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第八章:魔族との会談

181.交渉するのも大事な仕事だ

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 話し合いが終わった彼等が俺達の前に戻ってくる。
 その中で、リーダーであるヒュウスが一歩前に出て口を開く。

「申し訳ない、遅くなりました」
「いや、構わないぜ。頼んでいるのはこっちだし、俺の指示で動くことになるから慎重になって然るべきだ」
「ありがとうございます。……それで、俺達の出した結論ですが――」

 ヒュウスの言葉に風太達が息を飲む。そして口から飛び出した結論とは――

「エルフの森への同行、お受けします」
「お、いいのか?」
「はい。ただし、条件がありますがいいですか?」

 まあこういうのはきちんとすり合わせておいた方がいいと、俺は頷いて肯定する。すると意外な答えが返ってきた。

「俺達は四人ですが、二手に分かれたいと思っています。タスクとミーア。この二人がリクさん達へ同行し、俺とグルガンは帝国で防衛任務を続けます」
「え、それだとチームワークで敵を倒すのが難しいんじゃない?」
「カナの言う通り今までの戦い方は出来ないわ。だけど、それによって得られるものがある」
「金は増えるんだ。そうだろリクさん?」
「あー、そういうことか」
「どういうことです?」

 水樹ちゃんが不敵に笑うミーアとタスクを見て首を傾げる。するとレスバが指を立てて説明を始めた。

【帝国に雇われているパーティが帝国からお金を受け取る。これは契約上で一定ですよね?】
「そうだったと思う」
【はい、ありがとうございます。フウタさん。で、エルフの森へ行くのはリクさんの依頼。なんですけど別口の契約になるので支払いは別々になる、というところでしょう】
「あー」

 風太がポンと手を打って納得する。
 ちなみにそれで正解だとタスクが鼻を鳴らす。まあ人数が減るから少し給料が減額されるかもしれないが、エルフの森へ行くメンバーは危険度が高いため金払いはいい。
 多分、俺の口添えで吊り上げられることを考慮しているのかもしれないな。

「それはアリなの?」
「金の亡者と言われるかもしれないが、冒険者にとってはなにより必要なものだからね。それにリクさんは俺達を自分の駒だと言っていましたが、優秀な戦士であるあなたなら預けられますよ」
「はは、そう言ってもらえると照れるな。ま、しっかり働いてもらうけど、安全には配慮する」
「お願いします」
「やったー! カナ、ミズキ一緒に頑張ろうね!」
「うんうん! ……でも、あたしは厳しいわよ!」
「ミズキにいいところを見せるチャンス、だな」
「ふふふ、それでもタスクさんには惹かれませんけどね?」
「あが……」

 ということで変則的だがタスクとミーアがウチに加入することになった。これがいつか、ここに残ると宣言した水樹ちゃんに残せるものになるかもしれない。
 風太と夏那は……どうするんだろうな。セイヴァーの下へ行くことがほぼできる状態になった今、その決断を迫られる時期ともいえる。
 さて、それはともかくクラオーレ陛下にこの件を話しておかないとな。

◆ ◇ ◆

『これで良かったの? 四人居た方が良かったんじゃない?』

 二日後に出発することや準備をお願いしてヒュウス達の下から去った俺達。少し離れたところでリーチェが顔を出してそんなことを尋ねてきた。

「まあ問題ないさ。戦力として考えた場合、三人より低い。けどレスバという足かせがあるからそっちに夏那なり、風太なりを使った場合手数が減るからな」
【わたし足かせ……!?】
「当たり前だろ。なんか仲間っぽい雰囲気を出しているけど、魔族だぞお前? それにこの中で一番危うい立ち位置ってのを忘れるな」
「レスバってそうなの?」

 夏那がそう言ってくるので、俺はレスバの頬を引っ張りながら返す。

【ふにゅん】
「人間にとっては世界の敵。で、前にも言ったが魔族の仲間からすると裏切者。俺からすれば前の世界の仇だ。現状でこいつが生き残る術は俺達と一緒に居るしかない」
「確かに……。レスバ、あなた……いえ、なんでもないです……」
【言いかけて止めるのは怖いからちゃんと言ってくださいミズキぃぃぃ!?】

 ふうと息を吐いて目を逸らす水樹ちゃんに襲い掛かるレスバ。その様子を見ながら風太が口を開く。

「……やっぱり信用はしていないんですね」
「当たり前だろ。あいつに隷属の契約みたいな確実なものが無い限りなにするか分からないからな」
「そう、ですね。でも魔族が実は思っていたよりも利己的なら自体の収集はつきそうですけどね」
「……」

 それは、ある。
 あるが、一国を滅ぼしている事実や人間をさらって餌にしたことは覆らない。人間と魔族の溝は広がったままなので、和解は相当難しいと思う。

「ま、それは俺達が考えることじゃないさ。これから異世界人も加わるし、迂闊な発言とか気をつけろよ」
『そうよ』
「一番はリーチェだと思うけど……」

 そんな話をしながら程なくして町の中へと戻り、次は先ほど言われていた船のところへ行くことにする。港へ足を運ぶと俺達が運んできた聖木がキレイに加工されて並べられているのを確認できた。

「見事ですね」
「結構な数が出来ているけど、どうなんだ?」
「もうできそうじゃない?」

 夏那が唇に手を当てながら聖木を見ていると、でかい男が近づいてきて口を開く。

「おう! お前達がこれを持ってきてくれた奴等か? ちゃんとこっちに来てくれたか」
「あんたは?」
「俺はカロリス。この港の船を預かる技術職人ってやつだ」

 そう言って歯を見せて笑うカロリスが手を出して来たので俺が握り返して握手をする。そのまま全員と握手を交わすと、聖木を差してから言う。

「こいつは一旦乾かしてから使う必要があるからこうしているんだ。それにしてもよくエルフと交渉できたもんだぜ」
「ま、幹部を一人倒したからそれくらいは融通が利くのさ。よろしく頼むぜ、帰ってくるまでに一隻仕上げておいてくれ」
「任されたが……小さいのでいいのか? 海にも幹部クラスがいるって話だろ? 海騎兵を連れて行った方がいいんじゃないか?」

 カロリスが肩を竦めて口にするが俺はそれを手で制してから言う。

「いいんだ。先行して様子を見るのが目的だしな。幹部クラスは倒せるから、特に問題になることもないだろ」
「ま、そう言われたら違いねえ! 戦えるやつの言葉なら従うしかねえ。が――」
「が?」
「……調子に乗って死んだ奴は多い。気をつけろよ」
「ああ」

 で、俺達を呼んだ理由は船のデザインについて聞きたかったらしい。とりあえず四人が乗れて、排泄物を流せるトイレ的な場所、仮眠が取れるところなど必要なものを作るよう頼んでおく。
 
「まさか手漕ぎ……!?」
「なわけあるか。帆を使って風で進む。風太の得意魔法だから無風でも進めるだろ」
「お、僕が役に立てそうですね」

 風太が色めき立つ。適材適所ってな。

 これで帝国でやることは概ね終わったか。後は騎士達を確認して出発だな。
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