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2巻

2-2

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「お、お待たせしました!」
「すみません、着替えに手間取りました!」

 水樹ちゃんと風太が慌てて入ってきて、すぐ後に不満げな夏那と、リーチェがついてきた。

「リーチェの防御魔法、硬すぎるわ……」
『そりゃリクの無意識と魔力が合わさって創られているから、この中じゃ実質ナンバー二よ!』

 どうやら訓練で夏那の攻撃がリーチェに通じなかったようだ。

「く、悔しい……って、あの時の女の子騎士! 久しぶり!」
「ええっと……カナさんでしたっけ? フレーヤですよ! フウタさんとミズキさんもお元気そうで!」
「いやあ、フ、フレーヤさんもお元気そうでなにより。あ、あの時はありがとうございました! 痛いっ」

 今日もよろいを着て勇ましいフレーヤ。そんな彼女が微笑ほほえみながら挨拶あいさつをすると、風太が照れながら答える。それを見て、夏那が風太の尻を叩いていた。
 というか風太の態度……こりゃ本気か? あまりいいことじゃねえし、あとで忠告しとくか。

「国王様もいらっしゃったんですね。エピカリス様も」
「ふふ、割り込むすきがありませんでしたわね。ええ、プラヴァスが来たらお話をしましょうか」

 水樹ちゃんの言葉にエピカリスが微笑み、ほどなくしてプラヴァスが登場した。ニムロスと親友同士で握手あくしゅを交わした後に、ニムロスが訪問理由を話し出した。
 とりあえず国交の復帰についてゼーンズ王からの書状を持ってきたことが一つで、あとはエラトリアの現状を伝えに来たらしい。
 戦争時に防衛線を張っていたエラトリアの面々だが、結局のところ大事おおごとにはならず魔物退治で終わったことをみな喜んでいたとのこと。
 手を回していたアキラスが消滅したこともあって、魔物の数が一気に減って平和になったとさ。 
 ……国のトップが魔族に取り憑かれていたロカリス国より、実際に魔族の襲撃を受けていたエラトリア王国の犠牲者の方が少なかったのは皮肉というか僥倖ぎょうこうだったというべきか……難しいところだ。
 そしていくつか外交に関する提案書の確認が終わったところで、ニムロスが俺を見ながら言う。

「――それと、ゼーンズ王からの伝言で、リクに一度エラトリア王国へ来てほしいとのことなんだが……どうだい、一緒に来てはもらえないか?」
「俺?」
「はい! 魔族の脅威きょういは終わっていませんが、お城でパーティーをすることになったんですよ。それでこの戦いを終わらせたリクさんに是非お礼が言いたいと。もしよかったらカナさん達もご一緒に!」
「あ、それは行きたいかも!」

 フレーヤが補足すると、夏那が色めき立つが、俺はほほをかきながら返答をする。

「あー、俺はいいや。みんなで楽しんでくれりゃ満足だ」
「「えー!?」」

 驚愕の声を上げたのはフレーヤと夏那。
 なぜかと問われれば、俺は彼らを利用したにすぎないし、あまり仲良くするつもりもないからだ。
 フレーヤをきたえたのも国を救ったのも、全ては俺や高校生達のため。
 だから礼を言われることじゃないんだよ。

「ま、そういうわけだ。あ、でもワイラーの短剣は返しておいたほうがいいか。どうせあと二週間もすりゃ俺達は旅に出る。道中、一回だけ顔を出させてくれ」
「うう……どうしてもダメですか……?」
「リクさん、フレーヤさんもこう言っていますし、パーティーくらい行ってもいいんじゃないですか?」

 風太がそう言うが、俺は首を横に振った。

「いいや、必要ない。俺は俺の目的でエラトリア王国の人々を利用した結果、こうなっただけだ。彼らが俺に感謝する必要はねえ。それで? 俺に言うことはそれだけか、ニムロス」
「うん、そうだね」
「ならあとはそっちで話をしてくれ」
「あ! リクさん! それなら――」

 風太がなにか言いかけていたが、俺はきびすを返して謁見の間を後にした。
 これ以上ここに居ても面白い話は聞けそうにないし、少し眠るか――

     ◆ ◇ ◆

 ――Side:夏那――
 あたし達は謁見の間から去っていくリクの背中を黙って眺めていた。

「リクさん……」
「彼はいつもああなのかい?」

 水樹が呟くのを聞いて、ニムロスと呼ばれていた人があたし達に声をかけてくる。
 苦笑しているものの、どこか困惑した顔をした彼らに、あたしは口を尖らせて反応する。

「まあね……って言いたいところですが、あたし達も知り合ってからそれほど時間が経ってないんですよ。頼りになるけど、あんまり手柄とかをめられるのが好きじゃない感じはします」
「うん……なにか隠しているような気がするけど……」

