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しおりを挟む第一章 誘われる四人
「はい、はい! そうでございます……ははー、ありがとうございます‼」
「せ、先輩……」
「はい、それでは失礼いたします……‼」
俺はそう言って電話を切ると、心配して覗き込んでいた後輩の女の子が視界から消えた。
「どうだった?」
どぎつい油顔を近づけて尋ねてきた課長に対して、俺は汗を拭いながらサムズアップをする。
するとその瞬間、課長と固唾を呑んで見守っていた他の同僚が歓声を上げて、部署全体がお祭り騒ぎになった。
「ふう……」
「お疲れ様です、高柳さん」
「ったく、勘弁してほしいぜ。相当怒ってたけどなんとかなった」
「今日はお祝いしましょう!」
――俺、『高柳陸』は本日、とても恐ろしいと噂の社長さんに謝罪の電話連絡を入れて、今ようやく終わったところだ。
なぜか?
後輩社員の納品ミスでお叱りを受けたからである。
元々、俺が担当していたお客様だったが、業務拡大で後輩に引き継いだ。その後輩がゼロを一個多く入力した注文書を作ったってわけ。
……物語の話だと思っていたが、事実は小説よりも奇なりだな。
そんなわけで前担当の俺がかなーり謝り倒してなんとか許しを貰ったわけである。
相当値切られてしまったが、取引中止にならなかったのは良かった。
危機を回避した後は通常業務をこなして一日が終わる。
「今日は行くのか?」
一通り自分の仕事を終えた俺は、納品ミスを起こした例の後輩の女子に話しかけた。
「あー……すみません、残業になっちゃいました……」
「はは、それじゃ。また今度な」
「そこは手伝うって言ってくれるところでは⁉」
「私は昼間の電話で疲弊しているのだよ、明智君……」
「うう、ごめんなさい……」
「ま、頑張ってくれ、またな」
と、飲み約束をしていた後輩女子にため息を吐くと、笑いながら謝られた。
今日は花の金曜日で、残業終わりを待てるほどの余裕はないのだ。俺は課内の人間に挨拶をしてから陽が落ちた繁華街へ繰り出していく。
可愛い後輩と飲みたかったが、今度の楽しみにしよう。
「さて、と、なら居酒屋に行くか」
俺はいつもの店に足を運ぶかと進路を決める。
明日は休みってのもあって、高校生や大学生がウロウロしているな。ゲーセンやカラオケにカフェを横目に懐かしいもんだなと思いながら歩く。
まあ俺の場合は――
「ご飯はどうする? 食べて帰るよね」
「母さんの帰りが遅くて、父さんは外食予定だし、そうするよ」
「なら、あそこいかない?」
「いいよ」
前を歩く学生カップルが放課後のプランを話しているのが聞こえてきて、頬が緩む。
若いってのはいいね。
俺はといえば、ぼっち臭ただようおっさんなので浮ついた話の一つもない。
「ひとり寂しく居酒屋がお似合いですよ、と」
ま、人それぞれってことで……。
「な、なんだ……⁉」
「ん?」
その時、前を歩く男子生徒が変な声を上げたので視線を向けると、カップルの足元に紫色の魔法陣が現れていた。
「な、なによこれ……! う、動けない、なんでぇ⁉」
困惑する女子生徒が叫ぶも、その場で固まったように身動きが取れないようだ。
――この感覚は⁉
すぐに離れなければ、という思いと、あの二人を助けなければという考えが頭をよぎった瞬間、カップルの斜め後ろを歩いていた眼鏡の女子生徒が、二人を助けようと魔法陣に足を踏み入れるのが見えた。
「か、夏那ちゃん……!」
「水樹!」
「なん、だ……意識が……遠くなっていく……」
「馬鹿……! お前だけでも離れろ‼」
俺は高校生を救うため、声を上げながら魔法陣へと走る。
「え⁉」
そこで魔法陣がさらに光り輝き、眼鏡の女子生徒が中心に引きずられていく。
「手を伸ばせ!」
「は、はい!」
チッ⁉ 眼鏡の女の子の手は掴めたがこれじゃ間に合わん……! このままじゃ俺も巻き込まれる、離脱しないと――
◆ ◇ ◆
――巻き込まれた。
俺は何も聞こえない暗闇の中で、体を回されているような感覚を受けながら胸中で舌打ちをする。
この気持ち悪い感覚には覚えがあり、俺は高校二年生の時に似た経験をしたことがある。
