた。
「あ、リクー! 待っててくれたの?」
「お疲れ様です!」
「お疲れさん! 二人とも具合が悪いとかないか?」
「大丈夫よ。騎士達が戦ってくれたから平気。むしろもっと暴れても良かったんじゃない?」
「もう、夏那ちゃんったら……」
頼もしいことを言うなと苦笑しながらハリソンとソアラを労ってやる。
「頑張ったなお前達も。しばらくゆっくりできるぞ」
「他の馬と比べても足取りがしっかりしていましたね。激励していたみたいな鳴き方をしていましたよ」
水樹ちゃんが『ね?』と二頭の間に割って入り首筋を撫でる。ハリソンが『おじいさんはもっと活躍していた』というような感じで鳴いていた。まあハリヤーが身内なら頑張るだろうなあ。
そんなことを考えているとタスクとミーヤ、そして風太も合流を果たす。
「ふう……お疲れ様です」
「リクさん、お疲れ様です!」
「おつかれー。おう、どうしたタスク」
「い、いや、やっと終わったと思って……。騎士達、イライラしてんだもんよ……」
「まあ、行軍が遅くなったから仕方ないよ。魔物が多かったし」
「フウタはすげえよな……落ち着きすぎだ」
「はは……。副幹部と戦った時と比べたら背筋が寒くならなかったしね」
御者台でぐったりしているタスクを見て風太が頬をかきながらそんなことを言う。この行軍で風太の落ち着き具合に磨きがかかった気がするな。大精霊のおかげか、剣があることの強さ故か。
この分なら万が一があってもなんとか夏那と水樹ちゃんを連れて暮らすことができそうだな。
「とりあえず揃ったことだし移動しない? リーチェがそろそろ暴れ出しそう」
「後少しだと言ってやれ。んじゃ行くか。タスク達はヒュウスを呼んでくるか?」
「先に報告がいいでしょうね。これはあくまでも私達の依頼だから終わってから戻るわ」
「なら一緒ね」
夏那がそう言って自分の馬車の御者台に乗り込み、俺達もそれぞれの馬車へ戻り歩かせる。風太と俺達の馬は少しへばっているから歩みは遅い。
【ハリソン達はタフですねえ】
「軍馬の中でもエリートの馬の孫だからな。能力が高いんだろうぜ」
【おや、知っているんですか?】
「まあな」
元気にしてるかねえと賢い馬を空に思い浮かべてレスバに返す。ごたごたも終わったし、ゆっくり畑でも耕しているに違いないと苦笑する。
騎士達の馬車が門を抜ける間を縫って一緒に入っていき、戻ってきた時に集合する約束をしていた訓練場へと向かった。
近づいていくと整列された馬車と騎士、そして――
「戻ったかリク殿!! これは壮観だな! エルフとの交渉は不安だったが協力してくれたか」
「お久しぶりです陛下。この通り成果は上がりましたよ。騎士達も欠けることなく戻りました」
「うむ。流石だ。約束通り、聖木でリク殿の船は先に用意させる」
「よろしくお願いします」
俺達が頭を下げると、夏那が背伸びをしながら口を開く。
「うー……! やっと先に進むわねえ」
「うん。これでなにかわかるといいんだけど」
「負担をかけて申し訳ねえけど、また頼むぜ。今日はゆっくり休んで明日はパーティ予定だ!」
「お、いいな」
「わずかですが労いをさせてください」
陛下の横に控えていたヴァルカとキルシートも笑いながら嬉しいことを言ってくれる。すぐに休みたいだろうと言葉少なめに解散。
とりあえずの目的は終わったが――
「……メイディ様の予知も気になるわね」
「ま、それを気にしても今は仕方がねえよ。とりあえずお前達に合わせたい奴らがいる。後で移動するぞ」
――帰りに立ち寄った婆さんのところでちょっとだけ不安なことを言われたんだよな。
173
お気に入りに追加
8,568
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。