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第八章:魔族との会談
178.思惑と実行がかみ合わないのはよくあることだ
しおりを挟む船が完成すれば本格的に魔族との戦いが激化する。
本拠地へ行くことができるなら黙っている必要も無いからな。
しかし、魔王が知り合いである俺は全面戦争になる前に話をしに行く必要が出てきたので彼らよりも先に出港する必要があるってわけだ。
「それは構わないが……エルフの集落へはリク殿が居なければ面会できないだろう?」
「そうですね。だから向こうへ戻っている間、俺が持って帰った聖木を使って小型の船を制作して欲しいんですよ。で、戻ってきたらすぐに出発できるように」
「リク様達だけで出港するのですか? 性急すぎるような……」
俺の言葉にキルシートが不安げにそう言う。
「うむ。海戦騎士団と君たち、それと周辺国へ志願者を募り一気に魔王の根城であるブラインド・スモークへ行けば、恐らく長きに渡る戦いに終止符が打てる。俺はそう考えているのだが」
「いい作戦だと思います。ただ、少しやることがありましてね。海の魔族幹部をなんとかしたいんですよ」
彼らの考えでは俺達と一緒にヴァッフェ帝国の一個師団と、周辺国に騎士を募って乗船させて出港して、一斉に叩くつもりだったようだ。
軍事国家であるヴァッフェ帝国が『いける』と判断した書状を送れば協力してくれる国は恐らく多い。
敵幹部を倒した実績もある俺達が一緒だと言えば今度こそと考えるだろう。
だが、メルルーサと話をするには他の人間は邪魔になるんだよな……。
「それこそ一緒に行けばいいのではありませんか?」
「……海上の戦いは意外と難しいだろ? だから幹部を二人倒している俺が先に行って倒しておく。万が一作った船を沈められると困るだろう」
「確かに……。少数の方がリク殿は動きやすいということか」
「そういうことです陛下」
顎に手を置いてさすりながらクレオール陛下は納得してくれたようだ。キルシートは少々不満げだったが聖木を持って帰った俺の言い分を優先するべきかとため息を吐きながら了承してくれた。
「では明日から船の作成を着手する……として、エルフの集落へはすぐ出発するか?」
「準備を考えて二日ってところですかね。聖木の効果を試しておきたいですし」
「分かった。俺は各国へ書状を書こうと思うが構わんかな?」
「お任せします。楽観はできないので覚悟のある人間だけ来るようにしておいてもらえると」
俺が真面目な顔でそう返すと、クレオール陛下も気を引き締めて臨むと言って謁見は終了して下がる。
これでほぼ計画は完了したと言っていい。
セイヴァー、イリス……。もう少し待っていろよ――
◆ ◇ ◆
「ふう……リク殿には助けられてばかりだな。負担を減らそうと思って一斉攻撃を仕掛ける提案をしたのだが断られてしまったな」
「それは私も思いました。しかし単騎で結果を出せるリク殿ならお任せしていいのかもしれません。ただ――」
「ただ?」
「リク殿は少し焦っているような……。いえ、気のせいかもしれませんが」
リクが出て行ったあと騎士達を下がらせ、クレオールとキルシートが二人でそんな話を続けていた。会話の中でリクが強固に自分たちだけで行くと言っていたのが気になるとキルシートが唸る。
「魔王を倒せる算段がついたのだからそれも無理はあるまい」
「それはその通りです。ですが、確実に倒すためには協力する必要があるのではないかと」
確かにリクは強い。だが、確実に魔族を倒すなら協力は必要だろうとキルシートは考えていた。
逆に言えば、折角強力な戦力を単騎で突撃させて万が一、負けるようなことがあれば困るからだ。
リク自身の計画はもちろんあるが、この世界の人間にとって魔族討伐は悲願なのであの提案には疑問を感じていたキルシート。その話にクラオーレは少し考えた後、口を開いた。
「……こちらの戦力を減らすのも美味しくはないし、俺からリク殿に航海について話をしよう。それより今から忙しくなるが頼むぞキルシート。今日は宴を開いて彼らを労ってやろう」
「はっ。ヴァルカとペルレにも声をかけておきましょう」
キルシートもそう言って小型船の建造と宴の準備のため謁見の間を後にする。
「さて、各国への書状を作るとするか。……魔王を倒した後、今度は人間同士の戦いとなるか。俺は大陸統一を諦めたわけではないぞ――」
◆ ◇ ◆
「戻ったぞー。大人しくしていたか」
「あ、おかえりなさい!」
【子供じゃないんですから当たり前ですよ?】
「あんたが一番危険なんだけどね?」
『おかえりーどうだった?』
部屋に戻ってそうそう、夏那とレスバがベッドの上で暴れ出すがそれはスルーして部屋に設置されている椅子に座って先ほどの話を五人へ話す。
焦点は次にここへ戻ってきたらすぐに出港するということと、メルルーサと対峙することであろうということだ。
「そのあたりは軽く聞いていましたけど、国王様達はそれで大丈夫でしたか?」
「強引だが了承してもらった。エルフの集落に行って帰ってくる間にそれくらいはできるだろ? で、大型船を作っているタイムラグの間にケリをつける」
「なるほど、確かにそれなら不自然ではないですね。先行して幹部を倒す、みたいなことを言ったんですか?」
「おお、いい勘をしているぜ風太」
船に乗っても海の魔物が減るわけじゃないし、それを操る厄介な幹部であるメルルーサを止められれば説得力も増すだろう。
「でも海って広いわよね。地図も無いしどうやってそいつを探すの?」
「そりゃお前……こいつの出番だろ」
【私?】
「同じ魔族ならこいつの気配で気づくはずだ。そのために俺達だけで出港する必要があるってわけだ」
『そういうことね。わたしと一緒に空から探すのもアリだしね。でも飛んで逃げるんじゃない?』
「そこはこれがあるからな」
俺はアキラス戦で作成したフック付きロープを取り出して笑う。
「凧みたいに結んで飛ばすのね」
【酷い!? でも身体が反応しちゃう!】
「相変わらずよく分からない子ですね……」
水樹ちゃんが呆れてそんなことを言う。
まあ、もし役に立たなくても探しようはあるんだがそれは最終手段だ。
そんな調子で慰労会のような宴があり、
「なんかまたリクさんのところに女の子が増えていますね……! そこはわたしの席ですよ!」
【ほほう、誰だか知りませんがその悔しそうな顔、いいですねえ……! この男はすでに私のものです諦めることですね】
「なんか似てるなこの二人……」
レスバと受付嬢のペルレがなんか争っていた。
そんな一幕があったものの、翌日に聖木を使って魔の牡蠣が寄り付かない実験をし、有用性を確認した俺達は再びエルフの集落へと向かうため準備を始める――
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