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第八章:魔族との会談

177.事情が変わったんで交渉をさせてもらおうか

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 聖木を乗せた馬車はゆっくりと進み、実に十二日かけて俺達はヴァッフェ帝国へと凱旋する。
 なんだかんだでここを離れて2か月は経過したので少しばかり懐かしくも感じるな。

「やっと帰ってこれたわねえ。ハリソンとソアラ、お疲れ様!」
「本当にそうね。片道だけで二十日くらいかかっちゃったもん」
「仕方ないさ、これだけ木が詰まっていたらな。そんじゃ城まで一気に行くとすっかね」

 風太が手綱を動かすと、最後のふんばりだといわんばかりに馬達の足が速くなり町へ入るための門が近くなっていく。門番をしている兵士がこちらに気づくと大きく手を振りながら迎えてくれた。

「よくぞ戻られました!」
「覚えていてくれたか」
「それはもちろん。魔族撃退の功労者を忘れるはずがありません! ささ、お通りください」

 出発時にも顔を合わせた人物が笑いながら道を開けてくれ、俺達は手を上げて応えながら町の中へ。俺達が勇者であることは告げていないので、あくまでもレムニティ達が攻めてきたことに対しての功労だな。

「それじゃこのままお城まで行きますか?」
「陛下に報告が先だからそれでいいさ」
「久しぶりね。ペルレさんとかキルシートさん、元気かしら?」
「そういえばそんな受付嬢が居たわねえ。レスバはどうするの?」
【また目隠し……ふひ、見える……わたしにも敵が……!】

 レスバのこめかみをぐりぐりといじる夏那が俺に聞いてくる。一応、人間のフリをしてもらっているので会わせることに抵抗はないが目隠しをしたままってのは怪しすぎるか。
 謁見は俺だけでもいいだろうし、部屋で待っていてもらってもいいかもしれないな。

「あれから襲撃は無さそうですね」
「アキラスの時に言ったと思うが、魔族幹部は手柄の独り占めをしたがるから同列で共闘という手段はしないんだ。ここを攻めていたレムニティが倒されたことが伝わればここに来る奴も出てくると思うけどな」
「平和なのはいいことだけど、いつ来るか分からないのもそれはそれで怖いわよね」

 とは夏那の弁だがまったくもってその通り。
 戦争ってのは緊張が続いてしまうため、精神的にまいってしまうことはよくあることだ。相手が完全に諦めたり倒したとハッキリ目にするまでは疑心暗鬼の中で生活を余儀なくされる。
 まだ短いがこの世界を見る限りそこまでの事態になっていないのは僥倖だと言えるだろう。五十年もの間このレベルを維持できていたのはセイヴァーの『せい』であり、『おかげ』でもあるのは皮肉だな。

 馬車は町を進み丘を登って城へと一直線に向かう。
 城の門番も俺達だとわかり通してくれ、その間に別の門番が城へと走っていった。そして城の入口に到着するとそこには宰相であるキルシートが待っており、片手を上げて口を開く。

「リク殿、よくご無事で」
「久しぶりだなキルシート。さっそくで悪いがクラオーレ陛下と謁見をしたいんだが……」
「ええ、もちろん。……? 人が増えていますね?」
【……】
「ああ、エルフの集落へ行った時に魔物に襲われていたところを拾ったんだ。行くところがないみたいで少しだけならってことで一緒に居る。謁見は俺だけで、風太達は部屋で待機させたい」
「なるほど、承知しました。ではすぐに部屋へご案内します」

 キルシートは出会った時と同じくクールな調子で軽くおじぎをするとメイドを呼んで風太達の案内をするよう告げる。

「それじゃリクさん、また後で」
「おう、ゆっくりしてな」
「お風呂に入りたいわね……ここまで長かったし」
「いきなりは失礼だよ夏那」
【まあ、グランシア神聖国から結構長かったですしねえ】

 水樹ちゃんが笑顔で俺に手を振りながらこの場を離れていき、俺とキルシートだけが残される。とりあえずハリソン達も休ませたいので、

「もう少し人を呼べるか? 聖木、荷台に少し載せているんだ」
「おお、さすがですね。それでは訓練場へ運んでおきましょう。そこの君、すまないが騎士を数人呼んでくれ」

 キルシートの命令で、巡回をしていた兵士がキレイな敬礼と共に駆け出していく。その間に馬を馬車から外しておくことにした。

「よーし、お前達もゆっくりするんだぞ」

 ハリソン達が首を伸ばすのを見て俺はうんうんと頷く。これだけの荷物を持って来たんだ、餌は奮発してやりたいねえ。
 そんなことを考えていると騎士を待つキルシートが声をかけてきた。

「謁見で聞けると思いますが……成功、したのですね」
「ああ。エルフの協力を受けることができたその証として少し持ち帰ったんだよ」
「流石です。幹部を倒すだけのことはある」

 荷台から聖木を取り出して一本投げて渡す。キルシートは眼鏡の位置を直しながら感嘆の声を上げた。

「……これは素晴らしい。素人目に見てもこれがいいものだと分かりますよ」
「とりあえずそいつを……っと、先に謁見させてもらおうかね」
「ええ」

 ちょうど騎士達が戻ってきたので荷台を彼らに任せ、俺とキルシートは城内へ向かう。
 途中で巡回の兵士、メイドなどとすれ違いながら目的の場所へ急ぐと、先に話が通っていたのかすぐに謁見の間の扉が開かれ、久しぶりの顔合わせとなる。

「よく無事に戻ってきたリク殿」
「久しぶりですね陛下。それにヴァルカも」
「ああ、あの三人も部屋に行く途中会ったぜ。元気そうでなによりだ」
「ペルレとの仲は深まったのか?」
「うるせえよ……!?」

 くっくと笑う俺を不満そうな顔で睨む騎士団長のヴァルカ。すぐに笑いながらお互い元気でなによりだと口にするとクラオーレ陛下が口を開く。

「それでエルフ達とは会えたのか?」
「ええ、キルシートには見せましたが、証拠としても少しばかり聖木を持って帰ってきましたよ」
「……! これであの島へたどり着く算段がつく、か」
「今ごろ世界樹を切って木材にしてくれているはず。というわけで――」

 俺はそう口火を切ってこれからの話を続ける。
 必要なものは人と馬、そして聖木を載せる荷台であること。それが船の規模によって大掛かりな大移動になるであろうことを話す。
 それはそれとして、俺はクラオーレ陛下に頼みごとをする。

「……申し訳ないんだが、そっちの船以外に一隻、船が欲しい」
「ふむ?」
「俺とあの四人が乗れる程度の大きさで構わない。先に出港したいんだ」

 でかい船で航海した方が楽だがセイヴァーに会うなら邪魔をされるわけにゃいかねえからな。レスバのこともあるし、できるだけ少数で行動をすべきだと俺は交渉することにした。
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