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七章:エルフの森

150.疑念が確信に……いや、まだ材料が足りないか

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 ――風太達が外に出た後、俺はグェニラ爺さんを前にテーブルに座る。
 
 俺に照準を合わせて会話に持ち込むのは何故か?

 恐らく完全にこちらを信用していないからだろうと推測できる。もしなにかあっても爺さん一人が死ぬだけで損害が軽微になる可能性が高いとでも考えているんだろうな。
 その証拠にこの家全体に高いレベルの結界が張られていて爺さんが死んだりすれば俺ごと家を吹き飛ばす仕掛けでもしていそうだ。
 気づかないふりをして入り込んだが、風太と夏那はどうかわからないけど恐らく水樹ちゃんあたりは気づいていそうだ。

 ま、推測はいくらでも出来るので今は俺だけを残した理由を尋ねてみるとしようか。

 「それで、俺に何の用だい? こっちの要求は伝えた通りでそれ以上のことは無いし、用件が済んだらさっさと森から出ていくぜ」
 「……それは心配しておらん。精霊や動物が嘘をつくことはないからな、ポリンがそういうのならそうなのだろう」
 「ならどうして?」
 「いくつかあるが、まずはこれを見てくれ」
 
 爺さんが懐から取り出したのは一冊の古びた本だった。それをテーブルに置いて俺に差し出して来たので手に取り開いてみる。

 「こいつは……マジか……」
 「読めるか、やはり異世界人ということだな」
 「ちなみにこいつはどこで?」
 「魔王軍と初めて戦闘になった時だったと思う。後半は私にも読める部分があるが、まあ目を通してくれ」

 正直、俺は吹き出る汗を止めることが出来なかった。
 いつもなら『冷静』を務めるように心がけているし集中コンセントレーションをかければポーカーフェイスもお手の物……だが、この本はそれが難しい。

 何故なら『俺の知る魔法が書かれている』からだ。
 あの三人と俺の魔法形態は似ているようで違うものだが明らかに『向こうの世界』の魔法が書かれていた。そして序盤は読めないが後半は読める、という理由も分かった。

 文字が『この世界』のものに変わっていたからである。記述としては『向こう』の最強クラスの魔法をこちらで使うためのノウハウが書かれていて、よく知っていると感じる。

 「……爆裂閃光エクスプロードか……こっちでも同じなんだな」
 「使える者は今のところおりませんが、以前、聖女様が魔王との戦いで一度撃ったことがあります」
 「メイディ婆さんが? てことはこの本は――」
 「ええ、メイディ様が持っていたものです。内容は御覧の通り、魔法についてです。しかも驚くほど高威力のものばかり」
 「……どういうことだ」

 婆さんが使えたということはこの世界の人間でも使えるということになる。そして爆裂閃光エクスプロードなら魔族に対抗しうる威力だし、数人いれば幹部クラスを圧倒することもできる。
 だが、それを封印しているということはなにかしら理由があるはず……

 「すまないがこいつを借りてもいいか? 婆さんに確認したいことができた」
 「構いません。勇者であるリク殿達に渡します。エルフが持っていても意味がないですからな」

 ……これはちょっと混乱してくるな。

 俺はレムニティに会った時、俺を覚えていないか知らないという態度だった。セイヴァーが居たとしてもそれは『俺の知らない』セイヴァーだと考えていたんだよな。
 
 だけどヤツと現地人の戦いの際にこの本を落としたというのなら……ここに居るセイヴァーは俺と戦った個体なのかもしれない。取り込まれたイリスが持っていたなら向こうの魔法について書かれているのは納得がいく。

 ……それと勇者召喚について俺が考えていたことが少し確信を持てた気がする。

 「……私の話は以上です」
 「ありがとう。疑われているのかと思ったがそうじゃなかったとはなあ」
 「精霊様を生み出す存在であれば、ほとんど神と言って差し支えありますまい。あの若者三人もいい瞳をしておりました。……本来なら人間といがみ合っている場合ではない、というのは頭でわかっておるのです。しかし、あの戦争を体験した者も多いし私もその一人。リーチェ様が居なければ迷わせていたでしょうな」
 「ま、正しい選択だよそれは。人間ってのは小難しくていけねえ」

 俺がそういうとグェニラ爺さんは目を丸くした後、初めて口元に笑みを浮かべていた。そこで爺さんはもう一つ、と口を開く。

 「そういえばエミールが連れていったあの子犬……まさかとは思うのですが――」

 ファングについてなにか聞こうとした瞬間、玄関の方から声がかかった。

 「リクー、まだ話は終わらない? 家のことで相談したいんだけど」
 「んあ、夏那か?」
 「私もいまーす♪ リクさんはお一人だけの家がいいですよね?」
 「なんでだよ……。グェニラ爺さん」
 「……仕方あるまい。チェルめ人間に惚れおったか? 人間は珍しいしリク殿は人間にしてはおっさんだからわからんでもないが……ハーフエルフはのう」
 「こら」

 口を尖らせる爺さんに苦言を告げて俺達は家の外へ。
 とりあえずファングについて聞きたいことはなんとなく分かるが今は聞かなかったことにしておこう。

 それからチェルの意見は全てスルーして四人で過ごせる平屋建てを依頼。久しぶりに一人一部屋でトイレと形だけでも風呂を作った。水は近くの奇麗な池から少し拝借して火の魔法で湯を沸かせばいいしな。
 
 『わーい久しぶりにお風呂ー! ポリンも一緒に入るわよー。でかいの作ったし!』
 「い、いいんでしょうか……」
 「女同士ならいいでしょ! お布団はリクが持っているからベッドだけで――」
 「いや、そんなに長居しないと思うのにそれは注文が多いんじゃないか……?」
 
 風太が呆れながら口をはさむがまったく聞き入れてもらえないことに苦笑する。
 なんにせよ仲良くなったのは……あまり好ましくないと思いつつ俺達はあっという間に作られている家屋に感嘆の声を漏らしながら拍手をするのだった。

 世界樹は明日見に行こうということになりその日はすぐに就寝。
 
 そして翌日――

 「空気が美味い」
 『ぷはっ! 水も奇麗ね、精霊も顔を出してくれているわ』
 「リーチェちゃんだけ見えるのいいなあ」
 「同類だからな」
 『なんか嫌な言い方!? ……って、入り口の方が騒がしくない?』

 出くわした水樹ちゃんと顔を洗っていると、リーチェが飛んで門がある方を眺めてそんなことを言う。確かに慌ただしい感じがしたので三人で歩いていくと、ロディ達と合流した。

 「どうしたんですか?」
 「ミズキ様。偵察に出ていた者が負傷して帰ってきたという報せを受けて向かっているところです」
 「怪我人だと?」

 足を速めて現場へ行くと、そこには武装したエルフが他の者に支えられて呻いていた。

 「しっかりしろ!」
 「お、オレは大丈夫……魔物にちょっとやられただけ……それよりウルが……」
 「ウル? そういえばいない……」
 「はあ……はあ……あ、あいつが死んじまう……」
 「ちょっといいか」

 俺は回復魔法を使い負傷を治すと上がっていた息が整えられて話し始める。

 「お、おお、一瞬で治った……? い、いや、それよりウルが――」

 そう叫んだ瞬間、離れたところで轟音が響き、火柱が上がるのが見えた。
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