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第八章:魔族との会談

179.不穏な気配が漂っているな?

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「騎士団は遠征部隊を組むから選抜しておけよ」
「はい、陛下。移動と運搬なので城の守りを優先するつもりです」
「ま、それがいいだろうな。往復ともに俺達が居るから安全は保証するぜ」

 というわけでエルフ達の下へ行くため、騎士団の編成を進めるクレオール陛下と騎士団のヴァルカ。彼等に往復は心配するなと伝えておく。
 実際、ヴァルカの言う通り城の守りが手薄になるのは避けたいので数人いる騎士団長・副団長はお留守番で三番手くらいの人間と兵士を借り受けることにした。

「冒険者はどうする、リク殿」
「んー。今回は止めておこうかと考えている。エルフ達も人間に対して警戒は解いていないし、冒険者が後で『私欲』に走る可能性もあるしな」
「む、確かに」

 信用できる人間なら数の居る冒険者はアリだと思うがな。
 ああ、ギリギリあいつらならいいかもしれないな。元気でやってるか気になるところだし挨拶がてら手伝うか聞いてみるか。魔族との戦いに怯えてなければ、な。
 
「いつまでに編成と準備ができそうだ?」
「急ぎたいから今日中に準備は終わらせる」
「オッケー、なら二日後の早朝、出発しよう」
「わかった。……どこへ行くのだ?」

 馬車の荷台を用意するため四苦八苦しながら駆け回る騎士と兵士を眺めながらだいたいの日程を決める。そのまま歩き出すとクレオール陛下が尋ねてくる。

「三人のところへ。訓練をさぼってないかチェックした後、ちょっと町へ出てくるつもりです」
「そうか。後で小型船を作っている工員が来て欲しいと言っていたからそっちも頼む」
「承知しました、陛下」

 と、返事をし、片手を上げてその場を立ち去る俺。そのまま三人が居る訓練場へと足を運ぶ。

「せい!」
「フウタ殿の一撃、重いですな……!!」
「まだまだ……!!」

「お、やってるな」
「あ、リクさん。今は風太君が訓練中ですよ」
「風太、武器の長さで有利を取りなさいよ!」
【相手、足が止まっていますよー】

 水樹ちゃんが俺に気付き状況を説明してくれた。残る二人は目の前の試合を見て白熱中のようだ。
 俺が折衝をする間は訓練ができないから騎士達にお願いをしていたわけだが……。

「こりゃ副団長クラスでもないともう手に負えないかねえ」
「かもしれませんね。ウィンディア様を取り込んだせいか、動きが前と全然違うんですよ」

 こうやって一対一の戦いだとよく分かりますと水樹ちゃんが感嘆の声を上げていた。

「魔族相手だと集団戦が肝だからな。っと、その話は後だ。風太の模擬戦が終わったら話がある」
「出発日、決まったの?」
「まあな」

 夏那が俺に振り返って聞いてきたので頷いておく。そこで風太の突きが騎士の胸板を直撃して大きく吹き飛んだ。
 相手が手をあげて降参の意思を示したので、これで勝負がついたようだ。

「ありがとう……ふう……ございました!」
「はあ、ふう……いやあ、お強い……! 次は勝ち越してみせます!」
「お疲れー!」
「よう、やるな風太。勝ち越しってことは何度かやったのか?」
「あ、リクさん! はい、五本勝負で四本取りました!」

 それを聞いて俺は口笛を吹いてから頭を撫でてやった。努力が実っている証でもあるし、こいつは褒めて伸びる傾向にある。

「凄かったわよ。後であたしとも勝負ね。それで、リクの話は終わったの?」
「サラッと勝負を申し込むなよ。とりあえずこっちだ。皆さん、相手をしてくれてありがとう」

 騎士達が『どういたしまして』『またお願いします』といった声を上げる中、俺達は一旦、訓練場を離れていく。
 適当な場所で風太を休ませるかと芝生に腰を下ろして話を進める。

「とりあえず出発は二日後になった。多分、馬車だけで三十以上での行軍になる。もし魔族が襲ってくる場合、戦うのは俺になるだろう」
【……】

 神妙な顔でレスバが頷く。仲間が殺されると考えているのかもしれない。
 まあ、今のところ幹部クラスと魔物と殆ど変わらないレッサーデビルのみが出てきているのでこいつの知り合いといった魔族は出てこないだろう。

