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第八章:魔族との会談
182.魔族側の事情はどうだったのか?
しおりを挟む――目的、人員、作業量。
やるべきことをしっかり確認しておくことはかなり重要だ。今回は俺達だけじゃなくて騎士達が随伴するため一層緊張感を持って対応しなければならない。
騎士の数はざっと百人借りているので魔族連中の襲撃に注意しないとな。
そんなことを考えながら部屋のテラスから下を見ている夏那達のところへ行く。
「馬車もかなりの数を用意したわねえ」
『そりゃ大きな船一隻を作ろうと思ったら木材の量は半端なく必要だからね。これでもアレが一隻出来るかどうかって感じ』
「……凄いな。これだけの数で移動するのは初めてだ」
夏那とリーチェが話す横で、風太がテラスの縁に片腕を置いて息を呑む。
眼下には続々と騎士と馬車が集まっていた。
ちなみにリーチェの言うアレとはここから見える大型船のことである。百台ほどの馬車に聖木を積んでもその大型船が一隻が出来る程度なのは前の世界で体験済みだ。
「気を使いそうですね」
「ま、仕方ない。これも先へ進むための仕事だ」
実際、遠征が始まると色々面倒も増えるもんだ。四人で旅をしていたのがいかにだったか分かるだろう。三人にはこれを経験し糧としてもらいたい。
「あ、リクさん。いよいよ出発ですね」
「そうだな水樹ちゃん。みんな準備はいいか? そろそろ俺達も降りるぞ」
「はい! ……本格的に始まりますね」
「だな。ここでエルフと人間に確執が起きたら本当に終わりだ。騎士達の動向には気を配っていこう」
水樹ちゃんの頭に手を置いてから三人それぞれに目を向けると真剣な顔で頷いてくれた。今、一番恐ろしいのは魔族よりも人間だからな。
【ま、そうですね。自分の利益なるなら他人を裏切るのは人間も魔族も変わらないですもんね】
『知ったようなことをいうじゃないレスバ。言いたいことは分かるけどね。でも魔族の方が手柄に執着し過ぎだと思うけど』
【ウチらは実力主義ですからねえ。わたしもほら、あなた達の寝首を掻いて……みたいなことを考えるんですよ】
「それを言ったら意味ないと思うけど……」
【ああ……確かに!?】
とレスバの言葉に突っ込む風太だが、すでにこいつの敵意は消えているので冗談である。
なぜか?
三人だけでエルフ村に行ってもらった際に二人だけで話していたことがあった。その時、グラジールを俺があっさり殺しているのでまず死にたくないから逆らわないと決めているらしい。
魔王を知っているという部分も大きいようだが。
それにお互いの利害が一致しているのも、ある――
◆ ◇ ◆
【幹部クラスは魔王様自ら生み出しますが、わたし達は普通にセックスっぽいことをして繁殖します。それはともかく魔王様がどうして人間に戦いを挑んだのかを知りたいんですよね】
「なぜfどうでもいい性事情の話をした? まあいいけど。で、お前の言いたいことは俺も『当時』から気になっていた。イリスの話だといきなりだったらしいし」
それともう一つ。
「お前は見たことが無いが、ドーナガリィのような中級魔族は居た。しかし、それ以下になるとレッサーデビルばかりだった。それはなぜだ?」
【わたしは力がありましたけど、前の戦いは参加していないんですよ。だから見たことがないのはその通りでしょう。で、おっしゃるとおり魔族にも力の上下はあります。戦闘に耐えられる個体はそこそこしかいないんです。例えばわたしのおばあちゃんだと確実に人間と戦えば負けます】
「差があるってことか」
俺の言葉に頷くレスバ。
どうも魔王に生み出された個体といくつかの能力が高い魔族しか戦いに出ていなかったようだ。
兵士となるレッサーデビルは人間から作るか、魔力で生み出せるゴーレムみたいなものらしい。もちろん人間から作った方が強力だという。
そこでやはりというか、疑問が鎌首をもたげてくる。
「なら直属の魔族以外は普通の人間と同じってことか?」
【いえ、さすがにわたしのようにピチピチの若者なら話は違います。少し能力が低かったとしてもそれは魔族レベルのことなので人間よりは強いんですよ】
それでも人間に完全に勝ち越せるかと言えば微妙らしい。レッサーデビルという無限戦力があったとしてもその程度の差でどうして喧嘩を売ったのか? やはりここが気になるな。
「イリスを吸収する前の魔王はどんな姿だった?」
【おっぱいの大きな女性型魔族でしたね。あれは大きかった。……痛っ!?】
「真面目にやれ。というかイリスと同性だったのか」
吸収するなら同性だと相性がいいとかあるのだろうか? ま、それはあまり関係なさそうだが、戦力的にやはり喧嘩を売るには少々無茶があると感じる。
今思い返してみれば魔族がアドバンテージを取れていたのは強襲で落ちた国をいくつか持っていたことと、アキラスのような暗躍が上手かっただけで、直接戦闘はレッサーデビルの数がきつかっただけだったような気もする。
【というわけで、わたしは一緒に居れば裏切者なので始末される可能性が高いです。が、捨て駒になるのも面白くないのでできることはしますよ】
◆ ◇ ◆
――という感じだ。
この先、メルルーサに会う前に幹部クラスであるハイアラートやグラッシあたりが出てきたらぶっ飛ばしたうえで同行させることまで考えている。
「どうしたの? 難しい顔をして」
「うん? ああ、この行軍中に魔族が襲ってきたら面倒だなと思っていた」
「あ、確かにそうですね。でも、風太君も強くなったし、リクさんも居るからきっと大丈夫ですよ」
『そうね。カナとミズキもいい感じだし、あの時よりは格段に楽になってる』
「クレスとロザも強かったんだけどな」
『もちろんそれは知っているけど、やっぱり魔王には勝てなかったし、ね……』
「リーチェ……」
前の世界のメンバーとも仲が良かったからなリーチェは。
俺がもっと強ければ死なずに済んだかもしれないし、誘いに乗らなければ犠牲者は減っていたはず。俺の分身でもある彼女はそう思っているのかもしれない。
「……とりあえず揃ったみたいだし、降りようか」
【そうしましょう。お城のご飯ではなく、カナの料理になるというのはいささか不満が残りますけども】
「こいつ……!!」
「出発前に喧嘩をするなっての」
風太の神妙なセリフにレスバが茶化す。一応、空気は読んでいるのかねこいつは。
そのまま俺達は装備を確認して外に出るとクレオール陛下やキルシート、騎士団長のヴァルカが待っているところへ出くわす。
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