後はこのまま待つしかない。
そこで手をぐっと握られ、そういやさっき眼鏡の女子生徒の手を取ったことを思い出す。
俺よりも学生組の方が不安、だな。
ここは『先輩』として肝を据えて行くしかねえ……か。
力強く握られる手を握り返して終わりが来るのを待つ。
「眩しい……!」
男子生徒の声が聞こえたその時、音が帰ってきた。
「ああ、異世界の勇者様! お待ちしておりました‼」
視界が真っ白になった瞬間、甘ったるい女性の声が聞こえてくる。
さて、早速『勇者様』ときたか。
ロクなことにならないなと思いつつ片ひざを突いて目を開けると、高校生組が尻もちをついたまま頭を振っているのが見えた。
「う……?」
「な、なに……ここ……」
「え、え……? 勇者……?」
「ええ、その通りですわ。わたくしの名はエピカリス。ロカリスという国の姫で執政をしております。そしてあなた達をこの世界へ召喚した者です!」
「……」
やっぱりか。と俺は目を細めて周囲を確認すると、窓はなく地下室のような場所で、司祭風の格好をした男が五人ほど控えているのが視界に入る。
どういう話をしてくるか……とりあえずそこを聞くまではだんまりでいこう。まあ、あの時と同じような話になるだろうが……。
そう思っていると、甘ったるい声のお姫さんとやらが説明を始める。
「あなた方をこの世界へ召喚したのはお願いがあってのこと。今、この世界は魔王とその配下の魔物達に支配されつつあります」
「あ? は? え? な、なにかのイベント? 勇者?」
「ま、魔王ってゲームじゃないんだから……」
「混乱するのも無理はありません……ですが、もうわたくし達に頼れるのは勇者のお二人のみ。魔王を倒していただきたいのです!」
「「ええー……?」」
そう言ってカップルに詰め寄る姫さんの訴えは勝手が過ぎる。
とはいえ、異世界から人を召喚する理由なんてのはいつもそんなもんで、自分達の手に負えない存在を倒すとか、異世界の知識を得るためみたいな感じだ。前者は倒さなければ戻れない、後者についてはほとんど奴隷みたいな扱いってのを聞いたことがある。
なんでそんなことが言えるかって?
……それは俺自身が過去に異世界へ召喚されたことがあるからだ。
十数年前、高校二年だったその時も、世界を崩壊させようとしている魔王を倒してくれとか言われた。
魔法を操り、剣を振って敵を倒す――
召喚された時は興奮したものだが、実際は人間を殺すことになったりして陰鬱な気分になった。
魔王も可哀想なヤツだったが、無事、討伐に成功して、元の世界へと戻ることができた。
向こうには仲間もいっぱい居たし、恋人も……居た。
だけど俺は日本に戻った。いや、戻されたというべきか……さよならを告げる暇もなく。
……異世界召喚なんてロクなものじゃない。
高校生を同じ目に遭わせるわけには、いかん。それが先輩としてやれることだろう。
俺がそんなことを思っていると、男子生徒がおどおどと口を開いた。
「い、いきなりそんなことを言われても……僕達、ただの高校生で……」
「大丈夫ですわ。異世界から召喚された人間はこの世界の者より能力が高いと言われています。少し鍛えれば、お二人はすぐに魔王を倒すことができるかと」
「ま、マジなの……? って、さっきから二人だって言ってるけど、この子とあのおっさんはどうなのよ?」
「か、夏那ちゃん、落ち着いて……」
「落ち着けるわけないわ⁉ わけも分からないままこんなところに召喚されて、こっちの都合はお構いなしじゃない。あんたも怒った方がいいわよ!」
気の強そうな女の子は意外と冷静だな。あの姫さんの煽てには乗らず、向こうの都合だけで召喚してきたことに腹を立てているのは実にいい。
男の方は、っと。
「……確かに夏那の言う通りですね。僕達にメリットがなく一方的にそんなことを言われても、とは思います。逆の立場ならどう思われますか?」
オッケー、合格点をやろう。
そう、ここは向こうに主導権を渡さないことが大切だ。
俺の時と違い、一人で召喚されなかったのが良かったみたいだな。冷静になれるのと、男が女を守らねばって気になるのはいいよね!