 ……むしろ幹部クラスが出てきて欲しいが、騎士達と一緒のところで仲良くやるのは疑心を生むため難しいところだ。

「三十以上……。その数で半月以上往復か。大変な旅になりそうだ」
「襲撃、あると思う?」
「運次第だろうな。さすがにこの人数で行軍していたら人間でもなにかあるなって疑うだろ」
【そうですねえ。後、向こうへ送ったフェリスという人間もそろそろ催眠とかで口を割らされていると思いますぜ、旦那】
『あー、あるかも』
「旦那って……。でも確かに時間的に考えると有り得ますね」

 レスバの言葉の意味を理解した水樹ちゃんが顎に手を当てて言う。今までは俺達だけだったし、グランシア神聖国やエルフの集落など、隠匿性の高い地域に居たのでなんとかなっただけだしな。
 本格的に国が動くとなると向こうも指をくわえて待っているわけにもいくまい。

「ま、邪魔をするならって感じよね。で、あたし達も準備する感じでいいの?」
「そうだな。足りない食料とか買っておくぞ。ハリソンとソアラの身体も洗ってやらないとな?」
「あ、やります、やります!」
「それと、今からギルドに行くぞ」
「ギルドへ? なにかありましたっけ……」
【……あ! 昨日のペルレとかいう女に会いに行くのでは!? わたしというものがありながらぶら!?】
「あんたのじゃないっての。で、本当のところは?」

 夏那がレスバにコブラツイストをかけながら俺に問う。休憩中に一度、冗談で風太にかけたのだが覚えているとは、やるな……。いや、それはともかく問いに答える。

「ヒュウス達に会いにな。あいつら、元気でやっているか気になるんだよ」
「ああ……。レムニティ戦で結構やられてたもんね」
「まだ居れば、だけどな」

 そういって立ち上がると、四人も同じく立ってついてきた。夏那はミーヤに会えるかもと言って喜んでいる。水樹ちゃんはナンパされたことと、お酒で失敗したことを思い出して顔を赤くしていた。

【それにしても、わたし一応人間の格好をしていますけど出歩いていいんですかね】
「まあ俺が居るから構わないぞ。上手く化けているし」
『こういうのが人間の輪に入り込んで荒すのよねえ』
【お、お、喧嘩を売っていますかね? 破格で買いますよ……! ぎゃぁぁぁぁ!?】
「リーチェには勝てないんだからやめとけばいいのに……」

 両目を突かれたレスバを見てドン引きする門番をよそに、俺達は町へと繰り出していく。日本みたいに壊れた家屋や道路がすぐ直る世界ではないので、まだ痛々しい状態だ。
 
「邪魔するぜ」
「いらっしゃいませー! って、リクさんじゃあないですか」

 案の定というか受付にはペルレが居た。目的は彼女ではないので適当に手を上げてから挨拶だけしておく。

「誰かお探しで?」
「ああ、タスクやヒュウスはまだここに居るのか?」

 結局見つけきれず、ペルレが声をかけてくれたので手っ取り早いかと素直に聞いてみる。すると手をポンと打ってから口を開く。

「彼等ですか。そういえばカナさんとミーアさん、仲が良かったですね。今は外で野営任務をしていますから明日、戻ってくる予定ですよ」
「契約はそのままなんですね」
「ですねえ。あなた達が特殊なだけで、本来陛下の提案した契約を冒険者は手放さないです」
「まあ、衣食住ありの給料制みたいなものだしね。帰ってくるのを待ちますか?」
「そうだな……」

 と、俺はここでふと気になることを覚えた。

「野営、ってことは魔物が増えているのか?」
「あ、えっと。魔族、ですね。リクさんが幹部を倒して旅立った後、レッサーデビルが定期的に町に来るんですよ。残党っぽいのを駆逐しているんです」
【……変ですね】

 ということらしい。
 そしてレスバが口にした通り、幹部クラスが居ないとレッサーデビルというのは動きが鈍い。命令されてから動く、というタイプが殆どだからだ。
 残党がレムニティの指示をずっと守っているというなら話はわかる。でもそれほど数は居ないと思うんだよな?

 嫌な予感がするな。このタイミングってのがまた。

 とりあえず野営地に行ってみるかと考える俺だった。
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