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因縁渦巻く町

説得……される?

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 そんなわけで僕達はジェイドさんと合流して再びファルミさんの家へと向かう。
 
 言い分として僕がハンバーグを気に入っているので、ジェイドさんがそれに感激して夕食を一緒に食べようと招待したということにした。
 これなら自然だとプリメラも言うのでハンバーグを実際に食べられる僕としては特に異論はなかった。

 「まあ、私達が説得すればすぐだから!」
 「期待しているよ。プリメラさんならいける気がしてきたよ。……ただいまー」

 家に到着してジェイドさんが先に入るとフェルミさんの明るい声が聞こえてきた。

 「おかえりジェイド! ご飯は作ってないけど……あら……あらあら! ディン君にプリメラさんじゃない、どうしたの? 入って入って」
 「こんばんは」
 「お邪魔します」

 ジェイドさんが僕達に片目を瞑ってから台所へ行き、入れ違いに玄関へ来たファルミさんに連れられてダイニングへ。
 あの片目を瞑るのみんな結構やるけどなんだろう、ウインクっていうらしいけど。

 「それでディンがもっとハンバーグを食べたいって言ったら招待してくれたんですよ」
 「そうなのね。ごほ……。今日は賑やかで嬉しいわ、泊っていくの?」
 「ええ、良かったら。やっぱり咳が出るんですね」
 「お昼、ちょっと張り切りすぎちゃったからかも。すぐ良くなるわ、ごめんなさいね」

 僕達は気にしないといいつつ席に着くと台所からいい匂いが立ち込めてきて僕のお腹が鳴る。魔法人形で食べなくてもいいのに食欲があるというのも不思議な話だといつも思う。
 前にも来たけどファルミさんとプリメラが笑っていると特になにもない部屋も凄く明るく感じるのはなんでだろうね。

 そうこうしている内にジェイドさんが料理を持ってきて夕食が始まる。
 僕のハンバーグ好きはおかしいとかジェイドさんの仕事の話などをしていたんだけど、そこでファルミさんが昼間のことを話し出す。

 「こうやって子供たちと話していると学院時代を思い出すわあ。今朝、ヒドゥン君とトゥランス君が居たでしょ? あの二人は仲が悪くて大変だったの。今日を見ている限り、相変わらずみたいだけど」
 「頭は良かったみたいですよね領主様」
 「そうそう、トゥランス君も勉強ができない訳じゃないんだけど、武力の方が高いわね。まあ、頭が良くて領主の息子だから偉そうになって……あんなになっちゃったから少し残念だったの」

 結局、そこは改善ができないまま卒業し、つい最近父親が亡くなってから領主を引き継いだためこんなふうになっていると首を振る。

 「別に母さんのせいじゃないだろ。そういや聞いたけど、母さん昼間にヒドゥン……様と孤児院に行ったんだって? 評判が良くないんだからもう関わるの止めてよ」
 「なに言っているのよジェイド。さっきまでの話は前提で今日からヒドゥン君は心を入れ替えてみんなの為に頑張るって言っていたわ。だから母さん、お手伝いしようと思って」
 
 ジェイドさんが聞いた話を、繰り返しになるがファルミさん本人の口から語られやる気を見せてくる。
 だけど身体に影響が出る可能性が高いことを危惧しているジェイドさんは少し不機嫌な調子で口を開く。

 「……手伝いなんてさせられないよ。母さんはいつ倒れてもおかしくないんだ、家でじっとしていてくれ」
 「そうですよ。もうすぐお金が貯まるみたいですしゆっくりしていた方が……」

 ジェイドさんを援護するようにプリメラが口を挟むが、ファルミさんが手を振りながら返事をする。

 「ダメよ、もう約束しちゃったもの。大丈夫よ、具合が悪くなったらすぐにお薬を飲むし施設を回るだけだもの。孤児院の人も喜んでいたわ、帳簿を見せてもらったけど――」
 「だから! あれの手伝いをしないでくれって言ってるんだ!」
 「……!」
 「……」
 「ジェイド……」

 激高したジェイドさんがテーブルを叩いて食器が揺れ、プリメラとファルミさんがびっくりして目を丸くしていた。
 確かにこっちが心配しているにも関わらずやる気を見せているファルミさんだけど怒鳴りすぎな気がする。

 「ジェイドさん、落ち着いてください。じいちゃんがよく『怒ると血管が切れて倒れる』って言ってました」
 「それはお年寄りだからだよ!? いや、でもディン君の言う通りだ、母さんも歳だし病気もある。頼む、大人しくしていてもらえないか?」
 「うん、私もそう思う。もしあのごろつきみたいなのと一緒にいたらなにかあった時に対処してくれませんよ?」
 「僕もそう思います」
 「うーん……ごろつきは解雇しているし、もう学院を辞めた私の同僚とかに声をかけちゃったから今更ねえ……」

 頬に手を当てて困ったというファルミさんだけど、ジェイドさんの言うことも分かっているようだ。もう一押しな気がする。

 「やっぱり身体は大事だと思うのでジェイドさん……息子さんが望んでいるなら止めた方がいいんじゃないかな? 僕がファルミさんの子供だったら止めると思いますし」
 「ふふ、嬉しいわディン君。そうねえ、やっぱり心配は心配よね……」
 「そ、そうそう、そうだよ母さん!」

 ジェイドさんがよくやった、というような視線を投げかけてくれ親指を立てる。 
 きっと明日はハンバーグをたくさん奢ってくれるであろう予感があったその時、ファルミさんがポンと手を打って口を開く。

 「そうだ! ディン君とプリメラさんは冒険者でしょ? 私と一緒にお手伝いを依頼していい? 報酬は多分ヒドゥン君が払ってくれると思うし、人手が足りないからちょうどいいわ!」
 「な……!? どうしてそうなるんだよ!!」
 「え、ええー……?」
 「心配なのはわかるけどやらなきゃいけないこともあるのよ。約束を反故にするような親は嫌でしょう? それにディン君達なら優しいし一緒に居てくれたら安全よ? ジェイドも休みの日に手伝ってくれればいいじゃない」
 「い、いや、それは……」

 ジェイドさんが言い淀む中、ファルミさんは僕とプリメラの手を取って笑顔で言う。

 「いいかしら? 二人が協力してくれたらおばさん嬉しいわ」
 「う、うーん……じゃ、じゃあ領主様が報酬をくれるなら……」
 「プリメラさん!? ディン君も――」
 「今は協力しておいた方がいいよ。多分このままだと逆にやる気を出すんじゃないかな」
 「……」

 小声でジェイドさんを止めると難しい顔で口をつぐんだ。
 旅に出るのはまあ急いでいないけど、ファルミさんが死んじゃうのは嫌だし仕方ないかな?
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