上 下
76 / 132
第八章:魔族との会談

187.三人とも頼れるようになってきたか?

しおりを挟む

「グランシア神聖国はよく寝床を用意していたもんだぜ」
「だいたいどれくらいの規模か予知していたんじゃない?」
「お、そりゃありそうだな」

 俺達の旅は順調に進み、二日ほど前にグランシア神聖国を経由して再びエルフの集落へ向けて移動していた。
 今は休憩と打ち合わせを兼ねて高校生達と合流して話している最中だ。

 ちなみに話が上がっていたグランシア神聖国では到着早々、町の人間に歓迎されて騎士を含めた全員を町中で休ませてくれた。神殿というわけにはいかなかったし全員が建物の中では無かったもののゆっくり休めたのは間違いない。

「でもメイディ様は出てきませんでしたね」
「自国の人間以外には姿は見せないんじゃないかい? 僕達も呼ばれてから会えたわけだし」
「だな。まあ婆さんが聖女じゃ萎えるのもあるのかもしれない」
【たまにアホなことを言いますよねリクさん】
「あ、やっぱわかる? 前も自分は魔族だなんて言ってて寒かったわ」
【へえ……】

 レスバと夏那の視線が冷たい。しかし、その程度で怯む俺ではない。咳ばらいを一つしてから話を進めることにする。

「コホン! それはともかく部隊に問題はないか?」
「僕から夏那達までの騎士さんは大丈夫です。けど、ちょっと馬の足が遅れている個体が居ますね」
「タスクとミーヤは?」
「戦闘でも先陣を切って戦ってくれています。あ、もちろん休んでもらってますよ」

 こうやって何日かおきに全体の確認をする打ち合わせをしているわけだが、特に指示しているわけじゃない。
 伝えたことは『周囲の様子も気にかけておいてくれ』だけである。
 それでも風太の気配りは洞察力に変化している感じで色々と教えてくれていた。

「あたし達の方は特に無いわね」
「夏那ちゃんはあんまり周りを見ないから気づいてないだけだよ」
「え!?」
『私は上から見ていることがあるけど、ちょっと後ろの騎士が具合悪そうだったわよ』
「そうなの!?」
「魔物が出てきそうな時の勘はいいのに……」

 と、女子二人は勘のいい夏那と慎重な水樹ちゃんでバランスがいいようだ。水樹ちゃんが全体のケアをする形はなんとなく分かる気がする。

『カナはここぞという時の勘は凄いんだけどね。木の上に居たアックスモンキーに気づいてたし』
「そうだね。ヴァッフェ帝国で町に戻った時も夏那が言っていたよね」
「そうだっけ?」
「本人に自覚は無いのか。ま、夏那は突っ走っている方が合っている気がするけどな」
「そ、そう? へへ……」
「む。リクさん、私はどうですか?」
「え?」

 俺が夏那にそれはそれでいいと笑っていると、水樹ちゃんがずいっと詰め寄ってくる。真剣な顔で聞いてくるので頬を掻きながら目を逸らす。

「そうだな……水樹ちゃんは状況判断が早い。例えばレムニティとの戦闘をしている時にすぐに囲むように動いたのは見事だった」
「そ、そんな前のことを覚えているんですね……」
「後は世界樹との交信だな。リーチェが居るとはいえよく覚悟を決めてくれた」
「ありがとうございます!」
「むう」

 喜ぶ水樹ちゃんに対し、今度は夏那がむくれている。喧嘩でもしたのか? あんまり続くようなら話を聞いてみないといけないな。

「……まあ、水樹はそうせざるを得ない家庭環境でもあったろうしね」
「夏那ちゃん……。うん、多分周囲の状況に敏感なんだと思うの」
「今は解放されているからいいじゃないか。リクさん、それじゃ――」

 風太が暗くなりそうな二人の話を締めて提案を投げかけてくる。こいつの場合空気を呼んだわけじゃなくて天然っぽいけどな。
 とりあえずそろそろ休憩も終わりかとこの後の話を詰めていく。

 足の遅い馬は夏那と水樹ちゃんの後方に配置し、元気な馬と騎士を持っていくことに。具合の悪い、もしくは疲労が溜まっている者は聖木を積むための馬車で休ませてやるようにした。

「レスバ、空いた馬に乗ってくれるか?」
【構いませんよ! リクさんと並走すればいいですよね】
「頼むぜ」
「「むう」」
【な、なんですか二人とも……。顔が可愛いことになってますよ……】

 怖がっているのか褒めているのか分からないが、レスバの言う通り頬を膨らませている二人は珍しいなと思った。
 そんな感じで休憩が終了し、それぞれ決まったことをみんなに話して出発。
 
「ありがとうございますリク殿、具合の悪い者などの入れ替えを行っていただいて」

 出発してほどなくすると一人の騎士がやってきてそんなことを言う。御者台で本を読んでいた俺は騎士の方を向いて返事をする。

「ん? いや、あれは風太達が見ていて提案したことだから俺ってわけじゃない」
「そうなのですか。若いのによく見ておられる。やはりリーダーのあなたがしっかりしているからでしょうな」
「若い故に見守ってやらないとな。あんたもそういう立場だろ」
「ははは、そうですね。それに引き換えまったくウチの若い者は不甲斐ない」
「そう言ってやるなよ、戦争でもなけりゃ遠征なんてしないだろう」

 俺がそう言うと騎士は『確かに』と笑っていた。
 今さらだが魔物は冒険者がやるなら騎士は? と思うヤツも多いはずだ。
 概ね相手が人間に限られる騎士は他国と戦うための人員という意味合いが強い。もちろん強力な魔物を退治するため訓練された騎士が行くこともあるけどな。
 連携の取りにくい冒険者よりも数と統制が取れる騎士の方が楽に倒せることが多いからだ。

「後もう少しでしたか」
「ああ。向こうについたら森の入口付近で待機してもらう。エルフとの交渉は俺達だけの方がいい」
「はい。……エルフもたまに外の世界で暮らしている者もいるようなので、また共闘できるといいのですがね」
「まあ、難しいだろうな」

 あっさりと切り捨てる発言をすると困った顔で肩を竦めていた。メイディ婆さんの件もそうだが、人間がやらかした罪ってのは深く重い。今回は俺達が橋渡しになったが単独では協力を取り付けるのはまだ無理だろうな。

 こんな調子でさらに数日が経過。俺達はようやくエルフの森へ到着した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。