 ここでリクに対しての心情を吐露とろするわけにはいかないので、風太は言葉を濁しながらさびしげな顔をする。水樹も困った顔でリクの出て行った扉を見ていた。
 するとエピカリス様が空気を読んで口を開く。

「仕方ありません。リク様はあまり派手なことは好きではないようですし。エラトリアには旅立ちの時に立ち寄ると言っているので、その時に祝いをすればいいのではありませんか?」
「ニムロスよ、実は私達も陛下を治療していただいたのと、貢献こうけんしてくれたことでうたげをと思ったのだが、報酬ほうしゅうは物品だけでいいと拒否されたよ」

 プラヴァスさんがそう言って苦笑していると、ニムロスさんも、エラトリアにいる時もそんな感じだったと顎に手を当てて呟くように言う。

「ふむ……ドライというかなんというか、だね」
「僕はフレーヤさんのパーティーに参加したかったけど。……痛いって夏那!?」

 風太がそんな浮かれたことを言うので、お尻をつねってやった。
 その様子を見て、フレーヤさんが微笑みながら口を開いた。

「ふふ、ありがとうございます。でも、今回の主役が拒否するとなると難しいですねえ」

 リクはあたし達のことを一番に考えて行動してくれているから強くは言えないけど、なんだか色々と拒絶しているようにも見えるのよね。前の異世界でなにかあったのかしら……?

「とりあえずエラトリア王国へ来た際にもう一度誘ってみますよ」

 ニムロスさんがそう話を締めくくった。
 どちらにせよあたし達はリクについていくしかない。いつか話してくれるといいけど。
 ――そして約束の一か月となり、旅立つ時がやってきた。

     ◆ ◇ ◆

「さて、と。出発するにはいい天気だなこりゃ」
『ちょっと寂しい気もするけどね』

 ロカリス城の門の前にある馬車の横で、俺とリーチェは城を見上げながらそんなことを口にする。
 約束の一か月が経過し、準備をして英気を養った俺達は、いよいよグランシア神聖国へと向かう。
 ――結局、魔族の『ま』の字も出てこず、現状では魔王側に諸々の情報は伝わっていないと判断した。
 俺達を警戒して出てこないことも考えられるので、旅立った後、戦いを仕掛けてくることはもちろんあるだろう。だから城に結界を張るように宮廷魔法使いであるルヴァンへ告げた。
 とりあえず今は俺の結界が張ってあるのだが、結界は時間が経つと弱くなってしまうから、長い目で見ると不安が残る。
 結界の使い方を知らねえなら覚えろ、使えるならもっと腕を磨けとケツを叩いておいた。
 まあ彼女は魔力の使い方も、覚えもいいので上手くやるだろう。
 そしてこのまま神聖国へ……といきたいが、エラトリアにも結界を張りたいのとゼーンズ王に挨拶をしておきたいので、俺達は一度エラトリア王国へ向かう。ワイラーに短剣も返せてねえしな。
 それと、せっかく俺や風太達のためにパーティーを開こうとしたのに遠慮えんりょしたことも少し心苦しかった。なので直接謝罪をしておきたい。

「……いかんな。あれから何年も経つのに」

 一人で異世界に行って戦い、そして終わらせた。だけど、あの時に受けた傷は今もなお胸に残ったままなのだ。
 俺の中ではそれが完全に吹っ切れていない。だからこそ人と関わることをけたいのだが――

『仕方ないわよ。でも、今回はそうも言っていられないし、ね』

 そう言って城から出てくる高校生三人に目を向けながら肩を竦めて笑うリーチェ。そこで夏那が俺達に気づいて駆け出してくる。

「あ! 居ないと思ったらもう外に出てたの? 出るなら声をかけなさいよ」
「別に逃げるわけじゃねえし、いいじゃねえか」
「そりゃそうだけどさ、やっぱこの四人でこっちに来たんだから、揃ってた方がいいでしょ!」

 なぜか得意げにそんなことを口にする夏那に、俺は苦笑する。
 そして風太と水樹ちゃんの後ろにいるメンツに目を向けて、肩を竦めた。

「王族に見送られるとは豪華ごうかなこった」

 そこには国王、姫さん、プラヴァスにルヴァンがいた。他の騎士や騎士団長は前の日に挨拶をしているので今日はこれだけだ。
 そこで国王が俺に向かって頭を下げる。

「リク殿、私もこの通り一人でも歩けるようになったよ。そしてこの国の代表として改めて礼を言う、本当にありがとう」
「気にしなくていいですよ。たまたま利害が一致した結果ですから」

