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第八章:魔族との会談
190.互いの違いってやつだな
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【それにしても不思議ですねえ】
「どうした急に?」
――世界樹とのコンタクトを取りに行った三人とリーチェを見送った後、串焼きを焼いている俺にレスバが声をかけてきた。三人が居ないタイミングを見計らっての発言な気がするので耳を傾ける。
【いえ、どうしてわたしは前の世界の記憶があるのかってところですよ。レムニティ様もグラジール様もリクさんとは戦ったことがあるんですよね?】
「ああ、お前に言うのもなんだが俺がこの手で殺しきったぞ」
【それ自体凄いことですけどね。それはそれとして、どうして記憶が無いのかが不思議なんですよ。リクさんには記憶がある。あの三人に無いのは当然としても、】
「それはその通りだ」
レスバという存在はもう一つの俺みたいな存在だ。言うなれば魔族版の俺ってところだな。
俺の知る魔族には記憶が無いと思っていたが、レスバが『俺が知っている』のは正直言って驚愕と同時に困惑したものである。
ただレスバの言うようにどうしてなのか? それが分からない。
俺が幹部連中を殺したという記憶があっても逆恨みされそうで厄介ではあるのだが、前の世界を知る者同士として情報は欲しい。
「そういやこっちの世界に来た時はどうだったんだ? 召喚された時はまとめて全員だったのか?」
【いえ、わたし達が気づいた時にはミラグルシア国のお城の庭でしたよ。そこから戦える者が散って一気に国を滅ぼしたんです】
「なるほどな」
【魔王様は自分たちを召喚した罪を見せるため、王族は残しておけと言っていました。国が亡びるのを見せた後に消し炭にしたようですけど】
そこは見ていないらしい。が、実際それくらいは仕方が無い措置だろう。自分たちを戦力として使われるのは魔王セイヴァーとしてプライドが許さない。
「ん……? まてよ――」
と、ここで俺は一つ妙だなと頭を捻る。
【どうしました? パンツ見ます?】
「汚いもの見せようとするな。召喚は人数制限とか無いのかと思ってな」
ガーンといった顔で固まっているレスバにでこぴんをしながら考えていたことを口にする俺。
俺は一人で召喚された。ここでは四人。
イリスの話だと召喚の儀式自体、魔力消費やらがきついらしいから、魔族全員が来ているとなると犠牲はあってもおかしくない。
「あ」
そこで俺は召喚に関する書物を取り出して目を通す。
もしかしたら――
◆ ◇ ◆
――そんなレスバとの話を思い出しながら俺は記憶があるというビカライアに尋ねてみる。
「ビカライアは前の世界の記憶があるということだな?」
【そうだが馴れ馴れしいな貴様】
「お前とは会ったことがあるはずなんだがな? ビカライア」
【なんだと? お前のようなおっさん、見たことないぞ】
目を細めてこちらを見てくるビカライア。まあ、あの頃は装備に身を固めていたし若かったから顔つきは変わっているのでそう思ってもおかしくない。
なので一番分かりやすい話をしてみることにした。
「そりゃないだろ。前の世界で勇者をやっていたリクだと言えばちょっとは思い出すか?」
【そういえばレスバがリクだと言っていたな……。勇者だと? ……勇者リクだと!?】
探るようにぶつぶつと呟いていたビカライア。奴は思い出したようで俺の顔を見て驚愕の表情を浮かべて悲鳴のような声を上げて言う。
【貴様……!? 貴様がなぜここに!? ブライク様を倒したお前が……!?】
【倒した? 俺を、あの男がか。……どういうことだ、俺はこうして生きているぞ】
怒りと困惑の気配が周囲に充満する。部下に倒されたと言われるのはプライド的に許せないだろうからわかる。
だが、ビカライアの態度が冗談ではない狼狽えようなので話を聞く態勢になった。
……流れが変わった。
すかさず俺は二人の魔族に提案を持ちかけることにする。
