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因縁渦巻く町
これは仕方がないんだ
しおりを挟む町を出ようと歩いていた僕達に声をかけてきたのはハンバーグ人間ことジェイドさんだった。
慌てた様子で行く手に回り込んできてから息を整え、一息ついたところで話しかけてくる。
「すまない、君たちが母さんをごろつきから助けてくれたんだな。お礼をと思って」
「別に良かったのに」
「うん。ハンバーグ美味しかったですよ、ファルミさんによろしく言っておいてください」
そう言ってプリメラと一緒に脇を抜けようとしたところでジェイドさんに肩を掴まれて止められ、さらに話が続く。
「お礼ついでに、申し訳ないけど君たちに頼みたいことがあるんだ……。こっちへ来てもらえるかい?」
「嫌ですけど……」
「正直だね……でも、本当に困っているんだ! このとおり!」
「どうするプリメラ?」
「まあ、話だけならいいけど、ファルミさんのこと?」
ジェイドさんが頷き僕達は顔を見合わせてからそれならと近くの広場で話を聞くことにした。
「……この辺、人が少ないわね」
「ちょっと人に聞かれたくないっていうか……うん」
「それでファルミさんがどうかしたんですか? 病気のことなら聞いていますけど」
「ああ、それも聞いていたんだ。それと関係があるんだけどさっきヒドゥン……いや、領主様の手伝いをするって母さんが言っていただろう? 体が弱っているのに署名活動なんてとてもじゃないけどできやしない」
「それはわかるわ。けど本人が決めたことだし、嫌ならジェイドさんが止めればいいんじゃない?」
プリメラがそう言うとジェイドさんが首を振ってからその辺の椅子に座って頭を抱えて返答する。ちなみにこの椅子はベンチというらしい。
「母さんは一度決めたことを反故にすることは滅多にないんだ。俺も止めようと思うけど、説得を手伝ってくれないかい?」
「説得を? でも息子さんなら言うことを聞くんじゃ?」
「俺だけじゃ止めきれないんだよ。一日だけ一緒だったみたいだけど母さんは君たちを気に入っている様子だった。で、病気のことも知っているから話しやすいと考えたってわけ」
ジェイドさんが言うには領主様は元・教え子……僕とじいちゃんのような関係だったそうであの二人には協力するだろうとのこと。
だけど体のことと僕達が全員で説得をすればさすがにやめてくれるだろうと考えているらしい。
「はあ……ファルミさんの身体は気になるしいいけど。早く王都へ言って治療しなさいよ」
「はは、ありがとう。もう少し稼げばって感じなんだ。おっと、店長に言ってちょっと出てきたから仕事に戻るよ。夕方には仕事が終わるから……十六時にここで待ち合わせしよう」
「わかりました。それじゃ僕達は宿にもう一泊するようにしてきます」
「あー……いや、今日だけだろうからウチに泊まってもらおうと思っているんだ。母さんも喜ぶだろうし、説得しやすくなるだろ?」
「なるほどね」
「食事も賄いを作って帰るよ。まだ三人ともレストランに居るだろうし、母さんには買い物をしないでおくように言っておく」
ジェイドさんはそれだけ言って片手を上げながらこの場を立ち去って行った。
「まさかこんな頼まれごとをされるとは思わなかったなあ。いいの? 断っても良かったけど」
「ま、お母さんのためにっていうなら少しくらいはね。それより時間を潰す方が厄介かな?」
「折角だしギルドとか武具屋に行ってみる? ここまではあまり魔物と遭遇しなかったけど今後は必要になりそうだし」
「あ、欲しいかも! なら武具屋に行ってからギルドで訓練しない? ここにも訓練場くらいあるでしょ」
「いいね。それじゃ早速行こう」
僕達は人通りの少ない広場を後にし、商店街へと足を運ぶことに。まだまだ時間はあるのでゆっくり見て回るかと武具屋さんに行くまでのお店も覗いてみることにした。
「あら、ここはお馬さんのお店?」
「いらっしゃい! お嬢ちゃんの言う通りウチは馬を扱う施設だ。どの町にもひとつはあるんだが知らないか?」
「へえ、どうして馬を売っているんですか?」
「そりゃあ旅を徒歩で歩くよりは馬に乗った方が速いからな。馬車に繋げてもよく働くし、後はほら寂しくないだろ? 可愛いし」
「それはあるかも! でもたくさんは売れないんじゃ?」
「裏が牧場になってんだよ。坊主たちは冒険者か? 金を稼いで一頭くらい買ってくれよ。ま、すぐにゃ無理か」
「うわあ」
「あはは、懐かれてる」
馬に顔を舐められて驚く僕をプリメラが笑い、男性も馬の首を撫でながら笑っていた。この馬は歳をとっているらしく売り物ではないけど、こうやって店先で客寄せをしてくれるんだってさ。
「馬もいいわね。でも一頭が金貨三十枚かあ……」
「治療費と同じくらいかかるのはびっくりしたけどね。あれだったらその辺の魔物を捕まえて言うことを聞かせた方がいいよ」
「でもテイマーじゃないと町に入れないはずよ確か」
「その時は森に捨てるか殺すしかないかな」
「ほんっとあんたって最低、いくら魔物でも使い捨ては可哀想だって!」
「そう?」
「そうなの! 育ててくれたお爺さんがいきなり首を絞めてくるようなもんよそれ」
それは裏切り行為なのだそうだ。
魔物は狩る対象だったから想像がつかないや、結局殺してしまいそうな気がするんだけどね。
それから服や雑貨のお店を見て回り、目的の武具屋へとやってきた。プリメラの目が輝き、店内を物色し始めたところで少し太って鼻髭のあるええっと……おじさんが話しかけてきた。
「君は見ないのか? というより二人とも魔法使い?」
「そうですね。僕は拳でも戦えますけど」
「珍しいなそりゃ……咄嗟に素手じゃ危ないし、こういうのはどうだ?」
おじさんがそのあたりにあった金属で出来ている腕にはめるなにかを僕に手渡す。それは腕に装備するもののようで指ぬきが出来、拳の部分がガードされて腕も防御に使える。
「これいいかも」
「買うか? 銀貨六枚だ」
「じゃあこのままもらうよ。プリメラは?」
「このローブとロッドがいいわ」
「ほう……って、それは結構するけど買えるのか?」
「まあ、多分大丈夫です。おいくらですか?」
おじさんは金貨一枚と銀貨三枚を提示してきた。
それほど高くないなと思いながらお金を取り出しておじさんへ渡すと目を見開いて手を擦りながら笑顔を見せてきた。
「へへ、すごいなあんた。彼女にもう一品買ってやっちゃどうだね? この髪飾りなんかいいぞ」
「カノジョじゃないですけど」
「違うのか……ああ、そうか今からなんだな? いやあ男ってのは大変だよなあ。貢いでようやく手に入るってな。よし、ちょっとまけといてやるぜ! これでモテるんだぞ」
よくわからないけど深緑の髪飾りは魔法防御効果があるらしく、プリメラの金髪にも似合っているからいいかと購入。
「良かったのに……でもありがと! 大切にするわ」
「うん」
……まあ喜んでくれたからいいか。さて、それじゃギルドへ行こうかな?
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