 俺がそう言うと、エピカリスも国王に続いて礼を口にする。

「いえ、わたくしがアキラスに乗っ取られたままならロカリス、エラトリアの両国は滅ぼされていたかもしれません。ありがとうございます」
「ま、この前も言ったが、ラッキーだったと思えばいい。魔族との戦いは終わっていないし、姫さんが必死にうったえかけた結果、水樹ちゃん達があんたの表向きの姿に不信感を覚えることができたわけだし、俺だけの手柄じゃねぇよ」

 俺が両手をやれやれといった感じで広げて首を横に振ると、プラヴァスが呆れたように言う。

「まったく、ああ言えばこう言う。素直に受け止められないのか?」
生憎あいにく、俺はひねくれ者だ。だからこそ事態の収拾ができた。それに、『疑心を持て、知り合いでも』って師匠ししょうがよく口にしていたよ」
「今後、その言葉をきもに銘じておくよ。……死ぬんじゃないぞ」
「そりゃこっちのセリフだ、プラヴァス。そのうち姫さんと結婚するんだろ? きばっていけよ」

 そのうちにとは言っているが、プラヴァスとエピカリスは結婚の予定を早めるそうだ。国王は元気になったもののやはり気が弱っており、退位して若い二人に託したいらしい。
 性格がおだやかな王なので、娘が魔族に取り憑かれていたショックで精神的なダメージを負ったのだろう。同情はするが、それではまた付け狙われる。
 逃げだと思うがこればかりは責めにくい。

「ったく……リクのせいで仕事が増えたわ」
「ふん、若いんだからそれくらいは頑張れよルヴァン」
「腹立つー! いいわ、戻ってきたらびっくりするような結界を張ってやるんだから! ……それとフウタ、元気でね……そして戻ってきたらお付き合いしましょう!」
「うん、ありがとうルヴァンさん。でも、お付き合いはできないかな」
「うぐ……」

 風太があっさりと結論を言い渡し、ルヴァンは撃沈した。
 この一か月の様々なアプローチの甲斐かいなしとは可哀想かわいそうだが、ルヴァンは夏那と水樹ちゃんの手前、ノリで迫っていた部分もあったしな。
 ともあれ、ロカリスは魔族に対しての防衛をしっかりやると宣言していたので、頑張ってもらいたい。折角助かった命だ、つないでほしいと思うぜ。
 そうして一通り挨拶を終えた俺は馬車の御者台に乗り込む。