……と、親心を出している場合じゃねえな。実際、あの気が強い女子の言う通り、ここに呼んだのは『二人』であって、俺と眼鏡っ娘は対象外というのが気になる。
そんなことを考えていると、エピカリスが演技じみた声で口を開いた。
「こちらとしても心苦しいのですが、ええっと、お名前を聞かせていただいても?」
「僕は奥寺風太といいます」
「緋村夏那よ」
「……フウタ様にカナ様、残念ですがこちらのお二人はなんの力もない方になります。戦いに出ることは難しいでしょう。かといって元の世界にお戻しするのは魔王を倒してからになりますし……」
ふん、なるほどな。
これは間違えて召喚したわけじゃねえな。おそらくあの二人が『勇者』ってのは本当だろう。眼鏡っ娘と俺になんの力もないかは疑わしいが、この後のセリフは分かる。
多分『お城で保護させていただきますわ』だろうな。
「とはいえ、こちらの不備ですので、元の世界に戻るまでお城にて保護させていただきたく思います。もちろん丁重に」
「そ、そう、それならいいけど……」
ほーらそうだった‼ だよな、俺はともかく、勇者とは顔見知りっぽい眼鏡っ娘を手元に置いておかない理由はない。
なぜか?
よく考えてほしい。
魔王を倒すために異世界人を召喚したわけだが、その召喚した人間は『自分達に手に負えない相手を倒せる』。
ということはこの世界で一番強い存在になるってことだ。そんな存在が大人しく言うことを聞くだろうか? 答えはノーだ。
とはいえ魔王を倒すまで戻れないと言われれば従うかもしれないので、高校生達がそこに気づくかどうかは微妙なところ。
しかし、保険として『人質』が居れば確実に従うだろう?
そう、俺と眼鏡っ娘は人質なのだ。
さすがに高校生カップルも、勇者ではない雑魚だと言われた知り合いを連れて旅には出ないだろう。
もし、人質を置いて行く場合、召喚者の指示に逆らうことは難しい。つまり、人質を用意することで途中で逃げ出せないようにするという算段だ。
するとそこで風太が口を開く。
「それは僕達でないとダメなんですか? いきなりそんなことを言われても困りますし、家族も心配すると思います。できれば戻してもらって、他の人を召喚、ということはできませんか?」
ま、当然の主張だよな。
興味がなければこんなことに付き合う必要はない。
「残念ですが……お二人は『選ばれた存在』。替えは利きませんし、申し上げた通り、元の世界に戻るためには魔王を討ち滅ぼしてからだけになります」
そこで眼鏡っ娘がおずおずと口を開いた。
「それは……どうしてでしょう? 一方通行ということはないのでは? ひっ⁉」
エピカリスに鋭く睨みつけられ、眼鏡っ娘が小さく悲鳴を上げた。
「……そう言い伝えがあるのです。わたくし達は『窮地に陥れば異世界人を召喚する』という伝承に則っているだけにすぎませんわ。お願いします……魔王軍に操られている隣国を倒してくださらないでしょうか‼」
「……」
「風太……」
学生組は難しい顔をして黙り込んでしまった。
向こうが出してくるカードは現状これくらいだろうなと俺は立ち上がる。それから襟を正し、ネクタイを締め直して、頭を下げてから姫さんへと告げる。
「私の名前は高柳陸と申します。お話はだいたい分かりました。しかし彼らもいきなりのことで混乱していると思います。ここはひとまず落ち着ける部屋などをご用意いただけると助かります」
「……」
ひゅう、冷たい視線ですこと。勇者以外はマジでゴミ扱いかね?
だが、こんな小娘に怯む必要はないので視線を逸らさず見ていると、渋々といった感じで口を開く。
「……リク様のおっしゃる通りかもしれませんわね。わたくし達も初めて召喚に成功した興奮でそちらのことを考えていませんでしたわ。ヨーム、この方達をゲストルームへ。丁重に、ですよ?」
エピカリスがそう言うと、そばで待機していた男が立ち上がった。
「ハッ、お任せください。皆様、こちらへ」
「いや、僕達は……」
俺は焦る風太に近づいて小声で言う。
「(気持ちは分かるが今は焦るな。とりあえず俺達だけで話ができる場所の確保が先だ)」
「え? ……はい」
察してくれるいい子だぜ。
彼女はギャルっぽいのに彼氏のこいつは真面目そうだな。まあこういう性格だと言いくるめられる可能性が高いから、あの気の強そうな彼女はバランスがいいのかもしれない。
「……っと」
背中に寒いものを感じて振り返ると、エピカリスが不機嫌そうな目でこちらを見ていた。
ふん、腹になにか抱えているって顔だぜ?
