上 下
71 / 132
第八章:魔族との会談

182.魔族側の事情はどうだったのか?

しおりを挟む


 ――目的、人員、作業量。

 やるべきことをしっかり確認しておくことはかなり重要だ。今回は俺達だけじゃなくて騎士達が随伴するため一層緊張感を持って対応しなければならない。
 騎士の数はざっと百人借りているので魔族連中の襲撃に注意しないとな。
 そんなことを考えながら部屋のテラスから下を見ている夏那達のところへ行く。

「馬車もかなりの数を用意したわねえ」
『そりゃ大きな船一隻を作ろうと思ったら木材の量は半端なく必要だからね。これでもアレが一隻出来るかどうかって感じ』
「……凄いな。これだけの数で移動するのは初めてだ」

 夏那とリーチェが話す横で、風太がテラスの縁に片腕を置いて息を呑む。
 眼下には続々と騎士と馬車が集まっていた。
 ちなみにリーチェの言うアレとはここから見える大型船のことである。百台ほどの馬車に聖木を積んでもその大型船が一隻が出来る程度なのは前の世界で体験済みだ。

「気を使いそうですね」
「ま、仕方ない。これも先へ進むための仕事だ」

 実際、遠征が始まると色々面倒も増えるもんだ。四人で旅をしていたのがいかにだったか分かるだろう。三人にはこれを経験し糧としてもらいたい。

「あ、リクさん。いよいよ出発ですね」
「そうだな水樹ちゃん。みんな準備はいいか? そろそろ俺達も降りるぞ」
「はい! ……本格的に始まりますね」
「だな。ここでエルフと人間に確執が起きたら本当に終わりだ。騎士達の動向には気を配っていこう」

 水樹ちゃんの頭に手を置いてから三人それぞれに目を向けると真剣な顔で頷いてくれた。今、一番恐ろしいのは魔族よりも人間だからな。

【ま、そうですね。自分の利益なるなら他人を裏切るのは人間も魔族も変わらないですもんね】
『知ったようなことをいうじゃないレスバ。言いたいことは分かるけどね。でも魔族の方が手柄に執着し過ぎだと思うけど』
【ウチらは実力主義ですからねえ。わたしもほら、あなた達の寝首を掻いて……みたいなことを考えるんですよ】
「それを言ったら意味ないと思うけど……」
【ああ……確かに!?】

 とレスバの言葉に突っ込む風太だが、すでにこいつの敵意は消えているので冗談である。
 
 なぜか? 

 三人だけでエルフ村に行ってもらった際に二人だけで話していたことがあった。その時、グラジールを俺があっさり殺しているのでまず死にたくないから逆らわないと決めているらしい。
 魔王を知っているという部分も大きいようだが。

 それにお互いの利害が一致しているのも、ある――

 ◆ ◇ ◆

【幹部クラスは魔王様自ら生み出しますが、わたし達は普通にセックスっぽいことをして繁殖します。それはともかく魔王様がどうして人間に戦いを挑んだのかを知りたいんですよね】
「なぜfどうでもいい性事情の話をした? まあいいけど。で、お前の言いたいことは俺も『当時』から気になっていた。イリスの話だといきなりだったらしいし」

 それともう一つ。

「お前は見たことが無いが、ドーナガリィのような中級魔族は居た。しかし、それ以下になるとレッサーデビルばかりだった。それはなぜだ?」
【わたしは力がありましたけど、前の戦いは参加していないんですよ。だから見たことがないのはその通りでしょう。で、おっしゃるとおり魔族にも力の上下はあります。戦闘に耐えられる個体はそこそこしかいないんです。例えばわたしのおばあちゃんだと確実に人間と戦えば負けます】
「差があるってことか」

 俺の言葉に頷くレスバ。
 どうも魔王に生み出された個体といくつかの能力が高い魔族しか戦いに出ていなかったようだ。
 兵士となるレッサーデビルは人間から作るか、魔力で生み出せるゴーレムみたいなものらしい。もちろん人間から作った方が強力だという。

 そこでやはりというか、疑問が鎌首をもたげてくる。

「なら直属の魔族以外は普通の人間と同じってことか?」
【いえ、さすがにわたしのようにピチピチの若者なら話は違います。少し能力が低かったとしてもそれは魔族レベルのことなので人間よりは強いんですよ】

 それでも人間に完全に勝ち越せるかと言えば微妙らしい。レッサーデビルという無限戦力があったとしてもその程度の差でどうして喧嘩を売ったのか? やはりここが気になるな。

「イリスを吸収する前の魔王はどんな姿だった?」
【おっぱいの大きな女性型魔族でしたね。あれは大きかった。……痛っ!?】
「真面目にやれ。というかイリスと同性だったのか」

 吸収するなら同性だと相性がいいとかあるのだろうか? ま、それはあまり関係なさそうだが、戦力的にやはり喧嘩を売るには少々無茶があると感じる。
 今思い返してみれば魔族がアドバンテージを取れていたのは強襲で落ちた国をいくつか持っていたことと、アキラスのような暗躍が上手かっただけで、直接戦闘はレッサーデビルの数がきつかっただけだったような気もする。

【というわけで、わたしは一緒に居れば裏切者なので始末される可能性が高いです。が、捨て駒になるのも面白くないのでできることはしますよ】


 ◆ ◇ ◆

 ――という感じだ。

 この先、メルルーサに会う前に幹部クラスであるハイアラートやグラッシあたりが出てきたらぶっ飛ばしたうえで同行させることまで考えている。

「どうしたの? 難しい顔をして」
「うん? ああ、この行軍中に魔族が襲ってきたら面倒だなと思っていた」
「あ、確かにそうですね。でも、風太君も強くなったし、リクさんも居るからきっと大丈夫ですよ」
『そうね。カナとミズキもいい感じだし、あの時よりは格段に楽になってる』
「クレスとロザも強かったんだけどな」
『もちろんそれは知っているけど、やっぱり魔王には勝てなかったし、ね……』
「リーチェ……」

 前の世界のメンバーとも仲が良かったからなリーチェは。
 俺がもっと強ければ死なずに済んだかもしれないし、誘いに乗らなければ犠牲者は減っていたはず。俺の分身でもある彼女はそう思っているのかもしれない。

「……とりあえず揃ったみたいだし、降りようか」
【そうしましょう。お城のご飯ではなく、カナの料理になるというのはいささか不満が残りますけども】
「こいつ……!!」
「出発前に喧嘩をするなっての」

 風太の神妙なセリフにレスバが茶化す。一応、空気は読んでいるのかねこいつは。

 そのまま俺達は装備を確認して外に出るとクレオール陛下やキルシート、騎士団長のヴァルカが待っているところへ出くわす。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。