上 下
53 / 81
因縁渦巻く町

裏の顔と亀裂

しおりを挟む

 「やあ、お邪魔するよ」
 「あ、オリゴー様こんにちは! 本日はどうされましたか?」

 シスターのヴィネがオリゴーに笑顔を見せながら頭を下げると、満足気に頷いてから彼女の肩に手を置いて口を開く。

 「今日も食料を持ってきたよ。有効活用してくれ」
 「わ、ありがとうございます。先ほどヒドゥン様もいらっしゃって子供たちにお菓子をくれたんですよ!」
 「わー、おりごー様だぁ。いつもありがとうございます」
 「ありがとうー」
 「ふふふ、君たちが大きくなったらお仕事をすることになるし、その時頑張ってくれたらいいよ。……それにしてもヒドゥン様がお菓子とは、ね」

 子供たちが食べているお菓子がそれなのだろうとオリゴーは鼻を鳴らしながら、いけないいけないと笑みを浮かべる。

 「……彼は怠惰な男だ、あまり気を許してはいけないよ」
 「そうですか? 最近よく訪問してくれるんです。寄付の件も約束して実際に増えましたし、しっかり謝っていただけました。一緒に居た女性の先生がとてもいい方で、票を入れることにしましたの」
 「なんだって? ……私もこの教会には肩入れしていたと思うが」
 「ええ、もちろん感謝しております。あまり票に興味がないようなことをおっしゃっていたので……」
 「ふう……そうだったね。また来るよ」
 「あ、はい。申し訳ございません」

 オリゴーは息を吐いてから口元に笑みを浮かべて教会を後にする。

 「(これは結構問題かもしれないな。このままだと私が領主になる可能性は五分というところか)」
 「あ、おりごー様! あ――」

 庭に出たところで小さな女の子が手を振ってくれ、その手からお菓子が落ちる。オリゴーは一瞥した後――

 「ああ!? お、お菓子がぁ……」
 「……ごめんごめん、新しいお菓子をシスターに渡しているから貰ってくれるかい?」
 「はぁい……」

 ――ヒドゥンが渡したであろうお菓子を踏み潰した。

 そのまま腰をかがめて泣きそうな女の子の頭を撫でながら教会内へ新しい自分の渡したお菓子をもらえと微笑んでいた。

 「……さて、寄り道をして良かったと思おうか。先生、ね。どうやらその人物が鍵を握るか。会ってみるとしよう――」

 そう呟いて踵を返し、オリゴーはキノンの町へと向かう――


 ◆ ◇ ◆


 「さ、今日はジェイドもお手伝いしてね」
 「わ、分かっているよ母さん……」
 「今度は西側の広場で声かけだったかな。プリメラ、僕がそれを持つよ」
 「うん、ありがとう」

 教会へ行った翌日、僕達はジェイドさんを加えた四人で仕事場へ向かっていた。
 どの町も広いけど今は色々な人間達が手伝ってくれているので最初に手伝った頃よりはかなり楽になっている。

 残り期間も僅かになりジェイドさんもあの変な顔をすることが少なくなった。しぶしぶと手伝っている感じはするけど協力は止めていない。
 たまに帰りが遅いことがあるので仕事が忙しそうだなと思うけどね。

 「ヒドゥン君をよろしくお願いします」
 「領主様ねえ……商店街の連中も頑張っているけど、変わるのかねあの男は」
 「ええ、ちょっと父親を亡くして自暴自棄になっていただけですから」
 「税金は次の月から減らす、か。子供が居る過程に給付……きちんと実行してくれればいいんだがな」
 「大丈夫ですよ!」

 プリメラが根拠のないことを自信ありげに言うけど紙をもらったおじさんは顔を綻ばせて口を開く。

 「まあ、お嬢ちゃんみたいに可愛い子が言えばわからんでもないけど」
 「プリメラって可愛いんだ?」
 「う、うるさいわね! 票はお願いねおじさん」
 「はっはっは、まあ考えとくよ」
 
 手ごたえはありそうな感じで手を振りながら去っていくおじさんに頭を下げるファルミさん。直後、僕の頬が横に引っ張られる。

 「あにふんだよ」
 「ふんだ」
 「ディンはプリメラさんが可愛いと思わないのか……? 俺は可愛いと思うけど……」
 「ありがとジェイドさん。ディンはそういうのが分からないのよ、だから苦労するわ」
 「でも一緒に居るんだから仲はいいじゃない。お似合いよ」
 「似合う……?」
 「ああ、もう後で言うから」

