上 下
67 / 81
プリメラの秘密

フライラッド王国の都

しおりを挟む
「ふう、ようやく到着したな……」
「つっかれたぁ! お風呂に入りたい! ベッドで寝たい!」
「プリメラは殆ど荷台で僕の布団で寝てたじゃないか」
「それとこれとは話が別なのよ。女の子はデリケートだからちゃんとした寝床じゃないとね」

 そういうものなのだろうか? 人間の女の子というよりプリメラが面倒なだけのような――

「痛い。なんで叩くのさ」
「変なこと考えていたでしょ」
「くっく、仲がいいね相変わらず。あ、大丈夫ですか?」
「ああ。問題はないが、遺体を乗せているとは驚いたよ」
「ちょっとロゴス山まで行くので」
「……ああ。無理をするんじゃないぞ? あそこはまだ魔族が居るって噂だからな」

 王都に入ったところで検閲という荷物や装備の確認をするという作業が入る中プリメラと話していたんだけど、いま終わったらしい。
 荷台のファルミさんも勿論確認をしたので門番の人間はそのことをジェイドさんへ話していた。
 それに対するジェイドさんの答えは困ったような感じだ。ただ町に居る時とは違い、おどおどした様子は見られない。

「さて、とりあえずプリメラの要望を叶えに行こうか」
「むう」

 さらに言うと年上だしということでジェイドさんは僕のことをディン、プリメラはプリメラと呼び捨てにするようになった。ファルミさんが死んで気落ちしていると思っただけに意外だ。
 僕はじいちゃんが死んだ時どうしていいか分からなかったから特に。

 そしてプリメラに何故、僕の考えがバレたのか不思議だ。
 人間にはそういう能力があるのかな……二人を見ているとやっぱり人間は謎だけど面白い。
 
 とりあえず宿を取ろうとジェイドさんが馬をゆっくり進ませて町の中へ。
 
「王都と町ではなにか違いがあるんですか?」
「ん? そうだなあ、キノンの町の何倍も大きいしあの城にはこの国の王様も居るんだ。この王都が国の最先端と思っていいよ」
「だから情報も多く入る可能性が高いってわけ」
「なるほど」

 周囲を見ると確かに人間の数が多いような気がする。
 背の高い建物も多く、大通りの広さも馬車三台が並んでも問題ないくらいある。この道を進むと城に到着するようだ。

「おい、急げよ! 先を越されたらてめえのせいだからな」
「あ、は、はい……!」
「ったくどんくせえな」
「ご、ごめんなさい……!」

 武装した冒険者の往来もよく見かけるので賑やかなのは間違いない。すれ違いに眼鏡という視力を上げるものをかけた女の子が他の冒険者に叱られていた。
 
「焼きたてパンだよ、ひとつどうだいー」
「串焼きはいかがー」
「一本ちょうだいな」

 露店の数も多いね。
 道行く人に購入を呼びかけている人も、買う人も活気というやつに満ちている。

「確かにジェイドさんの言う通り色々あるから面白そうだ。カレンさんの話も聞けるかな」
「ウチの両親もね」
「ま、それは明日にしよう。ここでいいかな」

 しばらく進むと宿の看板を下げた大きな建物に到着した。そこで入口に立っていた人間が手を上げてこちらに近づいてくる。

「やあ、泊まりかな」
「ええ、馬車を止めたいんですが」
「こっちだ。厩舎の代金は別にかかるけど大丈夫かい?」
「問題ありませんよ、それじゃハリソンは休憩だ」
「ぶるふ」

 宿の隣にあった厩舎へ馬と荷台を置いてから宿の中へ。受付でとりあえず三日だけ泊まることを告げる。

「三名様でお一人は別部屋で?」
「全員一緒でいいわ。旅をしてきているんだから今さらだし」
「いいの? 別料金くらい出すけど」
「勿体ないじゃない。それでなにかいい装備を買ってもらった方が嬉しいかも?」

 ちゃっかりしているなとジェイドさんが苦笑し、受付の女性もなんとも言えない顔をして口もとを……なんだっけ微笑ませていた?

 三人の三日分、金貨一枚と銀貨二枚を支払いようやく休憩となった。
 四人部屋でシンプルな作りで洗面台がある程度。

「うあー……ベッドぉ……」
「伸びているね」
「伸びているな」

 それでもプリメラには十分だったようでローブを脱いで即ベッドへ飛び込んで枕に顔をうずめていた。

「お風呂は二十二時までみたいだから早めに入らないと」
「まだ昼間だから……平気……だって」
「あ」

 寝てしまった。
 王都まで七日間ずっとキャンプだったから疲れが溜まっていたのかもしれない。
 
「ふう、いい子だけど冒険者って感じはしないよなプリメラって。冒険者になる前はなにをやっていたんだ?」
「さあ」
「さあ……って。パーティを組んでいるのに知らないのかい?」
「話したく無さそうだからいいかなって。知ってもそれでどうにかなるものでもないじゃないですか」
「それは……そうかもしれない。けど、ディン相手のことを知るというのはとても大事なことだよ」
「そうですか?」

 ジェイドさんが少し考えた後、僕に言う。

「敬語はもういらないよ。俺は雇い主だけどパーティでもあるからね。で、さっきの話の続きだ。ディンも今まで見てきた通り、人間には良い人も居れば悪い人も居る。さらに言えば悪そうに見えていいヤツも居るだろ」
「ああ、ヒドゥン様みたいな」

 僕の言葉に満足だといった感じで頷く。しかしジェイドさんの言いたいことが分からず首を傾げていると続きを話しだす。

「まあヒドゥン様はともかく……魔法人形のディンみたいに真っすぐで包み隠さない人間はそれほど多くない。だから相手のことはある程度聞いておくべきだよ」
「ふむ」

 ジェイドさん曰く例えば僕が魔法人形だと知られればそれを利用するため近づいてくる人間がいるかもしれない。プリメラを誘拐するため笑顔で話しかけてくるかもしれない、ということらしい。
 そこで最初の話である『プリメラがどういう人間で、なぜ両親を探す羽目になっているのか』というのは本当なら聞いておくべきだということだ。

 両親が実は悪人だったりすれば僕やジェイドさんが良からぬことに巻き込まれたりするかもと口にする。

「……まあ、今さら聞けないだろうけど今後は聞いておいた方がいい」
「わかった」

 僕だけならまだしも二人になにかあったら困るしね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...