上 下
84 / 130
第八章:魔族との会談

195.成長と今後のことを考えると頭が痛いぜ

しおりを挟む
「……ちゃんとついてきているな」
【まあ、色々と思うところもあるでしょうしねえ】

 ――さすがに騎士達の手前、魔族と仲良しってわけにはいかないのでブライク達には適当についてきてもらっている。上手く視界に入らないよう空を飛んでいるので気づいているのは俺とレスバだけだろう。

【帝国に入り込んだら攻撃してくる、とは考えなかったんですか?】
「その時は俺が責任をもって始末するつもりだ。ただ、お前がこっちに居る限りそれはなさそうだけどな」
【そうですか?】

 魔族連中は手柄を出し抜こうとして仲間意識が低いと思っていたが、ビカライアやレスバのような奴を見ていると感覚は人間に近いと思う。だからレスバが『殺されないよう』立ち回るんじゃないかと考えている。
 まあグラジールに関しては多分無理な気もするがどうかな? あいつだけは前の世界で行ったことが許せるものじゃなかったから瞬殺したんだよな。

 さて、とりあえず魔族に対しての話をレスバとしながら馬車を進ませる俺。現在、エルフの森を出発して三日が経過した。戦闘面の不安は相変わらず無い。魔族相手でなければチームワークのある騎士達が多くいるからな。
 だが、行きと違い聖木を載せた馬車の運行はかなり遅い。

 するとどうなるか?

「ふう……」
「なかなか進まないな」
「さっきの戦闘、ちょっと援護が足りなかったんじゃないか?」
「しかたねえだろ。昨日は夜襲を受けて寝てないんだぜ!?」
「……こうなると、士気が落ちるんだよなあ。師匠に怒られたもんだ」
【ふふん、我慢が足りませんね人間は】

 レスバの謎ドヤはともかく、目的を達成したということで気が逸るのは人間の性質としてはよくある。
 しかし、それを最後まで、今回なら帝国に持ち帰るまでが完遂になるわけだが、こう遅くなったりうまくいかなかったりとイライラしてしまうのは俺も経験がある。

 エルフの森では結構な重作業をしてのキャンプ生活。さらにすぐ出発したので疲労はあまり抜けていないんだよな。だから帰りは仲違いが起こりやすいもんである。

「どこかゆっくり町で休めればいいんだが……」
【神聖国の前にいくつか町がありますよね】
「行きは良かったんだが、今は荷物が多すぎるからなあ。町に全員が入るだけでも大変だ」
【前のように町と外で分けるのはどうです?】
「それをやるなら交代がいいだろうが、折角エルフの森で休息をあまりせず出てきたのにそこで時間を盗られるのも惜しい」

 騎士達が賛成してくれたから出発したというのもあるんだが、ここまで大変だとは思っていなかったようだ。そう思っていると馬に乗ったミーヤとタスクが俺の馬車まで寄って来た。

「リクさん、フウタが引いている騎士さん達に遅れが出ているわ。結構、カナ達のところまで下がっているかも」
「マジか」
「足が遅くなって戦闘もかさんでいるから疲れてるんだよな」
「お前達は平気そうだな」
「まあ、冒険者は足で金を稼ぐし……ってあんたもそうだろ」

 その通りだ。冒険者は騎士と違って『荒事』に慣れているからタフなのだ。
 しかし三日でこう崩れ始めるとは予測よりやや早い。遅い足なので戻るのに後二十日近くかかると思っているのでここでいざこざが起こると後が困るか。

「オッケー、とりあえず休憩だ。少しオーダーを変えよう。タスクとミーヤにも手伝ってもらうぜ」
「「?」」

 なんで? という顔で顔を見合わせる二人。俺は風太と夏那、水樹ちゃんへの伝言を頼み、街道に馬車を止めて休憩となった。

「よーし集まれー」
「いやあ、疲れたわ……」
「騎士さん達が数人ギスギスしていますね……」
「まあ、馬車の動きが鈍いから魔物と戦うことが多いし、疲れもするよ」

 ということで風太達とタスクとミーヤそれとレスバだけが集めて食事に入る。水樹ちゃんの言葉に風太が肩を竦めてそう言ったところで夏那が口を開く。

「でもこのままだと喧嘩が起こりそうだけどどうする?」
「そこを話し合おうと思って休憩を兼ねた作戦会議だ」
「あ、それならあたしからいい?」
「おう」

 そこで夏那が手を上げて案があると口にする。俺は早速意見を聞くため続けることを促すと、夏那はこう提案してきた。

「とりあえず風太が率いている騎士達はずっと先頭よね? となると敵と戦うのも多かったはずよ。だからリクの隊と入れ替えるのはどう?」
「悪くないな。実際、入れ替える手間があってそうしなかったがこの状況だと急がば回れになるからいいと思う」
「あ、それじゃあ私からも!」
「お、水樹ちゃんもか」
「はい。疲労している人と順番を入れ替えるのはどうですか? 元気な人は結構いますし、率先して前に出てもいい人も居ると思うんです」
「そうだな……」

 こっちが指示を出すと不満になりうるが自分からやりたいと言うならそれに越したことは無い。ちょっと時間がかかるけど入れ替えた方がいいのはその通りだな。

「よし、まずは夏那と水樹ちゃんの提案をやろう。それと俺からもう一つ。タスクとミーヤも俺達と同じ立場にして、騎士達を引いてもらう」
「「え!?」」
「急にどうしたのよ」
「二人には色々とやってもらうために連れて来たんだ、それくらいいいだろ。基本的にタフな方が発破をかけられていいと思う。報酬はその分高いわけだし、そういう理由で連れて行くとも伝えてあるし」
「わ、わかったぜ……!」
「報酬のために頑張ってねミーヤ♪」
「か、簡単に言わないでよカナ」

 冒険者が騎士を率いるってのは滅多にないから緊張するのは仕方が無い。けど、ここで顔を売っておくと後々役に立つだろう。

「……なにかあった時に頼れるようにしとく意味もあるが――」
「え? 今なにか言ったリク?」
「いや、なんでもないぜ」

 はたして魔王と会ってなにが解決するのかはまだ未知数だ。下地は作っておかないとな。
 俺の時は国が後ろ盾だったが、それが今回は無い。ロカリスとエラトリア、婆さんがそうなってくれるとはおもうが戻るのも大変だし、勇者として活動しない以上厄介になるわけにもいかん。

 なので味方だけを増やす。

 万が一俺が……いや、それは今考えることじゃないか。

『リク、お肉焼けたわよ』
「ああ」

 リーチェにもうひと働きしてもらうことになるか、それとも――

 そんなことを考えながら行軍を続け、いざこざが多少あったものの俺達はヴァッフェ帝国へ戻ることができた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。