「ブライク、悪いが少し休戦といかないか? レッサーデビル達を下げてくれると助かる」
【なに?】
「ビカライアと話をしたいんだよ。お前を倒した経緯も話してやる。それで記憶が戻るかどうかも確かめたい」
【それで……こちらにメリットがあるか? 貴様が勇者なら隙を突いてくるくらいはするだろう?】
「そこは信用してもらうしかないな。ほら、こいつが生きているし」
【洗脳されていませんからね?】
【貴様なにをしている!?】
余計なことを言うなとレスバに拳骨をくらわしてやる。するとビカライアがまた悲鳴のような声を上げていた。
そういうことか? まあどっちでもいいが……さて、どうする? あくまで戦うと言うなら痛めつけてから情報をもらうだけだが。
そう考えていると少し間をおいてからブライクがビカライアを手をかざす。
「来るか?」
【慌てるな】
俺も身構えてみたがすぐに意図を理解したので警戒を解く。どういうことか? レッサーデビル達が戦闘を止めてそらで停止したからだ。
「話が分かるヤツで助かるぜ。レムニティの時もこうだと良かったんだがな」
【ふん。それでどうするのだ? このままでは人間が攻撃してくる】
「そうだな。少し待ってくれ」
【あん、強引!?】
俺はブライク達をその場に残してレスバを引っ張って騎士達のところへ戻る。一番近くの騎士を見つけて声をかける。
「そこのあんた、ちょっといいか?」
「あ! リク殿! いきなりレッサーデビル達が後退しました! 幹部を倒してくれたのですか!?」
「いや、ちょっと違う。が、俺が幹部より強いってことで、少し休戦になった。すまないが風太達を待っていてくれるか? 多分、もう攻撃はないはずだ」
「ええ!? 休戦って……。い、いえ、わかりました!」
「あ、それとミーヤとタスクをこっちに回してくれ」
「冒険者を、ですか?」
「ちっと野暮用でな」
俺がそう言うと、腑に落ちないといった顔で首を傾げるがこの隊の総指揮は基本的に俺なので従わざるを得ない。
まあ、レムニティが攻め続けていたヴァッフェ帝国なら休戦が信じがたいのはそうだろうけどな。
さて、俺にも仕事ができて良かったな? 擦り合わせをしてみるとしよう――
「どうした急に?」
――世界樹とのコンタクトを取りに行った三人とリーチェを見送った後、串焼きを焼いている俺にレスバが声をかけてきた。三人が居ないタイミングを見計らっての発言な気がするので耳を傾ける。
【いえ、どうしてわたしは前の世界の記憶があるのかってところですよ。レムニティ様もグラジール様もリクさんとは戦ったことがあるんですよね?】
「ああ、お前に言うのもなんだが俺がこの手で殺しきったぞ」
【それ自体凄いことですけどね。それはそれとして、どうして記憶が無いのかが不思議なんですよ。リクさんには記憶がある。あの三人に無いのは当然としても、】
「それはその通りだ」
レスバという存在はもう一つの俺みたいな存在だ。言うなれば魔族版の俺ってところだな。
俺の知る魔族には記憶が無いと思っていたが、レスバが『俺が知っている』のは正直言って驚愕と同時に困惑したものである。
ただレスバの言うようにどうしてなのか? それが分からない。
俺が幹部連中を殺したという記憶があっても逆恨みされそうで厄介ではあるのだが、前の世界を知る者同士として情報は欲しい。
「そういやこっちの世界に来た時はどうだったんだ? 召喚された時はまとめて全員だったのか?」
【いえ、わたし達が気づいた時にはミラグルシア国のお城の庭でしたよ。そこから戦える者が散って一気に国を滅ぼしたんです】
「なるほどな」
【魔王様は自分たちを召喚した罪を見せるため、王族は残しておけと言っていました。国が亡びるのを見せた後に消し炭にしたようですけど】
そこは見ていないらしい。が、実際それくらいは仕方が無い措置だろう。自分たちを戦力として使われるのは魔王セイヴァーとしてプライドが許さない。
「ん……? まてよ――」
と、ここで俺は一つ妙だなと頭を捻る。
【どうしました? パンツ見ます?】
「汚いもの見せようとするな。召喚は人数制限とか無いのかと思ってな」