だが相手にはしていられないと俺はすぐに前を向いて、ヨームと呼ばれた男についていく。
召喚された場所はやはり地下室だったようで、蝋燭で照らされていた部屋の扉を出て階段を上がった。窓の外に目を向けると暗い夜空に青い月が見え、ここは前に召喚された世界ではないことを知らせてくれる。
せめて同じ世界なら知り合いが居たんだが、と胸中で呟きながらため息を吐く。
女の子二人は黙ったまま風太の後ろにつき、俺はさらにその後を追うように歩いていき、ほどなくしてとある部屋へ通された。
「ここでお待ちください。姫様がお呼びになったら応じるように」
「へいへい、分かってますよ」
「……ふん、勇者でもない平民が」
最後尾の俺にしか聞こえないような小声で悪態をついたヨームの背中に舌を出して、扉をロックする。
「あの、ありがとうございます……高柳さん、でしたっけ?」
「おお、とりあえず災難だったなあ。そっちの二人も少し休んだ方がいい」
「あ、うん……」
「あ、ありがとうございます……」
「なあに、礼はいらねえ。この後、俺はお前達を利用するんだからな」
俺がどっかりとソファに腰を埋めながらそう言い放つと、風太が眉を顰めて口を開く。
「利用、ですか? 僕達を利用できるような環境とは思えないんですけど……」
「分かった! えっちなことを考えているのよ! おっさんはこれだから!」
「女子高生に興味はある! ……けど、今はそれどころじゃねえ」
「あはは……否定はしないんですね。あ、私は江湖原水樹です」
苦笑する眼鏡っ娘こと水樹ちゃん。
冗談だと分かってくれているのか、ギャルっぽい女の子の夏那も肩を竦めて笑っていた。
……ま、二人とも歩いている時に膝が震えていたから虚勢だってのは分かってる。少しでも緊張がほぐれれば幸いだ。
「それじゃ作戦会議といきますか」
俺は手をパンと打ってから前かがみになってにやりと笑う。
「作戦会議……?」
「ああ、この世界で生き抜いていくためにな。お前達だってこんなところで死にたくはねえだろ」
「あ、当たり前よ!」
夏那が困惑の表情を見せながら声を荒らげる。
そこで俺は唇に人差し指を立ててから口を開く。
「とりあえず、この部屋が盗聴されてないかチェックするぜ。魔法が使えれば――」
「ま、魔法?」
俺は目を閉じて体に魔力が流れているかを確認する……。
……なるほど、世界は違っても仕組み自体は変わらないらしい。久しぶりの感覚に少し楽しくなってきた俺は、全身に魔力を巡らせて魔法を口にする。
「〈看破の耳〉」
その瞬間、耳に魔力が集中する。
口で説明するのは難しいが、なにか盗聴魔法などの問題があれば、隙間風を感じるのと同じような感覚になる。
「ど、どうですか?」
「……とりあえず、この部屋は問題なさそうだ。まあ、召喚したのは初めてだって言ってたのと、自分達が優位に立っていると思い込んでいるだろうからこんなもんだろ」
「えっと、随分冷静ですけどあなたはいったい……?」
「よくぞ聞いてくれた風太。俺はお前達くらいの歳に、こことは違う異世界で勇者をやっていたことがある。あ、これ名刺な」
さっとビジネスカバンから名刺を取り出して三人に渡す。
夏那が眉を顰めて名刺と顔を見比べているところに、水樹ちゃんがおずおずと手を挙げて俺に言う。
「あ、あの、それじゃ一度異世界に行ったことがあるってこと、ですか?」
「そういうこった。だから色んな意味で君達の先輩だな」
「マジですか……⁉ そ、その時はどうしたんですか?」
「あー……それについてはまた今度だ。とりあえず今後のことを話したい」
真面目な顔でそう告げると、夏那が『信じられない』と口を開く。
「今、魔法っぽいことしたけどあたし達には分からなかったわ。厨二病をこじらせたおっさんにも見えるんだけど?」
「ああ、証拠が欲しいのか。確かにあれじゃ痛いおっさんだもんな」
「ま、まあね」
俺が笑うとそっぽを向いてむくれる夏那。