「それじゃ御者はまず風太に任せた」

 御者台に並んで座る風太にそう声をかけると、風太は元気にエピカリス達に挨拶をした。

「はい。それじゃ、皆さんありがとうございました!」
「召喚はまいったけど、お互い様だったわね」
「お元気で!」

 夏那と水樹ちゃんが、最後の挨拶をする。

「はい。また、お会いしたいと思います。女神ルア様のご加護があらんことを!」
「ニムロスによろしく言っておいてくれ」

 二人がほろ付きの荷台に乗り込むと、プラヴァスと姫さんが手を振りながらそんなことを言う。

「「さようなら!」」

 馬車がゆっくり進み出すと女の子二人は後方に移動して手を振り、俺は前を向いたまま手だけ振ってやった。

「そういえばハリヤーは連れて行かないのね」

 町に入って少ししてから、夏那がそう聞いてきた。

「テッドにとっては、じいさんの形見みたいなもんだろ? それに、あいつはもう派手な動きはできねえしゆっくりさせてやればいいさ」
「うん……」

 この一か月乗馬の練習に付き合ってもらったので情が移ったのか、寂しげな顔をする夏那。水樹ちゃんもあいつのおかげで乗れるようになったし、ホントかしこいやつだったぜ。

「テッドくんの家に挨拶には行かないんですか?」

 隣に座る風太が横目で聞いてくる。

「……いいって、そういうのはガラじゃないんだよ」
『あはは、寂しくなっちゃうもんね』
「やかましいぞ、リーチェ」

 俺は目の前で飛ぶリーチェをつまんでやった。

『ぎゃああああ!? 助けてカナ!?』
「ははは、今が十分賑やかだもんね」

 風太が苦笑しながら馬車を操作し、やがて町中へと入る。
 こいつは御者がこの期間でだいぶ上手くなった。
 あと、戦闘のメインは俺だが、ある程度は身を守るための訓練も積ませた。
 しかも、俺が前の異世界で学んだサバイバル技術も叩き込んでいるので、野営もなんとかなるだろう。
 フレーヤほどではないと思うが、それなりに戦闘にも対応できる……はずだ。それでも幹部クラス、俺がかつて居た世界でいう上位クラスの魔族相手はまだ無理だろう。
 そんなことを考えていると、ギルドの脇を通り過ぎる。ダグラスの暑苦しい顔を思い出し、あいつらも魔族に対抗できるようにするとか言っていたなと思い出す。
 そして町の外へ差しかかった時――

「リクさーん! ありがとうー!!」
「お、テッド……それにハリヤー……」

 門の近くでハリヤーを連れたテッドが笑顔で手を振っていた。横で立つハリヤーは、初めて出会った時のどこか諦めた感じのある雰囲気から一転して堂々としていて、それがちょっと嬉しかった。

「元気でねー! また遊びに来てね、おうちのこと本当にありがとう!」
「おう! 父ちゃんと母ちゃんを大事にしろよ! ハリヤー、お前はちゃんと爺さんの代わりにテッドを守ってやれよ!」

 俺がそう言うと、ハリヤーは少しだけ寂しそうな目を向けながら『大丈夫、分かっていますよ』みたいな感じで大きく鳴いた。
 そのまま門を抜けると、ロカリス国の門が段々小さくなっていく。振り返ると、テッドは姿が見えなくなるまで手を振っていた。

「なんだか寂しいわね」
「出会いがありゃ別れは必ず発生する。そんなもんだって」
「ふふ、リクさんが一番寂しそうですけどね」
「そりゃないぜ、水樹ちゃん」

 荷台から声をかけてくる二人に肩を竦めていると、隣に座る風太が笑いながら夏那と水樹ちゃんへ言う。

「僕達は初めて異世界で外に出るわけだし、気を付けないとね」
「ああ、戦闘は俺に任せとけ。だけど自分の身はしっかり守れよ?」
「うん」
「分かりました!」
「大丈夫よ!」

 三人がそう返事をする。
 こうして俺達はロカリス王都を後にし、旅立った。エラトリア王国までは行ったことがあるし、今回は追手も来ないから楽だろうと思っていたんだが――

     ◆ ◇ ◆

「やれやれ、一長一短だな。アキラスを倒したらこれか」
「いやあ、凄いわね……」

 俺の〈水弾アクアバレット〉で眉間みけんを貫かれて絶命した巨大な芋虫いもむしの魔物を見ながら、夏那が絶句する。
 ハリヤーと旅をした時にはロカリスに魔物は居なかった。だが、アキラスの制御が無くなった今は多くの魔物が戻ってきているようで何度か遭遇そうぐうしていた。
 大した相手ではないので御者台から魔法で迎撃げいげきするだけで事足りる。実はこれをするため風太を御者に仕立てたのだ。


 今回は急所を一撃で貫いているからそこまでグロくはない。だけど剣や槍での戦闘をして内臓でもぶちまけたら、女子二人は吐いてもおかしくはねえな。
 そう思いながら苦笑していると、水樹ちゃんが幌から顔を出してきた。

「す、凄いですリクさん……命中精度も撃つ速さも……」
「前の異世界ではこういう仕事もしていたからな。っと、国境の壁が見えてきた、エラトリアまであと少しだ」
「おおー……とりでって感じね」
「なんかホントにゲームみたいだ」

 風太はオープンワールドのゲームが好きらしく、不謹慎ふきんしんだけどドキドキするんだってよ。
 そこで水樹ちゃんが思い出したように口を開く。

「そういえばこのお馬さん達って、ハリヤーのお孫さんらしいですよ」
「え、マジか!?」

 思わぬ情報に、俺は驚いてしまう。

「はい! ハリヤーさんがお年寄りだって聞いて、エピカリス様が探してくれたそうなんです」
「なんで先に教えてくれなかったんだ?」
「ハリヤーの孫って聞いたら、リクさんは連れて行かないって言い出すんじゃないかって」
「あー」

 確かに言うかもしれねえ。
 動物でも家族ってやつは、なるべく近くで暮らした方がいいからな。
 ちなみにハリヤーの子にあたる馬は騎士団の馬房に居るのだとか。旅ならより若い方がいいからと、この二頭をくれたらしい。

