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第八章:魔族との会談

192.あらゆる可能性と偶発的事象

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【……いいだろう。俺も気になっていることがある。リクと言ったか、お前の邪魔はしないことにしよう】
「お、マジか。持ち掛けておいてなんだが俺はセイヴァー……お前の主のところに行くって言ってんだぞ?」

 裏切るのか? とは言わずに濁しておく。
 アキラスは知らない。レムニティとは齟齬があったまま戦った。グラジールに関しては前の世界で、俺の目の前で町を焼いていたから殺した。その経験があって、今、ブライクに持ち掛けている。
 俺はこいつが前の世界でなにをやっていたのかを知らないから話が出来ていると言うのもある。
 もし、これがグラジールのように人間を殺し、犯すような真似をしているならこの前倒したようにこいつも倒すだろう。

 倒し倒されたのでブライクも人間を殺しているはず。それでも話ができるのはこっちも魔族を殺しまくっているからだ。ただ、グラジールやハイアラートなんかのよう残虐な奴等なら有無を言わさず戦闘になるだろう。

 さて、それはさておき俺の言葉の返答を待っていると、ブライクは小さく頷いて口を開く。

【問題ないだろう。確かに主は魔王様だが、現状を考えると疑問はある。俺に記憶が無くビカライアにあるのはお前の仮説だと『お前に殺されたどうか』だ。それは間違いないな?」
「そうだな」
【その前の戦いとやらでハイアラートはどうだった? 倒したのか?】
「倒した……と思うが、俺はすぐにセイヴァーと死闘を繰り広げる羽目になったから師匠に任せていた。師匠なら倒していたと思うんだが」
【だとしたら記憶が無いはず。しかし奴はそういった感じでは無さそうだった】
【どういうことです?】

 よくわからないとレスバが眉を顰める。俺はなんとなく思いついたことがあるが、ブライクの仮説を聞くことにして言葉を待つ。

【信じるかは任せるが、俺は別に人間をどうにかしたいというようなことはない。ただ命令に従っているだけだ。復活した時点でお前との戦いは無かったことになっているわけだが、それは『前の世界で戦っていた』ことも知らない】
「……前の世界で」
【それは分からん。が、ハイアラートは明確に人間に対して攻撃せよと言ってきた】
【こっちで人間に攻撃されたからでは?】
「そこは確認しないと分からないな。仮にハイアラートに記憶があれば、前の世界で人間を倒せと言われているから倒しにかかるだろう。もし人間を攻撃する理由が『召喚されて攻撃されてから』だとしても人間を攻撃する理由になる。記憶があるなしの判断はこれじゃできない」

 ブライクはハイアラートは死んでおらず、人間憎しで攻めている節があると推測しているのだろう。
 命令をされたから攻撃をする。
 だが、その攻撃理由がセイヴァーなりハイアラートから『きちんと』語られていないのだろう。人間ごときが魔王を召喚した。ふざけるな殺せくらいな感じだな。

「アキラスにをかけたことがあるが、セイヴァーは今、万全な状態でないんだろ?」
【それには答えかねるな】
「まあいいけどよ。俺の予想だとセイヴァーは記憶があると思っている。あの戦いで死んでいなかったと考えるのが妥当だ」
【ふん、どうしてそう思う】
「……最後の戦いで、セイヴァーは俺の恋人だったイリスと融合した。確かにあの時、ヤツの胸を貫いたが消滅の前に俺は元の世界に戻された。だから生死を確認できていないんだ」
【そういえばそんなことを言っていましたね】

 レスバの言葉に頷く俺。
 この会話で気づいたが、もしかしたら胸を貫いた時にイリスの命だけ消えてセイヴァーが生き残った、もしくはその逆かもしれないと。
 そして俺が元の世界に戻ったきっかけはこっちの世界の召喚と被って吹っ飛ばされた可能性があ――

「……!?」
【どうしました、すごい汗ですよ!? なにか拭くもの……パンツしかないですけど使いますか?】
「使うか!? ちょっと嫌な考えが頭をよぎったんだよ!」
【なんだ?】
「い、いや、魔族には関係が……いや、あるか。いいか、これは今となってはどうでもいい話だ。信じなくても鼻で笑ってもいい」
【もったいぶるな。早く言え】

 ビカライアが苛立った様子で口を開く。俺は冷や汗をぬぐい、乾いた喉を鳴らしてからその場に居た全員に告げる。

「……この世界の召喚で本来呼ばれるはずだった勇者は……もしかしたら俺だったのかもしれないって話だ」
【……!? リクさんが!? で、でも前の世界で喚ばれているのに!?】
「そこは多分関係ない。異世界の人間ならいけたんだろう。問題は俺がセイヴァーを倒したと認識されて元の世界に戻ったかどうか。もしそうなら――」
【同じ場所にいた魔王様が召喚された。そういうことか】

 ってことだな。
 今となってはどうでもいい。だが、風太達がここに居る発端は俺のせいである可能性が高いということに、なる。
 アキラスが勇者召喚をしたのはまさか……。

【驚愕の事実ですねえ……。その話は確かに今さらですけど、召喚と人間を攻撃する理由は魔王様に話を聞かないといけませんかね】
【ハイアラートか大幹部であるロウデン様にもだ。そもそもどうして前の世界で人間を攻撃したのだビカライア】

 話半分……というか俺の推測はあまり魔族には関係が無いと思っているようだ。そう簡単でもないが今はその認識で構わないか。そう思っているとブライクがビカライアに前の世界で戦争を起こした理由を尋ねていた。

「それは俺も知りたいな。それがなきゃ俺も召喚されなかったわけだし」
【……】
【……】
「なんだ? 二人して黙り込んで」

 レスバとビカライアが目を合わせて目を泳がせる。ロクでもない理由ってことはないだろうが――

【わたし達には領地の拡大と言っていましたね。住むところが手狭になっていたのは事実ですし】
「『わたし達には』?」

 他に理由があるのか? 
 レスバに尋ねたところでどこからか声が聞こえて来た。

「リクさーん! どこですか! カナ達が戻って来たよー!」
「お、おい、魔族がまだいるかもしれねえのに大声を出すなって」

 それはタスクとミーヤだった。
 気づけば確かに結構な時間が経っていたことに気付き、俺は舌打ちをする。

「タイムリミットか。レスバ、戻るぞ」
【ま、待て、レスバを連れて行くのか!?】
「こいつは人質だからな」
【美味しいものがたくさん食べられます!】
「うるせえよ! ブライク、お前はどうする? すでに賽は投げられた。このままセイヴァーの下へ戻って俺達のことを報告するか?」

 どうせグラジールが言っているだろうがと付け加えたところでブライクが言う。

【お前達についていこう。メルルーサと話をするのだろう? 一緒に魔王様の下へ行くぞ】
「そうこなくちゃな」
【美味いものを頼むぞ。負の感情も最近は戦争をしていないので摂取できていないのでな】

 真に受けんなよと肩を竦めながら俺とレスバは風太達のところへ。
 ブライク達は空で待つと飛んで行った。

 ……どうするか。

 俺は色々と頭の中で考えながら戻るのだった。
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