それならともう一つ、ちょっと面白いものを出してやることにした。
「〈召喚〉」
「あ……」
こいつも別世界の魔法だが成功したみたいだな。
水をすくうような形をしている俺の両手に、淡い光が集まっていく。
魔法が終わると、掌に妖精らしき小さな生き物が残り、そいつがうっすらと目を開けた。
『ん……ここ、は?』
「よう、久しぶりだな、リーチェ」
『……って、あんたリク⁉』
「しゃ、喋った⁉」
いつの間にか近くにいた夏那が驚くが、お構いなしにリーチェがふわりと浮き、俺の前髪を引っ張って捲し立てる。
『魔王を倒してからいきなり居なくなって驚いたんだからね! クレスやティリスが世界を駆け回ったけど見つから……なくて……うっ……生きてたよう……リク』
「可愛い……妖精さん、ですか?」
「こいつは人工精霊ってやつでな。四大元素、火・水・土・風を合成して俺が創ったんだ」
「つ、創った……⁉」
風太が目を丸くする。
まあ、ゲームとか漫画でもなかなかお目にかかれないしな、人工精霊。
「伊達に勇者をやってたわけじゃないってことだ」
『というかちょっと老けたわね、リク。それになんか女の子を連れてるし。ティリスが見たらキレるわよ』
「あいつは元気にしているのか?」
『さあ。あんたが居なくなった後、わたしも時間と共に消えちゃったから』
まあさすがに結婚しているだろうな、クレスあたりならイケメンだしお似合いだと思う。
と、感傷に浸っている暇はないか。
「とりあえずこれで信用してもらえるかな?」
「うわ、凄い……めちゃくちゃ可愛いわね、自我があるのがまたガチね」
『あら、ありがと。あなたも可愛いと思うわ』
「ふふ、上手ね! 気に入ったわ。とりあえず、リクが勇者って本当?」
『ええ、かなり強かったわよ。機転も利くし』
リーチェが得意げに返すと、夏那は俺を見て『ふーん』と呟いた後に続ける。
「オッケー、目で見たものは信じることにしてるの。あたしはリクの話に乗るわ」
「僕も異議なしかな」
「わ、私もです!」
「よし、話が早く進んで助かるぜ。とりあえず俺が魔法を使えることが分かったから、スマホを改造するぞ。三人とも出してくれ」
なんで? という顔をしていたが素直に従ってくれるので、リーチェはいい仕事をしてくれたと思う。
「誰でもいいから通話してみてくれ」
「ん、じゃあ水樹にかけてみるわ。……繋がらないわね」
「ああ、電波はこっちにないから当然だな。それじゃこいつを改造する。〈変貌〉……今度はどうだ?」
俺は口元に笑みを浮かべてそう促し、恐る恐る女子二人が通話をすると――
「……⁉ 聞こえる、使えるわこれ⁉」
「凄い……どうなってるんだろ……」
「多分アプリも使えるようになっているはずだ。それじゃあ俺と連絡先を交換してくれるか?」
「まさか女子高生の連絡先が欲しくてこんなことを……!」
「違うわ⁉ これは重大な意味を持つ。いいか? あいつらは今、俺達を舐めている。この世界へ来たばっかりで右も左も分からないから、道具として使ってやる、しめしめって状態だ」
「ふんふん」
「言いすぎのような……」
「甘いぞ風太。あの姫はなんか隠している。有無を言わせず畳みかけてきたろ? とりあえず首を縦に振らせておくって感じだろうな。最悪、隷属魔法をかけられて人生終了だ」
俺が大げさに、だが決してあり得ない話ではないことを言ってやると水樹ちゃんが体を震わすが、あまり時間もないので要点を告げる。
「まず、風太と夏那は勇者としての訓練を受けておけ。で、俺はしばらく隠れて水樹ちゃんのトレーニングをする」
「ええ? 言いなりになれってこと、ですか?」
「とりあえずはな。剣と魔法は使えた方がいい」
「トレーニングと『しばらく』ってのが気になるわね」
夏那が口を尖らせるのを見て俺はにやりと笑う。
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