「名前はなんていうんだ?」
「ハリソンとソアラって名前みたいです。ね?」

 水樹ちゃんが笑顔で聞くと、二頭は『お話はうかがっています、よろしくお願いします』といった感じで小さく鳴いていた。ああ、確かに祖父に似てる鳴き方だなと頬がゆるむ。

『なんか嬉しいわね。だからハリヤーは大人しく見送ってくれたのかも』
「多分そうね、ハリヤーは一緒に行きたかったと思うけど」

 リーチェと夏那が笑いながらそう呟く。

「なら、こいつらは死なせねえようにしないとな」
「そうですね。ほら、国境を抜けたら休憩きゅうけいだぞ」

 風太が二頭に声をかけながら、手綱たづなを操り進んでいく。
 国境にいた門番はこの前フレーヤと一緒に通った時と同じ奴で、『女の子を変えたのか』と悪い冗談を口にしながら笑っていた。
 去り際に後ろから『おかげで死なずに済んだ』と両国の門番に礼を言われたので後ろに手を振ってその場を後にする。
 というわけでそれから一泊だけ野営を行い、そのままエラトリアの王都まで突き進む。
 馬車の荷台があるおかげで、夏那と水樹ちゃんがゆっくり眠ることができるため、比較的不満をらさずに移動できたのは僥倖と言えるだろう。


 そうした中、五日ほどかけてようやくエラトリア王都に到着した。
 人が増えると移動速度も遅くなるな、やっぱり。

「おお、あなたは……! ニムロス様を呼んで参ります!」

 城の門番は俺を覚えていたようで、すぐに城へニムロスを呼びに行く。が、なぜかフレーヤが迎えに来た。

「お待ちしていました、リクさん!」
「おう、フレーヤがお迎えか。ニムロスはどうした?」
「団長は忙しいので代わりにわたしがおおせつかりました! 馬車に乗ってもいいですか?」
「ど、どうぞ!」

 風太が照れながら言う。

「それでは失礼して……皆さんもようこそ!」
「やっほー!」
「わざわざありがとうございます」

 俺か風太の隣に座るかと思ったがそうではなく、荷台に乗り込んで夏那と水樹ちゃんとの再会を喜んでいた。

『相変わらず元気ねえ』
「リーチェちゃん! 会いたかった!」
『ぎゃあああ!?』

 そして相変わらずリーチェを握って遊び始めた。
 分かりやすくがっかりする風太はさておき、途中でフレーヤが口を尖らせながら顔を突き出してきた。

「それにしても、ほんっとーにパーティーに来ないとは思いませんでしたよ!」
「別にいいじゃねえか。俺はこっちにはあまり手助けできてねえし」
「それでも、戦争にならなかったのはほとんどリクさんのおかげなんですよ? わたし達としてはお礼をさせてもらわないと気が済まないんです!」
「……どうだろうな、俺はアキラスの襲撃に偶然居合わせただけで――」

 と言いかけて、あまり感謝を無下むげにするのもつまらねえことだと思い直し口をつぐむ。
 すると、フレーヤは何を勘違いしたのか、鬼の首を取ったかのようにニヤリと笑いながら目を細めた。

「ふふん、言い返せませんか? もしリクさんが誰かに助けられたらお礼をするでしょう? それと同じです! というわけで今日はパーティーになりまーす!」
「あれ? 先にやったんじゃないの?」

 夏那が俺に抱きつこうとするフレーヤを引きはがしながら尋ねる。
 フレーヤによると、どうやら俺達が来たらパーティーをする方針に変えたらしい。
 さっさと旅立つつもりだったが、野営も続いたし女子二人をゆっくりさせてやるかと考え直す。
 あとは――

「はあ……」
「……」

 風太にも言い聞かせておくいい機会かもしれない。ため息をく風太を見てそう思う。
 いや、風太だけじゃなくて、この先の道中で女子達が誰かを好きになるかもしれないし……それも含めてだな。
 そんなこんなで俺達が謁見の間へ足を運ぶと、そこには俺が最初に話し合いをした時のように、騎士団長達と姫さん二人と王妃おうひ様、そしてゼーンズ王が待っていた。

「よく来てくれたリク殿。久しぶりだ」
「元気そうでなによりです。あれから問題は?」
「平和そのものだ。あれほど緊迫きんぱくしていた事態が夢だったのかと思うほどにな」

 俺が尋ねるとゼーンズ王ではなくワイラーが肩を竦めながらそんなことを口にする。
 やはりアキラス以外の魔族は近くに居ないようで、この国も結界さえ張ればしばらくはなんとかなりそうだ。


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