 プリメラは顔を赤くしたまま僕の頬を引っ張りよくわからないまま仕事を続ける。
 数人が僕達の活躍を聞きつけて挨拶に来てくれたけど、いきなり領主様が変わることに不安を覚える人も居たのは少し驚いた。

 「……人って変化に弱い場合もあるからね。環境や仕事の人間関係、ファルミさんみたいに病気になったりとか」
 「なるほど。現状維持が一番楽ってことか」
 「まあね」
 「ならプリメラが旅に出たってことは現状維持をしなくてよくなったから?」
 「それは――」

 と、僕から視線を外して言いよどんでいたその時、

 「やあ、頑張っているね」
 「……誰?」

 立派な身なりをした男性がにこやかに歩いてきて話しかけてきた。僕が呟くと彼は手を差し出しながら名乗りをあげる。

 「私はオリゴーという。ヒドゥン様と領主争いをしている者さ」
 「オリゴー様……」
 「?」

 ジェイドさんが呻くように言うと、ファルミさんが笑顔で手を握る。プリメラに『あれは握手よ』と言われたけどそれは知っている。
 
 「そうでしたのね、私はファルミと申します。ヒドゥン君の支援をやらせていただいています」
 「ヒドゥン君?」
 「ええ、元教え子でして、お手伝いしているんです」
 「そうでしたか。あなたのおかげで支援者が増えたと聞いておりますが先生なら性格を把握しているのも納得です。もし私が負けても更生していただけるなら文句はありませんからね」
 
 笑顔を絶やさずにそう言うオリゴー様に『そんなことありませんよ、あの子の元々の性格です』などを口にするファルミさん。

 「こっちの人は優しそう、かな?」
 「……」
 「プリメラ?」
 「え? なあに?」
 「いや、変な顔をしていたから……」
 「死にたいの……?」
 「そんなことは無いけど……」

 何故かプリメラに詰め寄られていると今度は僕達に話しかけてくる。

 「君たちは冒険者かな? お嬢さんは可愛い顔をしているのに荒事とはね」
 「ハジメマシテ。別にいいじゃありませんか、人生は色々あるんですから」
 「初めまして、ディンと言います。敵と話しに来たんですか?」
 「へえ、二人とも強気だ。私の下に欲しいね、特に君は」
 「お断りです。旅に出るんですから」

 手を伸ばそうとしたオリゴー様にそういいながら僕の後ろに隠れるプリメラ。苦笑しながら最後にジェイドさんへ顔を向けた。

 「君は……」
 「あ、えっと、ジェイド、です。母の手伝いをしています」
 「そうか、親思いなんだね。……うん、わかった」
 
 ジェイドさんと握手をした後、両脇に立っていた人間の内、一人がオリゴー様に耳打ちをして小さく頷くと、一歩下がって礼をしてきた。

 「そろそろ行く時間らしい、また会えることを期待している」
 「お互い最後まで頑張りましょうね」
 「……そうですね、では」
 「……」

 立ち去っていくのを見送り、離れたところで僕はプリメラと話す。

 「敵情視察ってところかな?」
 「でしょうね、旗色が悪くなってきたからじゃない? 口ではヒドゥン様が更生すればいいみたいなことを言っているけど、そんな感じじゃないわね」
 「だね、口は笑っていたけど目は笑っていなかったし」
 「そういうところには気づくのよねえ……」

 僕達の危惧とは裏腹にファルミさんは元気に次に行こうと示唆してくる。その後も滞りなく仕事が出来たんだけど、ずっと落ち着かない雰囲気のジェイドさんが気になった。

 「後は報告だけね、屋敷へ行きましょう」
 「ええ。……ジェイドさんどうしたんですか?」
 「ちょっと酒屋のオリフに頼まれていたことがあったことを思い出してね、母さん報告は任せるよ」
 「いいわよ、気を付けてね」
 「晩御飯までには帰るから……!!」

 ジェイドさんが駆け出していき、僕達は反対側の屋敷へと歩き出す。
 オリゴー様のことを言っておかないといけないよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...