ガーンといった顔で固まっているレスバにでこぴんをしながら考えていたことを口にする俺。
俺は一人で召喚された。ここでは四人。
イリスの話だと召喚の儀式自体、魔力消費やらがきついらしいから、魔族全員が来ているとなると犠牲はあってもおかしくない。
「あ」
そこで俺は召喚に関する書物を取り出して目を通す。
もしかしたら――
◆ ◇ ◆
――そんなレスバとの話を思い出しながら俺は記憶があるというビカライアに尋ねてみる。
「ビカライアは前の世界の記憶があるということだな?」
【そうだが馴れ馴れしいな貴様】
「お前とは会ったことがあるはずなんだがな? ビカライア」
【なんだと? お前のようなおっさん、見たことないぞ】
目を細めてこちらを見てくるビカライア。まあ、あの頃は装備に身を固めていたし若かったから顔つきは変わっているのでそう思ってもおかしくない。
なので一番分かりやすい話をしてみることにした。
「そりゃないだろ。前の世界で勇者をやっていたリクだと言えばちょっとは思い出すか?」
【そういえばレスバがリクだと言っていたな……。勇者だと? ……勇者リクだと!?】
探るようにぶつぶつと呟いていたビカライア。奴は思い出したようで俺の顔を見て驚愕の表情を浮かべて悲鳴のような声を上げて言う。
【貴様……!? 貴様がなぜここに!? ブライク様を倒したお前が……!?】
【倒した? 俺を、あの男がか。……どういうことだ、俺はこうして生きているぞ】
怒りと困惑の気配が周囲に充満する。部下に倒されたと言われるのはプライド的に許せないだろうからわかる。
だが、ビカライアの態度が冗談ではない狼狽えようなので話を聞く態勢になった。
……流れが変わった。
すかさず俺は二人の魔族に提案を持ちかけることにする。
「ブライク、悪いが少し休戦といかないか? レッサーデビル達を下げてくれると助かる」
【なに?】
「ビカライアと話をしたいんだよ。お前を倒した経緯も話してやる。それで記憶が戻るかどうかも確かめたい」
【それで……こちらにメリットがあるか? 貴様が勇者なら隙を突いてくるくらいはするだろう?】
「そこは信用してもらうしかないな。ほら、こいつが生きているし」
【洗脳されていませんからね?】
【貴様なにをしている!?】
余計なことを言うなとレスバに拳骨をくらわしてやる。するとビカライアがまた悲鳴のような声を上げていた。
そういうことか? まあどっちでもいいが……さて、どうする? あくまで戦うと言うなら痛めつけてから情報をもらうだけだが。
そう考えていると少し間をおいてからブライクがビカライアを手をかざす。
「来るか?」
【慌てるな】
俺も身構えてみたがすぐに意図を理解したので警戒を解く。どういうことか? レッサーデビル達が戦闘を止めてそらで停止したからだ。
「話が分かるヤツで助かるぜ。レムニティの時もこうだと良かったんだがな」
【ふん。それでどうするのだ? このままでは人間が攻撃してくる】
「そうだな。少し待ってくれ」
【あん、強引!?】
俺はブライク達をその場に残してレスバを引っ張って騎士達のところへ戻る。一番近くの騎士を見つけて声をかける。
「そこのあんた、ちょっといいか?」
「あ! リク殿! いきなりレッサーデビル達が後退しました! 幹部を倒してくれたのですか!?」
「いや、ちょっと違う。が、俺が幹部より強いってことで、少し休戦になった。すまないが風太達を待っていてくれるか? 多分、もう攻撃はないはずだ」
「ええ!? 休戦って……。い、いえ、わかりました!」
「あ、それとミーヤとタスクをこっちに回してくれ」
「冒険者を、ですか?」
「ちっと野暮用でな」
俺がそう言うと、腑に落ちないといった顔で首を傾げるがこの隊の総指揮は基本的に俺なので従わざるを得ない。
まあ、レムニティが攻め続けていたヴァッフェ帝国なら休戦が信じがたいのはそうだろうけどな。
さて、俺にも仕事ができて良かったな? 擦り合わせをしてみるとしよう――
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