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因縁渦巻く町
やり返すためには
しおりを挟む「……」
「……」
領主様とトゥランスさんが移動した後、僕達はこの場に残されていた。一緒に行こうかと思っていたけど、プリメラ達をこのままにしておくのもどうかと考えたから。それともう一つ。
「ねえ、プリメラ。僕の胸にある賢者の石を使ったらファルミさん、生き返ると思う?」
「……え? それってあの時の話?」
ジェイさんが自分の奥さんと子供を蘇らせるためにこれを欲していた。ならその方法さえわかればいけるんじゃないかと思う。
「で、でも……それであんたが死んだらどうなるのよ……」
「それは……仕方ないかも? プリメラには悪いけどお金は残していくか……ら!?」
「そんなわけないでしょ! そりゃ死んでもいいと思っていたくらいだからそう思うかもしれないけど、今はもう私と旅をしているしカレンさんを探すって決めたんだから仕方ないことはないのよ!」
プリメラに殴られてしゃがみ込んでいるとまくし立てるようにそんなことを言う。
意味があるかどうかわからない僕の命よりもファルミさんが生きていた方がプリメラもジェイドさんも嬉しいだろうし、有意義というやつなんじゃないかと思ったんだけどそれはダメらしい。
また泣き出したプリメラを見てまた間違ったのだと悟る。
「……賢者の石ってなんだい? それがあれば母さんは生き返るのか?」
「前の町で妻子を生き返らせようとした人がそんなことを……」
「それがディン君の胸に? ってどういうこと……」
「ああ、僕は人間じゃないんです。魔法人形というやつでして、その、胸にある核が賢者の石らしいんです」
そういうとジェイドさんが目を丸くして僕を見た後に口を開く。
「そう、なのか……? 全然わからない……でも、それで君が死んでしまうならそれは母さんが望むことじゃないよ。多分、怒る。やり方も知らないんだよね」
「ええ」
「なら、聞かなかったことにするよ。……俺が死ぬべきだったのに……」
「ジェイドさん……」
ファルミさんの寝ているベッドの横に座りこみ声を殺して鳴く。
そのファルミさんもただ寝ているようにしか見えないのに、息はしていない。
悲しい、という感情なのだろうか? 胸に穴が開いたような感覚がある。
それと同時にまた賢者の石がざわついて、くる。
「二人とも落ち着いたみたいだし、行ってくる」
「どこに?」
「ファルミさんをこんなにした黒幕のところへ。こうしている間も胸がざわつくんだ」
「ディン……オリゴーのところなら私も――」
僕はプリメラを制してから一歩下がる。
「僕に任せて欲しい。ジェイドさんのケガ、治してあげててよ」
「え? あ、うん……気を付けてね? ディンがどうにかなるとは思えないけど、ちゃんと帰ってきて」
「もちろんだよ」
僕はプリメラの手を握って安心させると小さく頷いて彼女は涙を拭いた。落ち着いてきたしそろそろ大丈夫だろう。
そのまま踵を返して玄関を出ると空に浮かび上がって夜空を飛んでいく。
思い出せ……一度あの場で出会ったあの男のことを――
同じ目に合わせてやる。そうしないと僕の胸のざわめきは収まりそうにない――
「ディンの目……色が違ったような……」
◆ ◇ ◆
「くそ……どうして私が逃げるなどという真似を……」
「仕方ありません。ごろつき共が全員捕縛されるとは思いませんでした。ヒドゥンと一緒に居た冒険者が異常な強さを――」
「分かっている!! 役立たずどもが……。しかしまあいい、ライガロン国でまたやり直せばいいだけの話だ」
秘書のギリスの言葉を怒声で遮り、金はあるのだからと荷台にある宝箱のような箱や樽に視線を合わせてほくそ笑むオリゴー。
報告を受けた一行は屋敷の金と金品をかき集めてすでに脱出をしていた。
このまま二つ先の国へ逃げて再起を図るつもりである。
多くは無いが夜逃げをする貴族が居ないわけではない。
ごろつきが捕まって自分のことが発覚すれば逃げることすら叶わないので先手を打った形になる。
「さすがに殺人教唆はまずいですからね」
「まあね。奴隷も領主の座も手に入らなかったのが誤算だ。あの先生とやらが出しゃばらなければ……」
「病気だったようですし亡くなっているのではないでしょうか? 足にすがってきたところをごろつきが派手に蹴り飛ばしたみたいですし」
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「フライラッド王国は抜けないといけませんがね」
「そうだな――」
そう返した瞬間、馬車が轟音と共に横転した。
「うごあ!? い、一体なにが――」
「だ、大丈夫ですかオリゴー様……!? と、とにかく外へ」
ギリスと馬車から出て外に出ると月明りの下、草原が広がっていた。
「見つけた」
「お、お前は……あの時ヒドゥン達と居た……」
「と、飛んでいる……」
その月明かりを受けながら、表情のないディンがオリゴー達を見下ろしていた。
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