異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪

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第八章:魔族との会談

195.成長と今後のことを考えると頭が痛いぜ

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「……ちゃんとついてきているな」
【まあ、色々と思うところもあるでしょうしねえ】

 ――さすがに騎士達の手前、魔族と仲良しってわけにはいかないのでブライク達には適当についてきてもらっている。上手く視界に入らないよう空を飛んでいるので気づいているのは俺とレスバだけだろう。

【帝国に入り込んだら攻撃してくる、とは考えなかったんですか?】
「その時は俺が責任をもって始末するつもりだ。ただ、お前がこっちに居る限りそれはなさそうだけどな」
【そうですか?】

 魔族連中は手柄を出し抜こうとして仲間意識が低いと思っていたが、ビカライアやレスバのような奴を見ていると感覚は人間に近いと思う。だからレスバが『殺されないよう』立ち回るんじゃないかと考えている。
 まあグラジールに関しては多分無理な気もするがどうかな? あいつだけは前の世界で行ったことが許せるものじゃなかったから瞬殺したんだよな。

 さて、とりあえず魔族に対しての話をレスバとしながら馬車を進ませる俺。現在、エルフの森を出発して三日が経過した。戦闘面の不安は相変わらず無い。魔族相手でなければチームワークのある騎士達が多くいるからな。
 だが、行きと違い聖木を載せた馬車の運行はかなり遅い。

 するとどうなるか?

「ふう……」
「なかなか進まないな」
「さっきの戦闘、ちょっと援護が足りなかったんじゃないか?」
「しかたねえだろ。昨日は夜襲を受けて寝てないんだぜ!?」
「……こうなると、士気が落ちるんだよなあ。師匠に怒られたもんだ」
【ふふん、我慢が足りませんね人間は】

 レスバの謎ドヤはともかく、目的を達成したということで気が逸るのは人間の性質としてはよくある。
 しかし、それを最後まで、今回なら帝国に持ち帰るまでが完遂になるわけだが、こう遅くなったりうまくいかなかったりとイライラしてしまうのは俺も経験がある。

 エルフの森では結構な重作業をしてのキャンプ生活。さらにすぐ出発したので疲労はあまり抜けていないんだよな。だから帰りは仲違いが起こりやすいもんである。

「どこかゆっくり町で休めればいいんだが……」
【神聖国の前にいくつか町がありますよね】
「行きは良かったんだが、今は荷物が多すぎるからなあ。町に全員が入るだけでも大変だ」
【前のように町と外で分けるのはどうです?】
「それをやるなら交代がいいだろうが、折角エルフの森で休息をあまりせず出てきたのにそこで時間を盗られるのも惜しい」

 騎士達が賛成してくれたから出発したというのもあるんだが、ここまで大変だとは思っていなかったようだ。そう思っていると馬に乗ったミーヤとタスクが俺の馬車まで寄って来た。

「リクさん、フウタが引いている騎士さん達に遅れが出ているわ。結構、カナ達のところまで下がっているかも」
「マジか」
「足が遅くなって戦闘もかさんでいるから疲れてるんだよな」
「お前達は平気そうだな」
「まあ、冒険者は足で金を稼ぐし……ってあんたもそうだろ」

 その通りだ。冒険者は騎士と違って『荒事』に慣れているからタフなのだ。
 しかし三日でこう崩れ始めるとは予測よりやや早い。遅い足なので戻るのに後二十日近くかかると思っているのでここでいざこざが起こると後が困るか。

「オッケー、とりあえず休憩だ。少しオーダーを変えよう。タスクとミーヤにも手伝ってもらうぜ」
「「?」」

 なんで? という顔で顔を見合わせる二人。俺は風太と夏那、水樹ちゃんへの伝言を頼み、街道に馬車を止めて休憩となった。

「よーし集まれー」
「いやあ、疲れたわ……」
「騎士さん達が数人ギスギスしていますね……」
「まあ、馬車の動きが鈍いから魔物と戦うことが多いし、疲れもするよ」

 ということで風太達とタスクとミーヤそれとレスバだけが集めて食事に入る。水樹ちゃんの言葉に風太が肩を竦めてそう言ったところで夏那が口を開く。

「でもこのままだと喧嘩が起こりそうだけどどうする?」
「そこを話し合おうと思って休憩を兼ねた作戦会議だ」
「あ、それならあたしからいい?」
「おう」

 そこで夏那が手を上げて案があると口にする。俺は早速意見を聞くため続けることを促すと、夏那はこう提案してきた。

「とりあえず風太が率いている騎士達はずっと先頭よね? となると敵と戦うのも多かったはずよ。だからリクの隊と入れ替えるのはどう?」
「悪くないな。実際、入れ替える手間があってそうしなかったがこの状況だと急がば回れになるからいいと思う」
「あ、それじゃあ私からも!」
「お、水樹ちゃんもか」
「はい。疲労している人と順番を入れ替えるのはどうですか? 元気な人は結構いますし、率先して前に出てもいい人も居ると思うんです」
「そうだな……」

 こっちが指示を出すと不満になりうるが自分からやりたいと言うならそれに越したことは無い。ちょっと時間がかかるけど入れ替えた方がいいのはその通りだな。

「よし、まずは夏那と水樹ちゃんの提案をやろう。それと俺からもう一つ。タスクとミーヤも俺達と同じ立場にして、騎士達を引いてもらう」
「「え!?」」
「急にどうしたのよ」
「二人には色々とやってもらうために連れて来たんだ、それくらいいいだろ。基本的にタフな方が発破をかけられていいと思う。報酬はその分高いわけだし、そういう理由で連れて行くとも伝えてあるし」
「わ、わかったぜ……!」
「報酬のために頑張ってねミーヤ♪」
「か、簡単に言わないでよカナ」

 冒険者が騎士を率いるってのは滅多にないから緊張するのは仕方が無い。けど、ここで顔を売っておくと後々役に立つだろう。

「……なにかあった時に頼れるようにしとく意味もあるが――」
「え? 今なにか言ったリク?」
「いや、なんでもないぜ」

 はたして魔王と会ってなにが解決するのかはまだ未知数だ。下地は作っておかないとな。
 俺の時は国が後ろ盾だったが、それが今回は無い。ロカリスとエラトリア、婆さんがそうなってくれるとはおもうが戻るのも大変だし、勇者として活動しない以上厄介になるわけにもいかん。

 なので味方だけを増やす。

 万が一俺が……いや、それは今考えることじゃないか。

『リク、お肉焼けたわよ』
「ああ」

 リーチェにもうひと働きしてもらうことになるか、それとも――

 そんなことを考えながら行軍を続け、いざこざが多少あったものの俺達はヴァッフェ帝国へ戻ることができた。
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